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天国の本屋 (新潮文庫)

天国の本屋 (新潮文庫)

さとしはアロハシャツの不思議なおっさんに誘われ、突然天国の本屋でアルバイトをすることになった。この店の売り物の、朗読サービスを受け持つことになったさとし。そして緑色の目を持つ少女ユイに恋心を抱く…。でも、ユイの心は、この世でできた大きな傷に塞がれていた。慌しい毎日に押しつぶされそうな貴方にお勧めします。懐かしさと優しさが、胸一杯に込み上げてきます。


文句なしの物語。ただし、良くも悪くも。読後は一点の曇りもない気持ちになれる。ほっこりとした気持ちで明日から、いや、今から精一杯生きようという気にさせられる。ただ捻くれ者の私からすると本書は「出来すぎた話」である。現実的な痛みのない作品は、読後にも何の痕も残さない。読んでから暫らく経っても、この感動を覚えているか非常に疑問。って、文句なしと書きながらも、文句ばっかりの私。
出てくる全ての登場人物や設定を上手く使っていて、短いながらも感動的な話になっている。ただ「一を聞いて十を知る」とまではいかないが、二、三を読んだら十まで分かってしまう物語。そして、だからこそ作り手の抜け目のなさが際立っている。一から十までが全て作者の手によって用意された感動だと気づき、物語に入り込めなかった。本書の人気は本屋から火がついたらしい。舞台は「天国の本屋」だし、作中にも様々な本が登場する。なるほど、本好きの人がこの本を好きだと思うのもよく分かる。ただ、本の奥深さを知っている人なら、この計算高さ、は言い過ぎにしても、用意周到さが、むしろ鼻に付くのでは?と思った。
この手のファンタジー的要素を組み込んだ物語(それに加え、「純愛」)は読者の需要があるのは理解出来る。しかし、「死」を甘美なもののように書いていたり、「死」を涙のスイッチとして用いたりしているのは複雑な気持ちである。甘い物語は救いになる(そして売れる)。けれど、甘いだけでは胃がもたれてしまう。 恋愛に関しては「ツンデレ」だろうか。お互いが好きになった理由が分からないような…。恋愛はロジックではないので、理由なんて求めてはいけないのだろうけど。
余談:ナルニア国ものがたり」の最後の場面が書かれているのが残念(もちろん、これが「ナルニア国」の全てではないけど。また今のところ読むつもりもはないが…)。

天国の本屋てんごくのほんや   読了日:2006年10月16日