那波マオ(ななみ まお)
3D彼女 リアルガール(スリーディーかのじょ)
第02巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
つっつんこと筒井光に色葉というメチャ美少女の彼女ができてからというもの、オタクな生活は一変。愛されてる実感アリの、人間関係の広がりアリの、なんすかこれ、ほとんどリア充!? いや待て…!絶対落とし穴があるんだ。俺がこんなに幸せになっていいはずがねーって!!少女漫画界最弱男子とリア充女子のありえない純愛、新装版で登場です!
簡潔完結感想文
尽きることのない悩みが世界を広げていく 2巻。
あっという間に交際したこともあり、
日を重ねるごとに本書の主人公・つっつん の色葉(いろは)への想いは募る。
同性、それも同じ種類の人間としか関わってこなかった彼にとって、
交際における悩みの種は尽きない。
その悩みを自分の中に押しとどめられなくなった時、人は他人を頼る。
自助努力を重ねてきた つっつん にとって、初めて他者が必要になった瞬間だろう。
だから つっつん の異様さにツッコんだクラスメイトの女子生徒・石野(いしの)に対して体験談を求める。
こんなこと、交際前の つっつん なら絶対にしなかったこと。
だけど今は目の前の3Dの女性を参考にしなければ自分では解決できない問題を抱えている。
こうして つっつん は、友人・伊東(いとう)や色葉以外の人間にも興味を持ち出す。
高校3年生にして人間社会を学ぼうと、人間に関わることを始めた。
また、交際における膨らむ妄想には小麦粉を膨らますことでエネルギー変換を始める。
クッキーを焼き、ケーキを焼き、ドーナツを膨らませることが彼の世界をまた広げる。
恋1つで 世界はこんなにも広がっていくのか、ということを見せる前半、
そして熱を浴びて広がったと思っていた世界が、一気に冷えて しぼんでいく後半の対比が面白い『2巻』である。
つっつん は突然 到来した自分の幸せを疑っている。
そして自分が色欲に溺れそうになるのを危うんでいる。
まるで修行僧のような煩悩との戦いだ。
そのエネルギーがお菓子作りに向けられる。
これ、主人公が勉強苦手なヒロインだったら、絶対 その道に進むパターンですね。
だけど つっつんは何事も優秀なので、これは趣味に留めておくんだろう。
どうやら つっつん は器用な設定のようだ。
つっつんが『1巻』で色葉モデルのフィギュアを作れたのも信じられないぐらい器用だかららしい。
だが自分の内面と向き合い、趣味にエネルギーを向けるばかりで、
肝心の3Dの色葉と距離が出来始めていることに つっつん は気がつかない。
これまでも決して器用ではなかったコミュニケーションは更に不足し、2人の間に微妙な空気が流れる。
この話では、色葉がしっかりとヤキモチを焼いてくれてるのが良いですね。
彼女はちゃんとつっつんの強さを見ている、見抜いている。
それはいつか誰かに発見されてしまうかもしれない彼の美点だと色葉は思っている。
自分以外に触られたくない感情を好きと言うのだろう。
仲直りのシーンは、つっつん の台詞は印象的。
「俺はおまえのもんだ わがままだって嘘つきだっていい おまえの好きにされていいんだ」
って、中世の騎士が女主君にいうような台詞だ。
こういうことを照れもなく本心から言えちゃうのは女性にとって嬉しい。
続いては つっつん に遠慮なく話しかけてくるようになった石野さんの話。
彼女も色葉と同じでオタクに偏見がないタイプと言える。
裏表もないから時には辛辣な言葉を投げつけてくるんだけど。
初登場時に つっつんに手を握られ、気持ち悪いといったのは、
彼がずっと手を握り続ける行為に言っているだけで、つっつん自身に拒否反応を見せている訳ではない。
そんな石野さんは、「ダメンズ」を好きになってしまうタイプ。
彼女が恋人から軽く扱われていることに つっつん と色葉がそれぞれに石野さんの事情に足を突っ込む場面が良い。
色葉は友情ではないにしても、本能的に動いて石野さんには出来ない制裁を男に加えている。
つっつん も彼なりのオタク知識で、石野の幸せを願っていることを伝える。
これみよがしな熱いシーンにしないで、ヌルっとした友情が良い。
これからどうするかは石野さんに決定権があるのは当然だから説教などしないのも良い。
色葉の、石野さんへの感情に対する戸惑いは、つっつん の色葉への戸惑いと似ているだろう。
これまで、同性と友情を育んだ体験がないから この感情が何なのか、
どうしていいのかわからないから身動きが取れなくなる。
それでも心と身体が動いたのだから、それはもう友情でいいんじゃないだろうか。
つっつん もだが、2人とも生き方が不器用なのだ。
続いては勉強回が いつの間にか、この世の地獄へと続く お話。
補習を受けるほど勉強が出来ないらしい色葉は、つっつん に勉強を教えてもらう。
だが、自宅で勉強しても教えるどころじゃない つっつん。
頼られて嬉しかったのか、恋人らしいムードを自分から醸し出す。
母が抑止力にならなかったら一体どうなっていたことやら。
そんな恋人として良いムードを味わった つっつん は地獄に落とされる。
それを行うのは色葉のことを好きだという高梨(たかなし)ミツヤ(2巻の時点では漢字表記はなし)。
色葉と釣り合いそうなビジュアルの男子だが性格は尊大で最悪。
この男、偽ラブレターで つっつんを呼び出して、自分と彼の人間的価値の違いを示し、
色葉とおまえでは似合わないから譲れと、人の交際を自由に出来ると思いあがっている。
それに少しでも反論したら暴力で屈服させる最低の人間である。
大体、色葉に直接言えない時点で この男は卑怯者である。
つっつん に身を引かせたからいって、自分が後釜に座る確証も無いだろうに。
今回の暴力は一方的で本書の中でも一番 理不尽なものである。
少女漫画最弱という つっつん の代名詞のためだけに振るわれた暴力にも見える。
『1巻』の感想でも書いたが、少女漫画の序盤って学校が荒れてる設定が多い。
主役に悲劇性をもたらすためなんだろうけど、いつの間にか校風が落ち着くことが腹立たしい。
つっつんは、殴られたことで早退をする。
以前は授業に出ることを至上命題にしていたのに、割と抵抗なく早退している。
これは人間の器が大きくなったのか、ただ堕落しているのか。
つっつんは殴られたことよりも、その男が色葉に近づくことを危惧している。
これは色葉における、石野さんの つっつん接近疑惑と相似形をなすことだろう。
つっつんがネガティブに悩みを爆発させていた公園で、
兄と はぐれて迷子になっている小学生の女児を発見する。
親切にしようと声を掛けた つっつん だったが、その兄というのが高梨だった。
殴っても まだ つっつん への恨みや妬みが消えないのか、
巡回中の警察官を見つけた高梨は、妹を叫ばせて、つっつんを警察官に連行させる。
そして証拠写真を撮り、自分たちは逃走してしまう。
これによって つっつん には疑惑だけが残り、
警察で口頭注意を受け、母親に迎えに来てもらったらしい。
こうして つっつん は社会的に抹殺されていく…。
学校では、高梨撮影の写真が貼り出され、周囲にロリコン確定とみなされてしまう。
「もっともらしすぎて弁解できねぇ」と、ただ嵐が過ぎ去るのを待つ つっつん。
1話が最悪の状況かと思ったら、もっと最悪の事態が起こるという展開が面白いですね。
今回ばかりは証拠写真があるので、身の潔白を訴えるのも難儀だろう。
石野さんもさすがにキモいと白い目で見る。
裏表のない彼女の反応が、そのまま世間の反応なのだろう。
更にはクラスメイトの直接的な威嚇もあって、つっつん の学校の平和は崩された。
そして家庭も崩壊する。
つっつん の母親もまた絶望していた。
息子のアニメ好きと行動が一致してしまったことで彼女は息子を信じられない。
これもまたオタクに対する世間一般の反応だろう。
これまで そこそこ平和だった家庭すらも一瞬で壊された。
その頃、つっつん以上に落ち込んでいたのは、彼の小学生の弟・薫(かおる)。
勉強も学級委員もがんばって、みんなの人望をあつめてきた彼の人生は兄によって壊された。
この努力は兄みたいになりたくないという反面教師の お陰だろう。
それを当の兄によって踏みつぶされたとなったら恨みも絶望も深くなるというものだ。
弱った つっつん の心はらしくない行動を取る。
それが滅多にしないどころか、初めてかもしれない色葉への電話。
そこで つっつん は彼女へ距離を置こうとする。
他の男と幸せになることを願うが、そんな つっつん に色葉は怒る。
2人は交際したばかりだけど、もう長年連れ添ってきた夫婦のような心境に達している。
色葉の言葉は、つっつん を唯一 肯定してくれた。
彼女だけを味方にするために、石野さんも態度を変えるし、母親も悲嘆にくれなければならなかったのだろう。
それは世界で唯一の、そして最強の味方。
つっつん史上最大のピンチを2人で乗り越えようとしている。
高梨の妹・あんずが兄の高校を訪れたところに出くわした色葉は、事の真相を知り…。