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少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインは逃げるのが お仕事。恋愛指南手引き漫画の結論は押してダメなら引いてみろ⁉

マイルノビッチ 12 (マーガレットコミックスDIGITAL)
佐藤 ざくり(さとう ざくり)
マイルノビッチ
第12巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

どブズなまいるが挑戦★恋の冒険もついに最終巻!! ずっと隣で味方になってくれた神様・天佑に「好き」とつい言ってしまい、しかも完璧にフラれるというイタい状況のまいる。救いの手をさしのべたのはやはり冬でした。まいるからどんどん遠ざかる天佑。まいるに急接近する冬。毒キノコだったまいるが最後にたどり着く恋の結論はなに!? 読んだらきっと笑顔! 感動の最終巻!

簡潔完結感想文

  • ラストは両想い後の遠距離恋愛危機ではなく、失恋後の空気が嫌で距離を置く。
  • かつての天佑ポジションに収まる冬。しかし厳しいことを言えば代替品で…。
  • 逃げ回るヒロインに、逃げないライバル。なのに 幸せになるのは前者なのです。

終巻は遠距離恋愛の危機だが、それは終わりではなく始まり、の 最終12巻。

主人公・まいる が作中で複数の人と交際したり、少女漫画のヒロイン像を壊してきた本書ですが、天佑(てんゆう)編が始まった『9巻』後半あたりからは、正統派の少女漫画の展開になっている。それを残念と考えるか、実家に帰ってきたような安心感を覚えるかは読者次第だろう。結局、少女漫画の王道パターンは良く出来ていることを改めて感じさせられた。

王道パターンの内容は以下の通り。学校で地味な存在・まいる が、ミスコン優勝者の学校一のイケメン・天佑に恋をする。だが天佑の心には百々(もも)という元モデルで現カメラマンの大人の女性がいた。告白する前から失恋状態だが、天佑が百々を拒絶することで望みが生じる。だが勢い余って告白したら失恋。まいる はその頃に知り合った当て馬・冬(ふゆ)から告白されるが、天佑を想い続けることを諦めない。そんな時、天佑が北海道に移住してしまい、まいる は失恋の傷に塩を塗られる。そんな どん底からの一発逆転で、ヒロインに奇跡が起きる…、という内容。本書は『1巻』以降を中略して『9巻』後半からの話を繋ぎ合わせれば全5巻の王道ストーリーが完成するだろう。あっという間に恋に落ちるか落ちないか、それだけの違いにも見える。

上述の通り、天佑への恋心に気づくまでにヒロインが複数の男性と交際をしているのが本書の特徴。だが客観的に見れば まいる は彼氏を順々にランクアップしているように見える。1人目の彼氏「成功した福笑い」みたいな山川(やまかわ)くんから、背は高いが顔は十人並みの成太朗(なるたろう)が2人目の彼氏。そして顔がイケメンでエリート会社員の七瀬(ななせ)になり、天佑ぐらい美形だが背が小さめの幼なじみ・未来(みらい)で、最後にミスコン1位という学校の支配者で高校生ながら仕事もしている天佑へと たどり着く。
こうやって書き連ねていくと、これまでは交際相手4人は余りにもハイスペックな天佑と まいる が結ばれる非現実感を薄めるための言い訳みたいに感じる。なんだか まいる が彼氏の格を順調に上げていく「プロ彼女」への道を進んでいるようにも見える。これは同級生・綾乃(あやの)よりも無自覚なだけ性質が悪い。作者がコメントする通り、長期間 天祐を想い続け、努力を惜しまなかった綾乃より、愛されヒロインの まいる が幸せになるというのは少女漫画世界のシビアさを感じる。「運命の人」という最強ワードの前には、ヒロイン以外の恋は散っていくだけなのか…。

…と 文句のような言葉が並んでしまいましたが、本書は色んな所に作者が配慮していることが見えて再読も とても楽しかった。上述の まいる による「彼氏わらしべ長者」も作者が物語をコントロールしているから生まれる展開なのである。途中の感想文でも書いたが、かなり多くなった登場人物を作者が ちゃんと動かせている点が私は好きだ。それぞれに個性があって思考があって、この世界では複数の人間が同じ時間の上で動いているという感覚が味わえた。それは視野の広さと想像力の豊かさ、処理能力の高さだと思う。まぁ唯一要らないと思うのは、ふわり とアレックスの話。アレックスは ふわり とは何の関係性も無かったし、イケメン図鑑の1ページでしかなかったなぁ。

ちなみに まいる以外の女性陣の多くが モデルやタレントになっているのが気になる。綾乃はタレント、リカラも読者モデル、ついでに七瀬(ななせ)がSNSを通じて知り合う女性も読者モデルである。作者が こういう世界の人たちのことを好きなのかな。そう考えると成太朗の浮気相手で、現彼女となったバイト先の女性は浮ついた世界に足を踏み入れず堅実に生きているように見えてくる。
まいる も結局、意識の問題だけで「どブス」じゃ全然ないし。まいる を通した「私たち」の物語のように見せかけて、美男美女しか存在することが許されないルッキズムが蔓延した上流階級の物語なのかもしれない。

あれっ、ここまで賛辞を並べていたはずの本書の最終巻の感想がネガティブな言葉ばかりだ。まいる が幸せになったことが妬ましいのでしょうか…(苦笑) 私は好きですよ、本書。


祐に失恋して まいる はリセット。またもキノコに逆戻り。
そんな まいる を励ますのは まいる をフッた天佑ではなく、彼の代替の冬。彼は不器用なりに、そして誠実にまいると向き合っていた。そして まいる は冬に誘われるまま、天佑との現在地を確かめる。まいる は片想いの終局よりも、天佑との関係が全て壊れるのが怖いのだ。なぜなら彼は友達で好きな人という二重の意味で まいる の世界の全てだから。

だが会いに行った天佑は、まいる から逃げるように隠れていた。顔を合わせることもなく それだけで関係が壊れたことを知ったまいる。

神様も友達も好きな人も失って、まいる の世界は崩壊する。天佑以外の恋人なら すぐ出来るのだが…。

そんな絶望の淵にいる まいる に冬は生まれて初めての告白をする。もし まいる が男に依存する体質の百々(もも)のように人に寄り掛かって生きる人なら、ここで冬に応じただろう。だが まいる は断る。ここではヒロインとして百々よりも強くなければならないからだ。百々よりも素晴らしいことを証明することで、天佑にとって特別な女性だと思わせる必要がある。
天佑編でのアドバイザー・冬がいることで まいる が独力で何かをしたりしていないのが気になる所。弱腰になっているけど男性に お膳立てされ、逃げるけど追いかけられて恋愛成就。これは女性の憧れかもしれないが、まいる が これまでの恋愛で経験値になった失敗を繰り返しているように見えてしまう。

ただし天佑が隠れていたのは、まいる のためでもあった。気まずい関係の彼女が これ以上 傷つかないように顔を合わせない。そして彼は まいる の前から姿を消す…。天佑の失踪は2回目か。


うとは知らず、まいる は冬に告白され誕生日であるバレンタインデーに返事をすることになる。だが天佑を好きになる前ならいざ知らず、今のまいるは天佑が全て。

そして遅れて天佑が北海道に転勤した事を知る。本書の場合、片想いどころか、失恋しているが、少女漫画特有の最終回遠距離恋愛危機である。その情報を知って、まいる は冬に相談(割とデリカシーに欠ける)。冬は北海道で天佑に直接会うべきだと まいる を説得する。上述の通り、まいる の周囲には常に助言してくれる人が必ずいる。そういう意味では女王様気質で、百々と大して変わらないメンタルなのかも。

だが、空港に到着して まいる は、自分の行動が天佑の意思に反すること、そして この行動の先に意味がないことを悟る。だから まいる は天佑を卒業すると宣言。
だが冬はそれを許さず、行き先を変え、沖縄に まいる を連れ出す。まいる は冬のペースに乗せられながら、彼の真摯な愛情をヒシヒシと感じる。


祐が まいる と離れてみて分かったのは、彼女の事ばかり考えているということ。転勤の原因がまいるで、慣れない土地に四苦八苦しているのもあるが、危うい まいる のことが気がかりで毎日のように考えてしまう。そして歴代の彼氏に まいる を大切にしてくれなかったと怒りが生じる。そこで浮かびかけるのが、自分なら…という考え。天佑がまいると距離を置いたのは拒絶ではなく、文字通り距離を置きたかったから。神様から友達、そして恋愛対象へと彼女の中の自分が変わる事に混乱しているだけ。だから頭を整理したら、受諾するかもしれない。

ここで気になるのは、天佑が まいる を美化してること。アバタもエクボ なのかもしれないが、まいる の身勝手さで傷ついた人もいるのに(未来とか未来)。まぁ そういう恋愛遍歴を含めて「ダメな私に 恋してください」ということなのかもしれないが。

最終巻で逃亡ばかりする まいる の代わりに北海道に行くのは綾乃。だが綾乃の告白を天佑はキッパリと断る。そして彼女の告白を断っても天佑は混乱しなかった。この違いもまた天佑の無意識の まいる への特別な感情を表している。

そして その日、車と接触した天佑が その瞬間、脳内で見えたのは、好きな子の顔だった…。


2月14日、まいるの誕生日。
冬との約束の日だが、その前に沖縄でまいるは返事をしていた。もう暦の上では春だから、冬の出番は終わったのだろう。
その日、冬は天佑に連絡をしていて、天佑とまいるを会わせようと画策していた。だが その計画を知り、キャパオーバーになると逃走。逃走はヒロインの特性です。

三十六計逃げるに如かず。絶望に落とされるぐらいなら、現実から逃避し続けた方が まし(成長なし)。

その途中、まいるは感知しないが、歴代の彼氏たちが幸せになっている様子が描かれる(1人目の山川くんまで!)。まいる が街中を疾走する姿で、これまでのキャラの その後を紹介している手法が素晴らしい。群像劇の縦糸に まいる がなっている。歴代彼氏の中で未来だけは、まだ次の恋を見つけられずにいる。10年間好きだったまいるを忘れるには時間が必要みたいだ。

その中で どうやら成太朗が幸せになっていること、その相手に非難轟々みたいだが、まいる も幸せになるのだから 大目に見ようと思えないのかな。要するに浮気した成太朗が その浮気相手と幸せになっているのが気に入らないみたいだが、未来からすれば、まいるは交際初日で浮気をした人間で、彼目線で言えば まいる は幸せになる資格がない。いつの間にかに読者が まいる の味方みたいになっている状況が怖い。いや、まいる も割と酷い人間なのに。そこもまた少女漫画論理という感じを受ける。結局、読者はヒロインに清純さとか一途さを無意識に求めているのかもしれない。


乃は逃走する まいる を見て、全てを察知。そんな まいる を鉄拳制裁して彼女の目を覚まさせる。綾乃からすれば、まいるは全てが恵まれている。何よりも自分にはどうやっても届かなかった天佑と親し気な距離を取れている。
お互い羨ましい所がある2人は、いつの間にか相手の長所を褒め合っていく。綾乃が最後にお節介を焼く。それは「友達」としての行動だった。この日、まいる は天佑という友達を失う。だが彼女には天佑の他にも友達がいる。だから世界に独りぼっちじゃないというのが良い。

天祐が まいる に追いついても、それは優しい天祐の情けであると思いこむ まいる は謝罪し、再び逃亡しようとする。

それに参った天佑は自分の気持ちを明らかにする。まいる を気遣っての転勤だったが、遠く離れたことで天祐の中に まいる がいることに気づかされた。いつの間にかに好きになっていた。そして彼氏になりたいと天佑が願う。男性から告白されたら絶対に拒まない/拒めないのが まいる のビッチな性質。これまで通り、最終的には彼氏が告白してくる形で交際が始まる。「恋愛は好きになった方が負け」ならば、この時点では天佑の方がグイグイきているから、天佑の負けなのかもしれない。こうして自分に優位な状況で交際が始まる。

こうして失恋した1年前とは まるで違うバレンタインデー=誕生日が迎えられた まいる。これで まいる の成太朗と別れたトラウマも払拭された。来年からは毎年バレンタインデーは天佑と交際を始めた日として まいる の心に刻まれるだろう。


2人の交際の様子は、描きおろしの番外編で少しだけ見られる。やはり天祐は自分に至るまでの まいるの恋を一から十まで知っているので複雑な部分もあるらしい。ビッチな彼女よりも一番 純情なのは天祐。恋愛経験値は彼の方が低いからね…。