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少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインのCDデビューという到達点も波乱を生むために投じられた一石にすぎない

カノジョは嘘を愛しすぎてる(7) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第07巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

「恋人にプロデュースされてデビューした歌手って、全員消えてる」「だから、あたし、小笠原さんの曲だけは、絶対歌わない」彼氏であり、天才サウンドクリエイターである小笠原秋(アキ)が作った曲を聴くこともなく、理子たちのバンド・MASH&Co.は衝撃的なデビューを飾る!高校生である理子たちの周囲は、どんどん変化していく。そして、大物プロデューサー・高樹はアキに対して、過酷な提案を…!!

簡潔完結感想文

  • 潔癖さから恋人と別れるためにカノジョを利用した秋が、そのカノジョの公私全てを欲する。
  • デビュー曲の収録、CM撮影など理子にとっての一大事は作中で描かれず終わった話として消化。
  • 社会勉強のラジオ見学が終わった深夜3時過ぎの帰り道に彼氏と合流する新人女性歌手16歳。

ャラの好感度を物語に捧ぐ、の 7巻。

青木作品の何が凄いって、キャラクタの好感度の低いことだろう。これまで長編3作品を読んできた私は青木作品のキャラクタを誰一人好きじゃない(敢えて言えば『僕の初恋をキミに捧ぐ』の昴(こう)が色々と可哀想と思うぐらい)。
本書では何人も身勝手な人が出てきて、その人たちに振り回される形で周囲が不幸になっている。その身勝手さの中にも自覚的か そうではないかの違いがあって、後者のヒーローは本当に迷惑な存在だと嫌悪感すら覚える。

無自覚にワガママを振り回す秋って絶対モテないよね。だがそれがいい(作者)

でも きっと それは作者がキャラの好感度なんて些細ことではなく物語を描くことをテーマにしているからではないか、と思う。キャラクタのことは好きになれなくても、ストーリーのことは ちゃんと覚えている。嫌悪感を含めた読書中の体験は永遠に残る。そういう大きな作品を描けることが作者の最大の強みである。

『6巻』が歌詞について描かれていたのならば今回は秋(あき)が音楽業界で羽ばたこうとしている理子(りこ)を自分の籠(かご)に閉じ込めておこうとするまでが描かれているように思う。その秋の身勝手すぎる心の動きに また彼を少し嫌いになる。

そして作品全体が憧憬の裏側にある嫉妬を描いていることが改めて示されたように思う。これまでは秋と心也(しんや)のことが中心だったけれど、ファンとアンチという表裏一体の存在も確認された。掲載誌が「Sho-Comi」だったらファンは応援してくれる清い存在だっただろう。けれど「Cheese!」だからファンは勝手に暴走する狂信的な信者にもなり得る存在として描かれる。ヒロインがスターダムを駆け上がろうとする途中で、これだけ陰鬱な気持ちになる作品は稀有である。


いたのはヒロインの理子がデビューに向かう様子に何の盛り上がりもないこと。これは理子たちが自分でハンドルを握らないまま、免許もないまま、誰かに連れられた道行だからなのだろう。

芸能界・歌手を描いた一般的な作品ならデビューへの道のりを詳細に描くだろう。けれど本書にはデビュー曲を収録した様子も描かれないし、渋谷の広告をジャックするようなCMを撮影した様子も描かれない。描かれるのは結果だけ。だから理子が興奮する様子も感激する様子も ほとんどない。それは理子たちが高樹(たかぎ)の駒で、バンドの行く末は高樹に握られているからだ。

だからと言って高樹は理子たちを おもちゃにしている訳ではない。仕事に関してプロフェッショナルである高樹は ちゃんと理子の才能を認めている。彼が見込んだ才能として理子には歌唱力の他に歌詞を描く能力があり、やがて作曲する音楽的センスまで与えられている。これにょって一見、理子は何でも出来る万能ヒロインのように見えるけれど、実際は無限の才能を与えられた作品の駒である。だから理子の視点でのデビューへの期待感や高揚は割愛されてしまう。


回は秋に対する失望ばかりで、ここまで彼を嫌いになるとは思わなかった。秋は余りにも幼稚で身勝手で、今回はどの場面を見ても16歳のJKに対して25歳の男が脅迫する形で彼女を束縛しているように見えた。

心也にCRUDE PLAYのベースを交代してもらったことと同様に、一度は自分が理子を音楽面で手放したことの自分の決断を いつまでも悔やんでいる。その後悔を取り戻そうとあがく秋は見苦しくもある。それもキャラの好感度などいらない作者の描きたい「僕」なのだろう。

理子もまた問題児で、自分が見学させてもらったラジオ収録の後でマネージャーの前で彼(秋)と合流して帰宅しようとする。見学したのはオールナイトニッポンという実名も出ていて時刻は深夜3時過ぎ。その時間から来月CDデビューを控える16歳の自分が彼氏に会おうとする その意識の低さに幻滅する。それは25歳のバカ彼氏に対しても抱く感情だ。作中で人と人を出会わせるための場面だと理解しつつも、この行動を取るカップルは全面的に好きになれない。音楽的才能や年収といった装飾を取り除くと秋は とことん気持ち悪い。これぞ青木作品という気持ち悪いヒーロー像だとも思うけれど…。

あと この後も何回か出てくる「キタコレ」の使い方が しっくりこない。作者はネット用語に詳しくないんだなと作中でSNS上の表現が出てくるたびに思ってしまう。自分の中で消化できていない言葉を使うと すぐにバレる。
そして『7巻』辺りから理子の髪形が可愛いから可愛くないに移行したと思う。何かの冗談のような髪型になってしまった。描くのが楽そうだなと思うだけで、この髪型で押し通す作者のセンスを疑う。


子が ちゃんと秋をイメージして描いた歌詞は今回もボツとなる。でも そのことを すぐに秋に報告する理子は弱いし、その歌詞を見たいから理子に圧力を掛ける秋は、最初の自分の嘘を棚に上げていて腹が立つ。秋は理子が「逃した魚」だから嫉妬している。自分が理子をプロデュースしたいけれど、自分で その権利を手放してしまった。だから理子の羽ばたきの全てが癇に障る。彼女の後ろには心也(しんや)がいるから尚更。

秋は理子のために曲を用意していた。けれど心也の存在がある上に、恋人の提供曲を最初に歌うことに抵抗がある理子は拒絶。それに対して秋は別れたら歌ってくれるのかと また圧力を掛ける。9歳も年上の自分の立場を悪用する秋が大人げない。

でも この遣り取りは無駄でしかなかった。高樹(たかぎ)は理子の歌詞を評価した上で、もっと理子を伸ばすため敢えてボツにした。理子には ちゃんと歌詞の才能もあるらしい。高樹は理子は将来的に作曲もすると展望しており、そのために自分ならこうする という余地のある楽曲を提供してくれる心也は適当だと考えていた。秋の曲だと感動するばかりで自分の感性が どの方向を示しているかも分からなくなってしまう。


ッシュとして理子は最初から巨大なタイアップに恵まれる。どうやら歌詞は理子のものが採用された様子。

心也は楽曲提供者としてMUSH&Co.の援護射撃をするためプロモーション活動のため瞬が担当するANN(深夜ラジオ)にゲスト出演する。ここでMUSH&Co.のレコード会社の社員・長浜 美和子(ながはま みわこ)は秋と瞬(しゅん)たちの高校の同級生という設定が改めて語られる。これによって一気に狭い世界の話になった。高校の同級生だから ポッと出のキャラじゃなくて、CRUDE PLAYのメンバーとの恋の資格があるという言い訳にも思える。

業界内の人物とはいえ16歳JKに25歳との深夜の密会を許す事務所も どうかしてる

子は この番組を見学し(18歳未満なので出演禁止)、その帰りに秋と待ち合わせをすることで、長浜と秋も再会する。この同級生の再会のために、駆け出しの16歳の歌手がラジオ見学後の深夜3時過ぎに彼氏と会うという訳の分からない展開になったのだろう。

長浜は高校時代から秋が好きで、それ以降の約8年で男性との交際経験がないまま。だから彼女にとって秋への気持ちは冷凍保存された感情なのだけど、再会と同時に秋と理子の交際を知り衝撃を受ける。
そして長浜は理子のスキャンダル防止を建前に、2人が乗ろうとするタクシーに同乗する。長浜の行動も嫌悪感があるけれど、それよりも指摘されるまで理子を迎えに行くことが条例に触れるほどの軽率な行動だと気づかない秋が気持ち悪い。その後、芸能界を甘く見る理子に即座に説教する側に回る秋の身勝手さに辟易する。

ただし秋は理子を一人で自宅前に降ろした後、自分が長浜と一緒の時間を作らないように理子の降車から一呼吸おいて自分も降りる。そういう潔癖さは秋らしいところだと思えた。秋は理子が捧げた曲を聴いていないことを直感する。理子の潔癖さを秋は理解できる。そして その現状への不満が秋の中に曲を誕生させる。


回の心也のプロモーションにより、マッシュはCRUDE PLAYの妹分と認識されることになったが、その立ち位置に反発する人を早速 生む。その一人が同じ高校の生徒で、蒼太(そうた)にラブレターを書いて接近を試みる。このハニートラップの目的は理子の失墜。

そして理子の存在と台頭に茉莉の精神は追い詰められる。それは高樹だけでは救いきれない心の動き。高樹の分析では茉莉は母子家庭の典型的なファザコン。だから高樹の存在を求めた。けれど一人の女性として秋に出会い恋をした。自分が男性に何を求めているのかが分からなくなり茉莉は病み始める。茉莉の精神のためには父親と恋人を その両腕で掴むことが求められたが、潔癖な秋は その状況を断罪した。その不安定さに理子が秋の恋人と新世代の歌姫候補として登場した。
高樹は茉莉のために秋が拒絶した楽曲提供者という立場に再度 立ってもらおうとする。その見返りはマッシュのプロデュース権。