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グラスホッパー (角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)

復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。それぞれの思惑のもとに、「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説!


伊坂幸太郎の描く世界は結構、残酷なのかもしれないと認識を改めた。確かに「オーデュボンの祈り」では殺し屋・桜や暴力警官・城山、「ラッシュライフ」では人体解体が出てくる。そして、どの作品でも出てくる若者は利己的で無慈悲だ。しかし何となく、伊坂さんはライトな小説を書く人だと思っていた。物語が「軽い」のではなく、語り口や心持ちが「軽い」。だから物語が深刻にならず、どこか陽気な雰囲気があって、騙された時の爽快感がある。しかし、今回は残虐な描写が多く、出てくる人も事も社会を絶望する手前、ギリギリの感じ。一言で言えば、ライトなへヴィー。いや、ライトに書いてあるからこそ重く響いてくる。社会を延々と嘆く新聞よりも、誰かが呟く一言の諦めの方が胸に届くものだ。ジャンルも(狭義の)ミステリではなかったし。同じ作風しか書けない作家さんも嫌だけど、今回は作風への違和感とミステリじゃ無かったのがあまり評価を上げなかった点かな。
物語は、視点が3つ変わりながらも話の流れが途切れることなく続くのは見事。違う事をしているはずの3人なのに、1人の視点から他の2人の行動が分かるようになっている仕組みは伊坂さんの構成力のすごい所。ただ逆に伊坂さんだからこそ私がハードルを上げている事も確か。丁寧な伏線にはすぐ気づかされちゃうし。だからその上をいく展開が欲しかったけれど、今回はミステリではないので無かったし…。さすがにラストへの伏線は分からなかったけれど。クライマックスは緊張感がマックスだったんですが、やり場の無い悲しさや不満があって好きになれませんでした。殺し屋とはいえ彼らは人間的であったし、何よりも同類であったし。あと、あのラストの一行…。危険極まりない一行。えぇ最後で!?って感じ。これは、どう解釈していいんですかねぇ。読み返してみるとあの人はこう言ってるけど…。えぇ!?

グラスホッパー   読了日:2005年05月03日