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油断大敵。大して期待してなかったから(笑)、期待以上の驚愕。

交換殺人には向かない夜 (光文社文庫)

交換殺人には向かない夜 (光文社文庫)

浮気調査を依頼され、使用人を装って山奥の邸に潜入した私立探偵・鵜飼杜夫。ガールフレンドに誘われ、彼女の友人が持つ山荘を訪れた探偵の弟子・戸村流平。寂れた商店街の通りで起こった女性の刺殺事件の捜査をおこなう刑事たち。別々の場所で、全く無関係に夜を過ごしているはずだった彼らの周囲で、交換殺人はいかにして実行されようとしていたのか? 飄々と、切れ味鋭い傑作本格推理。


久々に読書中、目がテン!になった作品。終盤の、とある場面で何気なく明かされる真相に私の脳はオーバーヒートの思考停止状態。「えっ、何言ってんの、この人!?」と登場人物と作者の正気を疑った。けれどその後、面白いように全ての辻褄は合っていく。東川め、大うつけの振りをしおって。でも愉快じゃ!

命名「信長作戦」だろうか。おバカな振りをして天下統一の夢を見る。そのギャップに人々は驚き、惹かれる(歴史に詳しくないのでテキトーです)。東川作品の場合、前半の「おバカ」は楽々クリアしているので、後は天下統一のみ。これまでの作品も悪くはなかったが、ノリの割に地味なトリックだったり、驚天動地ながら一発勝負だったりと作風と内容がいまいちマッチしていなかった。しかし本書で見事に東川篤哉の個性と作風が統一されたように思う。

今回、私が目がテン!になった理由は幾つか考えられる。1つは私が東川さん自体を軽視していた点。持ち味であるスラップスティックさながらのドタバタ劇に加え、実に面白くはないギャグの応酬の連続。シリーズも4作目なので「あぁ今回もいつものノリね」と思ったのが私の第一の落とし穴。更には作品自体への見誤りもある。書名にデカデカと「交換殺人」の文字を入れてしまう大胆さ、そして「交換殺人」のお膳立てをするように2つのグループに分かれる主人公たち探偵チーム。人としてバカ正直なのは美徳だが、ミステリ作家としては致命的欠陥だ。そして最後はトリックの意外性。今回は(ネタバレ反転→)東川作品初の叙述トリック(多分)(←)である事も驚きの一因だろう。どちらかと言うと堅実な建築なトリックが多い中で、トリックの持ち球の多さを見せ付けた印象を受けた。この多彩な攻めが今後の作品に良い影響を与えるといいな。東川さんにしか出来ない、東川さんだから許されるアクロバティックなトリックだと思う。ただ個人的には今回のようなトリックは多用し続けないで欲しい。次回は堅実建築トリックで目がテン!になりたい。

今回は鵜飼・砂川警部の「ツイン探偵システム」は起動してなかったなぁ(特に砂川警部の影が薄い)。今回は皆、あの人物の掌中で踊らされていた気がする。本書を端的に表す四字熟語は(大いなるネタバレ→)三面六臂(←)だろうか。繰り返しになるが、この強烈なトリックを成立させた背景には東川さんの懐の深さと、読者の東川さんへの軽視がある。今後は読者の要注意人物としてのマークがきつくなってしまうかもしれないが、それを乗り越えて欲しいです。

また単純な事件に見えてミステリとしてのトリックや技巧をさり気なく多用しているのも読み所。逆に、かなり複雑な構成なのに簡単に事件内容が理解出来る文章の組み立て方も、東川さんのさり気ない力量の高さだと思う。

交換殺人には向かない夜こうかんさつじんにはむかないよる   読了日:2009年12月13日