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あきらめ × 飽きられ × あぁ嫌いになりそうだけど、アキラメキレナイ × レナイ。

キラレ×キラレ CUTTHROAT (講談社文庫)

キラレ×キラレ CUTTHROAT (講談社文庫)

満員電車の中、三十代の女性がナイフのようなもので切りつけられる事件が立て続けに起こった。探偵・鷹知祐一朗から捜査協力の依頼を受けた小川と真鍋は、一見無関係と思われた被害者たち全員に共通する、ある事実を突き止める。その矢先に新たな事件が起こり、意外な展開を見せるが…。Xシリーズ第二弾。


Xシリーズ2作目。「前作」での、美術ミステリになる、という私の見立ては見事にハズレました。そうではなく本書は、近藤史恵さんの整体師・合田力シリーズのような、現代人に特有の心の病を扱った作品であった。その意味では非常に現代的な作品であり、今の時代の閉塞感や疲労感と事件とが上手く絡み合った作品ではなかったか。そこだけは褒めるべき点だろう。
満員の通勤電車の中に現れる切り裂き魔が続けて凶行に及び、その中の1つの事件である会社重役は犯人に間違えられる。その嫌疑を晴らそうとする重役の依頼で、いつものメンバが招集され、真犯人を捜査することになるというのが物語の始まり。驚く事に、通常のミステリならご都合主義的に秘匿され続ける、被害者同士のミッシングリンクもさして苦労もなく判明する。いかにも森ミステリらしい過程を省略する急展開なのだが、これが本書の失敗の始まりの様に思えてならない。被害者に共通点が見られた事で、些か乱暴な理論だが、容疑者の輪も通勤電車を利用する全ての人から被害者周辺の者に絞られ、無差別犯罪と思われた事件が矮小化してしまった。また、本書では謎が謎として明確に存在しない点も、森ミステリの中にも旧態依然としたミステリの様式を望む者にとっては残念であった。本書の主要登場人物たちである探偵ご一行様はミステリにおける探偵ではなく、警察の代わりに捜査を進めるだけの探偵としてだけ存在していた。警察よりも被害者たちの共通点に気づくなど、非常に有能ではあるものの、行き当たりばったりというか、現場百遍を貫いて、足で成果を稼ぐタイプであった。これも頭脳派森ミステリ好きには落胆の展開。その一方、おまけのような動機の解明は、万人に理解しやすい理由を補足程度に述べるという従来の作品同様の手法。これに関してはドライな作風にマッチし、犯罪者と自分を明確に区別する点は好意的だ。特に本書では犯人の行動を理解できないことが健全性の証明のようになっているので、犯行への道筋が分かればそれでいい。
クライマックスの犯人との攻防はさすがに息を呑む展開であったものの、真相披露の場面のないミステリはやはり物足りないものだ。また2作のシリーズを通して言えば、明確な探偵がいない事、またはそれに近い頭の切れる人がいないのが不満だ。本シリーズの登場人物はこれまで以上に年齢層が高く、誰も腰が重い。特に男性2人は一癖も二癖もあり、思わせぶりな態度やセリフばかりでいつも事件の背後に隠れ、読者にも作中の人物にも素顔をさらそうとしない。これまでのシリーズでは萌絵や練無など、知能と行動力を兼ね備えた、そして素直なキャラクタが物語を牽引していたのが、本書では無邪気かつ魅力的なそういう人物がいない。本シリーズでは小川がその役目を担っているように思うが、失礼だが年齢的に性格的に微妙なラインである。大学生たちよりは分別があり過ぎて、好奇心や探究心など浮ついた描写が似合わない。従来のシリーズの慣例通り、大学生の真鍋にその役を担って欲しいものだが、彼は変人であり、老成していて、アーティストであり、探偵に一番近い存在だから、ワトソン役という訳にはいかないのだろう。小川と真鍋の会話は楽しくはあるものの、肝心のミステリがこれでは評価は上がらない。ミステリ×、キャラクタ×、理系×、文章や会話の鋭い切れ味×、すべてが×になるから、Xシリーズ?
前作に引き続きラストにだけファンサービスがある。免罪符の様に使われては、かの人も可哀想である。一番可哀想なのは、おまけでしか喜べないファンなんだけど…。
読むだけで思考速度が上がった、賢くなったという錯覚が得られる、脳の血流が良くなった気がします(※個人の感想です)が、森ミステリのミステリ要素以外の楽しみであったが、本書はその効用は全くと言っていいほど認められなかった。また一つ増える、×。

キラレ×キラレ   読了日:2011年10月14日