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ベートーヴェンな憂鬱症 (講談社文庫)

ベートーヴェンな憂鬱症 (講談社文庫)

L.V.ベートーヴェン。作曲家、そして心ならずも探偵。彼のお馴染みは裏切りの痛みと怒りまじりの孤独。得意技は皮肉で組み立てる憂鬱。時には殺人容疑で追われ、またある時は落涙のマリアの謎を解き、とらわれの王女も救出すれば、彼の子と名乗る音楽家まで現れる。楽聖主演によるハードボイルド。


本書には4つの短・中編が収録されている。各編は作曲家 兼 探偵であるベートーヴェンの20代・30代・40代・50代、それぞれの時代の話である。また各編にはベートーヴェン作曲の有名な作品が一つずつ絡んでいる。そして全編にベートーヴェンと関わりの深い「月光」の女性が登場。時代が進むごとに探偵の耳の状態は悪化し、かの女性も歳を重ね可憐な少女から一人の女として変容していく…。
前作でも登場した相棒(?)チェルニーとの会話は今回も絶品。一流のユーモアとウィットで笑わせてくれる。ただ、50代のベートーヴェンとの筆談による会話は、その明るさから一転、ペーソスへと変わる。年齢を重ねたベートーヴェンの性格・社会的地位などの変化も見所。こういう時代背景の描写が上手い作家さんだ。
ミステリとしては、19世紀という時代を反映したミステリである。広義または狭義の社会派であり、「時代」を強く意識させられる。捜査方法は行き当たりバッタリ…。

  • 「ピアニストを台所に入れるな」…ライバル関係のピアニストがベートーヴェンの自宅を訪ね、台所で包丁で刺された状態で死ぬ。当然、彼は疑われ…。若きベートーヴェンと幼きチェルニーとの最初の出会い。お互いこの後30年間、口のへらない関係に…。ばっちり伏線はあるが、この終わり方はブラック過ぎる…(苦笑)
  • 「マリアの涙は何故、苦い」…ボヤを起こして修復中の教会では壁画の修復に携わった者らが次々に倒れ、本尊であるマリアは涙を流すという…。宗教が深く生活に関わっている土地・時代のお話。「火事場の馬鹿力」の説明が面白い。私なら仏像が涙を流しても××しないだろうなぁ。信じない者は救われる…!?
  • 「にぎわいの季節へ」…ナポレオン戦争後、混乱のヨーロッパに於いて各国の思惑の為に幽閉されたナポリ王国の現王女の救出を依頼される…。中編。世界史の造詣が深ければ、2,3倍は楽しめたであろう作品。それでも十分楽しいが。当時の技術の粋を集めた道具を駆使して王女を救出する様子は「007」といった感じ。どんな危険に遭っても、文句を口に出さない姿は、かなりハードボイルドだ。
  • 「わが子に愛の夢を」…かつての恋人からの手紙を携えた少年と少女。どちらかはベートーヴェンの子供だという…!? 楽聖の晩年だからか人生の哀愁を感じる作品。チェルニーに引き続き、少年探偵再び。私の好きなアノ作曲家。かつての師弟は大人気なく、孫弟子は子供気ない。天才は早熟で、変人なのかしら…?

ベートーヴェンな憂鬱症ベートーヴェンなゆううつしょう   読了日:2006年10月11日