《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

それでは一曲お聴き下さい。CRUDE PLAY で「サヨナラの準備は、もうできていた」

カノジョは嘘を愛しすぎてる(17) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第17巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

「想像より早く来たな…」そう呟いて、心也はバスを降りた。
「繋がらない?」「心也さん…電波の入らないところにいるんですかね?何度かけても留守電で…」「もうすぐリハ始まるのに…」「すみませーん なんか楽器屋さんが心也さんに頼まれたとかでスティングレイ持って来てくれたんですけど…」「つか心也本人は?」「アキ?」「心也からメールが来たんだけど…これってどういう意味だと思う?」 “悪いんだけど、僕のベースは使わないで。その代わり、プレゼントを贈るから” 「…心也、東京へ帰ったのかもしれない…」「ライブ開演まであと2時間切りました!どうしますか? 中止しますか?」

簡潔完結感想文

  • 瞬が秘め続けてきた本音を聞いた心也は、役者が揃うことを確認して空席を用意する。
  • 気の置けない仲間たち2人の痛切な覚悟で、秋は ようやく自分の位置に戻ろうとする。
  • 物語に不必要な理子を当事者にしようとして理子がプロ失格の失礼な人間に成り果てる。

CRUDE PLAYファンなら、の 17巻。

音楽評で、変わり映えの無い作風を続けるアーティストの新譜に対して「××のファンなら」という言葉が苦言をオブラートに包んだ慣用句として使われることがあるけれど、本書の後半は そんな感じ。作中のバンドCRUDE PLAYのファンのための内容になっている。

※ネタバレになるけれど今回、秋(あき)と心也(しんや)によるCRUDE PLAYのベースの交代劇がある。表紙の秋はステージにカムバックした秋だろうか。交代劇は7年前にも起きていたこと。この7年間でCRUDE PLAYを大きくした功労者である心也は自分の役割を終えたと感じて、CRUDE PLAYから途中下車する。

車内の座席がCRUDE PLAYの立ち位置。フロントは瞬、心也は誰もいない側の1人席

秋の復帰は心也の判断と、そして限界まで本心を隠し、今も自信の葛藤を超えようとする瞬(しゅん)の思いに触れたから。この2人の後押しを受けて初めて秋はCRUDE PLAYのベースの位置に収まる。それぐらい秋という人格は面倒くさい。
そして今の秋が過去と違う手段を選択するのは、瞬だけでなく心也も気の置けない人間になったからだろう。2人は これまでの冷戦を乗り越え、自分の根本に相手への好意があることを知った。だから秋は心也の行動に理解を示し、その思いに応えようとする。7年間の静かな対立があったからこそ2人は互いへの理解を深められたことが未来を拓く鍵となった。

潔癖でナイーブな秋が一度捨てたポジションに戻るには7年という時間の経過と かけがえのない仲間の全面的な支援が無ければならない。秋の面倒くさい性格を解きほぐすために これまでの16巻分があったと言える。紆余曲折あって変容したCRUDE PLAYはオリジナルの形に戻った。それは真のスタートと言える。

ただし心也は7年前と同じように惨めさを経験する。7年前は秋を望むファンの前に立ったが、今回は心也が自分不在のバンドを眺めることで自分が代役でしかなかったことを痛感する。秋の感傷で心也を会場に呼んだことが また彼を惨めにする。7年経っても分かり合っても心也は秋の被害者になる。それぞれの惨めさを主題にしている節のある本書は どうやって残された惨めさを解消していくのだろうか。


こで問題なのが、これまで一度も名前を出さなくても問題がない理子(りこ)である。どうにか作者は理子を当事者にさせようとしているけれど、その結果 彼女が読者から嫌われる要因を作っている。茉莉(まり)・寺田(てらだ)・長浜(ながはま)と理子に悪意を持つ存在を描くことで、理子が被害者になり彼女の肩を持ってきたファンも、今回の、そして ここからの理子の言動は好ましいとは思えないだろう。作中で理子の魅力を届けられないまま、彼女の能力や立場だけを強化してきてしまったため、ファン意識を持った読者は即座にアンチに変わる。後半の理子を見たら茉莉が感じ取った理子の無邪気さという害毒や、寺田が感じてきた魅力は分かるけど好きになれないという気持ちに共感してしまうだろう。

作品後半の理子の嫌われ方は、理子を売り出そうとして茉莉を放置してしまった高樹(たかぎ)の失敗に被る気がする。ここまで大事に理子を育ててきた作品なのに、本当は売り出したいCRUDE PLAYに つきっきりになることで理子の性格が悪い方向に出る事を防ぎ切れていない。

それにより理子は最小限のステップで芸能界に居場所を作ってもらったことを理解していないバカな小娘に成り果てた。特に今回の、共演者と仲良くなる一種の仕事を放棄して自分の衝動を優先した理子の行動はプロとして失格だろう。瞬が限界まで我慢していたのとは対照的だ。今回の行動だけで芸能界における理子の旬は短いと予想してしまう。


ロ意識を持ってCRUDE PLAYの活動をしていた瞬(しゅん)のSOSをキャッチして秋は高松に飛ぶ。

瞬の限界と本心、そして秋の来訪を知った心也はライブ会場に向かう車から途中下車をする。それはデビュー直前に加入した心也のCRUDE PLAYからの途中下車を意味していた。
心也がリハーサル開始時間になっても現れず、心也の代わりに秋がベースの立ち位置を確認する。そこに心也から秋にベースが届けられたことで秋は彼の意図を知る。


子は事務所で2曲目を聞く。彼女も立派な音楽家なので音の中から心也の秋の音への敬意と好意を読み取る。「ひねくれているのに真っ直ぐで 冷たいふりして優しい」、そんな心也の全てが詰まっている曲。だから秋はアレンジしたくてたまらないと感じたのかもしれない。

そして理子はテレビ番組のレギュラーに初挑戦。その顔合わせに祐一(ゆういち)と蒼太(そうた)も同行する。彼らは、この道30年以上の音楽プロデューサーが厳選した本物の音に触れることで、理子だけが その音に相応しく、自分たちの音では彼女を彩ることが出来ないと痛感したかもしれない(どう感じたかは今回 描かれていない)。

秋が理子に連絡を入れ、心也とのコンタクトを依頼する。自分の着信を無視し続ける心也が理子の連絡なら出るのではないかと希望を抱いていた。この連絡を受けても理子が動いた描写はないから、理子が事前にCRUDE PLAYに問題が発生したことを察知させる前置きなのだろう。


態を知った東京の高樹はリモートでメンバーらと会議をし、心也の心情に理解を示す。高樹が提案する選択肢は心也の体調不良を理由にした休演。タイムリミットが迫る中、瞬は秋のカムバックを望む。自分が初めてエアバンドを演じる事態になっても、私心を捨てて休演ではなく公演を選択しようとする瞬の気持ちに報いるために秋は出演を決意する。

7年前の自分の経験があるから、幼稚な秋でも今回の心也の判断を理解できる

テレビ番組のリハーサル終了後に その情報を知った理子は顔合わせの飲み会を断り、四国に飛ぼうとする。共演者に失礼になっても理子は衝動を選ぶ。もう この時点で理子はプロ失格だろう。初顔合わせのリハーサル中に電話に出たり、挨拶も そこそこに即 現場を離れるなど、大した実績もない新人なのに失礼だ、とシバケンなら説教するところだろう。ちなみに現場にいたシバケンは完全に咬ませ犬。ページを増やす要員でしかない。


役を心に決めた秋は心也の観覧を望む。
そしてCRUDE PLAYの作曲家・アキ(秋)は初めて素顔を公表する。それは秋が脱退した直後と同じように、心也を目当てにした観客の前に立つ針の筵(むしろ)状態での登壇。ただ心也と違って秋には立場と実績があり、弁明の言葉を述べる機会も用意されている。

心也は最後方の出入り口付近で真のCRUDE PLAYの姿を眺める。心也にとってオリジナルメンバーの4人の演奏を見るのは初めてだろう。そして その表情が生き生きと輝いているのも想像通り。この公演で秋は演奏をしている。心也のテクニックで考えた音なので難しく、秋は余裕がない。余裕がないけど練習はしていた。それが分かって心也は居場所を無くす。