《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

作者と読者と出版社が じっくり育てた三角関係。結末ではなく、その過程を楽しむべし。

パフェちっく! 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
ななじ 眺(ななじ ながむ)
パフェちっく!
第01巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

風呼は明るく元気な女の子。ある日、アパートの上の部屋に引越してきたクールな壱と、悪ガキ大也。第一印象サイアク! しかも同じ学校だなんて風呼の高校生活どうなっちゃうの!?

簡潔完結感想文

  • 高校入学の前日に2人の王子がアパートの上の階に降臨。ご近所物語 開幕。
  • 壱。人の心を持たない優等生ロボット。ヒロインとの出会いが彼を変える⁉
  • 大也。優しいが愛を知らない女たらし。ヒロインとの出会いが彼を変える⁉

なら1つの人格に統一されそうな2人の王子、の 1巻。

2000年連載開始なので、現在2021年からすると20年以上の前の作品となる。
確かに主人公は最後まで携帯電話を持たないなど時代を感じる(多分)。

同時に、少女漫画を取り囲む のんびりとした雰囲気を感じた。
本書は最終的に発行部数が500万部を超えたらしいが、
最初から売れていた訳ではなさそうで、徐々に知名度と人気を獲得していったと思われる。
ここに雑誌や読者が作品を育てているような印象を受けた。

そこから20年以上経過した21世紀の世の中は面白いメディアが溢れ過ぎていて
少女漫画も「1話切り」されない努力ばかりに注力しているような気がする。
だから強烈なキャラ(特にヒーロー)ばかりが生み出されるのだろう。

今の時代だったらインパクトを重視するために本書のヒーロー、
いとこ同士の新保 壱(しんぽ いち)と新保 大也(だいや)の2人は、
ドSクールと女たらし と極端に性格は誇張され、更に1人の人間に統合されていたかもしれない。

ヒロインにしても、こんなに元気キャラの主人公は21世紀では珍しいかもしれない。
21世紀になると女性側も性格がねじ曲がっていたり、
恋を簡単に始められないキャラ付けがされることが多い気がする。

本書では、それぞれのキャラクタを主人公の風呼(ふうこ)目線で
少しずつ理解していく時間が与えられており、
彼女が2人の男性に少しずつ好意を積み重ねていく様子が しっかりと味わえる。

特に『1巻』は文字通り、日一日と変化していく3人の心境が楽しめる。
人物像だったり好きという気持ちの土台が強固であれば長編化にも耐えられるのです。
本書は古い、と思う部分もあるが、古き良きという部分も それ以上にある。

彼らとの三角関係以外に派手な展開はないが、ここまで支持されたのは、
どちらのヒーローも魅力的に映って、読者が風呼の気持ちに共感できるからだろう。

500万部売れた漫画だが、幸運にも どちらの男性とのエンディングか知らないままだったので、
全22巻の長編作品だが、最後まで楽しく読むことが出来た。
ただ20巻以内でまとめても良かったのかな、とは思う。
三角関係継続のために、登場人物の気持ちを不明確にし過ぎで、
結果的に作品も登場人物も得をしない展開になってしまったように思う。

一番 時代を感じるのは本の そで の作者コメントの後の「…と語ってくれた ななじ眺先生」という定型句。
これは文字数を確保するためなのだろうか。
以前 読んだ「りぼん」作家さんが、これを書かれるのが嫌で、
文字数の上限ギリギリまでコメントを考えるって書いてましたね。

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イトコ同士だが似ていない壱(右)と大也(左)。彼らの対比で物語が味わい深くなる。

校入学を翌日に控えた日、亀山(かめやま)風呼が住むアパートの上の階に
新たな住居者が引っ越してきたところから物語は始まる。

それが同じ年、同じ高校に通うことになる、
父親同士が兄弟だという イトコの壱と大也であった(名前の順・登場順)。
両親が中国で事業を始めたため、イトコ同士でアパートで2人暮らしとなったようだ。
風呼の一家が4人で住んでいる場所に男子高校生が2人だけ。
この悲しい経済格差は実は2人が良いとこの坊っちゃんであるからである。
表立って語られはしないが、どちらを選んでも玉の輿コースなのだ。


彼らの性格は二者二様で、壱は近所の子供の質問を平然と無視し、
風呼が それを咎(とが)める際に、彼の持っていたマグカップを割ってしまい激昂されてしまう。
後に壱には年の離れた妹がいることが判明するが、その事実と、子供が好きかどうかは別問題らしい。

一方で大也は子供とも遊んでくれて、早くも人気者になるが、
彼の顔や身体には、引っ越す大也との別れを惜しむ女性からのキスマークが複数 残っていた。

そんな2人との初対面に印象を悪くした風呼は、彼らと一緒に登校することを拒否。
風呼らしくないし、何もそこまでという拒否の仕方だが(特に大也は風呼に害はない)、
これは この後の大也の大らかさと、風呼が反省するために必要だったのだろう。


日、入学した高校では より苦手な壱と同じクラスの隣同士。

ここで風呼は自分が原因で割れた壱のマグカップの謝罪をする。
この時に風呼が引っ越し業者の段ボールに入れてない そのマグカップが、
壱にとってどれだけ大切かを類推できているところが風呼の長所となる。
成績は悪いらしいが、風呼は こうやって人の心を思い遣れることが早くも判明する。
こういうエピソードの積み重ねかたが人物に立体感を与えるのだ。

だが下校時の大雨で壱に助けを求めても彼は知らぬ存ぜぬ。
自分は自分の制服で雨を除け、走って帰宅してしまう。

冷たいように思えるが、全巻読了しても、これが壱らしいと思ってしまう。
風呼が勝手に夢想していた、自己犠牲で風呼を守る壱なんて壱ではない。
自分で自分を強く律している彼だから、自己責任の意味をしっているのだろう。

一方で大也は入学早々、放課後に女子生徒と学校内でキスをしていた。
それを目撃した風呼と目が合った大也は、彼女を犬のように手で追い払う。
それぞれに一長一短のイトコたちであった。

しかし大也は誰とキスをしていたのだろうか。
大也は転校生みたいなもんだから誰も知り合いがいないのに、
出会ったその日にキスを我慢できない男女が2人いる学校って…。

ちなみに入学初日から風呼の友達となる小森(こもり)と大林(おおばやし)が登場している。
彼女たちは風呼の良き相談役である。
この2人が本格的に自我を持ち動き出すのは、物語が少し停滞してから。
脇役たちが動き出すことが、行き詰まりの証明みたいで少し悲しいものがある。


学初日に雨に打たれたため、高校生活2日目で学校を欠席する風呼。
早くも風邪回である。
もしかして2話目にして全22巻の中で唯一の風邪回かな?(違ったら訂正します)

風邪を引いたのは風呼だけじゃなく、大也も同じ。
意外にも壱だけが身体が丈夫らしい。
精神力や知力で己を律しているのだろうか。

同居する姉がいる自分とは違い、家で一人ぼっちの大也は風呼より軟弱なのか風呼に助けを求める。
そこで大也に薬とお粥を持っていくことで、風呼が新保家に初めて足を踏み入れることになる。

きっと同じ間取りだろうが、他人の家に入ることは距離が近づくということでもある。
まだ引っ越し作業中で荷物の片付かない部屋で、彼らのことを少しずつ知っていく風呼。

大也は女性とつきあったことがない。
それを風呼は「きっと 本気でヒトを好きになったことがない」と推察する。

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女遊びの激しさ と その後の更生はヒロインに本気になったことが分かりやすくて便利である。

そして壱の部屋には風呼が割ったマグカップが接着剤で修復されていた。
「すてるつもりだった」という壱の言葉は嘘で、風呼のための気遣いの言葉であったことが分かる。
このマグカップの来歴が分かるのは随分と先のことである。
そして読者にとって見たくもない代物だと思われる(苦笑)

第2話でもイトコたちの魅力が満載。
大也は にくめない人柄で、風呼も言うことを聞いてしまう。
壱は、帰宅した際に玄関に女物の靴を発見し(風呼の物なのだが)、
大也に気を遣って、女性が出て来るまで玄関で待機していた。

これは同居にあたっての2人で取り決めたルールなんだろうか。
その前は それぞれの家族と一緒で、2人は別の家庭にいたんですよね?
壱が、大也が女性を連れ込むことに反対しないのは意外ですね。
自分の部屋に入られなければ、我 関せずなのかな(風呼は勝手に部屋入ってたが…)。

そして壱は風邪を引いた大也のリクエストの品をちゃんと買って帰ってくれていた。
大也看病の礼として風呼に渡したのが、大也の物なのか、
それとも風呼用に別で購入したのかは不明だが、意外と人に気を遣って生きていることが分かる。


校生活3日目は風呼は無事に登校し、席替えが行われ、
壱がクラス委員の級長になっていたことを知る。

どうやら1年の1学期はクラスの成績トップの人がなるらしく、壱の賢さの証明でもあった。
ちなみに風呼は合格ライン ギリギリ。

壱が級長として遠足の説明中、クラス内が少し荒れる。
それに助け舟を出したのは風呼。
ここは彼女の優しさと、そしてそれに気づく壱の場面である。

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風呼が壱の良さに気づくように、壱も風呼の良さを知っていく。北風と太陽のような笑顔である。

壱の風呼に対する態度は少し柔らかくなり、
そして逆に下校時に会った大也は女性問題を巡り真剣な顔をする。
いつもと違う2人の顔が風呼の印象に強く残る。
対比が上手いですね。

一瞬、大也は訳アリっぽい雰囲気を出しましたが 結果的には特に何もなかったような。
女性を深く愛せないのは家庭環境(特に母親の愛の不足)に問題がある、というのが私の持論だが、
大也は特に過程に問題がある訳でもなく、天然のたらしである。
だから後半の彼は、特に劇的な問題が起きないまま、性格が真面目になっていく。
トラウマ設定も面倒臭いが、なし崩しに性格が変わるのも分かりにくさが あるんですよねぇ…。

ここは多くの女性から風呼を見つける大也と、
たった一人の女性だけを見つめる壱、という対比だけの設定だったのかな。


足でも事件は起きる。
壱と大也の分も合わせて3人分のお弁当を持ったせいで、ドブに足を突っ込む風呼。
(何とも20世紀展開だが、将棋の藤井さんだってドブに落ちたっていうし…)

それを素通りするのが自己責任型の壱、
看過できなくて一緒に家まで戻ってくれるのが大也である。
ここもまた上手い対比となっている。
1話の雨もそうだったが、壱の読者人気などお構いなしに、彼らしい行動を取らせる作者の勇気が凄い。

だが家に戻ったために クラスメイトを乗せたバスは出発してしまい、彼らは電車で追いかけることになった。
この時、壱はギリギリまでバスの出発を遅らせてくれたらしい。
大也は直接的な胸キュン、壱は間接的と、ドキドキさせてくれるポイントも違う。

この遠足に合流するまでの一連の流れで、風呼は大也のことが気になり始める…。


足後に回覧板を渡すついでに新保家にお邪魔する風呼。

部屋が片付いていることで、彼らとの初対面からの時間の経過と
男所帯の内情を垣間見ることになる。

料理など家事は ほとんど大也の担当。
壱はふんぞり返ってるだけ。
これは得意不得意の問題であって、彼らは納得している。
そして壱も 大也の家事の間は、自分のことを何もせずに ふんぞり返るのが決まり事らしい。

風呼は芽生えつつある恋心を壱に見透かされ、
そして「あいつは お前には無理だ」と嫌味まで言われてしまう。

やな奴 やな奴 やな奴!
冷たさの中に温かさがある壱、温かさの中に冷たさを潜ます大也。
風呼が恋に落ちるのは、果たして…。


者は本書の連載時には既に1児の母だが、
風呼の髪型を毎回凝ったものにしたりと、作品に対する力の入れようは若手作家である。

夫が妻の仕事のために専業主夫になったりと、
一家を支えるという責任感が、作品の隅々まで神経を行き渡らせたのだろうか。
そして その努力によって人気作家になったのだから感心するばかり。
これからも作品を追い続けたいと思います。

「フリル」…
男嫌いを演じてガサツに振舞う新名(にいな)ゆう。
親友との関係を第一にしている彼女に、かまってくる男子・瀧(たき)がいて…。

登場人物たちが皆 繊細かつ粋な心を持っている点が素晴らしい。
ゆう は同じ孤独を味わう恐怖に打ち勝つほど親友の桂(かつら)ちゃんを大切に思っている。
瀧は、ゆうが自分の魅力を下げていても その魅力に気づいた。
(さっぱりした女性が好きという疑惑もなくはないが…)
桂ちゃんも ゆう のために道化になる優しさを持っている。

そういえば咲坂伊緒さん『アオハライド』の主人公も 同じような過去を持ってましたね。
同性から やっかまれるのは容姿が優れている証拠でもある。