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少女漫画と小説の感想ブログです

津軽に外の世界への道を用意してもらった鈴が、成長して後進のための道を作る。

明治メランコリア(11) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治メランコリア(めいじメランコリア)
第11巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

想いを確かめ合い、再び両想いになった鈴と津軽。河内の結婚話を機に、鈴と津軽の未来も動きだす。幸せな結婚に期待を膨らます鈴。だが、物語は予想外の展開へ! 明治時代の歳の差ラブ、感動の終幕へ!!

簡潔完結感想文

  • 結婚へ。津軽は いつだって絶望に突き落とされる前に鈴に希望と喜びを与えるヒーロー。
  • 津軽がしたいことをして待たせたように鈴も同様にしてから お婿さんにしてあげる男女同権。
  • 今の自分の全ての縁を使って、鈴は一人でも多くの女性を広い世界に導くために尽力する。

の世界から その先の世界へ、の シリーズ最終11巻。

こんなにも未来を感じられるエンディングはない、と思うほど真のスーパーハッピーエンドを迎えた。再読してみて改めて『10巻』『11巻』の素晴らしさが分かり総合評価を1つ上げた。

意地の悪い読み方かもしれないけれど、鈴(すず)が すんなり結婚を受け入れないことが良かった。鈴を愛おしく思う津軽(つがる)が望んだ未来がなかなか到来しないのは、2年間の猶予をもらったことで鈴の人生を翻弄することになった津軽への罰のようにも思えた。この展開がないと、猶予をもらった津軽が ひな たちを無罪放免にして、それが鈴を巻き込むことになる探偵役の失敗と自業自得の清算が出来ないまま、津軽だけが損をしない展開になってしまう。
鈴が結婚前じゃなくて津軽が結婚を決めてから土壇場で「待て」を言い出すのも津軽に一日千秋の思いをさせるために必要なことか。アラサーの津軽が本当に鈴を愛し、そして結婚に自分から動き出してからお預けを食らう。なかなか皮肉で愉快な展開ではないか。

そして その鈴が待ってもらう猶予の中で鈴は現在の自分の周りにある縁とコネと財力を活用して、自分の理想とする世界の実現に動く。これまでも呉服屋(百貨店)の手伝いをして働いた経験のある鈴が、もっと広い視野に立ち、自分の知力や能力を活用して大きなことを始める。これによって ただ御曹司・津軽の嫁になるのではなく、津軽と対等な自立した女性になれている。
鈴の、生まれたばかりの女児から自分を擦り減らしている女性を導く存在になる という目標も男性主導の世界を見てきた彼女の経験から生まれるべくして生まれた思考だ。

女性から男性に結婚のタイミングを意見する。そんなカップルは明治に ただ一組

や急展開だけど鈴が最後に遊郭に戻る展開も、1回目の津軽の恩に頼るしかなかった自分を越える2回目の成長した鈴を見せるのに効果的だった。あの時は津軽が用意した道を彼に手を引かれて歩いて外の世界に向かったが、今回の鈴は自分の後ろに道を作る意思を持って外の世界へと動く。この自分で道を作る作業は、外の世界に出る物理的な越境ではなく、その先の世界という時間軸の超越のように思えた。そして これは ひな が望んでいたビジョンに近い気がする。彼女もまた鈴とは違う形で何かを残そうとした。ひな は政治的な国家的な枠組みの変化を望んでいたが、鈴は社会的な心理的な変化を促す。目の前の一人だけじゃなく全体の構造、社会意識から変革する。この大きな視点を持てたのも15歳の鈴が ひな と会い、彼女との価値観の違い、そして見えているものの違いを実感したから得られた。津軽だけじゃなく鈴にとっても ひな という存在は大きな存在だと思われる。

ひな に命を助けられた鈴が次の世代の命を繋ぐ。少女漫画のラストに よくある結婚や出産だけど、本書は そこにも意味が付帯している。鈴の子供の存在は春時(はるとき)に兄だけじゃない おじ という立場を与える。そうして世界は広がりながら続いていく。家族愛も確かな愛だ。さすがに春時は鈴の娘に恋したりしない、よね…? およそ30歳差。春時の過剰な愛が次世代へ暴走しないことを祈ろう。

鈴が血の繋がっていない春時も、そして血が繋がっている祖父・秋山(あきやま)も利用して自分の理想のために動く姿が良い。秋山の財産を受けなくても鈴は生きていけるけれど、頂けるものは頂いて活用する方が秋山は鈴との繋がりが失われずに嬉しいはずだ。春時も自分の働きが鈴の願いの実現になると分かれば一層 仕事に精を出すだろう。そういう好循環を感じられるのも大団円の要因の一つ。

記憶喪失も遊郭編の再来も ちゃんと意味を持たせているところに作者の知性が光る。読切や短期連載が長編化して、その中で話を再構成したり再出発させたりと連載作家としての能力の高さや矜持が しっかり見えた。読者層が好きそうな物語を提示しつつ、その作品世界に深く没入し それぞれに思考を持ったキャラクタが ちゃんと動いている様子に作者の脳内世界の広さが見えた。私は この作品世界の広さが何よりも気に入った。今後の連載作品を読むのが楽しみな作家さんの一人になりました。

ちなみに ひな が巫(かんなぎ)の血を引いているという発言が『メランコリア5巻』であったけど、ひな の親戚(というか河内家が本家か)の河内(かわち)にも その能力があると裏話で明かされている。ひな が あれだけ暗躍していたのも一種の未来視などの超能力と考えれば合点がいく。
この他にも あとがき では各人の裏話や その後が語られている。まさか遠峰(とおみね)の息子たちの成長した姿が見られるとは。愛染(あいぜん)への追及が無いのは やっぱり彼が自分で思うほど大物じゃないからか。ひな は愛染の未熟さや不完全さを含めて愛していたのかもしれない。言及がないのは佐之次(さのじ)も同じ。『メランコリア』では特に活躍がなく叶(かのえ)以下の出番ではないか。『緋色』だと作中最強の武力だったのに。

作品の外の心配は、明治時代が終わると大正時代の終わりには関東大震災があり、昭和に入ると軍部の暴走が始まる その激動の時代を彼らは どう生きるのかということ。一家は無事でいられるのか、変容していく国に津軽は何を思うのかなど物語の先にも『メランコリア』がある。これは1900年代前半を描く作品の宿命的な憂いである。どうしてもハッピーエンドのその先の幸福の継続を心配する。


軽の心の問題に一区切りがついて、終盤 行方不明状態だった平賀(ひらが)と ついでに倉田(くらた)が久々に登場。序盤では完全に当て馬として動いていたのに、鈴の記憶喪失によって春時のターンが始まり、平賀の出番は奪われる。そのまま平賀は鈴に抱いているであろう好意を口にすることなく去る。作者の中でも平賀は「もうちょっと恋愛になるはずだった」らしい。そんな宙ぶらりん感は残る。

そもそも軍人である平賀の愛染(あいぜん)の監査も役割は分かるけど、異国に派遣された割に何もしていないように見える。フランス編では完全に新キャライケメン枠でしかなく、鈴が単独行動しないためのペア要員だった。私は平賀が素直になっていく様子を見たかったので残念。


性関係を清算したから ではないと思うけれど、記憶が戻ってからの鈴は津軽に想いを改めて伝え、津軽も鈴と同じだけの想いを返す。津軽は記憶が戻った鈴が自分を好いてくれると思っていないから予想外の好意に戸惑っているのが良い。15歳までのように好かれて当たり前じゃない、という危機感をちゃんと持っている。津軽は平静でいられないと自分で気づかないほどオーバーワークになるのか。急に店主として仕事をしたらメンタル注意(笑)

鈴たちの顛末よりも先に、津軽と同じアラサー男性である河内(かわち)が4度目の結婚を迎える。今回の相手は通いつめていた芸者で、4度目だから身内のハードルも低くなり身分差が問題視されず、身分で選んでいないから初めて肝が据わってる相手となる

河内の結婚によって鈴も自分たちの結婚に頭を支配される。そこから分かりやすい少女漫画の胸キュン展開が始まる。勝手に期待して勝手に失望した鈴だけど、その落ち込みは反転して天にも昇る気持ちになる。明治の後半には結婚指輪の文化が広まり始めていたらしいので この2人は流行の最先端なのだろう。


婚の反対勢力は春時。といっても ここぞとばかりに津軽を いびれるのが楽しいのだろう。津軽は指輪を用意したり、挨拶したり「まとも」であることを鈴が不審に思うほど誠実で常識的。

まるで嫁をいびる姑のような粘着質な春時。やはり兄様ではなく姐様かもしれない

津軽の両親にも挨拶し、元より娘のように大事にされていた鈴は歓迎される。津軽の弟・淡路(あわじ)も名前だけ登場。この人も そこそこの年齢に達しているけれど実家暮らしの独身なのだろうか。『緋色1巻』だと津軽大好き人間だったのに反対勢力にもさせてもらえない。でも この人の場合、作者に存在を忘れられてなかっただけで感謝したくなる(主要キャラじゃないので あとがき での その後の言及はなかったが)。

津軽の家への挨拶で結婚への意識が高まった鈴は、祖父・秋山(あきやま)の性格を考慮して事前に根回ししておくべきだと考え、単独で秋山邸に向かう。秋山は財産の分与を親族と協議中で鈴は執事に結婚の意向を伝えることしか出来なかった。


の行動が鈴に災難をもたらす。ある日 外に出た際、突然 鈴は拉致され目覚めると遊郭にいた。鈴は恨みを買った第三者に遊郭に売られ、そのクローズドサークルから出る事は許されない身になってしまった。その第三者は、鈴が結婚後に子供を産んだ場合、その子供が秋山家の後継者となり得ることを危惧した。鈴の情報が そこまで届いたのは執事の思惑があったから。骨肉の争いを続ける親族に対し、ケガと体調不良を抱える秋山は関心を持たない。そこで執事は孫である鈴の幸福を親族が邪魔したという既成事実を作り、そこに秋山が怒りを覚えることで当主の復活を期待した。けれど執事は弱みを握られ秋山への報告を断念せざるを得なかった。

鈴は知識と経験を盾に遊郭経営者に楯突き、自衛しようとするが、いずれ鈴は邪魔にならないよう満州行きが計画されていた。鈴は悪夢を見るほど精神的に追い込まれるが、左手の薬指の指輪が心を落ち着かせる。

津軽の方にも怪しい人物の接近があるが、彼は独力で撃退。そして都合よく叶(かのえ)が鈴の連行を目撃していたため、いつものようにイケメンパーティーによる姫の救出作戦が展開される。作画カロリーの関係もあるのか大体イケメンは4人が限界のようにも見える。
救出パーティーは適材適所で働く。春時の役割は当て馬という年季が明けたからこそのコスプレ役に見える。河内のエロ関連知識と滾る性欲にも笑う。結婚後も平気で こういうことが出来る彼は4度目の離婚をしそうな気もするが…。


はイケメンに助けられるだけではない道を選ぶ。遊女は意志を持てば自分で郭(くるわ)を出られる、その事実を この吉原にいる ここで働くしかないと閉塞感を抱える人たちに伝えたい。それは目に見えたものを助けるだけじゃなく、全く関わりの無い人たちに自分を見てもらうことで その人の思い込みを霧散させるという今の鈴の方法。心理的なクローズドサークルが完成してしまっている遊郭から脱出する最初の鍵は、自分の囚われている価値観や考え方を打破すること。それは津軽が自分に与えてくれたものを誰かに与える鈴の恩返し。

秋山の名前を出したことで鈴は無事に店から出るが、吉原からは簡単に出られない。鈴を買った楼主(ろうしゅ)は堂々と大門を出ようとする鈴たちを包囲し、鈴に阿片(アヘン)による操作を匂わせる。そこに津軽が登場。色々と血も涙もない方法で自分の大切な人を守る。その冷酷さと完膚なきまでに叩き潰すのが津軽の持つ表情の一つに思える。

こうして鈴は子供の頃と同じように津軽に導かれて外に広がる世界に出る。鈴は津軽の性格を熟知していたから彼の計画を見抜いていた、という同等性の描かれ方も良い。そして鈴は放棄の意向を示していた秋山の財産の相続を受けようとする。そして その財産で誰もが望む道を進む手伝いをしたい。団体や基金のようなものを設立するのだろうか。その目途がつくまで結婚は保留。ただ結婚によるハッピーエンドじゃなくて、鈴の望む道を見つけての結婚となって彼女の先進性が より強調されている。


婚も子供の誕生も津軽よりも先に河内が経験する。結婚2か月で河内の子供が生まれる(授かり婚!)。河内が感涙して良き父親になる予感。良き夫にはなれるだろうか…?

この日、春時の未練に手瑠璃子(てるりこ)が言及する。そして春時は生涯 独身で生涯 鈴以外の女性を愛さないと見通す。そんな春時に丁度いい提案をするのは手瑠璃子の「愛」を感じられた。こういう愛の形があってもいい、そう作品は伝えているように思う。手瑠璃子は後に小説家デビューしている。

河内の子供が女児なのも、鈴が望むのは この赤ちゃんも含めて女性にとって良い時代を作ることだからだろう。ひな が見たかった この国の未来を、自分の望む未来を見届ける。

明治が終わり大正が始まる頃、鈴には2人の子供がいる。第一子は長男の駿河(するが・津軽の藤島(ふじしま)家の男性は地名が絶対なのか?)、第二子は長女の あさひ(確定できないけど地名じゃないし多分 女の子。鈴の姉・夕香(ゆうか)と関連性が高いか)。彼らは一家四人で「おじ様」の家に行く。この子たちにとって おじ は春時と淡路の2人だけど、きっと春時の方だろう。春時には妹がいて、甥姪がいる。その家族の拡大を彼は喜んでいるだろう。
一家が歩くのは、狂いそうな夕方でも果てしない夜でもなく、眩しいほどの青天の下となる。