《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

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真実の親友なのか信用できぬこの友情。心配な心中の真相を審判する勇気。

音信も絶え、生死のほどさえ分からなかった親友に、こんな大都会の片すみで、こうしてバッタリ座席を横取りされようとは…。会社帰りの電車内で邂逅した二人。過去の因縁浅からず、なにゆえ親友になったやら、お互い首を傾けつつ付き合いを再開する。双方が伴侶を得ても物語は終わらず、頭数の倍加によって情勢は複雑に。たかが親友、されど親友。嗚呼、腐れ縁はどこまでも。


創元推理文庫天藤真推理小説全集は本書12冊目から最終刊17冊目は短編集となっている、みたいだ。そして短編集第1巻である本書は天藤作品の中でも最初期のデビューのきっかけとなった作品などが収録されている。と、ファンにはありがたいコンプリート全集なのだが、本書の予備知識もなく、それでいて長編は1作を残し読了済みの私には、頭の中の天藤作品のイメージとのギャップに悩まされた短編集でもありました。
またもミステリ作家の「トリック派」「プロット派」のお話になりますが、天藤さんは断然「プロット派」であり、天性の愛されるキャラクタ作りの才能の持ち主だと思っていましたが、本書では「トリック派」の作品が多いように思う。デビューにあたって、特に投稿していた雑誌「宝石」の「宝石賞」を受賞するために選考委員の選評・賞の性質などを勘案して、トリック重視の作品を多く書いていたのだと思われる。ミステリ的にはなかなかに凝った作品も多いのだが、どうにも登場人物たちの造詣を中心に「らしくなさ」ばかりに目が奪われてしまった。またトリック重視だとやはり発表年月の時代性、もっと言えば古くくささが際立っていた。そういった作風の変遷や獲得を見られるのもコンプリート全集ならではなんですけれどね。
それでも本書の中でも、これぞ天藤作品というものもあり、その天性の才能を存分に発揮している作品もあった。「なんとなんと」の不器用な男女の機微も好きだけど、中でも掉尾の短編「誓いの週末」は天藤作品では珍しいジュブナイル作品で、中学生の彼らに向けられる優しい視線は天藤さんの生真面目で温かい筆致にとても合致していた。

  • 「親友記」…表題作。あらすじ参照。止まっていた時間が、遠く離れた大都会の電車の座席の横取りから動き出す、という魅力的な始まりに、なんだか奇妙な方向に進んでいく2人の人生。そして生まれる憎悪と殺意、…と書くと沈鬱な物語のようだが、どうにも陽気な、そして客観的に見ればどんぐりの背比べ、似たもの同士の同属嫌悪としか思えず滑稽な印象を残す。君たちは間違いなく親友だよ。
  • 「塔の家の三人の女」…千里眼の透視術で予知された死。その真偽を検証するために現場に向かう心理学者たち…。金持ちが道楽で建てた変な構造の塔が舞台の天藤版「館モノ」。占いとの対決にどんなトリックがあるのかと思いきや、その点はとても尻すぼみな結末だった。ミステリとしては奇妙な縁で結ばれた3人の女性の容疑者候補たちと、舞台装置を上手く使った本格ミステリである。やはり初期の頃から登場人物たちのキャラクタはおかしみが溢れている。
  • 「なんとなんと」…熱にうなされた未亡人がうわ言の様に言う言葉の意味を医師は考えるのだが…。初出の雑誌「エロチック・ミステリー」という名前から言えば本編は『殺しへの招待』で紹介した「白天藤」「エロ天藤」という分類では「エロ」なのか。でもいやらしさのない幸福な作品。でも私、誤読して医師が未亡人に手をかけたかと思った…(苦笑)
  • 「犯罪講師」…「私が犯罪師Xである」と誘拐犯罪をテーマに聴衆に滔々と講義する男…。誘拐犯罪の描写は否が応でも緊張して手に汗握りながら読み進める。すると序盤から感じる奇妙な違和が最後に上手いオチが付けられて、更に痺れる最後の一文へと続くのが見事。面白い講義でした。
  • 「鷹と鳶」…お互いの長所と短所を補い合い事業を拡大した2人の男。しかし社長の座と、経営参加した1人の女性を巡る争いが始まり…。1編目の「親友記」のテーマをより先鋭化させた作品。より陰鬱でより憎悪に溢れている。その点では天藤作品らしくはない。計画犯罪に計画犯罪が合わさる最後の1ページは鳥肌が立つほどに怖い光景だった。良くも悪くも男のプライドを刺激するのは女性なのだろう。
  • 「夫婦悪日」…夫の不審な行動に気を揉む妻は、家捜しをして一通の手紙を見つけ出すが…。本編も「エロチック・ミステリー」が初出。だけどこれもいやらしくない。序盤だけ読むと妻と夫の立場が逆じゃない?と疑問が浮かぶが、なるほどこういう効能があるのか。知能犯である。そして同じ計画犯罪でも結果がまるで違うと、前の「鷹と鳶」との落差にも驚かされる。
  • 「穴物語」…結婚資金獲得のために、隣の酔客が今なら大金が確実に置いてあると言っていた家に強盗に入った太一だったが…。本書では犯罪を企てる側の話が多く、すると自然に利己的な人物が多くなる。それは本来、犯罪の中にもユーモアセンスの光る人物たちが多かった既読の長編とは趣が違うので、作風の違いに戸惑う。ミステリ的にはどんでん返しがあり、それでいて大団円なのだが、果たしてこのカップルはこれでいいのか?
  • 「声は死と共に」…アリバイを工作して臨んだ強盗殺人だったが、思わぬ所から綻びが見つかりそして…。前作「穴物語」と同じく短絡的な思考からの犯罪であり、天藤作品らしからぬ残忍さだけが突出した人物である。「声」に関する何重にも巡らされた追い込み方は上手いとは思うが、この不快感にも絶叫したくなる。
  • 「誓いの週末」…子供が学校で怪我をしたと騙し、親に家を空けさせて金銭を盗むという事件が発生。身体的特徴と貧しい家庭の子という推論で一人の少年が疑われるが…。本編は巻き込まれ型の犯罪であり、友情や正義感から調査に乗り出す、という姿勢が本来の天藤作品らしい。また登場人物たちもユニークで特徴があり一人一人の顔が浮かんでくるようだった。親からすれば悪質極まりない犯罪だが、その裏に子供たちの心の葛藤があるから、事件の解決に皆が苦しみから解放された終わったいう安心感がある。

親友記しんゆうき   読了日:2013年06月20日