
和泉 かねよし(いずみ かねよし)
メンズ校(メンズこう)
第03巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
海まで5分。1日2本のフェリー有り。徒歩ではほぼ脱出不可能のド僻地にある全寮制名門男子校・私立栖鳳高校。恋の種すらなさそうな不毛の地で、高偏差値野郎・野上のあまのじゃくで一途な恋がついに実る…!? 話題の青春ボーイズライフ新装版第3巻。
簡潔完結感想文
- テンション、笑い、恋に落ちる理由など、私と ことごとく合わない作者の波長。
- 両片想いの恋が別離の危機に際して動き出す。でも卒業後が心配なカップルだ。
- トラウマを乗り越えたから次の恋に動き出すのは分かるが、全員 手近すぎない??
口は禍(わざわい)の元、 3巻。
まず良かった点を挙げると、『3巻』には話の流れがあるところ。『2巻』で登場した冬華(ふゆか)が引き続き登場して、その冬華の知り合いとして新キャラの女性が登場する。そして彼女と牧(まき)の交流があるが、牧は彼女の名前が引っ掛かり1回休み。その牧の休みの間に野上(のがみ)の恋が描かれ、そこで牧は女性が好きな男性に願うことを知る。それが牧の中の逡巡を終わらせ、彼が次の恋に進むという一連の流れが良かった。


欠点は、飽きるところだろう。今回は牧・神木(かみき)・野上の3人の恋が前に動き出すようすが描かれるのだけど、その3人とも口が下手で上手くいきそうな恋愛も上手くいかない、という共通点がある。そこが笑いの起爆剤になるのだけど、重複と既視感の理由にもなっている。和泉作品は自爆してしまう恋愛下手な人が語り手になることが多いが、群像劇になって語り手が多くなっても その傾向が変わらない。
そして私が思う本書の致命的な欠陥は、二番目の恋よりも最初の恋の方が切ない点だ。彼女と死別した牧、そして義理の姉弟で別れを選んだ神木の物語が秀逸だっただけに、次の恋の始まりに その相手を選んだ理由が感じられない。失恋や過去、自分の欠点を乗り越えたから次の恋に動き出せるという理由は納得できるのだけど、野上も含めて、全員 手近な相手を選びすぎだ。私を含めて少女漫画読者は恋愛に特別性と永遠性を見い出したいのだと思うのだけど、本書には それがまるでない。刑務所と例えられるほどの隔離空間に迷い込んだ女性を次々に好きになっているだけで、彼女たちの魅力が伝わってこない。
これは これまでの和泉作品の特徴でもある。男性側は特別で その世界の最高の存在である一方、女性側は そこら辺にいる平凡な人。それが読者には自分も そういう王子様のような人と交際できるかも という夢を抱かせるのだろうけど、和泉作品は では最高の彼が どうして そんな平凡な女性を選ぶ必要があるのか、という点の説明がない。恋愛の始まりや作中のテンション、そして笑いの要素の全てが私の好みから外れていることを今回も痛感させられた。次回作『女王の花』は期待しているので、それでダメなら本当に合わないのだろう。
全てのキャラの現在の恋が、メンズ校という特殊空間だから成立していて、卒業など この地から離れた時に彼らの恋が継続しているとは思えない。次の恋に動く様子を描かずに、男子視点の失恋アンソロジーや失敗談としてまとめた方が無難だったかもしれない。彼らが恋に再始動したことは喜ばしいけれど、1話または1巻で切なかった失恋部分の方が楽しかった。
3棟ある寮が演劇を披露する新入生のオリエンテーションで、牧たちの棟は女優役がケガをしたため『2巻』ラストで登場した冬華に代役を依頼する。彼女は牧たちに彼氏役を演じてもらった恩があるから断り切れない。
女性である自分が女性の振りをすることに納得いかない冬華だったが、女装した男に負けたくない気持ちで乗り切る。冬華は いかにも和泉作品らしいヒロインのメンタルである。そして神木という身の丈に合わない男性に恋をしていることに悩むのも、彼の性格に振り回されるのも和泉作品ヒロインの運命である。最初の失恋から すぐに立ち直る図太さもヒロインの特性。
演じた白雪姫のラストシーンで冬華は神木の顔に手で近づけキスを達成する。終演後、ライバル棟から女性疑惑が上がりセクハラを含めたピンチを王子様の神木が助ける。和泉ヒロインは彼の言動に傷つきながら逞しくなっていくのだ。
牧は徒歩5分の海でサーフィンに興じる女性と知り合う。その女性は会話はしてくれるが あまり牧に関心がない。そういう女性を懐かせてみたくなるのが牧という人間らしい。そして牧は天邪鬼な一面もある。『2巻』のエリカでもそうだったが、彼は自分の大事な人を心の中で毒づくが、その大事な人を誰かに悪く言われると瞬間湯沸かし器となって暴力を振るう。どんな時も その人の尊厳を守るためという理由はあるものの、そういうところが子供なのだと思う。後半でも暴れているし、1巻につき1回は牧は暴れる。けれど それで人間関係が完全に破壊されないのが牧の社交性の高さなのだろうか。
牧が怒るのは好きな女の子絡みのことが多い。今回、神木にコンプレックスを感じたのも、神木に知り合ったサーフィンの女性を取られるかもしれにという危機感が生まれたからで、自分は懐かない、綺麗な容姿をした女性に相応しくないと落ち込んだから起きた心の動きと言える。
自分の弱さと向き合ってから知る、このサーフィンの女性の名前はエリカ。鷹野 エリカ(たかの エリカ)だということを知る。新しい恋に動くはずが、過去の恋を思い出さずにはいられない名前だった。だから牧は今回 出会ったエリカとの接触を休止する。
牧の恋が停滞したために、お互いに素直になれないために上手くいかない野上と保健医・フクの恋に話題が移る。しかしフクは雇用契約によって この春に退職予定だという。これは職員たちの間で、女性として花開いたフクの変化が問題視されたことも理由だった。
野上は自分の説得が届かないこと、フクは野上に想いが届かないことが、2人の距離をまた遠ざける。そしてフクは10歳年上の大人として野上の将来や名誉のために離れるのが、ずるくても作法だと思っている。
この件に巻き込まれる牧は、好きな人に新たに好きな人が出来ても それを恨むほど女性は狭量ではないことを知る。相手が自分以外を好きにならないという願いは もはや呪いなのだ。
しかし牧から手渡されたフクの手紙を野上は再び破る。そして牧と ひと悶着あるのだが、野上は野上らしい方法でフクを引き留める。野上はフクからの一方的な願いなど受け取ってやらない。自分はフクの手を離さないと決めているのだ。こうして野上は仲間内で初めて恋人が出来る。


野上の一件を経て、牧は中学時代のエリカを呪いにしないためにも新しい恋に邁進しようとする。そんな牧の暴走だったが、最近 知り合ったエリカは牧の彼女になってくれないか という提案を受け入れる。てっきりデリカシーがないことを叱責されると思ったので予想外の展開。
公称が成立したのはエリカが変わった人間だったからだった。彼女は男性同士の恋愛に興味があり、その情報源として牧を利用したいと考えていた。早速 エリカは男子校への潜入を試みる。フクの妹といて許可を得て、彼女は男子校見学をする。エリカは冬華と同じ地元なので彼女と顔見知り。だから冬華を通じて神木たちの情報を得ていた。
男子校内で早速 獣たちに囲まれるエリカだが、彼女は自力で獣を遠ざける術と胆力を持っていた。その唯我独尊な感じは もう一人のエリカを思い出させる。だからこそ牧はエリカのことを名前で呼べず鷹野さんと距離を取る。
牧は腐女子的な視点に自分を巻き込もうとするエリカに腹を立てるが、エリカも牧が自分という「彼女」に対する態度に腹を立てて虚しさを感じていた。そう言って背を向けた彼女に追いつき、牧は彼女の手を取り教師の追及から逃げる。そうして お互いに譲歩することで分かり合うことを提案する。こうして自分に懐かない女性を少しずつ近づける。それが牧の恋愛方法なのだ。

