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ぼくは悪党になりたい (角川文庫)

ぼくは悪党になりたい (角川文庫)

兎丸エイジ、17歳。ぼくの家庭に父親はいない。奔放な母と腕白な異父弟・ヒロトの三人で平凡な生活を送っている。毎日家事全般をこなす高校生が平凡かどうか疑問ではあるのだが…。ある日、ヒロトが病気で倒れたのをきっかけに、ぼくの平凡な日常は少しずつ崩れはじめる。生きたいように生きる人たちの中で、ぼくだけが貧乏くじをひいているのではないだろうか?―少年の葛藤を軽妙な筆致で描いた、新時代の傑作青春文学。


えてして自分から「悪党になりたい」だとか、割り切って『勉強ができない』とか達観している高校生に悪いヤツはいないものだ。彼らは自分をよく知っている。育ってきた環境・身についた習慣・性格というのは恐ろしい物でどんな所にいてもまとわりつく。母の変わりに家事全般をこなしてしまうような高校生は、いつまでも常軌を脱せないように出来上がってるのである。ちょっとだけ、もやもやしようとも。
序盤の勘違いは、そうだろうな、と思わせながらも最初から読み返してしまうのが絶妙の構成。これは恥ずかしいぞ。勘違いも、勘違いしてるんだろうと見透かされてる事も、勘違いの上での言動も。でも人柄・容貌から車の運転までお眼鏡に適ってるので幸せだろうと思うのだけど(人事だからかな…?)思えば、兎丸一家・羊谷といい(背表紙が笑える)、アヤといい、これまでの人生が一変みたいな激動の数ヶ月ですね。羊谷の赤面は面白かった。細かい点では、輸入雑貨のバイヤーの母の周りに集まる男の描写が上手いと思った。不倫をよしとしない母のポリシーに適う独身男性は確かにあくが強いだろう。ここまで独身を通し、華やかな世界で生きる人たちは、子供受けしない雰囲気だ。どこかが濃いだろう、と思う。
読んでいて途中から文体が「舞城王太郎」さんっぽく感じた。主人公の心中をそのまま表してる若者言葉の口語体で、独り言まっしぐらな書き方が似てるなと思った。高校生の主観の話だから何とも言えないけれど、読んでいてちょっと無理に凝った言葉や造語があるような気もした。一段上から物事を見るエイジくんにしてはテンション高めなところも。まぁ、そんな事は些細な事ですが。

ぼくは悪党になりたいぼくはあくとうになりたい   読了日:2005年02月11日