
上野 はる菜(うえの はるな)
ポンコツ警察官は私に夢中(ポンコツけいさつかんはわたしにむちゅう)
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
秋山 椛27歳。方言で酔っぱらいを撃退したら、方言フェチだという警察官になつかれちゃった! 椛のことを守りたくなったという彼は、隣のアパートに引っ越してきたり、手作りのお弁当を会社まで届けにきたり…!? 厄介だけど憎めない! 警察男子の一途すぎる愛に、困惑×ときめきの新感覚ラブSTARTです!!
簡潔完結感想文
- ヒロインのお隣さんは警察官と舞台俳優。その2人に挟まれて暮らすモテ期を お裾分け。
- (注)酔っ払い・刃物女・恐喝犯・迷子、数々の事件でヒロインは正常な判断が出来ません。
- 「お姉さん」向けの少女漫画って下手すりゃ小中学生向けのよりもファンタジー度が高い。
方言は警察官の無敵アイテム、の 1巻。
絵は大変綺麗だし、話の展開も早いのだけれど良くも悪くも癖のない作品である。
ヒロインは27歳の会社員なんだけど お仕事小説の一面は全くないし、次の交際相手が結婚を考える人なんて意識もまるで見せない。主役男女それぞれの過去の恋愛の影響も一切ない。恋愛や人生における面倒臭いことが一切割愛されているけれど、そのせいで無味乾燥な作品になっている。
多分、描きたかったのは悪い人ではないけれど愛が重すぎて それに見合うだけの感情が返せない男性への戸惑い なのだろう。困惑するぐらいの溺愛を向けられて困る、という自虐風自慢が大人読者に刺さる。ただ楽に愛されるという結果だけを求める お姉さん向けの少女漫画の傾向は その内 ジャンルの質と人気の低下を招くと思う。何も考えずに読める作品は読者層や編集者側のニーズ。でも やっぱり驚くほど無味乾燥だ。


無味乾燥の象徴がヒロインの椛(もみじ)のように思えた。彼女は感情が昂ると方言が出る、以外の特徴が全くない。性格の棘はノイズになるからと削ぎ落すのは まるで乙女ゲームのヒロインのようだと思った(少女漫画なら『遙かなる時空の中で』や『金色のコルダ』)。
そして乙女ゲームのようにヒロインは様々な職業の男性と巡り合う。警察官に舞台俳優、カフェのマスターと職業男子ばかりが登場するのは本書の特徴か。いっそ無意味に本当に乙女ゲームになれるぐらい職業男子の数を増やした方が個性が出ただろう。
そしてヒロインの椛が無個性すぎるからヒーローの日比谷(ひびや)が彼女に何に惹かれたかが全く分からず、根拠が不明のまま溺愛という現象だけが続くばかりとなる。日比谷は方言を話す椛に性癖を刺激されたけど、それなら地方で育った何十万の女性が対象になってしまう。
椛が日比谷と当て馬の代永(よなが)の2人の男性から1人を選んだように、日比谷も もう一人の方言女子と出会って その人と椛の違いを際立たせた方が絶対に良かった。でも それが読者の「癒し」を破壊するノイズになるのだろう。都合の良い展開を続けて作品が面白くなくなるのは本末転倒じゃないか。
椛が日比谷の長所短所を見極めるように、日比谷も椛という人間を深堀りするエピソードが欲しいところだけど、何せ女性に都合の良い作品だからヒロインの欠点を挙げることも出来ないようだ。休日は何もしたくないから料理をせず体調を崩すなど割とズボラだし、休日に遊ぶ同性の友達もいない(作品の都合もあるけれど)。優柔不断だし相手の容姿で男性を選んでいる節もあるし、良いところが描かれないから悪いところばかりが挙げられてしまう。ヒロイン像を無条件で受け入れるのが お姉さん少女漫画のルールなのだろうか。
そして日比谷も欠点が目立つ。こちらは敢えて目立つように描いている節が見られるが、一般的に考えて日比谷のアプローチは恐怖体験だ。警察官の彼がストーカー容疑で逮捕されても何の不思議もない。狂気と紙一重にある日比谷の言動は違う意味でドキドキさせられる。そして日比谷の年齢や容姿が生理的に無理なら椛は秒で お断りしていたんだろうな、というルッキズムの発動が見て取れる。
日比谷に恐怖を覚えつつも拒めないのは事件という非日常による「吊り橋効果」が影響しているのではないか。事件に巻き込まれたことで椛は正常な判断力を失い、日比谷を善人だと勘違いしてしまう。この思い込みのために日比谷は警察官で、住む町も治安が悪いのかもしれない…。
それでも日比谷は選ばれる側だから、椛は様々な側面を知ってから結論を出そうとして彼の人間力が分かってくる。でも逆はない。そういえば椛は、少女漫画にありがちなイケメンに愛されるヒロインが「私なんかのどこがいいの~!?」という戸惑いを一切見せない。つまり自分は そこそこモテるという自覚があるということか。そういう椛の自分にも欠点があるという思考や逡巡は敢えて割愛されているのだろうけど、描かれないから椛の自分は選ばれる側にいる という鼻持ちならない雰囲気が否定できない。
与えられた仕事、与えられる愛情を処理するだけの人。そういう無個性ヒロインが誰を選ぼうと幸せになろうと あまり気にならない。無味乾燥という感想を抱いた理由は共感ゼロ、なのかもしれない。
秋山 椛(あきやま もみじ)が帰宅途中に酔っ払いに絡まれた時に現れたのがイケメン警察官・日比谷 蒼平(ひびや そうへい)だった。しかし日比谷はヒーロー行動が出来ないままノックアウト。仕方がないから椛が地元の方言で酔っぱらいにキレる。その後、応援の警察官によって酔っぱらいは連行された。
翌日、興奮で睡眠不足に残業が重なりふらついた椛を日比谷が支える。昨夜の恐怖が残っているため日比谷に自宅まで同行してもらったのが運の尽き。彼に自宅を知られてしまう。この警察官は椛の僅かなコンプレックスである方言を肯定的に捉えたことで椛の好感を得る。


その週末、日比谷は椛の周囲に現れる。そして椛が夜道を不安がっているのを知ると近所に引っ越すと言い出す。日比谷は椛の方言を聞いてフェチズムに目覚めたらしい。でも それでは椛じゃなくても方言で喋る人なら誰でも良いということになる。
日比谷の頭のおかしさに戸惑っていると、本物の頭のおかしい女性が2人のいる喫茶店に乱入する。その人は推しの俳優が近所に住んでいる噂を聞き、そこで騒ぎを起こして本人に対面しようと刃物を振りかざす。そこで日比谷が椛を守り負傷、そこで再び役立たずになった彼に代わり椛が方言で応戦、その方言を聞いて日比谷は無敵になる。方言は日比谷にとって無敵アイテムなのか。自分の負傷を気にせず事件を笑って語る日比谷に チョイコパスっぷりを感じつつも椛は守られた事実から彼を見直す。
いよいよ椛が危険な この街からの引っ越しを考えている時、隣のアパートに日比谷が引っ越ししてくる。刃物女と日比谷のどこが違うのか教えて欲しい。
それから椛の周囲に現れ、彼女の情報を着々と入手する日比谷。椛が自炊をしないこと、多忙のストレスで胃腸が弱っていることを知った日比谷は平日、椛の務める出版社に お弁当を届ける。どこから会社を突き止めたのか…。そして椛の自宅と勤務先、日比谷の管轄は昼休み中に移動できるほど近いものなのかと疑問が溢れる。
日比谷への疑問を感じると事件が起きて椛は彼への不安を相殺される仕組みらしい。ポンコツと方言を取り入れる2回目にして お約束の展開である。事件後、日比谷のお弁当を食して見るとストレスで弱った身体でも美味しさを感じられた。日比谷は椛に耳を、椛は日比谷に胃袋を掴まれたか。椛は会社への来訪と お弁当作りを止めさせるが、日比谷との交流は続ける。
その後も日比谷は何かと料理を お裾分けしてくる。それを自宅マンション1階の喫茶店のマスターは餌付けと呼称する。
そんな喫茶店に新キャラ男性が登場。仕事でジャマイカに行ったという その男性から椛はコーヒー豆をお裾分けされる。これも餌付けか…。しかし この男性の職業は舞台俳優なのだけどジャマイカに行く舞台俳優って何?? この男性は代永(よなが)といい、椛とは隣人同士で同郷であることが判明する。遅れてきた当て馬を良い勝負にするための属性付与だろうか。
代永の存在は早速 日比谷が認識。今回は代永の登場が日比谷の事件なのか。日比谷は職務規定は守りながらも勤務中に堂々と人の家にあがっている。そして折角 日比谷は椛の胃袋を掴んだけれど、そのアドバンテージが代永のコーヒーで消滅しかける。日比谷のポンコツで他2人の距離が縮まったりして日比谷は落ち着かない。出会ったばかりの男の家に(男と)入る椛の危機意識の低さよ…。


交際していると誤解されたこともあり後発キャラの代永には日比谷との出会いから現在の関係性を全部 洗いざらい話す。じゃあ今後の展望はと代永に聞かれると椛は自分の中の日比谷の位置が分からなくなる。それを椛が日比谷を遠ざけられない状況に追い込まれていると代永は思い、椛に偽装交際で彼氏の振りをすると提案する。少女漫画における偽装交際は高い確率で本物になるが、昨日 知り合ったばかりの代永に椛は そこまで頼めないと断る。それは日比谷に対して嫌よ嫌よも好きのうち、だからなのか…。
喫茶店のマスターから水族館のペアチケットを貰った椛。そこに日比谷が現れデートを願う。椛は日比谷への曖昧な態度を止めようと断るが、日比谷の攻勢の方が強く、マスターの援護もあり日比谷を見極める機会とする。
ここで椛たちは27歳だということが判明。椛がいつから上京したのか不明だが、大学卒業後でも5年が経過して水族館に行く友達もいないのは彼女の性格に問題があるのではとか思ってしまう。水族館に日比谷と行くためと、連載で不必要なキャラを出せないからだろうが、椛の世界の狭さが際立つ。
この水族館で代永は芸能人としてイベントの仕事をしていた。ちなみに1話の頭のおかしい女性が探していたのは代永だった(芸名で活動中)。刃物女はタイミングが合えば本当に代永に会えたのである。代永は今回も日比谷の迷惑行為に椛が悩まされているのではないかと心配する。どっちが警察官やら…。
警察官の日比谷はポンコツだが、一人の男性としてはスマートなところもある。椛は日比谷の独特な思考回路に困らせられながらも彼の本質が優しいことに気づく。椛が自分に好感を持ったと悟った日比谷は椛に正式に告白する…。
