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カノジョは悪意にすら同情する聖女なのか、コネの男に便乗する悪女なのか

カノジョは嘘を愛しすぎてる(14) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第14巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

マッシュの武道館出演を阻止しようとするネットの書き込みが多数アップされる。犯人は理子のクラスメイトの寺田さん!?理子を守ろうとする心也に対して、アキは仕返しに最高に凶悪な音楽プランを思いつく!?

簡潔完結感想文

  • 生放送と同様、武道館で向けられる悪意さえ反転させてしまうラッキーガール。
  • 生放送では茉莉と寺田、武道館では寺田と長浜を軽率な女にして理子だけが聖女。
  • かつてのメンバーも恋人も武道館に立つことで、観客席の秋に渇望が生まれる。

小限の階段利用しか許されないシンデレラガール、の 14巻。

『11巻』の生放送の音楽番組出演に続く大きなステージとなり、今回も理子(りこ)が歌で聴衆を圧倒することで業界内の注目が更に高まる。読者の分身であるヒロインが、自分に向けられる悪意を乗り越えていく様子は2回目だけど同じようにカタルシスを生む。

悪意に巻き込まれた理子だけど、その涙すら他者のために流す美しい心の持ち主

その一方で理子以外の女性は評価を下げられる。『11巻』では茉莉(まり)のメンタルを崩壊させ、今回は寺田(てらだ)や長浜(ながはま)が惨めさを抱える結果となる。いつの間にか とても清潔な精神を持っている理子は向けられる悪意に対して相手を打ち負かそうなどと考えず、相手の心境に寄り添う心の広さを示す。しかし後述するけれど、理子の「良い子」は理子からワガママや発言権を奪うための作品上の設定でしかないのではないか。

これまでの青木作品のヒロインと言えば容姿も能力も申し分のないヒーローに対して、やや短慮で劣っている存在として描かれてきたように思う。しかし今回は秋(あき)が性格的に欠落した部分があるからヒロインである理子の方が精神的に大人になっている。ただ理子の内面の様子や その変化が見られないまま、いつの間にかに清い存在になっているから違和感が拭えない。過去作はヒロインに比べてヒーローが格好良かったけれど、今回は他の女性キャラに比べてヒロインが素敵という対比の構図が見え隠れする。

これは やはり作者の描きたいことが男性の惨めさであることに由来しているのではないかと思う。CRUDE PLAYで描きたいことが いっぱいあり過ぎて理子にページを割いていられない。だから理子は いつの間にかに最強になっている。
それは芸能界における理子の活躍も同じで、理子が少しずつ世間に認められていくようなページを必要とする地味な活動ではなく、秋や心也(しんや)が随伴する場面を作って、理子には最小限の機会で最大の結果を生み出すように設計されている。修業期間なく、歌でワンパンして世間の注目を集める。さっさと理子には素敵なバンドマンやアイドルと関わってほしいのだろう。


ンチの寺田じゃないけれど、私も理子がCRUDE PLAYと武道館に立つ資格があるのか疑問だ。

注目を集めたと言っても確認できる限りではデビュー曲は確認できるところだとランキング10数位 止まり。たった1回の生放送が成功しただけで理子が人気バンドと誰もが憧れる武道館に立てるかは微妙なところ。しかも生放送の音楽番組も完全にCRUDE PLAYと茉莉のバーター出演。今回の武道館も恋人に曲を作ってもらって そのコネで立っていると思われても仕方がない。現実社会でもありがちな、宣伝費を大量投入して人気があるように見せかける「ゴリ推し」っぽさを感じる。

そんな理子には秋を作曲家だと知らないまま恋に落ちた、というエクスキューズが用意されているが、そうすると恋に落ちる過程が弱いことが露呈するし、秋の曲を歌わない理子の方針も なし崩しになっている。理子の中で自分とMUSH&Co.が綺麗に分離しているのかもしれないが、ソロ活動への葛藤が描かれないままなのも疑問。デビューまでや武道館公演までなどモタモタする部分がある一方で、心情的に割愛している部分も多い。

法の抜け穴を利用するかのように理子の共演が実現し、理子は私心なく音を楽しむ存在のように描かれているけれど、結局 秋が作った歌を歌いたくて前のめりになっている欲の塊にも思える。だから やっぱりコネ女と揶揄できる。理子の内心を詳細に描かないのは、男性重視で女性である理子にページを割こうとしないからではないか、と思ってしまう。


つも冷静な心也が葛藤を衝動に換えて、長浜(ながはま)にキスをしてしまう。そんな自分の行動で我を取り戻したのか、ライブリハの心也はメンバーへの視野が広い いつも通りの動きを見せる。

審査の日、薫(かおる)の奏でる音は秋、そして音に厳しい高樹(たかぎ)の基準にも達する。ライブは音を同期させるエアギターになるけれど、スピーカーから出される音は代役ではなく薫の事前録音のものにして、薫はライブのパフォーマンスに集中できるようにする、という高樹らしい提案。それでも いつものように代役ではないことが薫の進歩と達成感に繋がる。

こうしてCRUDE PLAYは空中分解を免れ、メンバー同士の結束が高まった。しかし それで秋だけが音の外にいる部外者となる。


子は秋から渡されたCRUDE PLAYとの共演曲をエンドレスリピート中。しかし情報と共演阻止の動きがSNSで拡散し、理子たちは再度 情報漏洩を疑われる。

理子は長浜から見せられた発信元SNSのアイコン画像から、それが寺田(てらだ)ではないかと疑う。
一方、CRUDE PLAY側も共演阻止の動きを感知。秋とベースを交代した直後の自分を歓迎しないムードを知る心也は理子のメンタルを心配するが、秋は歌で ねじ伏せると問題にしない。

犯人がクラスメイトかもしれないという疑惑で高樹は蒼太(そうた)の携帯電話のメールの転送設定の利用を疑い、寺田の犯行が確定する。高樹は寺田を刺激しないように設定の解除せず、蒼太には私用と仕事用の2台持ちを提案する。


ラスメイトに恨まれていた事実に平気そうな顔をする理子に心也が気を遣い、理子は思わず涙を流す。これは心也の視野の広さと経験から来る助言だろう。天才肌の秋には分からない領域だ。
心也は寺田の直接の糾弾をも厭わないが、秋は寺田の自殺のリスクと心也の名誉が傷つくリスクを危惧する。これは秋の心也への仕事を超えた親愛の情を示している。この共演の提案者である秋は寺田のようなアンチを黙らせる手法を思いつく。

その夜、心也は理子のメンタルを いたずらに傷つけた長浜を糾弾する。理子はCRUDE PLAYや幼なじみ全員から愛されるが、長浜は そうではない、という図式だろうか。

一方、秋は自分が出来る理子のメンタルケアは最高の楽曲の提供だと思っており、理子を放置する。瞬が促しても自分の役割を全うしようとするが その初動の遅さが いつも心也に良いところを奪われる原因である。


子はメンタルケアに動いてくれた心也に泣いた原因を話す。理子は自分に向けられた悪意にショックを受けて泣いたのではない。自分がCRUDE PLAYのファンが楽しみを奪う要因だと突き付けられたから泣いた。やっぱり理子は いつのまにかに作中最強の存在になっている。
だから寺田に対しても直接 糾弾するのではなく、共演が楽しいことを予告する。

モブが気づくまで完全に秋だと思っていたよシバケン…。追加キャラ全員 必要なし

CRUDE PLAYの武道館公演が始まってから秋は理子のフォローに動く。言葉選びが下手だから最高の曲とキスで理子をコントロールするのは正解だろう。

秋の演出は、寵愛を受ける理子を嫌う心也ファンから崩していくもの。人の心を理解できなそうな秋だけど こういう計算は出来るらしい。内輪受けにも見える あざとい演出もライブでの空回りに見えるからスベっている感じは受けない。むしろ女性ファンが多いバンドのしそうなことに見える。大舞台に強い理子は今回も本領を発揮。瞳が黒く塗られないモブも、瞳が真っ黒な寺田の心も魅了する特別なヒロインという図式が見られる。

「カノジョは嘘を愛しすぎてる 番外編」…
過去編。20歳の誕生日を迎えた秋はCRUDE PLAYメンバー全員と お酒を飲み交わす。1つ年下で未成年の心也はソフトドリンクで お友達の輪に強制参加。でも心也にとって この時間は私生活と捉えられる。結構 初期から心也は陥落している、という お話。理子という不純物のいない作者の描きたい話のように思える。