結婚も離婚もしたことがなく、独り暮らしをしたこともない。キャバクラにも海外旅行にも行ったことがない。そんな「極端に臆病で怠惰で好奇心がない性格」のほむらさん・四十二歳が、必死の思いで数々の「現実」に立ち向かう。献血、モデルルーム見学、占い、合コン、はとバスツアー…。経験値をあげたほむらさんが最後に挑むのは!?「虚虚実実」痛快エッセイ。
穂村さん3冊目のエッセイ。この本は初エッセイの『世界音痴』の中の「人生の経験値」という名文章から生まれた。「人生の経験値」では、穂村さんが海外旅行も独り暮らしも結婚もしたことがなく、人生の経験地が極端に低い、という事が書かれている。そんな穂村さんの人生経験値を上げるべく毎回、何らかの新しい事に挑戦するという「初体験」企画がこの本の内容になっている。
この本は穂村さんの「現実入門」ではあるのだが、読者は誰一人として穂村さんが現実に慣れたり、世間擦れすることを願っていないだろう。むしろ逆に「現実」に拒まれ、世界音痴を極めてくれることを望んでいる。少なくとも私はそうだ。穂村さんは男性にも女性にも子供にも簡単にドキドキする。情けない。でも、そこにドキドキする読者も多いと思う。私がそうだ。ドキドキ・オロオロその姿さえ、いとおしい。
そんな穂村さんには『少しずれた時空間』で生きる人でいてほしいのだが…。なんと、この本、最終的には思わぬ展開を見せたのだった!あれっ!?穂村さん一気に経験値ためてレベルアップしてるじゃないか…!?アレもコレも本上まなみも伏線だったのね、さようなら、お幸せに…。が、最後の最後まで、さすが穂村さんである。嘘だと思ったら本当、本当だと思ったら嘘。でも本当なんだね…。
面白かった回は、人生初合コン体験の「逆転の花園」。「戦場では眠っていけないね。クククク。」には爆笑。「ダンディーと競馬」の異次元な人探し。遠くから彼らを探す穂村さんも、ある意味で異次元に片足突っ込んでると思うけど…。
本・各回のタイトルと文章が上手い。副題である「ほんとにみんなこんなことを?」も穂村さんの心の叫びらしくて好き。言葉の選び方、妄想の挿入の仕方などの文章の構成、そして、その独自の視点と挙動不審。「え、う、あ」「はひ」とかの言葉遣いはもう堪らない。ドキドキする。ダメ人間はダメ人間を愛するのかな…?