- 作者: 倉知淳
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/04/09
- メディア: 文庫
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ある時は幻の珍獣アカマダラタガマモドキの捜索隊員、ある時は松茸狩りの案内人、そしてある時は戦隊ショーの怪人役と、いっぷう変わったアルバイトに明け暮れる神出鬼没の名探偵・猫丸先輩が遭遇した五つの事件。猫コンテスト会場での指輪盗難事件を描いた「猫の日の事件」、意外な真相が爽やかな余韻を呼ぶ「たたかえ、よりきり仮面」ほか三編を収録した、愉快な連作短編集。
猫丸先輩カワイイ。初対面の人にはアホだと思われても、私たち読者は知っている。彼は全てを見通す名探偵だという事を。一時、事件の犯人探しのために関係者一同が疑心暗鬼になってしまっても、鮮やかな手腕と巧みな弁舌で事件を解決し、最後には明るい雰囲気で終わらせる猫丸先輩。30代でもカワイイ。
途中の推理や思わぬ真相などミステリとしての面白さはもちろんですが、登場人物の癖のある造形やその人ならではの動機など、人という生き物の滑稽さ・不思議さが描かれている気がした。ミステリには謎を創作する人、謎と認識する人、謎を解明する人が必要だが、本書では、「謎を創作する人」の無意識の行動によって「謎になっちゃった事件」が多かったように思う。自然発生型の謎なのに、「謎を認識する人」が大騒ぎしてしまって…、という構造になっている。謎の創作者に悪意や他意がない点も「日常の謎」の安心感や和みを与えてくれる。
- 「猫の日の事件」…猫コンテスト会場の建物で指輪盗難事件が発生。だが各の出入口には人がおり、窃盗犯は確認されなかった…。トリックは最近、流行りの手法(初出は10年以上前ですが)。ただ、全編を覆うほのぼのとした雰囲気や解決までの手法、猫を随える猫丸先輩などは、このシリーズならではの可笑しさ。
- 「寝ていてください」…他の3人の男性と共に臨床治験ボランティアに参加した木渡だったが、その中の1人が検査に行ったきり帰って来なかった…。これは面白かった! 各人の先入観を裏切る真相と散りばめられた伏線、そして猫丸先輩らのユーモアセンス。おどろおどろしい雰囲気からの反転が愉快な作品。
- 「幻獣遁走曲」…表題作。湿地で二人一組になり幻の珍獣アカマダラタガマモドキを捜索中に突然、火事が発生する…。人の無い所に煙は立たぬ。トリックとしては単純だが、動機に笑ってしまう。この短編の主人公・鼬沢と猫丸先輩との接点は「大森の恐竜」である。最後はリドルストーリー。どっちを選択したんだろう!?
- 「たたかえ、よりきり仮面」…スーパーの屋上で開催している戦隊ショー。1日3回公演の休憩中、何者かによって主役の着ぐるみにガムが貼られて…。伏線が丁寧に張られているので、真相は分かりやすい。しかし途中で幾つか出てくる推理がどれも一理あって飽きない。動機としては納得いくが、こういうテレビ番組ではヒーローはイケメン俳優が変身する設定が多いのではないだろうか…?
- 「トレジャーハント・トラップ・トリップ−宝探しの怪しい旅−」…6人の老若男女が協力して松茸狩りをしている最中、それまで集めた松茸の1/3が何者かによって持ち出された…。松茸という小道具が面白い。ある閉ざされた山中での犯罪なのに、妙に生活感が漂う。この短編だけはラストが暗くなって終わる…(笑)