那波マオ(ななみ まお)
3D彼女 リアルガール(スリーディーかのじょ)
第03巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
色葉を狙うミツヤの策略で、幼女誘拐疑惑をかけられクラスでも孤立してしまった、つっつん…!やっぱり支えてくれるのは伊東と色葉だった。そんな中、つっつんを慕うオタク女子の後輩も現れて…ほとんどないコミュ力全開…だけど!? 少女漫画界最弱男子とリア充女子のありえない純愛、新装版で登場!伊東との友情が始まった瞬間を描いた番外編「spring fever」も収録。
簡潔完結感想文
- 謝罪もできないプライド高き器の小さい男にも俺の狭小な世界だけは守ってもらう。
- 女性版伊東氏の出現は、誰よりも分かり合える関係の構築の前触れ? 最大の危機。
- 中学時代 伊東氏との話。守るために一方的に離れようとするのは つっつんの悪い癖。
誤解されたくない人=自分が大事に思っている人、の 3巻。
『2巻』から続く新キャラ・高梨(たかなし)による つっつんを社会的に抹殺する濡れ衣。
今回、つっつん の恋人・色葉(いろは)が事の真相を知り、
高梨は一気に窮地に立ち、形勢逆転が始まりそうな展開だった。
しかし結局 つっつん は高梨に公の謝罪を要求しなかった。
つっつん が望んだのは、自分の世界の平穏だけ。
疾風に勁草を知る、ではないが、この事件の顛末によって つっつん の本質がより理解できたような気がした。
高梨の行動は とても腹立たしく、事件の終結も決してカタルシスを覚えるようなものではないが、
広い意味で賢く優しい つっつん の良さだけは存分に出ている話となっている。
例えば本書が より低年齢向けの媒体で発表されていたのであれば、
勧善懲悪に重きを置いて、高梨が罰せられて、つっつん が汚名返上することを主題にするだろう。
だが、本書の解決策は違う。
つっつん は自分が抱えきれる/抱えたい世界の平和だけを守った。
彼は学校という社会の評価は放棄する。
そして それは つっつんが高梨という人間の高すぎるプライドや人間関係を守っているからでもある。
これによって高梨には試合に勝って勝負に負けたという忸怩たる気持ちが残される。
物語にカタルシスは無くても高梨は人間的に つっつん に負け、
その場の公開謝罪よりも効果的な一生続く思いを抱えて生きることを課せられた。
ロリコン疑惑や冤罪など実に つっつん らしい騒動で、本書の中でも特に好きなエピソードかもしれない。
この事件を通して、つっつん の世界の広さが分かる。
伊東(いとう)や色葉に危害を加えられない限り、自分への嫌がらせは甘受するつもりらしい。
自分の これまでの生き方や人との関わり方では信用される担保がないことを つっつんは理解している。
今更、自己弁護を声高に叫ぶことは似合わないし、割に合わないことを知っている。
だから高梨からの冤罪を晴らす機会を得た つっつん は、
クラスメイトたちに事の真相を明らかにしようとはしなかった。
これによって この後 しばらくは学校内で肩身の狭い生き方を強いられるが、
高梨の友人関係=彼の世界を壊してまで自分の汚名を返上したいという強い気持ちが つっつん には湧かないらしい。
人の噂も七十五日なので、学校での嫌がらせも自然と鎮静化されていくのだろう。
ただ この漫画は半年(180日余り)限定なので、75日って随分 長いのだけど…。
つっつんが高梨と内密に処理するのは、家族関係と友だちへの説明だけ。
この範囲が つっつん の大事な世界ということが明確になった。
クラスメイトの直接的な嫌がらせよりも、
家庭内の不和の方が つっつん には応えるのだろう。
最後までプライドの高さを覗かせる高梨だが、彼がダメダメなのは、最後のオチのためかもしれない。
前髪に隠れた つっつんの良さを色葉が見つけたように、
巧妙に隠された男のダメダメな部分に石野(いしの)さんは しっかりと惹きつけられるらしい…(苦笑)
事件が一段落し、カップル2人の絆はより強固になったかと思いきや、
色葉を大切に想う つっつん は言葉の選択を誤り、彼女との距離が出来てしまう。
そんな時に登場するのが1年生の後輩・綾戸(あやど)。
少し裂け目が出来たカップルの仲を、無意識的に引き裂くのが彼女の役目。
綾戸は こういうオタクが主人公の漫画において、恋人よりも分かち合える同趣味の人の立ち位置。
格差カップルの前に立ちはだかる、同族の絆を持つ者、という感じです。
2人は共通の趣味であるアニメについて何でも語り合える仲となる。
これは つっつん唯一の親友・伊東が女性だった場合に起こり得る事態であった。
この綾戸さんも人間関係不得意で、その自己に蓄積されたのエネルギー植物に愛情を注ぐ人。
これは つっつんが色葉への想いや空回りをお菓子作りに注ぐのと似ているだろう。
しかも つっつん は綾戸の育てた植物(ジャガイモなど)で、お菓子を作るというサイクルまで完成させてしまう。
この綾戸さんもスタイルだけは良いと評判。
色葉が完璧な造形として登場しているから、
ライバルも それなりの人を、ということなのだろうか。
ここまで同じスタイルだと、ただ単に作者が こういう体型の人しか描けないのではないかと疑ってしまうが。
つっつん は いつまで経っても自分に自信がないため、
色葉に釣り合う男であると胸を張っていられない。
そのネガティブな自信の無さが原因で つっつんは色葉を悲しませているのだが それに無自覚。
彼女は何かに気分を害したが、それに思い当たれないため謝ることも出来ない。
が、誠意を見せることは出来るから、色葉の家に向かう。
つっつん は色葉の家に初めて入り、誰も言えない家の中で2人だけで会話を交わす。
そこで色葉は自分が本当に つっつんを好きかを いつまでも信用されていないことを怒っていたことを告白する。
ただ、つっつん の過保護な態度に そんな気持ちは水に流されていったらしい。
つっつんが他の男を色葉に あてがおうとすることは言語道断だが、
どうも色葉は自分のビッチ設定を完全に無視した言い分なのが気になる。
他生徒に興味のないつっつんにするすら、最初からビッチと認定されていたような人なのに、
この交際だけは信じて、といっても説得力はないだろう。
作中で完全に色葉を善人化していているが、最初は割れ鍋に綴じ蓋カップルであったはず。
作中で色葉の背景を語らない(語れない)まま話が進むのは構成上 仕方のないことなのだが、
いつの間にか色葉には何の欠点もないような描写になっているのが気になる。
色葉にもある悪いところを無視して話を進めるのはズルい気がする。
仲直りしても、理性が飛ぶ恐ろしさを知った つっつんは色葉を隔離する。
今回も、守るために離れるという つっつん のいつものパターン。
つっつん の恋愛(性欲)パワーはお菓子作りに変換される。
それを野菜提供者の綾戸に渡す姿を色葉が見てしまい…。
自分へ謝罪に来た気持ちが籠った団子なのに、それを別の女性に渡すのはショックが大きいだろう。
ついてでに謝りに来たのか、それとも その女性にも好意があるのかと疑ってしまう。
この辺が、つっつんが他人との交流をしないできた弊害である。
デリカシーがない。
「spring fever」…
恋人が出来て、友人・伊東との関係も変容しつつある つっつん。
彼と どう向き合えばよいか悩んだ つっつんは伊東との出会いを回想する…。
中学時代は、今より酷いかもしれない扱いを受けていたつっつん。
音楽プレーヤーを捨てられたりするのは完全にイジメだろう。
一方で伊東は、八方美人でやり過ごし平和だった。
つっつんは この頃は今よりも尖っている。
伊東の正義感を無下にする暴言とも言える言葉を吐く。
そこに2人での共同作業が舞い込む。
これは『1巻』1話のつっつんと色葉の出会いに似てますね。
この類似性は意図的かな。
色葉の時のプール掃除と同じく、つっつん はこの時も遅れて登場する。
ただ来ないと思っていたのは伊東の方。
こちらは偏見で色葉がいないと思っていたつっつんの役割だ。
作業後の突然の降雨で、一緒の傘に入って帰る2人。
この時の、傘が完全におかしい。
傘の柄の長さと半径が合っていないのだ。
このツッコミ、渡辺あゆ さん『L♥DK』でもしたなぁ…。
こういうのを見ると作家として観察力がないなぁ、と思う。
例えば手塚治虫さん や浦沢直樹さんなら絶対に こんな風に傘を描かないもの。
進級で知り合った2人は互いの性格の難を、互いに修正する仲となる。
それは小さな社会だが、他者の価値観で自分の行動を確認するという2人にとって大切な一歩ではないだろうか。
ここでは友情における世界の広がりが描かれている。
この広さの世界が長らく続いた後、
つっつんが思いがけず女性と交際するから世界の均衡が崩れた。
それを修復するには自分の素直な気持ちを、相手を認めなければならない。
友情も復縁できるのだから、本編での恋愛のすれ違いも直せる、はず。