
椎名 軽穂(しいな かるほ)
君に届け 番外編~運命の人~(きみにとどけ ばんがいへん~うんめいのひと~)
第02巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
楽しーな梅 知らないことだらけでさ 「つきあうか」とくるみにいきなり告白したのは赤星栄治・20歳。爽子のイトコです。栄治に惹かれ始めるくるみですが、素直になれません。でもストーカーに狙われた夜、くるみは栄治に「帰らないでほしいの」とお願いをしてしまいます。──ふたりだけの夜の始まりです。
簡潔完結感想文
- 告白は赤星にとって始まりの合図。自分と相手が長所と短所を さらけ出しても好きは残る。
- 自制が思わず緩んでしまう寝ぼけた時間。恋を加速させもするが減速もさせる要素となる。
- いよいよ重なる2つの作品。『君に届け』の番外編で『CRAZY FOR YOU』の後日談でもある。
梅の自己嫌悪は赤星にとっての あばたもえくぼ、の 2巻。
『2巻』は早々に両片想いの2人の過ちが描かれていた。
梅(うめ)は ずっと小さく間違えているけれど、まず大きく間違えたのは赤星(あかほし)の方だった。赤星は自分が梅の最初の彼氏になるかもしれず、だからこそ大切に扱ってきた。けれど寝ぼけて自制が緩んだ瞬間に彼は大きな間違いをし、急速に接近していた2人の距離は急速に離れることになる。
この赤星の間違いには2つの大きな意味があると思う。1つは本書における睡眠からの覚醒による寝ぼけは本心や願望が現れやすい瞬間であるということ。梅も この寝起き直後の時間で2回も踏み込んだ発言をしている。自分が傷つかないように鎧をまとって発言に気を付けている梅が赤星に素直な好意や甘えを口にしたのが寝起きだった。赤星は2度も梅の自分への想いを聞き取っているからこそ その後の行動に出たのだろう。


そして2つ目は赤星が当て馬役で出演している『CRAZY FOR YOU』との関連。※ネタバレ『CRAZY』で赤星は ずっと想ってきた幸(さち)に1回もキスを出来なかった。それは幸がユキに「CRAZY FOR YOU」な状態だと分かっていたから。自分を好きじゃない人にキスをしない、それが赤星の流儀で、例え寝ぼけるような場面があっても赤星は幸にはキスはしなかったはずだ。でも梅にはした、出来た。それは赤星の中で両片想いの確認が取れているから。梅は驚きはしたが嫌じゃなかった。赤星が相手で良かったと思っている。それでも梅が赤星と距離を置くのは、赤星に恋をする自分を認められない時期だったから。それは梅が自分を認められないということでもあり、赤星は梅の自己嫌悪や肯定感の改善を目標にしていた。その途中で自分が梅を傷つけたから赤星は「間違えた」と感じた。
『CRAZY』は間違えを通して各人が成長していく話だったけれど、赤星の成長の結果が本書で表れている。『CRAZY』の赤星は幸に対して最初は斜に構えて素直になれなかったけれど、梅に対しては最初から素直に感情を伝えている。次に自分から焦がれる人がいたら そうすると決めたから『運命の人』の赤星は ずっと素直で優しい。
ここから話が梅の自己嫌悪が更に増幅するような事件に通じるのも唸らされる展開だった。それが『CRAZY FOR YOU』の再集合の場面である。恋愛が成就しない理由として作品は梅側のメンタルを利用し続ける。
赤星に会ってから梅は自分の罪も綺麗でいなければ恋をする資格がないと考える観念も少しずつ消えていった。しかし幸と出会って梅は再び高校時代のような惨めな気持ちが再燃し、自然と悪役令嬢みたいな言動を始めてしまう。『1巻』で赤星が「CRAZY FOR YOU」な人を好きになる性(さが)について語っていたが、梅もまた三つ子の魂百までで 悪役令嬢としての振る舞う癖が消えないのではないか。
悪役令嬢モノのように『君に届け』と『CRAZY』、この2つの作品の本物のヒロインに出会うと自分の言動が制御できなくなるようだ。その自分の習性を梅は嫌悪するけれど、赤星は そこを含めて面白がってくれていることを自分の感情で精一杯の梅は知らない。
そういえば『CRAZY』は相手に対して否定やネガティブな感情を持たない作品だった。だから内輪の五角関係でも湿度と清潔さが保たれていた。そして赤星は その世界から来た住人。梅の性格が彼女への恋愛感情を帳消しにする要素ではない。相手の良いところを見つけて「CRAZY FOR YOU」になれる人々がいることを『CRAZY』は教えてくれた。梅は そういう人たちがいることを信じられれば それで万事解決だ。何と言っても赤星は『CRAZY』星からやって来た、衝突を経て親友になった爽子(さわこ)の血縁なのだから。
赤星と別れ難いと感じたデートの1日は終わらず、赤星は梅を精神的に守るため一緒の夜を過ごすことになる。いきなりの お泊り回である。梅の部屋が本格的に登場するのは初めてか。帰宅時の梅の部屋は この日の服装を決めるために散らかっていた。それは赤星のために悩んだことをカミングアウトすること。
梅の部屋は色も物も少ない。爽子も梅の部屋に1回しか来ていない。梅は自分のテリトリーに人が入ることに それが爽子でも苦手。救出のために汗だくで駆けつけた赤星に服を貸す時も躊躇うが、彼が ありのままの自分を肯定してくれたことで それまでの自分の価値観が壊れる。梅が警戒しているのは自分の暴走。一度 心を許すとゼロ距離、もしくは相手を困らせることまでする自分を知っているから赤星に対して一定の距離を保ちたい。でも梅は赤星に自分の価値観を示し、赤星は その重いボールも ちゃんと受け止めてくれる。そして その重さに見合うだけのボールを投げ返してくれる。
赤星が自分で言うように『CRAZY』の時の素直になれない彼は もういない。とてもナチュラルに梅に接し、普通に好意を口に出来る。そして『CRAZY』と同じく、赤星にとって告白は始まりの合図。ここから相手に自分を知ってもらってから答えを貰う。
赤星が自分の恋愛のスタンスを語ったのに対し、梅も風早への初恋を語る。初恋は自分の汚点と同義になってしまい、語りながら涙を流す。その涙は自分とは違い綺麗なままの赤星に嫌われることへの恐怖の具現化かもしれない。その自己嫌悪と罪悪感ごと赤星は受け止める。正しいことが愛されることの理由には直結しない。梅は たった一つの初恋での爽子への敗因を自分にぶつけすぎているのかもしれない。
この日の朝、梅は赤星に2度目の寝起きを見せる。寝起きの梅は意地を張らない素直な状態。その状態を常に自分の前に出させることが赤星の目標だろう。一緒に朝ご飯を食べ、明日の約束をして、過去の恋愛の話を聞いて2人は互いを知っていく、惹かれていく。梅は赤星への想いを自覚し、それと同時に振られる恐怖を覚える。
赤星は梅の家を出た後、梅の恐怖の軽減のために合コン男に もう一度 念を押しに行く。そんな赤星に高校時代の集まりの話が舞い込み、彼は幸(さち)と3年ぶりに会うことになった。これは幸に会いたいからではなく会える心境に自然になれたからだろう。
忙しい中、赤星は近くはない距離の梅の日常を守る。それだけで帰ろうとする赤星を引き留めたのは梅で簡単に料理を振る舞おうとする。調理後、寝てしまった赤星を起こす際、寝ぼけた赤星は梅にキスをする。この日の朝は寸前で理性が戻ったが、夕方は無理だったようだ。突然の出来事に加え赤星の「間違えた」発言から梅は号泣。赤星が寄り切りそうだった恋愛大相撲は仕切り直しとなってしまう。
そこから ずっと梅は赤星を無視する。その逃避先として爽子に依存する。でも梅は赤星のことを知りたいから爽子を間蝶(スパイ)として送り込む。梅に接触できない赤星は合コン男の監視を続けており、爽子を通じて梅に安全を保障する。
互いに会いづらい時期は写真を眺める。梅のSNSのサーチで赤星が朱美(あけみ)という女性も参加する飲み会に参加することを知り、梅は それが過去の恋と関連すると直感する。そうして赤星の過去の全てが知りたいし、彼に近づきたい。
飲み会当日、梅は爽子と同じ店の隣の席で赤星らのグループの動向を探る。梅は朱美をロックオンするが、本当の敵は幸(さち)。女性陣の到着1コマ目から幸は描かれているが梅の視界には入っていない。ちなみに『CRAZY』で幸と仲良かった あみちゃん はキャラが薄いからか不参加。


赤星の過去の恋愛遍歴の話が気になりすぎて前のめりになった梅は赤星に潜入工作がバレてしまう。それで覚悟を決めた梅は外面を作って愛想よく対応しながら赤星の恋愛相手を探る。相手は梅の盲点だった幸だと判明。意外な相手が仮想敵になる。ライバルを把握したところで爽子が、梅が相手に飲み物をぶちまけないように手を抑えているのが笑える。爽子の中の梅は意外と戦闘狂なのかもしれない。
けれど確かに梅のスイッチは入っており、警戒心のない幸に苛立って彼女に嫌味をぶつけてしまう。そうやってしか恋のライバルにぶつかれないのだろう。そして幸も爽子と同じように暖簾に腕押しタイプで、自分の悪意だけが跳ね返ってくる。自己嫌悪に苛まれた梅は一度 席を立つ。でも赤星は そういう梅の姿に幻滅したりしない。幸の前で自分がどれだけ彼女を好きかを のろけてみせていることを梅は知らない。
赤星は梅と久しぶりに2人きりで話す機会を設け、そこで自分が順序を間違えたことを謝罪する。でも線引きは間違っていない。『CRAZY』の時は強引に幸の唇を奪おうとしても出来なかった。それは幸がユキに夢中だったから。でも今回 出来たのは梅もまた自分を想っているという確信があったから。
今日の梅は その言葉を素直に受け取れない。だって幸が自分と違って良い子だから。それに対峙する自分は どうしても誰かを傷つける悪者になってしまう。
