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ぶらんこ乗り (新潮文庫)

ぶらんこ乗り (新潮文庫)

ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。もういない、わたしの弟。天使みたいだった少年が、この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。残された古いノートには、痛いほどの真実が記されていた。ある雪の日、わたしの耳に、懐かしい音が響いて…。物語作家いしいしんじの誕生を告げる奇跡的に愛おしい第一長篇。


たった数ページで魅了される本がある。本読みとしての直感が囁く。この本、すごいよって。たった数ページで既に完成された世界がある。本読みとしての幸福。この作者すごい。予感は実感になり、心は大きく揺れるぶらんこになる。
残念ながら私に分かるのはこの物語とこの作者がすごい、という所まで。どこがどうすごいのか、私の文章力では表現できそうにない。感覚として分からない箇所だってある。でも、この心の揺らぎがこの物語の本質だとも思う。幻想的なのに残酷で、温かそうで冷たくて、笑える場面ほど泣きそうになる。名付け難い感情がどんどん胸に押し寄せる。その受ける感情のふり幅こそ、作者がぶらんこ乗りの達人である事の証明であろう。特に、弟の書く作中のおはなし、これが非常に面白い。おはなしの向こう側にいる作者の想像力の素晴らしさに感動しました。改めて文章の懐の深さを思い知った。文章から見える風景・感覚の独特の美しさに★4つです。物語が始まってすぐに完成された世界が提示されて、その世界が最後まで在り続ける。小説には情報の蓄積によって後から世界が出来上がるものが多いが、この小説は最初からバッと完全にこの世界が広がっていた。
物語は最初から不穏な空気・冷めた空気を持って始まる。弟の声のこと、弟の不在。でも、この物語には常に温かさがある。それは弟と私、家族との関係であり行動である。特にラスト付近の家族それぞれの行動は、胸が熱くなった。悲しいほど溢れる愛がそこにはあるのだ。確かに繋がっている手がそこにはあった。例え一瞬だけでも全身全霊を以って手を繋ぎたい人、貴方にはいますか?
サーカス・空中ぶらんこ・引力(あちらでは重力)で連想したのは伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』。そういえば、あちらも言ってみれば家族の話ですね。本のタイトルそのものでは奥田英朗さんの『空中ブランコ』を連想。こちらは笑いっぱなし。

ぶらんこ乗りぶらんこのり   読了日:2006年08月25日