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MISSING (双葉文庫)

MISSING (双葉文庫)

瞼を開けると、背後には飛び降りたはずの崖がそびえ立っていた。少年に助けられた私は、自分の過去を語り始める。「わたしは人を死なせました」。しかし、私は唐突にこの少年の眼差しを思い出した……。彼は20年前に死んだはずの……。「このミステリーがすごい!2000年版」第10位! 第16回小説推理新人賞受賞作「眠りの海」を含む処女短編集、待望の文庫化。


背表紙に「眠りの海」が新人ながら「このミステリがすごい」のベスト10入り!と書いてあったので全部がミステリの短編小説集かと思っていましたが、全てがミステリではなかった。後半にいくほど段々とミステリ色が薄れていきました。どちらかといえば小説に近いです。この作家さんの一番好き所は文章の一つ一つが練られているところです。会話の一つ一つでも温かく、機転の利いたセリフが展開されます。私的には「祈灯」がとても好きです。切なさを書かせたら右に出るものはそれほどいないと思います。解説がないのにはビックリ。文庫本で初めて見ました。

  • 「眠りの海」…崖からの投身自殺に失敗して気を失った高校教師が目を覚ますと、一人の少年が側にいた。教師は彼に今までの顛末を話す。親しくなった女生徒、けれど彼女を自ら運転する車で亡くしたこと。そこへ少年は、ある事実を告げる・・70ページ足らずでよくここまでギュッと詰まったミステリが書けるもんだと感心しました。構成・伏線・結末とも一級のミステリです。これはスゴイ!
  • 「祈灯」…妹が連れてきた友達は、事故で妹を亡くして以来、自分が妹だと思って生きている。何が彼女をそうさせるのか?読んでいて、心臓と胃が縮まる感覚。どこまでも切ない短篇。私が好きなのは、兄の買ってきた缶コーヒーに対する妹のセリフ。あぁどこまでも労わって生きている兄妹だ、とセリフで分かる場面。こういう事が出来る作家さんって実は少ないと思う。本多さんを好きになりました。
  • 「蝉の声」…伯母と喧嘩して家を出た祖母がいる「緑樹荘」に行くと、祖母がある頼みする。それは、同じく緑樹荘に入っている相川さんが抱えている問題を探る事だった。今考えれば、今後の本多孝好の原型かなと思う。生涯を賭けた嘘・復讐、誰かに癒せる事のない精神的な傷を負わせる。そうした目に見えない攻防。これが続くと、またか、と思いますが、初めてだった今回はズーンと重い話でした。
  • 「瑠璃」…小6の時、夏を一緒に過ごした4つ上のルコ。彼女は魅力的だった。疎遠になり4年後の再会。彼女はその名前に込められた願いに苦しむ。「流子」流産した兄か姉の分を生きろ、という名前。そのまた4年後の再会。彼女は戻れない自分に苦しんでいた。村上春樹っぽいという評判を2回目の読書にして分かったような。自分の曖昧さ・虚無感。似てるかも。姉との会話、その子供との描写がいい。
  • 「彼の棲む場所」…私立図書館勤める僕に、元・高校の同級生から電話があった。彼は大学教授になり、TVではコメンテーターとして活躍している。再会した彼が語りだす高校の頃の話、そして同級生の「サトウ君」。彼の中でサトウ君は特別な場所にいた・・段々ミステリからホラーの雰囲気。これはかなり村上春樹。曖昧な記憶、迫りくる不安。後半2つの話は、ちょっと消化するのに重すぎる。

MISSING   読了日:2002年06月26日