- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/10/25
- メディア: 文庫
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「お母さん、殺されたのよ」 学校から帰ってきた美幸は、家で母が殺害されたことを知らされる。警察は第一発見者である父を疑うが、彼には確かなアリバイがあった。しかしその言動に不審を抱いた美幸は、VIP専用の調査機関“探偵倶楽部”に調査を依頼する。探偵の捜査の結果、明らかになった意外な真相とは?冷静かつ迅速。会員制調査機関“探偵倶楽部”が難事件を鮮やかに解決。
「探偵倶楽部」とはVIP専用の会員制の調査機関のこと。VIP専用だけあって、事件の依頼者は中〜上流階級の家庭。十分過ぎるお金は危ない橋を渡ってでも手に入れる価値があるから事件が起こる。舞台は打算と欲望が渦巻く場所。私利私欲にまみれた事件は個々人の思惑によって複雑な様相を呈す…。
本書の5つの事件はどこかしら似ている(似せてある)。だが、どの事件も個人の事情からどう事件を処理するのかが違う。警察の介入を拒む事件もあれば、警察を自ら呼ぶ事件もある。個人の事情、発言の裏を読んで探偵倶楽部は淡々と事件を調査し報告する。どの調査結果でもバラバラだった出来事を鮮やかな手つきで全て一本の線で結ぶ。中には短編にしておくには惜しい事件もあった。
余談:角川文庫版の表紙の男女は探偵倶楽部の2人なのだろうけれど、女性の方はともかく、男性の方はサラリーマンのおっさんにしか見えない。掛けているのはサングラスなのだろうが、黒縁眼鏡にも見える。彫りの深いお顔なのに…。
- 「偽装の夜」…鍵の閉まった部屋でワンマン社長が首を吊っているのを発見した男女3人。彼らはそれぞれの目的の為に事実を隠蔽しようとするが…。単なる倒叙モノかと思ったら…、という展開からが面白い。探偵倶楽部の解決手法と放置されたままの伏線を最後のページで回収する東野さんの手際に拍手。
- 「罠の中」…妻は入浴中に死んだ夫の死に疑念を抱く。彼女が呼んだ探偵倶楽部が出す調査結果とは…? 犯人が3人組だとは分かっているのだが、その名前が分からないという点が面白さを引き出す。視点の置き方が皮肉な結末を呼ぶ。
- 「依頼人の娘」…あらすじ参照。守ろうとした手の平で握り潰してしまうよ(by.スキマスイッチ)、という感じにすれ違う思い。人は普段通りに行動するのが一番難しい。本書の短編はどれもその前の作品にも、その後の作品にも似ている。
- 「探偵の使い方」…探偵倶楽部によって浮気の証拠を掴まれた男が毒物で死ぬ。その現場にはもう一つの死体が…。タイトルが露骨過ぎるけど、探偵のプロ意識が垣間見られる。刑事の探偵倶楽部への感想が最後に効いてきて良い。
- 「薔薇とナイフ」…下の娘を妊娠させた交際相手の調査を探偵倶楽部に依頼した父。だがその最中、上の娘が何者かに殺されて…。同じ事象でも人によって感じ方が違うのだと思わせられる。倶楽部の調査方法が少し分かる描写が。どの短編も調査結果はスライドパズルが完成するような爽快感と興奮を味わえる。