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少女漫画と小説の感想ブログです

オレのことを穴があくほど見てくる 転校生のことが段々と気になって仕方ない。

猫田のことが気になって仕方ない。 10 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
大詩 りえ(おおうた りえ)
猫田のことが気になって仕方ない。(ねこたのことがきになってしかたない。)
第10巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

素顔が見えないままでも、猫田に気持ちを伝えると決めたみっきー。猫田の答えは? そして…!! 誰も知らないクライマックスへ、感涙の完結巻!!
【収録作品】星屑より愛をこめて

簡潔完結感想文

  • 猫田に気持ちを伝える恐怖。好きな子がいるかも、ましてや本当の顔も知らないのに…。
  • 猫田への告白。どんな顔であっても「猫田」という人が大切だという揺るぎない確信。
  • 番外編 side 猫田。猫田の顔が猫じゃないという違和感。元に戻ってくれとすら願う(笑)

猫顔の猫田と別れるなんて嫌だよーとワガママを言いたくなる最終10巻。

本編は半分以下の約80ページ。
これなら、もたついていた感じが否めない『8巻』『9巻』を少しスリムにしてくれれば良かったのに…、と思わないでもない。
本誌の掲載や単行本化にあたっての諸事情があったのだろうけど、とても面白い物語だけに後半の失速は残念なのだ。

しかし、この『10巻』の中盤には人の顔の人田(ひとだ)状態の猫田(ねこた)目線の物語が収録されていて、
それが十分に面白いから、10巻という区切りの良い数字もいいのかなぁ、なんて移り気に思う私です。


本編のメインは何といっても告白。

みっきーが今、現時点での猫田への気持ちを洗いざらい話しています。
しかも自分の身に降りかかった猫田が猫顔に見える「猫変換(勝手に命名)」のことまで!

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みっきーの猫田への最初の告白。「猫変換」が起きていることをカミングアウト。
この告白には さすがの猫田も目を白黒させている(笑)
千砂(チサ)という同じ境遇だったクラスメイトには「猫変換」のことを話していますが、
全く知らない人に話すのは初めてなんですね。

あの みっきーが この2年弱、ずっと自分一人の秘密にしていた事実が凄い。
あまりにも非現実的だから口に出すのも恥ずかしかったのだろうか。

そして、みっきーは自分たちの過去(4-5歳の頃)の出会いにも言及する。
猫田の方は全く勘づいてもなかったみたいですね。


この場面で重要なのは、みっきーが思いを伝える段になっても「猫変換」は解除されていないということ。
読者としては当たり前のように猫田をそういう人種だと思っていますが、現実に即せば、かなり勇気がいることである。

いつもお面を被っている人にプロポーズが出来るだろうか、
ネット上のアバターだけで恋に落ちるだろうか、
人が書く文章に惚れこんだりするだろうか、

…と、書いてて思いましたけど、一度も接触したことのない人なら出来そうな気がしますね。
特にこのネット社会の中では可能性が高くなっていく。

みっきーの好きとは意味がだいぶ違うが、顔も知らないラジオパーソナリティ・小説家・エッセイスト・ブロガーに、
広義の好意を持った経験は私にもあります。
電脳空間という仮想現実に慣れてくると、意外にハードルは低いかもしれません。

けれど現実社会の中で考えると、それを恋と呼べるのか、気持ちが固まるまでに時間はかかりそうですね。

そうか、今更ながら、
同じように素顔の見えない人への感情、壁を一枚隔てた向こう側にいる人への想い、
それが みっきーの猫田への感情なのかと理解が出来た。

オンラインの恋愛は果たして、明確に恋と呼べるのか。

そう考えると確かに、これは恋なのか、人が恋と呼ぶものなのか分からなくなりますね。
一番近くて一番遠い人への想いの正体。
好きなのに自分だけが素顔を見られない恐怖。

もしかしたら本書はネットや仮想空間時代の恋愛を先取りしているのかもしれない。

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大切な人に大切だと思われる至上の喜び。みっきー2回目の涙は嬉し涙。
みっきーの告白は好きという言葉が使われていません。
多分、それが みっきーの現時点での心境なのだろう。

今の自分の気持ちが好きだとか恋だとか言うのか判断は付かないけれど、
誰よりも猫田が大事だという気持ちは絶対である。

ただ猫田の受け止め方に一瞬、不安になったように応えてほしいという気持ちはあった。
だから猫田が好きだと言ってくれた時には喜びと安心が押し寄せている。
そして、気持ちが満たされた時、猫田はもう「ふつー」の顔した猫田になっていた…。


ちなみに私としては猫田よりも最後まで登場しなかった みっきーの父親が気になって仕方ない。
↓の「番外編」では、猫田父まで登場したというのに…。


「猫田のことが気になって仕方ない。 番外編」…
小学6年生で みっきーと同じクラスになってからの4年余りの日々を猫田目線で…。

猫田はスマートに生きているように見えて、みっきーが転校する前後には息苦しい日々もあったんですね。
猫田もまた みっきーと出会って、興味を持って、毎日が少し彩られたのかもしれません。

猫田の素顔は割としっくりきますね。
予想の範囲内というか、作者の画力や画風からするとこんな感じだろうというか。

ただ猫顔の猫田も大好きなので、いっそ そのままでも良かったかも…。

ラストは中学3年生の時点になっている。
めでたく「かっぷる」になっており、学校の敷地内だろうにキスを交わす二人。
何だか急に生々しく思えてきた。猫顔の猫田、帰ってきておくれー(笑)


初出のエピソードとしては小学6年生の頃に、猫田と千砂は一度出会ってるんですね。

そこでハッとしたのですが、みっきーと千砂の「猫変換」って多分、微妙に違うんですよね。
同じ「猫変換」だからと一括してしまってますが、彼女たちが見る猫田の猫顔、
その顔が同じとは限らないんですよね。

みっきーの猫変換は4-5歳の頃に見た公園の猫、
千砂の猫はスーパーの前で会った猫。
その猫をベースにして猫田の顔の辺りに勝手に変換がされている。

それは、その人にもう一度会いたいという願いが生んだ「猫変換」。

または2人が出会ったのは同じ「猫のまほう」を扱える猫という考え方もできますね。
もしくは猫田自身が無自覚の まほうつかい という可能性もある。
考え方はまだまだ色々ありそうだ。

「猫変換」の原因は千砂の例と合わせると解明に近づける。
ただ解除、それも一時解除の方法は謎のままですね。
「友情説」、大事な人だと思った時に解除されているような気がしますが、
数回に亘る一時解除全てに共通する項目はなかったような…。

ここは、もうちょっとだけ合理的な理由が欲しかったなぁ。


「星屑より愛をこめて」…
とあることがキッカケで天体観測が趣味になった14歳のケンタ。
いつものように河原で望遠鏡を覗いていると天から女の子が降ってきた。
彼女は「織姫」と名乗るのだが…。

この短編の主人公も、かつての みっきーのように人に興味がないタイプ。
だが、織姫とのハチャメチャな出会いと、自分の行動でこの星の命運が変わるセカイ系の事例に巻き込まれ、彼はアクティブに行動するようになる。
主人公に主だった恋愛描写はないが、婚約者がいる人を好きになってしまう禁断の恋とも読めなくもない。
感想を書いている今日は2020年7月4日。あと少しで七夕である。

少女漫画で実は2人が過去(幼稚園時代)に会っていた確率が 気になって仕方ない(体感15%)。

猫田のことが気になって仕方ない。 9 (りぼんマスコットコミックス)
大詩 りえ(おおうた りえ)
猫田のことが気になって仕方ない。(ねこたのことがきになってしかたない。)
第9巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

顔が猫にしか見えない同級生・猫田に、特別な気持ちを抱きはじめたみっきー。だけどそんなとき、小学校の同級生・入江と再会。二度目の告白をされてしまった! しかも、猫田には“すきな人”がいるらしい…。はじめての気持ち、伝えられるの? 波乱の第9巻!
【収録作品】聴能力少女クラネ

簡潔完結感想文

  • 入江に猫田に気持ちを伝えるという宿題を出された みっきーは寝不足のあまり倒れて…。
  • 保健室で みっきーが見た夢は子供の頃に会った友だちのこと、そして果たせなかった約束。
  • 自分の中にある気持ちを猫田に伝えようとする中、親からある可能性が伝えられて…。

やっぱり恋には、運命と障害が必要だよね、の9巻。

いよいよ最終回を見据えた大きな展開が繰り広げられます。
これでもか というジ・王道少女漫画を突き進んでいきますね。

実はこの『9巻』は、これまでで一番 動きが少ない。
猫田とも友だちとも行動を共にせず、みっきーの単独行動が多い。
しかも客観的に見れば、何も起こっていないように思われる。
『8巻』で苦言を呈したことが再び起こっているのかと思いきや…。

この巻は みっきーの心の革命のお話です。
まさしく革命です。
幼い頃から みっきーが(意固地に)保持していた価値観が解放されます。
実は(これでも)自分を抑え込んでいた みっきーが変化の時を迎える。
人や物事にドライだった みっきーが流す涙。
それは積み重ねた思い出があったからだった…。


話は冒頭に戻って、少女漫画における恋を盛り上げる2つの要素について。
1つは運命論。
この恋が特別だと演出するには「運命」が必要です。
みっきー(未希子・みきこ)と猫田(ねこた)の運命は過去の出会い。

文化祭の一連の騒動を通じて、自分の中の猫田が特別であることを自覚した みっきー。
その気持ちに気づいてしまっては、入江(いりえ)の2回目の告白にも応えられないことを自覚する。
お断りをしたにもかかわらず入江は みっきーに自分のことを真摯に考えてくれたと感謝を示し、
そして、みっきーにその猫田への気持ちを本人に伝えるように「宿題」を出す。

入江、あんた良い当て馬だったよ…。

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交際を再度 断った入江から、とある宿題を出される みっきー。
猫田に気持ちを伝えることへの重圧に加えて、
猫田から好きな人がいると言われたことを思い出した みっきーは気持ちがすれ違う不安に襲われる。
寝不足と相まって その場でへたり込んでしまい、猫田によって保健室に運ばれる みっきーがそこで見た夢。

それが運命の出会いの時。
実は2人が4-5歳の頃、みっきーが人生2度目の引っ越しをした先で猫田に出会っていた。
たった1回きりの出会い、そして女の子だと思っていた「かなちゃん」。
それが実は猫田だったのだ。
明かされる猫田の名前「猫田 要(ねこた かなめ)」。

夢の中のかなちゃんと、この町に来て以来ずっと隣にいてくれた猫田が みっきーの中で一つに結ばれる。

猫田が猫の顔になる「猫変換」の大きな要因も描かれる。
次の日の再会を約束したにもかかわらずたった1回きりの出会いになったのは、
猫田の母の体調が思わしくなく、当時一緒に暮らしていた祖母に連れられ母のもとに行ったから。


そんなことは露知らず、翌日、風邪を引いた身体をおして会いに行った公園で みっきーが見たのは一匹の猫だけ。
みっきーは その日以来、何度も何度も公園に足を運ぶが、
結局、会えないまま自分がその土地を離れる日が来てしまった。
そして、みっきーは寂しいや会いたいといった感情をその土地に置いてしまった…。

そして、その日以来の再会が、小学6年生の転校初日のあの日だったのだ…。

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果たせなかった約束に出会ったのは一匹の猫。
猫田の得意料理「チャーハン」が意外なところで伏線になってたんですね。

猫田との運命は語られたので、
これで、あとは本格的な「猫変換」の解除だけですね。
いよいよ最後の時が近づいてきております。


そして恋に重要な2つ目の要素が障害。
上手くいきそうな時に恋の障害が訪れるのは少女漫画ではあるあるですね。
事故や病気・留学など小さな恋に大きな波乱を作りがち。

けれど本書の場合、展開としてそれほど唐突ではない。
可能性はずっと示唆されてきたから。
みっきーの人生はそれと共にあったから。

けれど、みっきーの心境を思うと辛すぎる展開だ。

前述の猫田(5歳)との2回目が無かったことが みっきーの性格形成にも大きく影響を与えている。
落胆が大きすぎて、何も期待しない心になってしまったらしい。

だから今までの転校もドライに乗り切ってきた。
そうすることで心を守ってきたのだろう。

だが、今回、転校の可能性を聞いて みっきーの中に湧き上がってきた思い、
それが拒否であり、周年だった。
みっきーの内面の変化を如実に表すエピソードで、
みっきーが弱いところ、涙を流している姿はこちらの胸まで痛む。

毎日が楽しかったから、それを失うのが怖くなる、嫌になる。
諦念を覚えてしまった5歳の未希子と、現在の未希子の対比も美しい。

わがままを言わなくなったことが成長の証ではない、
執念が生まれて、わがままを言えるようになったのが成長なのだ。

それを一番分かってくれるのは、ドライになった娘の変化を間近で見てきた母なのだろう。
みっきー母は理想の母ですね。
そしていつまでも出てこない父。
もしかして みっきーは無意識的に引っ越しの原因になっている父を恨んでいたりするのかな…?
(既に鬼籍に入られてるという私の妄想は一応 否定された)

さて、どんな方向からも猫田が特別だと分かった今巻。
いよいよ決着の次巻・時間です。


「聴能力少女クラネ(ちょうのうりょくしょうじょクラネ)」…
中学2年生のクラネには友だち一人もいない。
”物”ばかり話しかけていたら”物”たちと会話できるようになっていて…。

なかなかシビアな現実だけど、いつもポジティブな主人公がいいですね。
長編化しても面白かったのではないかと思う作品。
物の声を頼りに学校内の事件を解決していくのもいいし、
なんだかんだで男や物にモテそうなヒロインに友だちどころか恋人が出来るお話も良い。
クラネや太田(おおた)・恐野(きょうの)たちの今後が知りたくなりますね。
良い短編は長編化する余地がたくさん残されています。