《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

2回連続で自力で困難に立ち向かわず、男の元に身を寄せて嵐が過ぎ去るのを待つヒロイン。

MVPは譲れない! 2 (白泉社文庫)
仲村 佳樹(なかむら よしき)
MVPは譲れない!(エムブイピーはゆずれない!)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

意地を張り合って、なかなかフツーの恋人同士みたいになれない美雪と一堂。ひそかに期待していたバスケ部の合宿では、思わぬハプニングが発生して、二人の仲は逆に大ピンチに…!? がんばれ美雪!!

簡潔完結感想文

  • ヒロインがヒーローの操縦法を学ぶまで イジイジ・ウジウジ不快な湿度が続く。
  • まだ全体の1/3なのに、ここから最後まで1つの大会を描く。要素 詰め込み過ぎ。
  • ライバルに一度 負けてから成長を果たすのが お約束。そこに努力と勝利がある。

風と作品内容とキャラの性格が大きく変わっていく 2巻。

なんだかコレジャナイ感を覚える。
『1巻』で私が好きになったコメディセンスやスピード感が失われてしまった。

『2巻』前半はヒロイン・美雪(よしゆき)の乙女モードが爆発してるし、。
後半からは「大会編」になるのだが、これに関連した話が最終回まで続いていく…。
まだ全体の1/3を過ぎたところで、残り1000ページ余りあるのだから驚きである。

この構成は さすが約30年前の1990年代の作品だな、と思うところである。
読者の興味が移り気になった2020年代では この手法は取れないのではないか。

もう何もかもを詰め込み過ぎなのである。
2人の恋愛はもちろん、高校3年生の一堂(いちどう)の進路問題、
新キャラ・磨己(まこ)の登場に、彼の親子問題、
そしてモテモテの美雪という問題を、一つの大会を通して描いていく。

私も集中力が長く続かないので、早く一つずつ解決していってくれ、と思ってしまった。


回、最も違和感を持ったのは美雪が かなり乙女である点。

ずーーーっと、ウジウジしている恋愛脳だから読んでいて辛い部分もある。
交際していても相手を信じられない。
自分が好きになった人がどんな人なのかを理解しないまま、
彼氏を理想の人として夢を見るから、現実とのギャップに一人で悩む。

確かに一堂の行動は奥手・シャイすぎて、信用できない部分もあるが、多くは美雪の一人相撲である。
もっと2人の関係性が対等で、肩を並べる話かと思っていたが、
一人で不満を抱えて、一人で泣いているばかりで、悪い意味でヒロイン感が強くなっている。

ただ、『2巻』の前半で壁を一つ乗り越えてからは、大らかな気持ちで交際が出来ていて一安心。
一堂という人間を分かった上での発言も多く、口下手な彼すらも愛おしく思うぐらいに成長する。

前半は、一堂を美雪が操縦していくために必要だったのかな。

ただ不安になる時は簡単に不安になってしまうみたいだから、
今後も美雪が泣く場面が続く恐れはある。

また 疑問なのは、美雪の問題解決法。
自分の周囲に壁が出来たら、男を頼って逃避する、という手法が『2巻』で2回連続 取られる。

あっという間に問題を解決させないための作品側の工夫でもあるんだろうけど、
自力で何もしないような美雪に幻滅してしまった。

一堂を追いかけて同じ高校に入学するほどの行動力や決断力が失われていく。

美雪が どんどん重たい女になって自分の願望を押しつけるばかり。もっと彼の性格を理解して。

頭は夏季合宿編。お泊り回です。

まず驚くのが「夏季」という点。
美雪が高1、一堂が高3のバレンタインから交際が始まって、夏季??

どうやら苦肉の策で、作中の時間を1年戻した上で、交際は既成事実として描くことにしたらしい…。
初めからある2歳という年齢差設定が、このような時空の歪みを生んだのだろう。

バスケの練習合宿のはずだが、本書の中で一番バスケットをしていない この話。
『1巻』のギャグ寄りの話でも、恋の決着はバスケでつけていたのに、今回は それが全く無い。
そのせいもあるのか、全体的に湿っぽい話である。

この回から美雪(みゆき・以下M)もバスケ部のマネージャーになる。
美雪(M)は進展のない奥手なカップルに協力するためにマネージャーになったようなもの。

だが、一堂が美雪(M)をナンパから救ったことで、美雪(Y)が2人の仲を疑う事になってしまう。
なるほど仲を誤解させる女性役として美雪(M)が配置されたのか。

ナンパ男は合宿地として使用させてもらっている お寺の住職の息子だった。
ずっと付きまとう彼の魔の手から逃れるために、美雪(M)は一堂との偽装交際を演じることになる。

が、元は美雪(M)は一堂のことを好きだったことが、美雪(Y)不安の種になる。
しかも、一堂は恋人である自分に出来ないことを、演技なら美雪(M)に出来るのだ。


んな時に現れるのが木南(こみなみ)。
美雪(Y)の事が好きな彼が事態をややこしくする。

一堂との関係で悩み、涙を流している美雪(Y)を目撃し、一度は手を引いた木南の想いが再燃していく。

ここでは、カップルの危機に加えて、男女2組の友情と崩壊危機が描かれる。
美雪(M)は演技が本当になっていく自分を嫌悪する。

そして木南は、美雪(Y)と一堂が上手くいってない様子に腹を立てる。

どうしても美雪(Y)に素直になれない一堂の失敗に罰を加えるのも彼の役割。
これによって一堂は動けなくなるほど殴られ、一堂が移動不能になることで、2人の別離は長期化してしまう。

しかし美雪(Y)も、一堂の性格を早く理解してほしいものだ。
三者がいる前で愛を囁かないことなど明白なのに、
周囲が見えなくなっているから、第三者の前で早急に自分の欲しい答えばかり望んでいる。
(寺の息子だけでなく、美雪(M)がいる時点でダメだ)

徹底的に間違えることで、その間違いから恋人としての所作を学んでいくのだろう。


一堂と同じ空間にいたくない美雪(Y)は、同じ寺で合宿をしている別の学校の木南を頼って、そこに身を寄せる。

美雪(Y)は、この後半も男の居場所に身を寄せていて残念だ。
問題から逃げて、男の元に助けを求めるという無自覚な甘えを感じる。
自力で解決するつもりもなくて、
相手を困らせ 相手の出方を待って、自分が傷つかない解決策を模索するばかりなのだ。

今回は木南に対して安心しきっているのだろう。
だが、それも木南が自分に好意を見せたことで間違いだと気づく。
しかも 当の木南に一堂との仲直りの道筋を立ててもらってるんだから、美雪は おめでたい。
こうして別の男に逃げ込む事も出来なくなって初めて、美雪(Y)は一堂と対面する勇気を持つ。

一堂は、どうにか一方的に待ち合わせをすることで、関係性を修復しようと試みる。
だが その直前に、美雪(M)の拉致事件が起きてしまい、一堂は助けに行ってしまう。
美雪(M)が寺の息子に付いて行く心境が いまいち分からないなぁ。

一堂は無免許運転で暴走して美雪(M)の元に走る。
スポーツ漫画だからかバスケットプレイヤーたちは酒やタバコはやらないが、無免許運転は頻発する本書。
(バスケをしない人は飲んだり吸ったりしているが)
1990年代の漫画だから出来た描写で、2020年代の今では絶対に出来ないのかな?


南や同級生たちの証言から、一堂がしっかり自分を思い遣ってくれていたこと、
そして、自分が それを信じられずにいたことに気づく美雪(Y)。

今回、一堂が木南にボコボコにされてから対面しないことで、
美雪(Y)は一堂が彼女のために身体を張っていることすら知らない、という叙述トリック(?)は面白い。

だが美雪(M)を助けたために、指定された待ち合わせの時間に遅れる一堂。
そうして落ち込んだ後に、感動の再会が待っていた。

そこでボロボロになりながらも、果たすべき役目を果たして、自分の元に来てくれた一堂を知る。
そうして すれ違いの後には一層の距離が近づく。

キスという確証を貰ったら、その後の美雪(Y)は堂々としたものである。
これまで自分が悩んでいた事なんて忘れて、一堂から交際の主導権を奪っていく。
どんだけ周囲を巻き込んだと思っているんだ、と怒りすら湧く、迷惑なカップルである。


の後に始まるのが、長い長い「大会編」である。

この大会は、「日本バスケット連盟がバックについてる大会」で、
「いい所までいけば大学側から その場で手を引いてくれる」という。

3年生にとっては、この大会で結果を出して大学側のオファーを待つ者も多い。

描写からするに、インターハイは終了していて、一堂はMVPに輝いた設定は活きているらしい。
ここにきて3年生の一堂の進路の話も絡んでくる。

大会に向け、女子バスケ部が、公式試合の出場を要請する。
元々、憧れの「一堂さん」とバスケがしたくて男子の方の門を叩いた美雪には未練がない。
この時点で美雪は ただの応援団である。


しい章が始まると新キャラも登場する。
それが崎憂 磨己(きゆう まこ)。

磨己は、彼の父と美雪の父が親友で、4年前まで家族ぐるみのつき合いをしていた幼なじみ的な存在。
同じ年だが美雪は磨己のことを弟のように かわいがっていた。

ここでは4年前と言うのが大事で、この時点では まだ美雪は「一堂さん」に会っていなかった。
だが この4年間の間で、美雪にとって一番 大事な男性が自分ではなく、一堂になってしまったことに磨己は嫉妬を燃やす。

だから磨己は初対面の一堂に敵意を燃やし、ついでに美雪の部屋から持ってきた彼の写真も燃やす。
このために磨己がタバコを吸う設定で、ライターが用意されていたのか?

写真を燃やしても、その炎を体育館の床で踏んで消しても、誰も怒らない。
バスケットをプレーする者にとって、神聖な練習場での
こんな蛮行は かなり屈辱的だと思うが(磨己も分かってやってるだろう)。


京での磨己の父親の仕事は、関東でも一・二を争う名門大学のスカウト担当。
磨己の父親は一堂との面会で、彼を その大学にスカウトする。

だが そのオファーを一堂は断る。
彼は進学先を県内に決めているらしい。
だが、その学校では有名だが、全国区とは言えない。

一堂が その学校を選んだのは美雪との2人の関係のため。
高校からバスで15分程度の距離だから、いつでも会えると考えているらしい。
一堂にしては 2人のことを しっかり考えていて嬉しい限り。


が幸福は すぐに暗転する。
磨己によって、一堂との交際が美雪の父親に発覚してしまう。
父の怒りを買った美雪は自室に軟禁されてしまった。

これは磨己の独占欲でもある。
磨己は東京の学校をやめて、この地に来た。
全ては美雪にとって一番近い男になるために。
そのためには現在 美雪に一番近い男・一堂を何としてでも引き剥がさなければならない。

そして磨己は、自分の父親が仕事にかまけて、自分を軽視する事にも怒っていた。
そして父が今、一番 熱中しているのが高校MVPの一堂。
磨己は、恋のライバルであり、ファザコンをこじらせた結果、
二重の意味で一堂に恨みを持つ厄介な相手なのである。

だが、そんな男性たちの強硬な手段に対して、娘と同性である母は協力する。
脱出の手引きをして、娘に自由を与えさせる。
そんな娘、美雪が向かったのは一堂の家だった…。

しかし何で一堂家なのだろうか。
その必要性は あまりない。
結果的に歓迎されるが、家出して交際相手の家に逃げ込むのは非常識な行動にも映る。
読者を喜ばすためなのではないかと勘繰ってしまう。


一堂家で美雪は歓迎される。
父は不在らしいが、母は息子が高校3年生にして初めて家に女性を招き入れた事に安堵&感激し、
相手方の親に反対されている息子の恋を応援する。

ある朝、磨己は美雪と一堂が2人でいる現場に乗り込み、一堂への敵意を露わにする。
そして唐突に美雪にキスをすることで、一堂へのライバル宣言と、
美雪に彼女を本当に大切に想う自分の存在を分からせる。

夏合宿でキスしておいて良かったね、と その順番に心から安堵する。
もし してなかったら2人にとって一生モノの傷になってしまうだろう。

にしもて美雪がモテモテである。
逆ハーレム状態の男子バスケ部では一堂という存在が他の部員に邪な心を生ませなかったが、
木南や磨己など、部外の人は その影響下にはない。

前半のウジウジを見ている限り、美雪がそんなに良い女に見えない。
これも、タイプの違うイケメンからモテるという読者サービスのような気がしてならない。

磨己は、一堂のみならず美雪の人生も大きく変えていく存在。ただの当て馬じゃありません。

うしてキスという宣戦布告がなされ、一堂と磨己は互いのプライドを賭けたバスケ勝負をする。

『1巻』の美栄奈(みえな)と美雪の対決といい、ライバルとはバスケをしてこその本書だろう。
だからこそ前半の一堂と木南のボッコボコの殴り合いが浮いている。

一堂は、背の低い磨己の特性を見抜けずに負ける。

驚愕の展開だが、美雪も美栄奈に一度負けることで成長したから、一堂も ここからギアを入れ替えるだろう。
大会を前に自分反省をして、自分のバスケを もう一度 見直す機会となったはず。

一堂のチームに3年生が戻ってきたり、
木南の元に磨己が現れたり、チームが結成されていく。

試合は いつ開始するのか、美雪は いつ家に帰るのか、
1000ページ余りの一大長編となる この話は、まだまだ続く…。