《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

地区大会に重点を置き、全国優勝を こともなげに事後報告する形式は『タッチ』っぽい。

MVPは譲れない! 4 (白泉社文庫)
仲村 佳樹(なかむら よしき)
MVPは譲れない!(エムブイピーはゆずれない!)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

自分を高めるために、ひとり明泉大学へのバスケ進学を決意する一堂。動揺する美雪、そしてすれ違うふたりの心。そんな時、一堂が試合中に大ケガを!? 目が離せないバスケロマン、いよいよ最終巻!!

簡潔完結感想文

  • 少女漫画的大事件、遠距離恋愛の危機。周囲に助けられて、何とか乗り越える2人。
  • ラスト付近は熱血バスケ漫画。各人の問題が一気に解決するが、放置された問題も。
  • 最終回後の番外編では読者の読みたかった物語が読める。全員の成功が約束される。

っぱり少年誌の影響を感じずにはいられない 最終4巻(文庫版)。

作者は元々 少女漫画よりも少年漫画を愛読していたのだろうか。
『3巻』の感想でも書きましたが、中盤から最終回まで長くかかった大会の様子は、
同じ1990年代に人気を博した『幽遊白書』を連想させるし、
最終回や その後の番外編でのエピローグも『幽白』に似ている部分を感じる。

また今回のタイトルにしましたが、
愛知県大会の様子に重点を置いて、その後の全国大会を描かず、
番外編の1ページで全国優勝をやってのけた、と サラッと描くのは『タッチ』っぽいですね。

個人的な偏見で言うと、少女漫画だけを読んで少女漫画家の夢を叶えた作家さんよりも、
少年漫画の面白さを少女漫画に落とし込める作家さんの方が好きだ。

それは少年漫画の方が少女漫画よりも優れている、という意味ではなくて、
少女漫画以外の世界を知っているという点で、世界観が広がっているような気がするのだ。

漫画に限らず、映画や音楽、小説など やはりインプット量の多さが作品の幅に繋がると思う。
それは物の見方や価値観の多様さなどに通じるものがあるだろう。

…なんて、作者がどんな読書歴なのか分からないままなので、完全に推論で述べていますが。


すぎる続いた1つの大会の描写。
その割に、描き切れていない部分もあるのが気になった。

特に、少女漫画的には磨己(まこ)の、美雪(よしゆき)への恋心に全く触れていない点が残念。
各人の前にあった乗り越えるべき問題を、立て続けに解決しているからページが足りないのだろうが、
キスまでして三角関係を演出したのに、なし崩し的に終わっている。

例え磨己が もう一度 美雪に告白しても結果は明白だから割愛したのかもしれない。
そうすること感動と幸福の最終回に、失恋で水を差すことを回避できている面もある。

磨己もまた、はっきりとした答えを出さないことで、
美雪との関係を崩さず、自分に甘い美雪を利用している節があるのだが…。

本書で誰が一番作者に愛されているかと言えば、磨己だと私は思う。
その場面での感想でまた指摘するが、
後発キャラで、転校して即レギュラーを獲得した彼に対する風当たりが全くない

直情的でトラブルメーカーでも先輩・木南(こみなみ)が甘いから許されている。
木南との関係は、腐女子受けを狙っているようにも思う(当時はそんな言葉なかっただろうが)。
ライバル校の選手2人の関係といい、作者には少年漫画好き意外に、腐女子属性も感じる。

磨己はタバコを吸って、ドロップアウトしたと見せかけて、
朝晩の自主トレを欠かしていないという後付けの設定まで出てくる始末。
短期間で急に実力を伸ばしてきた。

作中で一番、家族の愛に恵まれなかった磨己だが、
作者からの愛は一番 注がれているように思う。


一堂は東京の大学への進学を視野に入れていた。
それを陰で聞いていた美雪は一気に乙女モードに突入。

女性が最も言ってはいけない台詞を言う美雪。いつまで経っても恋愛脳で最後まで成長が感じられない。

遠距離恋愛は、少女漫画においてはクライマックスに足り得るテーマだとは思いますが、
この大会の最中で、乙女モードに突入しちゃうのが残念。
既に美雪は自分もプレイヤーになったのだから、
試合のことに専念するなど、本気の姿勢を見せて欲しかった。
美雪が乙女モードになると一気に物語がつまらなくなる(気がする)。

悩む一堂の話を聞くのは女子バスケ部のキャプテン。
2人は2人の問題を独力で解決できないってのもありますが、
一堂には、美雪(みゆき)や近藤(こんどう)、そしてキャプテンと女性のアドバイザーが多いですね。

美雪は告白以外、自力で解決したことが少ない。
もうちょっと竹を割ったような性格だと思っていたのに、
大事なことから逃げ続け、誰かが背中を押してくれるまで動かないのが気になる。

一堂も、美雪がいないと中途半端なプレーをして、何度も同じ間違いを繰り返すのが気になる。
もっと2人で話し合って問題を乗り越えていく描写が欲しかった。


2人の関係が修復しないまま、木南・磨己の高校との対戦が始まる。

覇気のないプレーをする一堂に、磨己はマナー違反を覚悟で彼に喝を入れる。
この学校の面子すら潰しかねない行為なのだが、木南を始め部員は寛容。

ここが磨己が作品内で甘やかされていると思う点。
彼は新参者で、学校の伝統を背負っていない(知らない)からやれることなのに、お咎めがない。
特に木南が甘すぎる。
BLなの⁉って描写もあるし、かわいいを一番 武器にしている男に見えてしまう。

いつの間にか磨己も「中学の時から朝と夜 毎日 自主トレしてる」設定が出てくるし。
全員がバスケットに本気、という描写なんだろうけど、一堂の自主トレといい、付け焼刃感がある。

実は メンタルの不調がプレーに出やすい一堂。こういう欠点はスカウトに影響しないのかな?

女子バスケ部部長もレベルアップしている自分に気づいている。
それは美雪の無限の体力に合わせて練習していたから。

大会中でも全員が成長しているという描写は、やっぱり少年漫画っぽい。


雪との関係に頭を悩ませ、調子の上がらない一堂。
そんな彼が、ようやくエンジンがかかってきた頃に、磨己と接触し 怪我をする。
それでも試合に出ようとする一堂を見て、美雪(M)は美雪(Y)を呼びにくる。

それでも いつまでも躊躇する美雪に、美雪(M)は平手打ちを浴びせる。

「普通の女の子が泣いて引き止める事しかできないからそうする」
「でも ヨシユキは違うでしょ?」
「あんたには和彦さんについていける実力(ちから)があるじゃない」
「和彦さんがずっと先を走っていくなら あんたが それに ついていけばいいじゃない…っ」

この言葉に背中を押され、美雪は一堂に会いに行く。

こうして美雪(M)に言われた言葉と ほぼ同じ内容を一堂に告げることで、
2人は新たなスタートを切る。
どんだけ一堂が離れていっても、美雪が追いかければいいのだ。


こからのバスケットの試合描写は少年誌さながらの盛り上がりを見せる。

意外だったのは、この試合の結末。

だが こういう試合の結果にすることで、ライバルたちにとって、
一堂との対戦は不完全燃焼となり、ここで燃え尽きていないからこそ、次の対戦への闘志が燃え盛る。

そして、この試合内容と結果だったからこそ、
一堂と美雪の父親との関係も 妥協点を見いだせたのではないか。

もし一堂が文句のつけようのない試合内容や結果を手にしていたら、
父親は ここまで素直に彼のことをみとめられなかったのではないだろうか。

残念ながら一堂は大見えを切った約束を違えたことになるが、交際自体は認められた。
父は お嫁に行くことまで考えていたから反対していたらしい。


磨己と、彼の父親の関係性も修復される。
親子の会話の場面は、磨己に対して冷ややかな私でも 可愛いと思ってしまった。
確かに反抗的な態度はとっていたが、否定的な態度ではなかったもんね。


一堂は、かつてはライバルたちとチームを組み、全国区へと歩みを進める。
後にチームメイトになるから剣城(けんじょう)や神楽(かぐら)は、
予選抽選会からキャラが立っていたのだろう。

最強チームが結成されたところで物語は終わる。
俺たちの戦いは これからだッ!的な話だが、決して打ち切りではないだろう。

既に2人の交際に反対する者はなく、彼らの絆が本当に固まるまでを描いているから、
これ以降を描いたら本当にバスケ漫画になってしまう。

読切短編から始まって、ここまで描けた事だけでも僥倖であろう。
時系列が合わず、時空が歪んでいる部分もあるが、
一歩先を行く確定した未来に、ようやく美雪が追いついた、ということで…。


「MVPは譲れない! ー選抜チーム編ー」…
最終回の ちょっと先を描いた作品。
学校の垣根を越えた混戦チームが、最強の兄・美文(よしふみ)の大学の2年生チームと対決する。
本当は10人選ばれているが描かれるのは上位5人のスタメンのみ。

大学No.1のチームとの対決は注目度抜群で、チーム合宿に取材が殺到する。
男女の練習場は離れている上、取材陣からの監視の目もあるので美雪は一堂に なかなか会えない。

どちらかというとメインは美雪たちではなくて、
大阪代表の選手と、バスケをしない女性との恋にページが割かれる。

合宿中の美雪の自分勝手な行動は目に余るものがあるが、
豪華メンバーによる幸せな試合が出来てよかったと素直に思える。
公式試合では絶対に出来ませんからね。

そういえば磨己や木南は、美雪と同じチームでバスケをするのは初めてかな?
そこに対する彼らの感動にも触れて欲しかったなぁ。


「MVPは譲れない! ー東京編ー」…
関東の大学に進学し1年生レギュラーとして活躍する一堂に、美雪が会いに上京した日の話。

↑の番外編の後に、愛知代表選抜チームは優勝し、トップで関東の大学に進学したことが分かる。
一堂はインターハイと、この大会の2つの大会で全国優勝したみたい。
どこまでもスパダリなのである。

遠距離恋愛の彼に会いに行くことで、かえって距離を感じるのは お約束の展開。
そして浮気疑惑があって、それが誤解だと分かるのまでも一連の流れ。

この話で主役を掻っ攫うのは、初登場となる一堂の父親だろう。
昔の少女漫画って、どうして両親が驚くほど若いのだろうか。
19歳前後の一堂の父親は38歳。

親の職業も変わってることが多い。
それが少女たちを異世界への誘う扉なのだろうか。

ラストは、少女漫画的には「永遠」を意味するであろう結婚が ほのめかされる。

意地悪なことを言えば、一堂が、美雪の父親のように怪我をしてしまった場合、
美雪は一堂に惚れ続けることが出来るのか、と心配になる。
何だかかんだでプライドの高い一堂だから、他の道を模索するのに時間がかかりそう。

それにしても東京でも一堂は日常的に無免許運転をしていて引く。
時代的なものとはいえ、ヤンキー思考で嫌だなぁ。
一流選手を目指すなら、こういうことがチームの足を引っ張る自覚が欲しい。


「MVP最終巻 読者様御礼サービス企画」…
本編終了から約4年後、一堂たちが大学4年生になった頃の未来を描く。

読者サービスというよりも作者の妄想爆発、といった感じですね。
登場人物たち全員ハッピーでエリート街道まっしぐら。

こういう内容を照れなく描けるのは作者が若いからに違いない。