《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

歩いても歩いてもイケメン男性と交流後に自分語りを始めるヒロインに読者はヘトヘトォ…

あるいとう 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
ななじ 眺(ななじ ながむ)
あるいとう
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

キツイ坂道も一気にびゅん! 「アニマル」な女の子・くこが主人公。海の見える坂の上の街・神戸市北野町を舞台に、くこと3人の男の子達の物語がはじまる。

簡潔完結感想文

  • 2作連続 恋を遠ざけようとするヒロイン。作者は少女漫画家から遠ざかりたいのか??
  • 自分語り50%、3人のイケメンとの交流が計50%。何が起こっても自分語りに戻る徒労。
  • 作者の功績と病歴が無ければ全5巻ぐらいで終わってた(終わらされていた)のでは…?

み返すとヒーローは あの人しかいない、の 1巻。

神戸の街で3人のイケメンから誰を選ぶ? というのが本書の少女漫画的な あらすじ。
2人の男性から どちらをヒロインが選択するのか結末が楽しみだった『パフェちっく!』と、恋愛から最も遠い場所にいるヒロインが恋を始める『コイバナ!』の要素を増強したかのような設定だと思われたが、そうはならなかった。なぜ3人のイケメンと話す度にヒロインは胸キュンするのではなく、胸がえぐられるような痛みを覚えるのか。そんな話、誰も読みたくない。

強く 朱るく たくましく。3人のプリンスに囲まれるヒロインの物語、じゃない??

本書は全11巻に亘るヒロインの自分語りをまとめた作品である。『コイバナ!』のヒロイン・花火(はなび)も そこまで好きじゃなかったけれど、本書のヒロイン・くこ は花火に輪をかけて自分の価値観を振り回して生きている。ここまで周囲の人を自分の心の安定を壊す人だと被害者意識を丸出しにしてくるのは、精神的に危ない人に見えてくる。傷つけたくないから/傷つきたくないから笑顔を処世術にしている くこ を健気と見るか、繊細過ぎて面倒くさいと見るかで本書の評価は変わるだろう。私には3人のイケメンとの交流の直後に くこがの反省会を始めるから、イケメンの登場で浮き立った心は帳消しになる。くこ は迷惑な人でしかない。
読み返してみると3人のイケメンから選ばれる人は納得できるのだけど。


書の何が問題かって、真面目につまらないところだと思う。これまで何作も「総合評価:4点」にした作品はあったけれど、流行に乗ってエロ漫画になってしまったとか、話が破綻してるとか言動がおかしいとか明確な理由があった。けれど本書は破綻もしていないし言動も普通。ただただ少女漫画として おもしろくないだけ。今回の作風でも少女漫画させることが作者の成功だったのではないか。

本書では作者は自分の描きたい作品を描く自由を与えられ、意図的に作風をシリアス・リアル寄りにした。けれど それと話に発展性が無いことは別問題だと思う。くこ の悩みを恋愛や恋愛対象となった相手が氷解・軽減してくれるのなら この出発点もありだけど、本書は そういう展開も用意してくれていない。出口の見えない堂々巡りをしているだけで、それをシリアスやリアルだと思っているのなら間違っている。本書で作者はフリーの作家となったが、編集者と二人三脚が終わると こうも迷走するのかと底の浅さが露呈したように思えた。本書の後にも ちゃんと長編を(多分)成功させているから実力がない訳ではないようだけれど、作者が考える作家性の高い作品への挑戦は難しいように思う。2026年時点で本書の次の次の作品の発表がないし、SNSの更新もなくて消息不明になっているのが気掛かりだ。


1/4スペースで描かれている通り、本書の2話目を執筆中に作者は脳梗塞を発症し、約11か月連載を中断している。大きな病気に襲われながら月2回の「マーガレット」に戻ってこれた作者の復帰への意思と努力は凄い。

いきなり根拠のない悪口になってしまうけれど、本書の内容の自由を作者が与えられたのも、決して大ヒットとはいえない本書が それでも全11巻まで続いたのは前2作の大々ヒットがあったからだろう。長編3作目となる新連載(本書)が どんな結果になっても編集者側は作品に口を出さない方針で、そこに作者が大病を患ったため、その方針が絶対になったのかもしれない。

月2回連載の「マーガレット」でも舞台となる神戸の街並みは綺麗に描かれており、全体的に絵が綺麗で驚かされる(大体 顔が溶けていく(偏見))。病気を経ても絵が少しも変わらないのは驚異的なことだろう。この精密な背景を作るために どれだけの人員と労力が割かれているのか。人件費を捻出できるところが売れっ子作家さんである。

けれど作中で全面的に使われる神戸の方言は作者には馴染みがあるかもしれないけれど、戸惑うことが多かった。文字にすると非ネイティブには読みにくいし、方言の台詞では作者の意図がストレートに伝わってこない。特に本書はヒロインの微妙な心情を読み解く物語だから、読者が それを的確に把握できないのは大きな支障になる。もう少し匙加減を調整し、標準語寄りの方言にならなかっただろうか。やっぱり客観的に作品を整えてくれる人は必要なのではないか。

勉強しかしてない真面目ヒロインのように、恋をしたら自分の信念を変えられるか

戸の街で「強く 朱(あか)るく たくましく」生きる玉田 くこ(たまだ くこ)。しかし実は くこ は髪を くくり上げることをスイッチにして自分のキャラを徹底させている。それは人に望まれる自分を演じることで周囲を心配させたくないという優しい心の持ち主なのだろう。

その根本は母がくれた彼女の名前にある。植物の くこの木は強くたくましく、食用にも薬用にもなる。それは みんなを笑顔にする。そして1995年生まれ年、95(くこ)もまた名前の由来になる。神戸における1995年の意味と出生が彼女を魂のレベルで縛っている。


こ は3人の男性と関わる。1人目が隣に住む外国の血が混じる幼なじみ・キヨ(平野 清盛・ひらの きよもり)。キヨが他の2人にないアドバンテージは幼なじみという歴史とルックス。そして くこ を確かに好きでいてくれる。でもキヨが幼なじみから異性に、恋の相手になることは日常の崩壊に繋がる。人生と深く関わっているからこそキヨとの変化を くこ は意識的に回避しようとする。一番 近くに住む、恋愛成就から一番 遠い人。

2人目は成宮 桜太(なりみや おうた)は美大生で この町のアトリエに通っている。無茶な行動ばかりして怪我を負った くこ を桜太が助けたことで彼はヒーローになる。怪我だけでなく くこ の無理を桜太は見抜くような発言をしたことで くこ は気付かない振りをしていた彼への想いに気づいてしまう。でもそれは日常が変わるという恐怖と表裏一体の感情だった。

そして3人目の男性が最近 神戸に引っ越してきた伊藤 授(いとう さずく)。彼は部外者で親の都合によって神戸にいる現状に不満を抱いている。それを隠そうとしない授は くこ が笑顔を作れない相手となる。それは授が自分に正直に生きていることへの憧憬や反発があるからだろう。授に向き合うには鎧を着こまないと自分の見たくない自分が見えてしまう恐れがある。

望む平穏な世界のために相手の気持ちをスルー。相手の悲しみなど考慮しない

なじみで何でも知っているキヨは くこ の抱える心情に気づかない。くこ の複雑さに気づくのは桜太だけ。ただ芸術家の一人である桜太の複雑な気持ちに くこ は気付けない。くこ は桜太の地雷を踏み、そして授は くこ に苦言を呈する。それは授が くこ を「強そー」だと判断しているから。それは くこ の ありたい姿のようで違う。またも言葉の選び方一つで人は傷つくことの証明になる。

地雷を踏まれた桜太は くこ によって至らない自分を見つめることになる。くこ にとって桜太はハリネズミのジレンマのように近づこうとすると自分も相手も傷ついてしまう運命にあるようだ。

自分のことばかりの くこ に恋愛脳を授けるのは少女漫画を愛読する衣舞(いぶ)。時にメタ的な発言をして くこ の現状を分析して、将来を予測する。授との交流は くこ が素直になっていると衣舞は分析する。ちなみに衣舞は高校に通わないことを選択した。だからと言って何をする訳でもなく少女漫画を読んでいる。衣舞の問題も いつかクローズアップされるのだろうか。