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カレが嘘を利用して自分を鼓舞していることを、カノジョは既に見抜きすぎている

カノジョは嘘を愛しすぎてる(2) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

「あれ?わかった?」「うん…」「言ってみて?」「…やだ。なんか自分で言うのは恥ずかしい」「言えよ」「……僕の、カノジョの、小枝理子さんは……………可愛い。」「不正解!!」「ええ???」「正解は“怖い”」「ええ??」「嘘だよ。可愛い。僕のカノジョの小枝理子さんは可愛い。」「…!」「今日、いきなりキスしてごめんね。びっくりした?」「あ、全然……や…びっくりは…した…けど…でも…」「嫌じゃなかった。」「もう!!!!!」「怒られた。」「怒ってないです!」「ごめんね。でも僕…」

簡潔完結感想文

  • 年上彼氏の僅かな言動から全てを察する名探偵ヒロインは音楽界の暗部に触れる資格を得る。
  • 彼女がいる限り浮気が出来ない堅実な自分の性格を利用して恋人との決別。彼女は即席でいい。
  • あっという間に音楽界の入口に立ったけれど、ヒロインの役割はシンデレラではなく観察者。

くも恋愛的決着がつく 2巻。

この『2巻』でナンパで出会った理子(りこ)と秋(あき)の2人の交際が始まったと言える。理子は秋の嘘の一つを見抜いており、その嘘が消滅したことを直感で理解する。それは25歳の秋が自分で思っているほど、かなり年下のJKを騙し切れていないことを意味する。そこが良くも悪くも大人になれていない秋を表しており、理子が嘘を かなりの部分 見抜いていることで年齢差のある2人だけど秋が「狡い大人」に見えることを防いでいる。秋の「厨二病」っぽさはセリフに現れていて、こねくり回しすぎて過剰な自己愛が滲む。おそらく作者が萌える「僕」とは こういう面倒くさい部分なのだろうけれど。でも作品中で秋のセリフだけ浮いている。

どうしても厨二っぽい秋は今回 自分の潔癖を貫いている。恋人の茉莉(まり)が自分以外の男に抱かれていると知ったら もう彼女との関係は続けられない。そこで秋は自分の潔癖さを無自覚かどうかは分からないが利用する。茉莉に他の男がいる状況が許せないのなら、自分に他の女がいた場合、自分は二股が出来ない。そういう性格を利用して即席の彼女(理子)を作り、その彼女がいる自分を、本来なら勇気がなくて(未練があって)切り出せない茉莉への別れ話の踏み台に利用する。

一人では別れを選ぶことも選ばないことも出来ないから そこら辺にいた理子を利用した。秒で交際を決めたのも すぐにキスしたのも彼女という立場を自分のために明確にしたいから。現実を変え得る既成事実が重要なのだ。そして嘘を付いている罪悪感で彼女を大切にする振りをする。この罪悪感 ≒ 誠実さが いつまで続くのか本人も分からないだろう。そうやって何かをすることに理由を付けないと動けない男は周囲にとって迷惑でしかない。そんな迷惑男に音楽の才能があるから巻き込む人数が増えていく、というのが本書の骨格だろうか。

恋愛経験値が低い秋でも年齢・立場的に恋愛の主導権を握れる相手が最重要事項

『2巻』『1巻』で状況が先に作った理子と秋の話になっている。ただし今回で恋愛において一定の結果が出たので、おそらく『3巻』からは作品の中心にいる秋が関わるバンド・CRUDE PLAYの話に戻ると思われる。そして『2巻』は恋愛面の他に、理子が音楽界の入口に立つための準備が整えられる。理子が、秋からナンパされたのと同様に何の苦労もなくスカウトされ、音楽業界に関わり始める。

通常なら理子が音楽界を駆け上がるシンデレラストーリーが展開されるはずだろう。実際その側面もなくはないけれど、理子はCRUDE PLAYというバンドに勝てない。作者が来し方行く末を描きたいのはCRUDE PLAY以外にいない

そうやって冷静に考えると理子が秋と恋に落ちるのも彼の「嘘」を全て暴くためだし、理子が音楽業界に足を踏み入れるのもCRUDE PLAYの全体像を彼女に見てもらうため理子に与えられた天性の声は才能ではなく資格。スカウトされ、秋を悩ませ、それがCRUDE PLAYに影響を与えればいい。作者は理子を愛していないとは決して言わないけれど、彼女はCRUDE PLAYに関わっている限りにおいて存在意義がある。いつの日か、今回の茉莉のように秋と別れる日が来たら、そこで理子の価値は消滅するのだろう。そういう残酷さを作者は持っているように思う。

理子を強引に当事者にさせようとするから、序盤は どこもかしこも作り物に見える。そして恋のはじまりの唐突さが恋愛の体幹を弱くして、どうして彼らが長く続いているのかに疑問符を生じさせてしまう。本書における恋愛は やっぱり後付けなのだ。

あと読み返してみると1巻分の内容が驚くほど少ない。特に初期は連載1回分のページ数が60ページ弱なので、細かく次回への引きを作る必要がないため内容が間延びしているような気がする。連載の労力が段違いなのだろうけれど、作者の作風には隔週連載の「Sho-Comi」のペースの方が合っているのではないか。


子と秋の急接近に我慢がならないのは、ずっと理子に片想いをしている幼なじみの君嶋 祐一(きみじま ゆういち)。必要性が微妙なヒロインの三角関係を成立させて理子の作品内での価値に箔を付けたいのだろうか。

年齢差や「嘘」があるので秋が理子を強引に支配しようとしており、そこに祐一が不快感を持つのも当然か。読者には秋の才能に惚れたという部分以外は理子が どうして こうも簡単に秋と距離を詰めるのかが分からないし。祐一の感覚が普通だろう。
そして理子も秋の嘘に気づき始めている。歌わないでと理子への強い願いは、かえって秋の嘘を際立たせ、彼の現在地を示す。


子を帰宅させる最中のタクシーの中で、秋はトップシンガー・茉莉(まり)からの連絡を受け、別れたくない意思を告げられる。ただ そう言いながらも茉莉は高樹(たかぎ)への思慕と感謝を述べる。高樹に見い出されたから秋と会うためだけに場所を貸し切りに出来る力が生まれた。そうやって自分の尊厳を踏みにじられながらも秋は破壊衝動と欲情に駆られる。茉莉は恋愛経験値の高さで秋をコントロールしているのだろうか。ただ秋は既に茉莉を振り切るための道具として「彼女」を用意している。年下のJKに強烈なキスをして弄んで利用している。そういう自分の罪悪感を利用することで秋は自分の未練を断ち切っているように見える。茉莉には彼女を大切にしていて茉莉とは違う存在だと傷つけながら、そう思い込もうと自分を上書きしているのではないか。
口では何と言おうと茉莉が高樹を振り切れないことも秋は知っていて、その急所を突く。

その高樹は理子と出会い、茉莉と全く同じに才能を見い出される。茉莉という美貌の歌姫では歌えないジャンルを歌える等身大の、共感性の高い歌手になりうることが理子の価値のようだ。

理子が鋭いのか、秋がボロを出しすぎるのか…。高樹なら絶対 上手くやる

子は秋の嘘に気づいている。言動から背景を全部見抜く。もはや霊感のレベルだ。恋のはじまりの根拠が薄弱だけど、理子が嘘を見抜く証拠も薄弱だ。それだけ理子は秋のことを考えているということなのか。でも読者は正解確認が出来て、理子が間違っていないことが分かっているけれど、大外れの可能性も同じようにあって、理子の執着の強さが怖くもある。

秋は自分が理子を騙している立場だからケアも手厚い。そこも理子は見抜く。秋は茉莉と別れられたことで茉莉が「元カノ」になり今の「彼女」に真摯だと伝えられるようになった。今の彼女が別れるために必要な踏み台だったことも理子は お見通しかもしれない。

こうして秋は満たされることで曲を生む。それは彼にしては珍しい曲の作り方だったはずだ。秋に不幸や不満を抱えずに自発的に曲を作らせる存在、それが理子の特別性なのだろう。

しかし理子が恋愛をすることによって、理子と幼なじみとのバンドは空中分解寸前。それでも高樹にスカウトされて彼らはデビューへの道が開けていた。そこで知るのは音楽界の現状だった…。