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不細工な友情 (幻冬舎文庫)

不細工な友情 (幻冬舎文庫)

女同士の友情は、たっぷりの皮肉と見えない愛でできている。幼なじみで、相方で、かつては恋敵だった女芸人ふたり。その関係は複雑で辛辣だ。ホルモンバランスの崩れを嘆きながら、婚前旅行への憧れを告白。男が欲しいと叫ぶ一方、ゲイ友達との仮想家族構想を語る。嫌いなはずなのに、話さずにはいられない。笑えて切ないセキララ往復エッセイ。


『家族よりも、地球上の誰よりも長い時間を共有して』いる女性2人による往復書簡エッセイ。彼女たちの関係は『幼なじみで、相方で、かつては恋敵』。確か私は光浦さん単独の著書『すっぱだかで反省文。』で初めて知ったと思うが、なんと光浦さんの人生初の彼氏は、大久保さんに寝取られたのであった…。だから『かつては恋敵』なのだ。普通でも絶交、一歩間違えれば刃傷沙汰のこの事件。しかし、それでも2人の関係は破綻しなかった。憎くとも君を愛す。その後も親友として、更にはお笑い芸人コンビの相方として2人は時間を共有する。地球上のどこを探してもこんな複雑に捩れて歪んだ関係性は滅多にない。だから面白い。
絶対の前提条件は、どんなに憎くても離れられない2人である(特に光浦さん)。だからこの往復書簡の中で悪口雑言を尽くしても不快とは思わない。普通の友達同士が経験する愛憎の先に、この2人はいる。今更、何があっても嫌いになんてならない。だから自分の事をセキララに、相手の事もセキララに書き綴れるのだ。この本は芸能人のエッセイではあるものの、30代女性(未婚)の本音満載のエッセイとしての価値が非常に高いと思われる。友達・恋人・結婚・仕事・将来・親孝行・貯金・食事・健康・趣味・ファッション、そして性の話までセキララだ。
余りにセキララなので不思議な事に、お笑い芸人のエッセイを読みながら、人生を思った。モテない自分、上手くいかない仕事、歳を取る自分の身体、それ以上に年老いている両親、人生プラン、様々な別れ、日々の生活、誰もが悩む事を、お2人も同じように悩んでいる。本書には芸能人様の華やかな生活は全く描かれていないが、30女の切実で可笑しな悩みは克明に描かれている。
エッセイを更に面白くしている要素は2人の共通点と相違点。共通点は2人とも不細工である事、性格がかなり悪い所。相違点は2人の価値観や立場が少しずつ違う所。2人ともかなり無闇に人を傷つけている。些細な事で苛々して、心の中に溜めておけば良い言葉を相手に投げつける。けれど最後にはそんな自分を嫌悪して自分が傷ついている。けれど気弱な部分があるかと思えば大胆に人を傷つけ脱出不能の無限のループに陥る2人。だがその一方で、大久保さんは女でいる事や結婚に意欲を燃やすけれども、光浦さんは尼さん状態に突入という違いもある。また光浦さんは100%芸能人であるが、大久保さんは半OL半芸能人である。この違いがエッセイに不思議な幅を持たせている。立場が違うからお互いに冷静な意見を言い合える。男性の前で科を作る大久保さんに光浦さんがダメ出し、大久保さんは芸能界を逞しく生き抜く芸人・光浦さんを尊敬の眼差しで見る。あと、2人ともちょっとずつ間違っているのも面白いです。仕事に行きたくないからと想像妊娠に励む光浦さんに、欲望を丸出しで男性に悉く逃げられる大久保さん。愛すべき人たちなんです、2人とも〈ちょっと上目線かな?〉。
余談その1:清水ミチコさんによる解説の冒頭文が素敵すぎる。清水さんと彼女の往復書簡も読みたいぐらいだ。
余談その2:文庫版の表紙の絵、色々と凄いなぁ(笑) 単行本の表紙の転用でも良かった気がするんだけど。

不細工な友情ぶさいくなゆうじょう   読了日:2010年02月15日