
和泉 かねよし(いずみ かねよし)
メンズ校(メンズこう)
第02巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★☆(5点)
ド僻地(へきち)にある全寮制名門男子校。顔も頭もイイ男ばかりなのに、女がいねえ!? 美男乱れ咲き! とんでもないド僻地(へきち)にある、全寮制男子校・私立栖鳳(せいほう)。恋なし女なしH(エッチ)なしの毎日を健気(けなげ)にがんばるやりたい盛りのメンズ達。そんな彼らの青春まっ盛り★ボーイズライフ第2弾!! かわいい顔(かお)した癒(いや)し系・牧(まき)の初恋物語。そして超イケメン・神木(かみき)に恋の予感!?
簡潔完結感想文
- 皆と仲良くなれるスキルを持つ牧は、自分に懐かない狂犬を好きになりがち。
- 照れ屋の君が ずっと声に出せなかった言葉たちが俺の明日を照らしていく。
- 少女漫画あるある、偽装交際が本当になる。和泉作品あるある、女はド根性。
失恋をした者だけが次の恋に進める、の 2巻。
本書は失恋アンソロジーと言える。物語の前半は登場人物の恋が上手くいかないエピソードが続く。ただし それは後半で物語が動き出すことへの布石。未熟さや環境、不幸によって上手くいかなかった恋愛経験を乗り越えて彼らは次の恋に進んでいく。最初の失恋は恋愛成就の資格、ともいえる。
いきなり※ネタバレ注意になるけれど『2巻』の3/4は本書の主人公らしい私立の男子校1年・牧(まき)の中学時代の恋を描く。失恋アンソロジーなので彼の恋も上手くいかないのだが、その理由は死別にある。彼は ちゃんと1年余りの時間をかけ両想いを達成している。そこが これまでのエピソードとは違う。


しかし死別によって牧の恋愛感情は凍結され、そして それを溶かす手段もない。彼が ずっと想っているのは もう二度と会えない人なのだ。大切な人と一緒に過ごした1年間と、それと同じ長さの彼女のいない時間。その充実と虚無の時間を経て、牧が何を経験するのかが描かれている。
またまたネタバレになるが、最後に牧は彼女の生前に聞けなかった言葉を音のない世界で聞く。それが、外界と隔絶した世界を選び(当初からの予定だったが)、中学時代という過去と断絶し、そして最終的な心の扉を開けなかった牧が彼女との恋を終わらせる唯一の道となる。その道を進めたのは、このメンズ校で出会った友人に牧が過去を語れるまでの心理状態になったから。それは時間の経過とも言えるし、逆に牧が断絶したはずの過去の中で彼女との思い出の品を持ち込んでいたことで起こる奇跡とも言える。中学時代に彼女が この品=本を牧との会話の糸口になればと持ち歩いていたように、今度は牧が彼女に会いたいと願って本を持ち続けたという動機が良い。そして1年の歳月が過ぎることで、牧は この本を開けるようになり、それが彼女が牧に言えなかった言葉を伝える、という仕掛けも素晴らしい。牧のエピソードだけを映画化しても良いだろう。
少女漫画でヒロインの死去は男性主人公だから出来ることだろう。なかば幸せが義務付けられている主人公ヒロインが死んでしまっては話が終わってしまうからヒロインは不死の存在と言える。そのタブーを破っていることが男性主人公、群像劇だから出来ることで それが目新しく映る。
ラスト1話は女性側の失恋を描く。冒頭でも書いた通り、本書においては恋愛が成就するのは一度 失恋を経験した者だけである。そして その女性が出会ったのは、作中で既に一度 痛い失恋を経験している男。過去に囚われるだけでなく、明日へ動き出す恋の準備も ちゃんと整っている。
この話で、牧・神木(かみき)・野上(のがみ)・花井(はない)の4人が即席彼氏の依頼をされるのだけど、この時 動いたのは神木。これは彼だけが次の恋に動ける状態だったことを意味しているのかもしれない。牧は前回で失恋に向き合ったばかり、野上は保健医がいるし、花井は乙女系で女性との恋は もう望まない。この4人の中で神木が最初に動いたのは偶然ではないだろう。
頭も良くて顔も良い、そして相当 人がよい彼らなら心理的な牢獄から抜け出せるはずだ。
牧の忘れらない恋愛は、中学時代に転校してきた春島 エリカ(はるしま エリカ)との思い出だった。
中学3年生14歳で出会った彼女に牧は一目惚れ。しかし その性格は攻撃的でキツい。でも牧は そんな彼女が忘れられず、この監獄高校での数少ない女性との交流の中でも彼女のことを思い出す。そういえば『1巻』でも勘の良い女性が牧は本当は女性との出会いを求めていないと言っていた。
当時、クラス委員だった牧はクラスに馴染めない転校生であるエリカの世話を担任から頼まれ、この一匹狼を飼いならすことに腐心する。何度も心の中で彼女の性格に悪態をつくけれど、エリカの敵になる者を牧は許さない。外見だけでなく自分が持てない確固とした自分を持つエリカの本質に牧は触れる。そして衝突しながらも2人はコミュニケーション術を確立していく。牧がエリカの素顔や長所を知るのと同様、エリカもまた結局 牧に助けられている部分があることを分かり始めている。
会話の流れで2人は映画デートをすることになったが、当日 エリカは待ち合わせ場所に現れなかった。エリカに奉仕することを心に決め始めていた牧にとって一連のエリカの言動は彼を傷つける。
こうして近づいたはずの2人の距離はリセットされる。しかし牧よりも周囲が見えていたクラスメイトから、牧に近づきすぎたエリカが女子生徒に囲まれ脅迫を受けていたことを知らされる。
それでも牧は誰とでも仲の良い自分を破壊しても、エリカの尊厳を守りたかった。卒業が視野に入る頃に人間関係が壊れた牧のことを知ったエリカは心配し駆けつける。そして珍しく涙を浮かべて、エリカも自分のせいで牧が人望を失うことを恐れていたことを伝える。
初めて本音を見せ、2人の想いは通じた、かに見えた…。
それからも2人の関係性は変わらない。交際が始まった訳ではないし、エリカの性格が丸くなった訳でもない。その代わり牧はエリカのために壊した人間関係を修復している。もしかしたら これもエリカなりの気遣いなのかもしれない。
お互い気になっているはずなのに少しも縮まらない距離に牧は痺れを切らす。けれど距離感を縮めようとするとエリカは差し出した手に咬みついてくる。そんなエリカだから彼女の困りごとを解決しても牧は それを自分の手柄にしない。彼女には自分以上に心を開く異性がいると思っていた牧は、その生徒がエリカの問題を解決したことにしようとする。けれど牧は その依頼の時、エリカが自分を知りたいと思ってくれていることを知り、再び距離を詰める。エリカが泣いた時には疑問形でしか言えなかった好きを明言し、自分の気持ちを素直に示す。
これまでの中途半端な距離感はエリカも牧の気持ちが分からなかったから。舌打ちのように聞こえたエリカの発する音の意味を牧が理解するシーンは上手いミスリードだ。こうして今度こそ2人は映画に行く約束をする。
けれどエリカは もう この世界のどこにもいない。中学を卒業することなく、高校に進学することなくエリカは この世を去った。その事実を、中学時代の思い出と向き合うことを忌避し続けるから牧は次の恋に進めない。
しかし牧はエリカと自分を繋ぐ唯一の証の中に、彼女がメッセージを忍ばせたことを約1年後、中学から遠く離れた僻地で知る。自分の想いは彼女に通じていた。彼女もまた自分を想ってくれていた。その確証が牧の心を震わせ、彼は初めて泣く。エリカと同様、泣くことが頑なだった自分の心を融解させていく。そして それは自分の意固地さとの決別を意味する。
メンズ校が位置する場所で生まれ育った宮路 冬華(みやじ ふゆか)は受験シーズンで学校が休みになり、地元に戻る。そこで出会ったメンズ校の生徒たちに、明日 実家に遊びに来る高校の友達カップルに対して彼氏のフリをして欲しいと懇願する。
だが用事があると4人のメンズに断られた冬華は彼氏の病欠を理由にしようとするのだけれど、相当 人がよいメンズである神木(かみき)が彼女の願いを聞き入れる。こうして即席カップルを演じて難を乗り切る冬華。しかし彼女の本当の試練は最後にあって、自分が隠し通していた友達の彼氏への思慕を追及されてしまう。


友達は彼氏を好きな人が周囲にいるのが不安で、その不安を払拭するために冬華に強制的に告白させようとする。だが その告白で冬華は友達も好きな人への想いも失う。しかし泣き出したのは不安な友達。冬華は友達に不安を克服するのは自分の気持ち次第だと教え、彼氏役の神木を盾にして自分の涙を隠す。
ラストの冬華がアドリブ力を試される展開は笑う。メンズは相当 人がよい。

