《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

男たちは彼女が差し出す手に惚れ、ヒロインは一歩を踏み出した男性の笑顔に惹かれる。

てをつなごうよ 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
目黒 あむ(めぐろ あむ)
てをつなごうよ
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

小豆と美月がお互いに意識しているのに気づき2人の背中を押してあげた千花。自分の小豆への想いは押し殺したままで──。一方、自分の気持ちを自覚した小豆と美月。ついに2人でデートに行くことになりました。少しずつ距離を近づけていく中で、想いを抱えたままの千花の本音とは…!?

簡潔完結感想文

  • 男性から てをつなごうよ、そして手を握ったまま えがおをみせようよ ×2。
  • ヒロインとは、男たちが散らす恋の火花に気づかないままの存在である。
  • トラウマ解消の涙を流し、彼が叶わないことを願うようになり三角関係成立。

もが「好き」を認めて三角関係が正式に成立する 3巻。

長年、小豆(あずき)を想い続けて、だからこそ こじらせてきた千花(ちか)が小豆と美月(みづき)の関係に参入するまでを描いた『3巻』。そして小豆の差し出した手に男たちが惚れたように、小豆は男たちの見せる心からの笑顔に胸をキュンとさせる。それは美月だけでなく、『3巻』のラストで変貌した千花の笑顔にも小豆は反応している。こうして小豆が どちらの男性を選ぶのか ますます分からなくなり、それは本書が ますます面白くなっていくことを意味している。

思春期以降、ずっと小豆に隠していた素顔を千花が公開。厚塗りの化粧を落としスッピンに!

構成的に面白いと思ったのは、登場人物の立ち位置がコロコロと変わる点。『1巻』では美月が小豆と千花の関係性に入ってきた邪魔者に見えたのに、『2巻』では千花が自分が邪魔者であることを自覚し身を引いた。けれど今回、千花は自分の弱さやトラウマを断ち切り、再度の参戦を決意する。一度は諦めようとした恋心を諦めきれず、不利な状況であっても最後まで戦うことを決めた千花は やはり男ヒロインと呼ぶべき存在である。

今回、この作品の特殊性を見たのは千花のトラウマというべき問題をヒロインの小豆ではない別の女性が解消している点だった。彼女の存在があったから千花は自分の弱さと向き合うことが出来て、再び立ち上がり、小豆への気持ちを隠さないで生きる本当の人生を歩き始めたと言える。雨が上がったら晴れ上がるように、一度 涙を流すことで千花は本物の笑顔を手に入れた。

これまで小豆が千花を異性として意識しなかったのは、千花が ずっと平静さという仮面をつけて接していたからかもしれない。千花の素顔と彼の発する熱に初めて触れ、小豆は異性としての千花に初めて出会う。

千花が完全体となったことで、それぞれ自分の気持ちに気づいた小豆・美月との三角関係が正式に完成した。ここまでも十分 面白かったが、恋愛バトルは ここからが本番。しかも小豆は男たちが自分を好きだということに気づかないまま、という無自覚な姫ポジションというのが美味しい役どころ。彼女が悩んだり選んだりするのは もう少し先だろう。


花が自分の全てを曝け出すことが出来るのは、年上の女性の前だけ。男性のトラウマの解消というヒロインの特権を この女性が担っている。

小豆の恋心を発見した千花が、身体を重ねてきた全てを知っている年上の女性に そのことを相談し、そして自分はどうやっても小豆から離れられないことを悟って、彼は変わり始めた。小豆を応援する振りをして一層 落ち込むなら、自分が前に進まないと出口は見えない。特に美月が正々堂々と、たとえ千花が彼氏であったとしても千花と向き合ってきた勇気と眩しさを見たら自分だけ逃げ回ることの卑怯さを より思い知ることになった。

そして この女性の前で涙を流せたことは、千花のトラウマの消失と言える。自分の両親の離婚を止められなかった後悔、そして願っても叶わないことがあると知った体験があったから千花は臆病になってしまった。だが誰かに頼り、話を聞いてもらい、方向性を示してもらうことで、千花は一歩を踏み出し始めた。身体の関係に注目が集まるが、やっぱり この年上の女性は千花の頼れる存在で、彼女の存在があるから千花は自分と向き合えた。それは美月における小豆、小豆における千花のように目指すべき目標やヒーローのような存在ではないか。

千花にとって性欲の発散という目的があったとはいえ、その女性の前で色々な自分の恥部や欲望を見せたからこそ、千花は弱さも涙も見せられたのではないか。それが美月にも負けないぐらい生き方が不器用な千花の、人に頼る方法だったのかもしれない。

さて誰かに勇気を貰って変わり始める3人の男女。彼らの恋愛は ここからだッ!


花のついた小さな嘘の効果もあって、少しずつ自分の恋心に気づき始めた小豆と美月。そして彼らの弟たちは姉・兄の様子がおかしいことを訝(いぶか)しむ。
姉や兄が悩む その症状は恋わずらいだろうとクラスメイトの女子に教えられた大豆(あずき)と流星(りゅうせい)。そこで彼らは いつもは迎えに来る姉や兄の学校に自分たちが出向き、潜入捜査をすることにする。これは はじめてのおつかい や壁ドン調査をした高校生たちと逆パターンである。まぁ 高校生組の調査が失敗したように、小学生組の潜入調査も千花に発見され即 終了となるのだが…。

その日、美月は決意を固めて千花を呼び出し、彼に自分の小豆への想いを正直に伝える。なぜ小豆ではなく千花を呼び出したのかというと、美月は小豆と千花が交際していて、これから自分が彼らの関係に介入すると考えていたからだった。だから「彼氏」である千花に正々堂々と宣戦布告をしたのだった。略奪までは考えていないが、千花にも正直でありたいという美月の誠意だろう。だって心理テストによると美月の本当の「好きな人」は千花なのだから。それは恋心ではなく同性として尊敬する気持ちなのだろうが、嘘をついて関係性を持ちたくないというのは彼の本音で間違いないと思われる。

そんな美月の一種の告白だったが、千花から小豆とは交際していないと意外な事実が語られる。千花は力業で美月に自分たちの関係を訂正させ、「幼なじみ」という枠に自分の位置を戻そうとする。それには千花が自分の恋心を隠したいという気持ちがあっただろう。だが そんな千花の誘導に美月は乗らず、千花は小豆が好きであることを しっかりと見抜く。だから千花に これからは「ライバル」であることを伝えるのだった。


豆は美月を意識するあまり、彼を遠ざける。それは美月にも勘付かれるほどの極端なものなのだが、小豆は もはや自分の平常心が分からなくなっている。避けられているようで美月は小豆と手を繋いで気持ちを合わせようとするが、今の小豆は美月と手を繋ぐことは意識し過ぎて出来ない。それでも避けてはいないことを美月に伝え、彼を安心させる。そのホッとした笑顔に小豆の胸は より高鳴る。

弟たちとの帰り道、大豆から手を繋いで帰ることを提案される。小豆は美月との手繋ぎは やっぱり出来ないのだが、指一本を差し出し彼と接触する。指一本ずつ絡まり合うのは かえってエロティックな気がしてならない。


いては小豆による美月の生活態度の潜入調査。大豆の家庭訪問で学校での弟の様子を聞いた小豆は、学校での美月の様子を知らないことに思い当たり、彼の様子を観察することにした。好きの形は違うが、おつかいの尾行 も壁ドンも潜入調査も相手のことが気になるからすること。

そこで発覚したのは美月が休み時間に誰にも話しかけられず本を読み ご飯を食べているという孤独な状況。どうやら小豆は過去の体験で孤独の辛さ・恐怖を知っているために美月の力になりたいと思った。そんな小豆の様子を観察している千花は、彼女の、悲しみを抱えている人に手を差し伸べる優しさが変わらないことを認め、簡単には恋心が消せないことを痛感する。

だが小豆が助けなくても美月には友達がいた。その友達が この日、休み時間の度にクラスを出ていたため孤独に見えただけだった。流星との関係もそうだが、美月は ちゃんと自分の力で周囲との関係性を構築できている。それを確認できたので小豆の調査は心が満たされて終わる。

そうして千花と別れて、1人で歩く小豆の後ろ姿を美月が見つけ声を掛ける。美月は小豆が自分のことを知ろうとしてくれたことに嬉しさを隠せず、そして小豆は その美月の笑顔を見て、彼から誘われていた外出の提案を受諾することにした。

手を繋いで笑顔を見せることが恋愛開始の合図。1巻の中で2人の男が輝く笑顔を見せる。

そらく美月は弟たちを含めたグループでの外出を念頭に提案していたが、大豆の配慮によって小豆と美月の2人だけの「デート」となる。
この日、2人は団地とは別の場所で待ち合わせ、デートを楽しむ。デートで すべきことがよく分からない小豆だが、美月はちゃんとプランを立ててきた。デートの教本を参考にした美月のプランだが、彼の天然が発揮され、映画鑑賞でゾンビ映画を選んでしまう。これは小豆が苦手なジャンルだが、それがスキンシップや その後の会話のネタになり悪くないチョイスとなる。

その後も一緒の時間を2人きりで過ごすだけでデートは成立していく。小豆は時間があっという間に過ぎるほどに楽しいと思う。けれど美月といながらも、街で目にする物の中に千花を思い出したりもする。


んな彼女の心の動きを知った美月は彼らの歴史を聞き出す。2人は生まれた時からの仲で、一緒にいるのが当たり前。学校生活でも1度しか違うクラスにならず、ほぼ同じクラスで過ごしてきた。それは もう互いの存在が空気のようだと小豆は語る。そして唯一 クラスが離れた中1の時に千花は小豆を助けてくれたヒーローになったらしい。

その話に美月は自分の不利を思い知る。話をしていると2人は千花が あるアパートから出てくるのに出くわす。この日は千花は部活だという話だったが、明らかにプライベート。千花の嘘に小豆は疑問を感じるが、それよりも千花は小豆が美月と2人きりで出掛けたことに衝撃を受けただろう。平静を装うことに成功しているが、千花もまた美月のライバルとして立ち上がることを決意しているように見える。

彼らは小豆の前で火花を散らすが、小豆は自分を巡る戦いだとは思ってもいない、という鈍感ヒロインで 居続ける。


夕は流星の誕生日。
恋愛以外の千花のことには敏感な小豆は、「デート」の日以降、また千花の態度が変わったことを感じ取る。表情が柔らかくなった、というのが小豆の印象なのだが、これはライバルとはいえ美月に小豆への恋心を隠さなくなったからだろう。これまで小豆と「幼なじみ」でいるために張り詰めて、自分の気持ちを殺してきた千花だが、ある意味で美月を頼って、彼には隠し事をしなくていいという状況が余裕を生んだのかもしれない。

それは一緒に買い物に出かけた時も同じ。通り雨に遭い、1つの傘の下に肩を寄せ合う時も これまでのスキンシップと違う熱を小豆は感じていた。これまでの千花は熱を発さないように、他(の女性)で発散していたが、美月というライバルの出現によって、彼の身体は小豆への熱を少しずつ帯びている。

親が離婚した時から何も望まなくなった千花だが、今年の七夕では心に願うことがある。自分に願望が再び宿ったことを自覚する千花は、ヘラヘラとした笑顔ではなく、輝く笑顔で小豆と向き合う。小豆は美月の笑顔に惹かれたように、千花の本当の笑顔に接して、彼にドキっとする初めての体験をする。

彼に対する特別な感情が芽生え始めてしまったら、もう気軽には てをつなげないよ。

てをつなごうよ 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
目黒 あむ(めぐろ あむ)
てをつなごうよ
第02巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

小豆の後押しもあり少しずつ兄弟らしくなってきた柊美月&流星兄弟。さらに小豆と美月の姉兄同士もすっかり仲良しになりました。そんな様子に千花はなんだかモヤモヤ。なんせ小豆に12年間片想いをしてきたのですから。さらに千花は、小豆のある変化に気づいてしまいます──。

簡潔完結感想文

  • 風邪回・壁ドン・お泊り回とエピソードは定番だが恋愛未満の感情で飽きない。
  • 美月は小豆を、小豆は千花を頼る。だから千花にも頼る人がいるのは当然なのだけど。
  • 恋愛には鈍感だが幼なじみの変化には敏感な小豆。その小豆のために千花は…。

ヒロインによる、悪役令嬢からの恋愛応援団のクラスチェンジ、の 2巻。

相変わらず いい意味でフワフワしている作品だが、その裏側にはヒリヒリとした感情が隠れている。少女漫画の面白さは、その人の感情の揺れ動きの大きさで換算できる部分があると思うが、この『2巻』は三角関係の3人とも心が大きく動いていて、少しも目が離せなかった。自己紹介的な『1巻』を経て『2巻』は物語の面白さが飛躍的に増している。

そして各エピソードの技巧も冴え渡っていた。例えば「壁ドン」にまつわる話では、1話の中で3人4パターンの壁ドンを行わせ、その行為によって彼らが抱く恋心を示しているのには唸った。
またタイトルになっている「手を繋ぐ」という行為でも恋心が示される。ヒロイン・小豆(あずき)は、子供の頃 千花(ちか)の手を繋ぐことで彼を安心させてきた。そして異邦人で不慣れな環境に四苦八苦する美月(みづき)に対しても手を握ることで前向きさを取り戻させていた。この近距離でのスキンシップによって男どもは あっという間に恋に落ちてしまうのだが(笑)、これまで小豆が男性の手に触れられたのは その人を異性として意識していなかったからだということが今回 明かされる。後半に小豆が思わず その男性の手を離す場面があるのだ。それが小豆の恋心の芽生えとして描かれ、そして その後で もう一方の男性の手は 今も気軽に握れるという残酷な描写に同情せざるを得なかった。

そして男性たちが見たくない場面ほど見てしまうというのも物語を感傷的にしている。相手を お邪魔虫だと思っていた人こそが、お邪魔虫だったという逆転劇も見事だったし、それを自覚した彼が一芝居打って身を引こうとするのが痛々しくも切ない。この男が身を引く美学は前作『ハニー』でも見られた気がする。作者はヒロインだけでなく男性側にも寄り添った描写が多いように思う。

この『2巻』で物語が動き出しただけでなく、表現にグッと深みが出てきた。


ないのは男ヒロインで お馴染みの千花だろう。『2巻』終了時点で唯一 恋心を明確に自覚しているのは彼だけで、そして状況は彼に喜ばしくない方向に動き始める。叶わない恋をしている彼は やっぱりヒロインである。
ただし女ヒロインではないため、千花は色々と悪いこともしている。例えば新参者である美月に対しては威圧や牽制を忘れず、その様子は まるで「悪役令嬢」である。美月に対して小豆との年季の違いを見せつけたり、わざと彼の前で2人の中を見せつけることで精神的なダメージを与え、間接的に彼が小豆を諦めることを願っているように見える。

そう考えると美月もまた男ヒロインのように見えてくる。まるで庶民が上級国民の通う学校に入り、そこで千花から文化や身分の違いを思い知らされるという健気なヒロインポジションである。新しい環境で何もかも不慣れな美月に優しくしてくれるのは、自分よりも上手く家庭内のことを こなしているスーパーヒーローの小豆。小豆への憧れが やがて恋になっていく。不器用で欠点も多いヒロイン・美月が少しずつ成長し、小豆の心を射止めるまでを描くという男女逆転の物語も容易に想像できる。

さて話を千花に戻すと、彼が男ヒロインだからこそ出来る行動がある。それが他の女性との性行為である。これを少女漫画の女ヒロインでやったら読者から嫌われるばかりだろう。流行の悪役令嬢モノでも一発逆転が面白いのであって、奔放な性関係が出てくることはないだろう。千花は小豆と永遠の関係が欲しい。だけど恋愛が永遠ではないことは両親の離婚で学んだ。だから彼は永遠に「幼なじみ」の地位でいることを望み、その関係を壊さないために他の女性を求める。

この行動を千花が繊細過ぎるからと考えるか、女性を ただの性欲の捌け口として考えていると捉えるかは読者の判断によるだろう。

意外と強がり少年なのは千花も同じ。頼る人が居たから千花は自分を律することが出来た。

私が『2巻』の内容から考えたのは「誰かに頼るのって大事」という言葉だと思う。『1巻』でも書いたが この3人は家庭環境の皺寄せが子供たちに及んでおり、それぞれに苦労を背負っている。
不慣れな環境で不慣れな役割を果たさなければならなくなった美月が頼るのは小豆。彼女の存在があるから美月は兄として人間として成長していく。そして小豆が頼るのは千花だろう。何でも話せて、何でも出来る千花がいるから小豆は健やかでいられる。

では、千花は誰に頼るの?と考えた時、それが身体を重ねる女性なのではないか。年上で、千花のこと、彼の恋愛感情を熟知している人がいて、彼女に性欲も葛藤も発散できるから千花は小豆の前で健やかにいられたのだろう。話を聞いてもらうために この男女は慰め合っているように思えた。
女ヒロインなら親友に相談すれば済むことかもしれないが、男ヒロインは弱さを見せることが なかなか出来ず、利害関係のない人と身体を重ねることで初めて 弱さを含めた自分の全てを曝け出せたのではないか。性欲の発散という最悪な動機もあるだろうが、その行為をしないと自分の弱さを話せないのが男ヒロインの面倒臭いところのように思う。


月は入学以来、2年生の教室に出向き、小豆と一緒に弟たちを児童館に迎えに行くのが日課となった。弟というオプションで一緒に行動する美月に嫉妬してか、千花は美月の前で これ見よがしに小豆とスキンシップを見せ、圧力をかけてくる。

そんな2組の きょうだい で一緒に歩く帰り道、豪雨に遭い、しかも美月が家の鍵を忘れたため、男性陣は お風呂に入れられる。小豆は恋愛事に関しては鈍感だが、生活全般の技量は高い(あまり賢くはないみたいだが)。そんな小豆のテキパキとした行動に美月は感心するが、小豆も最初から うまくできたわけではない と彼に伝える。困った時、キャパシティをオーバーしてしまった時に頼ることを覚えるのは大事、と小豆は実体験からか そう彼に伝える。
確かに高校生組は自分のやるべきことや 出来ることを しっかりやっている。小豆は家事と弟の面倒を担い、そして千花も部活とバイトを両立している。千花の苦労は作中で あまり描かれないが、彼がバイトするのもシングルマザーの母親に頼らないという自立心と考えるのが妥当だろう。
そして美月は急に母親が家を出ていって、引っ越しとなり環境と立場が変わった。そんな美月の混乱を、彼と似たような境遇である小豆は分かってあげられるのだろう。

風呂回なので着替えのハプニングが起こる。ただし小豆が美月の上半身を見てしまう、という比較的ダメージの少ない状況。ただ美月は自分の身体の細さを指摘され随分と傷ついているように見える。立場が逆だったら問題というか、今回の小豆の発言は貧乳を指摘するようなセクハラ発言に感じられるが。


母ヒロインの小豆は男性陣の お風呂を優先したため、自分は身体が冷え、熱を出してしまう。その異変に気づくのは千花だけ。これは過ごした時間の長さのある千花が優位なのだが、美月は自分が気づけなかったことに落ち込む。そして落ち込むのはなぜか考える。
そして発熱の責任を感じて、千花を先に学校に行かせてから小豆の看病に動く。自分の失敗を返上したい気持ちと、千花に負けたくないという気持ちが混ぜ合わさっての行動だろう。

風邪回となり美月は小豆を抱え上げベッドに運び、おかゆ を作り、彼女に食べさせる。そして小豆が担う家事を肩代わりすると意気込むが、体力のない美月は疲れ果てて寝てしまう。小豆を看病するはずが、一眠りして回復した彼女に、寝ている姿を発見され、ブランケットを掛けられてしまう。


月たち柊(ひいらぎ)兄弟が引っ越してきて1か月。小豆は美月と多くの時間を過ごすことで彼の長所や短所を知り、「ほっとけない子」と感じ始めていた。

そんな時、大豆(だいず)が学校で壁ドンに関する話を小豆に秘密したため、小豆による壁ドン調査が決行される。『1巻』の はじめてのおつかい の時もそうだったが、ちびっ子組のお陰で話が回っている。

この調査中に小豆は美月に、千花は小豆に壁ドンをすることになるのだが、それは まるで恋の矢印のようである。しかし大豆が美月によって足止めされている間に聞いた流星(りゅうせい)からの情報によると、大豆は女子に壁ドンされたので、小豆は千花に壁ドンをする。そこで照れてしまう千花。これをされた相手はトキメクのが通常の反応。
もしや大豆も!? と小豆は大豆に恋の相手がいるのではないかと動揺してしまう。そして その勢いのまま大豆に恋愛禁止を薦めたため、流星の裏切りがバレてしまう。おつかい回といい、大人組(美月と小豆)は動揺で失敗している。


ドンとは好きな人に やられたらドキドキするもの。小豆は大豆にされてもドキドキしなかったのは好きの種類が違うからと説明するが、その好きの違いが分かるのは高校生組で千花だけ。だから彼らの3回の壁ドンでドキドキしたのも千花だけなのである。

だが恋の好きを理解しつつある美月は、その夜に忘れていたお裾分けをしに来た小豆に対して壁ドンをして彼女にドキドキしてもらおうとする。それは間接的な告白に近いもので、小豆も「ほっとけない子」以上の感情があるのではないかと自分の心を探り始める。壁ドンを通して、彼らの現在地をする非常に まとまった回だと感心する。


ールデンウィークに突入し、いつもの5人と小豆たちの両親の計7人でコテージに宿泊する。ちなみに美月たちの父親と千花の母親は誘ったけれど仕事の都合で来られなかった。もし この独身同士が出会っていたら、恋が始またりしたのだろうか、と考えてしまう。

千花は今年は美月と流星という異分子がいることが迷惑。そういえば この恒例の旅行、大豆が誕生しなければ継続できなかったのだろうな、と思う。彼らが1人っ子同士の男女であり続けたら、さすがに高校生になったら小豆の両親も千花を誘わないだろう。大豆という安全弁があることで千花は助かっている部分があるだろう。中学生以上になったら少なくとも寝室は男女で別れるような気がする。

アスレチック中に危険な行為をしてハプニングが起きたため小学生組が泣く。怪我はなかったが彼らは その状況に泣いてしまう。大豆は小豆が、そして流星は美月が慰め、そして少しだけ叱る。特に美月は流星のために不慣れなアスレチックを攻略して彼の元に行き、頭を撫でて安心させる。そんな美月の新たな一面を見て小豆は嬉しそうな顔をし、その小豆の顔、そして抱きつつあるであろう感情に千花は内心で大きく動揺する。


うして去年までは変わらずにいた旅行の風景が、今年は一変する。更に小豆は美月に手を触れられると無意識で思わず手を引いてしまう。『1巻』では距離感を無視して「てをつなごうよ」となっていたのに、今はもう 彼と手を繋げない。それは嫌いではなく、その反対の感情が生まれつつあるからだった。

その場面を目撃し、小豆の内心を読み取った千花は内心の不安を押し殺して笑顔でいるのだが、その笑顔に違和感を持つのが小豆だった。

夜になり、子供組は一緒に寝る。しかし今年は男4人の中に小豆が1人。しかも同年代が2人に増えたため、さすがに小豆たちの父親は警戒している。小学生組は疲れ果てて早々に寝てしまうが、動揺を抱える千花は眠れず外に出る。そして美月の手を意識した小豆も眠れず、千花が出て行ったことに気づく。

小豆は千花の変化がいつ起こったのか的確に指摘する。小豆は千花の変化は分かるのに、自分の気持ちや、千花の恋心には鈍感なまま。だから千花は自分の気持ちを分からせようと彼女の顔に口を寄せるが、今の3人の関係性において邪魔なのは 他でもない自分であることに気づき、キスをしないまま気持ちを殺す。


花は ずっと小豆への気持ちを殺してきた。特に小豆を女性として意識して、自分の性的な欲求を意識した後は その気持ちを抹消するために、他の女性で発散をしてきた。3歳年上の彼女は どうやら千花のことも小豆のことも、彼らの関係性も知りながら身体を重ねているらしいことが読み取れる。

そして千花が臆病であるのは、自分の両親たちの恋愛や結婚生活が終わったことが強く影響している。永遠がないかもしれないのなら、小豆に気持ちを伝えないまま、自分の中で その気持ちを育めば壊れないと持っている。そのためには自分は「幼なじみ」であり続けようとする。

それは今回も同じだろう。美月という「お邪魔虫」が出てきたからと言って、彼に対抗するのではなく、自分が「お邪魔虫」として退却することで小豆との関係性を永遠にしようとしている。
千花はキス未遂を苦し紛れに誤魔化し、そして嘘の中に本音を紛らせて その場を やり過ごす。小豆は少しの違和感を抱きつつも、千花から繋がれた手を繋ぎ返す。そして その遠慮のなさは小豆の意識に千花が上がっていないという証拠でもあり、繋がれた手は あの温かった手と同じなのに、千花には涙が出るほど悲しさが溢れてくるばかりだろう。

そして美月は2人の親密そうな後ろ姿を目撃する。

好きな人と手を握るのは極上の幸せのはずなのに、その行為で恋愛対象外の自分を悟る。

日は雨で室内で皆で過ごす。小豆は千花の異変を察知してか大豆最優先の方針を変える。そして昨夜の2人を目撃した美月も2人と距離を取るような行動に出る。千花は自分が邪魔者なのに、彼らに気を遣われていることが いたたまれない。あの小豆が大豆よりも自分の状態を気にしてくれることは喜ばしいが、小豆に気を遣われることは本意ではない。

だから小豆に「いつも通り」を要求するが、小豆は千花を最優先にしたい、と千花に殺し文句を言ってくる。こういう小豆の心に千花はずっと惹かれているのだろう。そこで千花は小豆にゲームを挑み、彼女に勝ったら想いを全て伝えるけれど、負けたら自分が邪魔者であることを認めることにした。

結果は千花の負け。だから悪役令嬢ではなく2人の恋をさり気なく応援することにした。そして彼は帰りの電車内で心理ゲームを2人に出題し、そして答えを細工して2人に恋心を自覚させるように仕向け、関係性の進展を促す。それが千花が「幼なじみ」として出来る精一杯のことなのである。男ヒロインは切ない。