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2作連続、ヒロインの手作りクッキーを男性キャラたちが ありがたく頂戴する儀式が始まる

王子と魔女と姫君と 10 (花とゆめコミックス)
松月 滉(まつづき こう)
王子と魔女と姫君と(おうじとまじょとひめぎみと)
第10巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

元姫達の昴お見舞い騒動のウラで、彼らを想う女子達の乙女ゴコロが揺れ動く!一方、昴(すばる)が本人よりも楽しみにしている仁(めぐみ)の誕生日。幸せに迎えられるはずの誕生日、仁の前に謎の男が現れて…!? HMC受賞作も収録の第10巻☆

簡潔完結感想文

  • プリンスに恋する女性キャラの登場は そのプリンスの敗退と同義。これで5人とも敗退。
  • 男性キャラの2回の誕生日回で、1人が6ページに対して もう1人は100ページの圧倒的格差。
  • 仁が最後まで告白できないのは最後までトラウマを抱えるから。こじらせたトラウマが勝因。

作との類似点が ますます多くなる 10巻。

ここまで人を替えて告白回、誕生回、風邪回など同じイベントを何度も こすってきた本書ですが、そこにヒロインの手作りクッキー配布回が加わる。どうも作者はヒロインの手作りクッキーは人類の至宝と考えているらしい。前作『幸福喫茶3丁目』で最も辟易したのがヒロインのクッキー配布回だったので、またかと辟易が倍加した。このクッキーを配ることでヒロインは その相手からの愛情を一身に受け続けるようだ。

そして前作との類似点として正ヒーローの家庭の事情が浮かび上がる。ヒーロー側の家庭問題が最後に取り上げられるのは白泉社作品のみならず、少女漫画の典型的な展開なのだけど、作者の場合、ヒーローの両親の離婚、別れた父親のヒロインへの接触、そして大人同士にしか分からない元夫婦の微妙な関係など より既視感の強いことを繰り返す。キャラ作りといい話の展開など同じ場所の引き出しを開けて物語を作っている印象が拭えない。本書でもクッキーを出してきた時には本当に呆れた。

他のプリンスたちの家族問題も知りながら、直接的に介入するのは仁だけ という特別

ヒーローのトラウマ問題に着手したことで物語を畳み始めていることが分かる。『10巻』では仁(めぐみ)以外のプリンスたちも「潮時」という言葉を使い、いよいよ自分たちの敗戦を予感し始めている。

また『10巻』での2回の誕生回で元親(もとちか)が6ページだったのに対し、仁の誕生日の一日は1巻の半分以上を占めているのも作者が誰を正ヒーローに据えているかが分かる現象だ。このところ体育祭・文化祭・仁の誕生日と、一つのイベントが長い。

そして この『10巻』で仁以外の5人のプリンスに恋をする女性5人が揃う。この女性たちがプリンスの運命の相手ということではないが、プリンスたちは振られるけど、彼らを想う人たちはいるよ、という作者の罪滅ぼしなのだろう。

各人の相手は、隼人(はやと)が吉野(よしの)、夢路(ゆめじ)が真白(ましろ)の妹、真白が春野(はるの)、零時(れいじ)が秋山(あきやま)、そして元親が音鞍(ねくら)となっている。丁度 一人ずつプリンスたちの容姿ではなく長所に惹かれる女性たちが登場したことになる。仁にだけ そういう人が一人も描かれないことも答えの一つだろう。てっきり零時の相手は米子(こめこ)だと思っていたけれど、そうではないらしい。米子の運命の相手は思わぬところで登場する。

プリンスたちの関係を軟着陸させる準備を整え、物語は ようやくクライマックスに向かう。


頭は昴の風邪回のSIDE B。昴のいない学校が昴の友人・春野(はるの)視点で語られる。この時、真白(ましろ)に春野が接近して交流している。これで真白は昴に正式な告白する前から敗退が決定されたか。零時(れいじ)には秋山(あきやま)となる。

彼らが振られても この世界には彼らを好きな人がいる優しさで残酷な未来をカバーする

翌日には昴は復活。前半は いつも通り騒がしさでページが埋まる。後半は昴が演劇を通して刺激された前世の記憶を理事長に話す。昴は理事長が魔女だと考えるが それは半分アタリで半分 間違いだと言われる。演劇では魔女と大魔女が区別されていたのだから それに当てはめれば分かること、と思うのは物語の読者で再読している私だから思うことなのだろう。相変わらず理事長の言葉は思わせぶりなだけで中身がない。10巻まできて前進した印象を全く与えない作品を読者が面白いと思うかを考えて欲しい。


末の10月31日は仁の誕生日。ここでプリンスたちの誕生日が明かされるが11月12月1月と全員が今年度は まだ誕生日を迎えていないことが発覚する。1月29日の夢路(ゆめじ)は昨年の昴が転校してすぐの誕生日だったが、この時点では夢路は登場していない。なので全員が登場してから初めての誕生日、という横一線は確保されている。

昴が この質問をした10月10日が元親(もとちか)の誕生日であることが発覚し、彼は昴をはじめとした全員に祝福される。ただ昴復活の おまけ だし、この後の仁とのページ数の違いが歴然で可哀想。今の家族で幸せに暮らしている元親にはヒロインの昴が手を差しのべなくても いいということなのか。元親が勝つには ここでトラウマを爆発させるしかなかったか。誕生日にまつわる話だけで1話が終わる。


が誕生日を迎えた直後、昴は隣にある彼の家ににプレゼントを届ける。それが手作りクッキー。これから誕生日を迎えるプリンスたちにも平等のプレゼントを考えた結果、クッキーになった。これは この日、最悪の運勢と言われた仁のラッキーアイテム。

誕生日の仁に続けざまに訪問者が現れる。それが家を出ていった彼の父親。仁と同年代にしか見えない若作りの男性は仁に会いに来たという。だが自分と母親を裏切った男に仁は冷淡。いつも以上に死んだ目で対応する。そして昴に害が及ばないように警告する。

深夜に精神的に動揺する出来事があって よく眠れなかった仁は登校後に うなされて眠る。それを心配する昴に対し、真白と零時が元気づける。彼らは もう昴の心が誰に向かっているか理解しているようで「潮時」という言葉を使う。


は仁に寄り添う姿勢を見せて彼を家まで送り届ける。その直後、自宅の敷地内で倒れている仁の父親を発見し、彼に連れ出され公園に向かう。昴が仁の隣家に引っ越してきた頃には仁の父親は家に寄り付かなくなっていたので直接的な交流の思い出は少ない。そして昴にとって この父親は仁と その母親を苦しめた人という認識がある。そして仁が既に父親と再会していることを知った昴は、この日の仁の様子が おかしかったことの理由を見つける。

仁の父親は自分の素性を知った途端、昴が自分に説教してくると思っていたようだ(私も白泉社ヒロインの気質を発揮すると思った)。だが昴は それは自分の言うべきことではないと自重していた。
しかし捨てた家族に思いを馳せる一方で、自分のしたことに対する罪の重さを感じさせない父親に対して昴は怒りを露わにする。その昴の様子に父親は自分が恨まれる理由があると、昴の中の家庭崩壊の原因を問う。自分が余所(よそ)の女性に走ったという昴の見解を父親は肯定も否定もしないが、元の家族への愛情も滲ませる。昴のように仁たち母子を大切に思う存在がいることに安心している。


の直後、仁の父親が吐血する。昴によって救急車が手配され病院で手術することになったことを、仁の母親は昴からの連絡で知る。母親と病院で落ち合った昴は、別れた夫婦を引き合わせることになったことを謝罪するが、大人であり時間の経過があった母親は あまり頓着していない様子。父親との遺恨が残るのは仁だけのようである。

昴は父親が別れた家族に会いに来たのは自分の死期を悟ってのことではないかと不安になる。仁の母親は そんな昴の優しさに感謝しつつ、実は繊細なところのある仁のケアを昴に頼みたいと伝える。

病院を後にした昴は仁の家で彼と一緒に手術の終了の連絡を待つ。日が暮れてから電話が鳴り、手術が無事に終わったことが伝えられる。父親が生きていることで昴は仁の言いたいことを聞いてもらおうと仁の行動を促す。ヒロインは父親に対しては何もアクションしないが、正ヒーローに対しては お節介を焼くようである。仁のトラウマが終わる予感がする。

「アイサツのトビラ」…
近所付き合いの苦手な早(さち)はマンションの隣人の大和(やまと)家の息子・健(けん)と毎日のように遭遇しても挨拶が出来ずにいた。彼は そんな早の事情を何となく察して気さくにかかわり続けてくれる。そこからの交流が早の運命を少しずつ変えていく。

恋の入り口までを描いた作品で、全てが好転していく様子が描かれている。それにしても作者は漢字一文字の名前が好きなのだろうか。仁は一文字、他のプリンスたち二文字の時点で本編の結末は決まっているとも考えられる。一作に かける時間が違うのだろうけど、この受賞作の方が背景が入念に描かれていて苦笑する。『10巻』は これまでよりも背景が増えた気がするけど。7~8巻あたりは本当に画面が真っ白だった。