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のはなしに?カニの巻? (宝島社文庫)

のはなしに?カニの巻? (宝島社文庫)

「アウトセーフ」の話から「んまーい!」の話まで全86話。どこから読んでも楽しめます。あっという間に読めます。奇声を上げて過度にダメな人を演じているようにみえるラジオの伊集院とも、無駄に汗をかきながらニコニコして過度に良い人を演じているように見えるテレビの伊集院とも違う、面白い事物を誠実に伝える「のはなし」の伊集院が贈る珠玉のエッセイです。本人撮りおろしの“お宝”写真付き。


「のはなしに」の話
全体の感想は「前作」とほぼ一緒。ラジオリスナーの私には初耳の話は少ないけれど、テレビ・ラジオとは違う、白でも黒でもない伊集院光色に光り輝く伊集院光がここにいる。「まえがき」にも、「そして、新たに『のはなし』の伊集院光というのが出てきました。ラジオともテレビとも少し違う伊集院光だと思います」との本人談があるが、それは恐ろしいほど的確な自己(自書)分析。さて第三の伊集院光よ、『のはなしさん』の準備は早めに取り掛かるんだッ(笑)!
待望の第二弾。待ちに待たされ待ちぼうけの第二弾。加筆・修正作業に2年もかかった第二弾。その理由は「あとがき」によると「迷惑かけスパイラル」のせいらしいが、このスパイラルに陥るのも伊集院さんらしい。生き方が不器用というか変則的完璧主義というか。待たせたからにはそれ相応の質の高さを、という自分(の)勝手なハードルの上げ方は私も大いに反省しなければ…。
新たな伊集院光、と本人が仰ったからではないが、本書はラジオでのトークとはまた違うエッセイとしての面白さが随所に垣間見られた。大いに笑う部分もあれば共感や郷愁を覚えるもの、果ては読了後に苛立ちやモヤモヤを残すものなどなど様々な感情を読者の胸に呼び起こす。それってもう、名エッセイの域に達しているのでは!?と言えるほど。読み易くも読み応えのある一冊。
伊集院さんという人は、「人に自分を良く思われたい」という自意識よりも「人に自分という人間を誤解されたくない」という意識の方が強い人なのだろう。ただ誤解を恐れるあまり空回ってしまったり、自分の信念が故に自縄自縛に陥らせたりしている。ちょうど連続している「人として」「ひどい世の中」の話は、そんな伊集院さんの遣る瀬無い気持ち満載のエッセイ。気はやや弱いけど自分の道理や価値観はしっかり通したいから、懊悩したり攻撃的に口撃したり。しかも悪いのは相手なのに、ウジウジの自分や攻撃的な自分への自己嫌悪ダメージはしっかり自分で受けてしまう。自分で決めたルールに苦しみ、世界の居心地が悪くなるのは子供の頃からの特徴らしいが、私はこういう伊集院さんの不器用な(屁)理屈家の一面も好きです。伊集院さんの姿を見て私も「大丈夫なんです」と思えるから。
好きなのは「粗大ごみ」の話。ソファへの徹底した擬人化、というか擬プロ野球選手化が素敵な一編。伊集院さんなりのソファへの愛着を感じる。全編通じてのMVPはやっぱり愛妻と愛犬(MVD?)。いつも負のスパイラルに陥りがちで心が折れそうな伊集院さんをしっかり支えて下さってありがとう。お陰で『のはなしに』を読めました。「プロポーズ」の話ではないが、100年先も幸せでありますように。あと、数回しか登場しないがTBSの竹内香苗アナの名前にニヤリ。

のはなしに   読了日:2010年01月25日