幸田 もも子(こうだ ももこ)
ヒロイン失格(ひろいんしっかく)
第09巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★☆(7点)
るなと弘光がキスしたことを知り、はとりは大激怒! はとりと弘光が険悪な関係になり利太にチャンス到来…と思ったら、利太の元カノ・安達が再登場! しかもマジメっ子だったはずが大幅なキャラチェンジを遂げ!? はとりの恋路に平穏な日々は、いつになったら訪れるのか…。
簡潔完結感想文
- 負けたくないし負けてない、その思いが強すぎて言葉遣いも荒くなったら怒られた。
- 邪道ヒロインよりも堕ちたビッチが発見される。一種の元カノ問題がここで勃発。
- はとり の断捨離。どちらにも見放された失格ヒロインは何を大事にするのか?
主人公のヒロイン失格の度合いも最高潮に達する クライマックスの 9巻。
結局、はとり は王道ヒロインなのだと思う。
ただし 男の子に縋ってしか生きられない旧時代的なヒロイン。
自分が一番可愛いから、自分を好いてくれる男の子に簡単に なびいてしまう。
そこに真実の愛なんて ありません。
一時的な精神的な安らぎが得られれば それでいいのだ。
はとり は肉体関係こそ結ばないが、やっていることや、
根本的に欠乏している感情は、ビッチと変わりがありません。
今回、恋愛が行き詰まったら自分を好きだという男を渡り歩こうとする はとり。
これをビッチと言わずして何と言うのか。
はとり はヒロインに「なりたい」のではない、男にヒロインに「してほしい」のだ。
彼女は そもそも恋愛というものをはき違えている気がする。
自己愛を満たす道具としてしか考えていない幼い人間が恋愛をする資格はない。
今回、本物のビッチが登場しますが、彼女の心の動きは何となく分かる。
真面目な人ほど一度道を踏み外すと極端になってしまうのだろう。
その人の名は安達(あだち)さん。
今回、表紙にもなっているが最初は ここにきて新キャラの投入かと思ったぐらい誰だか分からない。
安達さんは将来の目標もあり堅実に生きてきた。
思いがけず利太(りた)と交際が始まり、充実した日々を過ごしていた。
利太が心変わりし、別れ話を告げられるまでは…。
と、ビッチには理由があるものだと私は思う。
だが、はとりの場合、「好きに生きたもん勝ち(安達さん談)」で伸び伸び過ごしてきた人が、
なぜ人のことを自分の装飾品のようにしか思えないのかが疑問だ。
はとり の家庭は穏やかに見え、登場するのは母親だけだが母との仲も良好。
自分の恋愛模様も逐一伝え、的確なアドバイスも もらっている。
(おそらく)一人っ子のため 愛情を一身に受けて育っただろう。
友人関係にも恵まれていて、中島(なかじま)は
かつて 好きに生きるはとりに救われたこともあり、 はとりを見捨てない。
考えられる理由は2つ。
蝶よ花よと育てられ過ぎて好きに生きすぎた。
もしくは、底なしのバカか。
『1巻』時点における はとり のヒロイン願望も、
自分が無条件に愛される世界でしか生きてこなかったと思えば納得が出来る。
この世界が自分のためにあると思っているから、
他者のことなんて考えたことがないんだろう。
「あんたさー 自分の気持ち わかってほしいってだけだよね
なんで弘光(ひろみつ)くんの気持ちも ちょっとは わかろーとしないの?」
愚かではない中島が今回もまた的確に助言をする。
弘光を「理解力の神様」と神格化し、彼に許される自分しか考えていない はとり。
でも生来、自分の非を認めることが出来ず、
人に対して逆恨みしか出来ない捻くれた根性を持っているので、相手のことが許せず…。
一度も起こられたことがないと、こんなモンスターが生まれてしまうのだろうか。
仏の心の弘光くんも堪忍袋の緒が切れて、初めての喧嘩らしい喧嘩をする2人。
そして、感情的になり過ぎて上手に乗り越えられない2人になってしまい…。
私は弘光くんの言い分、考え方に賛成である。
最終盤で もっともらしい理論を持ち出して、弘光に再挑戦を促しているが、
彼氏の前で 他者に対し こんなにも不寛容で攻撃的な言葉を吐く人間はナシだと思う。
肯定的で盲目的な弘光の100年の恋も覚めるのも当然だろう。
内省的な弘光は自分を反省してしまったけど、
弘光こそ怒りを保持し続けていいと思う。
今度こそ はとりを「べっこべこに ヘコませて 二度と 俺の顔 みれないくらいに」してほしかった。
弘光の はとりへの愛すらも真実に思えなくなり、
いよいよ本書から本当の恋というものが消失しまいたね。
ビッチが誰を選ぼうが、誰に選ばれようが私は興味はありません。
そんな2人の喧嘩の原因となったのが、弘光のバイト先の先輩・るな。
るな もまた王道内気ヒロインですね。
感受性が豊かというか、邪気や計算がないタイプ。
そんな王道ヒロイン・るな が相手だと、はとり は再び悪役令嬢役を担う。
しかし飽くまでも はとりに綺麗事を言う安達さんと違って、
るな は面と向かって会話をしたことのない相手。
その人に一方的に暴言を吐くことは、安達さんの場合と状況が違う。
弘光のためというよりも、ヒロインの立場を守りたい自分のために威嚇する はとりは確かに醜い。
喧嘩を経て気まずくなった2人だが、弘光の るなへの感情は皆無。
それが分かるのが るなに告白された弘光の対応。
以前、告白された『5巻』の番外編では、相手のことを気遣って自分を悪者に仕立てて断っていましたが、
今回の弘光には そんな余裕がない。
「るなちゃん に関心がない」と酷薄な言葉を連ねて、「二度と 俺の顔 みれないくらいに」している。
はとり は、るな が告白するために弘光を呼び出した場面を見て引き返してしまったけど、
彼女がこの場面を見るべきでしたね。
るな に対して全く優しくない弘光を見れば不安も不信も吹き飛んだのに。
(どうせまた同じことを繰り返すだろうが)
弘光との恋愛は とことんタイミングが合わない恋愛だ。
タイミングが合わないのは利太も同じ。
弘光との恋愛が終わりかけたので、次に支えてもらう男を探している はとり。
だが、『7巻』の旅行回と同じように、
男に寂しさを紛らわしてもらおうとした愚かなる はとりに利太は距離を置く。
というのも、彼の心をビッチとなった安達さんが占めていたから。
これは安達さんへの未練では全くないが、男の情の問題だろう。
恋愛の思い出を「男はフォルダ保存、女は上書き保存」するらしいが、
利太は彼女との思い出を嫌いなまま保持したいのだろう。
かりそめの恋を重ねてきた利太にとって本格的な恋愛は安達が初めて。
だから彼女を見捨てられない。
利太は弱っている女性を冷たく突き放せないぐらいには優しい(過去のはとりへの態度も)。
そして優柔不断で不器用。
自分の抱える問題は一つと決めてしまっているのだろう。
こういう男性ならではの一意専心の不器用さは、
『アオハライド』の中盤の展開を彷彿とさせますね(発表は本作品の方が先)。
人として助けたい人と、恋人として支えたい人、
そのどちらかしか選べないのが男性というものなんでしょうか。
分かるようで分からない、少女漫画の先延ばしの理論です。
- 作者:幸田 もも子
- 発売日: 2013/02/25
- メディア: コミック