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大地の子 三 (文春文庫)

大地の子 三 (文春文庫)

「あつ子、すまなかった、探し出すのが遅過ぎた」陸一心こと松本勝男は、三十六年ぶりにめぐりあった妹・あつ子に泣いて詫びた。妹は張玉花と名のり、寒村で過労の果てに病いの床にあった。兄妹の実父・松本耕次は、子供らの消息をつかみえぬまま、奇しくも陸一心とともに日中合作の「宝華製鉄」建設に参加していた。


一心は中国共産党に入党を許可され、中国を母国とし、より一層、国のために全力を注ぐことを誓う。が、初めて訪れた日本で、自分が少なからず日本に関心を寄せる事に気づく。そんな時、生き別れた妹・あつ子らしき女性の存在を妻・月梅によって知らされる。が、党員としての自分が日本(外国)に関係する者に接触する事は、一心を再び厳しい状況に追い込むかもしれない危険がある。国家から選ばれた人民の名誉を受けながらも、自分の根底にある記憶や血に懊悩する一心。彼は一つを選ぶために一つを完全に捨てなければならないのか。いつまで出自に悩まされなければならないのだろうか…?
国家と個人の思想の間で苦悩する一心であったが、再会した妹と判明した女性の悲惨な環境を知った瞬間、個人として激しく咽び泣く。妹の姿は過去の自分と重なり、自分のもう一つの姿にも思える。そして、それだけに深く心を痛める。
もう一人、上海事務所長・松本耕次も娘・あつ子の消息を探し求めていた。子供たちの生存の可能性を知った松本は、細い糸を慎重に手繰り寄せ彼らの足跡を追う。彼は糸を途切れさせることなく手元に引き寄せられるだろうか…。
中国で終戦を迎えた国民を棄民として扱っただけでなく、何十年も彼らを見捨て続けた日本政府の対応にただただ怒りを覚える。そして、それを今まで知らなかった自分も恥ずかしく思う。敗戦によって日本は武力を放棄した。が、戦後復興の中で日本は戦争責任までも放棄してしまったのだろうか。現実には終戦によって悲しみが一瞬にしてゼロになる訳ではない。目を背けることによって、戦争の目に見えない被害者たちは増え続ける。遺骨も拾えない家族と、自分の存在を伝える手段を持たない子供。個人の声は広大な大地の中では小さすぎるのだ…。
余談ですが、中国現代史に(も)疎い私は、中国政治家の名前を知らないために、この権力争いの結果を先に知ることなく、その政治闘争を息を詰めて読むことが出来た。ありがとう、無知。逆に、先を読めてしまったのは物語。↑にもある文庫版裏表紙の「あらすじ」を読むと物語の流れを知ってしまうのには興醒めだった。

大地の子だいちのこ   読了日:2006年07月28日