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作家小説 (幻冬舎文庫)

作家小説 (幻冬舎文庫)

ミステリよりミステリアスな作家という職業の「謎」に本格ミステリ作家・有栖川有栖が挑戦。怯える作家、悩む作家、壊れていく作家…。ミステリでコメディでホラーな、作家だらけの連作小説。


同じ事を向こうにも書きましたが、東野圭吾さんの『超・殺人事件』に似ていると思った。この2作品を読む間隔が1週間ぐらいなのも原因ですが、やっぱり似た設定。しかし、こちらはタイトル通り「作家」の「小説」になっていて、作家自身だけに焦点が当たっている所が違う点。作家という職業の業みたいなモノが綴られています。全編、それなりに楽しいのですが、いま一つな感じも否めない。最初につけた評価は5点です。オチが弱い(怖い)のかも。うーん、どうも有栖川さんに厳しい私…。

  • 「書く機械」…いま一歩、大成しない作家に対して編集者が持ち出したのは、出版社の秘密兵器「書く機会(ライティング・マシン)」だった。上述の「超・殺人事件」に出てくる「ショヒョックス」の逆バージョンだ。こちらは飽くまで人力ですけど。
  • 「殺しにくるもの」…ある作家にファンレターを出す女子高生と連続して起こる殴殺事件が交互に挿入される物語。ミステリのミッシングリンクは何なのか?みたいな作品。ホラーとして面白い。貞子っぽいけど。後味悪いよ…。
  • 「締切二日前」…タイトル通り締切二日前になっても原稿が書けない作家の苦悩。訳ありの雰囲気を充分に楽しめた。最後の10行は逆転に次ぐ逆転。小ネタ集は今だったらトリビアに出せるだろう。悩みは有栖川さん自身ともとれる。
  • 「奇骨先生」…高校の近所に住む作家を訪ねた図書部の男女2人。だが作家の態度は何か不機嫌に見える…。結末は好きなんですが、途中に挿まれる切り貼りしたような出版界の現状の描写はいらないと思う。冷めてしまった。
  • 「サイン会の憂鬱」…自分の地元でサイン会を開催する事になった若手の作家。だが訪れるのは一癖も二癖もある人たちばかりで…。地元のサイン会で作家が一番気にしている事の正体が怖い。考えるほど背筋の凍る結末でした。
  • 「作家漫才」…問題作。舞台上で繰り広げられる作家漫才。小説漫才とも言える。文字にして初めて面白い漫才。面白くないんですけどね…。売れないね、この人たち。会話文だけで構成されるのは「もつれっぱなし」と同じ。
  • 「書かないでくれます?」…久しぶりに会った作家は何かに悩んでいる。彼の悩みは、ある人物の失踪に自分が関わっているかも、という事だった。序盤の「雪女」の話との繋げ方が良かった。モチーフを上手く昇華していると思う。
  • 「夢物語」…意図的に夢を見られる器械に幽閉された作家が見る夢の舞台は、創作の無い国だった…。創作の無い国という創作された設定を読むという二重構造。創作という力がある限り私たちは無限の物語に触れられるであろう。

作家小説さっかしょうせつ   読了日:2001年12月26日