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モーツァルトは子守唄を歌わない (講談社文庫)

モーツァルトは子守唄を歌わない (講談社文庫)

モーツァルトの子守唄が世に出た時、"魔笛"作家が幽閉され、楽譜屋は奇怪な死に様をさらす。その陰に策動するウィーン宮廷、フリーメーソンの脅しにもめげず、ベートーヴェンチェルニー師弟は子守唄が秘めたメッセージを解読。1791年の楽聖の死にまつわる陰謀は明らかとなるか。乱歩賞受賞作。


外国人名を覚えられないので海外小説や外国が舞台の小説が苦手な私でも、本書はすんなり読めた。なぜなら本書の登場人物たちはベートーヴェンチェルニーサリエリシューベルトモーツァルト(故人)と人名だけは馴染みの人物が多いからである。いざ、ベートーヴェンの住む音楽の都・ウィーンへ。
その登場人物たちがとても生き生きと描かれているのが印象的だった。特に会話がとても良い(その中でもベートーヴェンチェルニーの師弟の掛け合いは噴き出すこと必至)。ウィットとユーモアに富んだ会話というのは、こういうものか。軽妙で洒脱なのに狙い過ぎている感じがしない。気難しいイメージのベートーヴェンは、本書の中でも皮肉が多く敵も多いが、人の気持ちが理解できる人間としても描かれている。誰にもおもねらない彼の生き方は清々しく感じた。
またミステリとしても上質である。物語の随所に大小様々なトリックと巧妙な伏線が仕掛けられているので最後まで飽きる事がなかった。最大の謎はモーツァルトの死の謎なのだが、その謎の真相にたどり着くまでのベートーヴェンたちを待ち受ける災難や陰謀、個人の思惑・権力闘争が物語に奥行きを与えている。真相の一部は今では世間に広く流布されているものだが、本書ではそれは一部にすぎない。もちろん作者も言う通り『この物語は創作であり、史実ではない』のだが。
ある殺人のトリックがその時代特有の物であることに感心した。この手法は現在が舞台の小説では使えないだろう。このトリックに近い事が物語のラストで再び使われていて、物語は奇妙な音を響かせて終わっている。また、史実だけでまとめられたエピローグが、史実だけに重くのしかかってきた。
本書は第31回江戸川乱歩賞受賞作。同時受賞したのは東野圭吾さんの「放課後」である。現在、東野さんの著作は簡単に手に入るけど森雅裕さんの著作はなかなか入手しにくい。けれども昨年(05年)に本書とその続編は、めでたく復刊したらしいので(ハードカバーなので高いけれど)、この機会に「音楽探偵」の活躍をその目で見られるチャンスです。

モーツァルトは子守唄を歌わないモーツァルトはこもりうたをうたわない   読了日:2006年08月19日