
七尾 美緒(ななお みお)
ペン先にシロップ(ペンさきにシロップ)
第04巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
弱さゆえに盗作してしまった新人作家を守って、盗作された側の伊吹を傷つけてしまった菜花!先生は強いから。私のせいで原稿を書き直すハメになった時も、手を傷つけられた時も。いつも、いつだって「しょうがないなー」と笑って、スーパーマンみたいに助けてくれたから、だから大丈夫だと思った。私みたいなダメ編集がいなくても大丈夫だと思ってた。だけど…「作家にとって、担当はひとりだけど、編集にとってはそうじゃない…」いつもいつも、笑って許してくれていた先生だったのに…「オレの担当、外れてくれる?」激動の第4巻!!
簡潔完結感想文
- 押して駄目なら引いてみろ。伊吹が離れていくと分かった途端、追いかける誘導ヒロイン。
- 『1巻』から ずっと編集者としての無能や無力を どちらかのイケメンに助けられているだけ。
- 人間として幅を広げるのは伊吹だけ。男に守られて仕事を続ける自分を恥じない厚顔無恥。
資料を集めるのが唯一の仕事、の 4巻。
評価できるのは変わらず伊吹(いぶき)の成長が描かれている部分。本書は良くも悪くも彼を軸にしていて、菜花(なのは)さえ彼の成長の道具。菜花は癖がなくマイナスが多い設定は読者の夢物語の邪魔にならないような造詣になっているのだろう。もし菜花が優秀で年齢差を感じさせてしまったら、お姉さんが少年を誘惑するという一面が出てしまう。けれど菜花は小学生低学年ぐらいの性格設定だから、年齢差を帳消しに出来て、設定上では社会人のヒロインと天才年下高校生の恋愛でも男性の方が精神的にリードする内容が成立している。
今回の伊吹の心の動きも「男ヒロイン」そのもので、好きな人に好きな人がいる現実に葛藤し、時に諦めようとするけれど やっぱり諦められない一途さを見せる。そして その一途さが手の届かない存在だった人を少しずつ振り向かせつつある。そして諦めるという選択肢など、従来の自分には無かった考えが生まれたのも彼の成長を感じる。


その成長は漫画家としての幅を創出しており、彼は自分の進む医療の道に関する作品だけでなく、これまでは手を付けなかったジャンルを開拓し始める。誰の切なさに一番共感できるかと質問された時、多くの人が伊吹を選ぶのではないか。
作品、特に少女漫画作品は恋心の変動、そして告白する勇気など人としての成長が物語の牽引力になっていくけれど、本書で唯一 成長しているのは伊吹かもしれない。仙川(せんかわ)も含めて20代には伸びしろが無く、10代しか成長しない。そういう年齢による限界説を提示してしまっている作品だ。お仕事漫画に見せかけて何も変わらず、高校生しか成長していないのなら、この世界であることの意味が特にない。
伊吹の成長に比べて、もう全5巻中の4巻が終わったというのに、ヒロイン・菜花は成長が一切見られない。起こることは『1巻』同じことばかり。いくら癖の強い漫画家相手とはいえ、彼らの行動を制御できず、困ったところを伊吹か仙川に助けられるだけ。菜花が自分で出来ることをする場面では決まって書籍を集めてネタ探しをするシーンが挿まれ、それでいて そこから事態を打開するようなアイデアを菜花は考案できない。「必要(いら)ない」と思われることを恐怖に感じているから役に立ちたいと思っている菜花だけど、完全に必要ない人のまま。
少女漫画読者、または掲載誌「Cheese!」を読者の方々はヒーローが格好良ければ それでいいというスタンスなのだろうか。今回、感じたのは菜花は無能で事件を起こすから、彼女の護衛に伊吹か仙川が護衛の騎士として付き添う お姫様扱いの菜花の姿だった。
以前も書いたけれど、癖のある男性漫画家に未熟な女性編集者を担当させる会社側の対応が腹が立つ。そして この癖のある男性漫画家も全部、伊吹か仙川を引き立たせるための演出に過ぎないのも嫌になる。分かりやすい差別主義が生まれていて、そういう作風を許容していることが作品や掲載誌の頭の悪さを感じる。
菜花は担当する新人作家・モトキが剽窃騒動を起こし、その対応に追われる。無能者を助ける賢明イケメンの1人である伊吹は彼女の事情を知る。モトキは刺傷騒ぎを起こした尾宅(おたく)と同じく他責思考で自分の罪を認めようとしない。そして自分が延命するために、恋人である菜花を通じて伊吹から原稿を提供された体(てい)を着地点にしようとする。菜花は それを拒否。するとモトキは菜花の無責任を責めて逃亡する。
その一部始終を陰で聞いていた伊吹は、菜花が自分以外の担当者にも自分と同じく優しく接しているのが我慢ならない。しかも自分より先に菜花の落胆を、もう一人の賢明イケメンの仙川がフォローし、ボディタッチ多めの慰撫をすることも許せない。自分だけが菜花を笑顔に出来ると思っていたけれど、そうではなかった。そんな現実に伊吹は生まれて初めて悩みを抱える。
その焦燥から伊吹は菜花を呼び出し、押し倒し、困難に陥った菜花が懇願するよう仕向ける。しかし菜花は自分の問題だと伊吹の提案を拒絶。最初から伊吹に頼るつもりはなく、編集者として新人を成長させてあげたいと理想を語る。伊吹はまたも思い通りにならない現実に直面する。
菜花の作家へのネタ提供は本を集めるだけで終わる。いつも その作業から何かを生み出したことはない。いい加減、そのプロセスは役に立ったことがないと気づけばいいのに、菜花の頑張りは同じことの繰り返しで読者も辟易する。


今回、菜花を徒労で終わらせたのは伊吹その人。彼がモトキに原作を提供することで菜花の窮地を救う。けれど菜花にとっては自分の頑張りや信念が伊吹によって強制的に路線変更されてしまった。いつも伊吹の優しさは菜花に伝わりにくい。そうしてヒールを演じることで、菜花の信念を捻じ曲げることで、伊吹は泣いている彼女を自分だけのものにしようとする。
伊吹の心もまた こじれていて、彼はそのまま菜花を自分の担当から外す。それは伊吹の中で不毛な恋に決着を付けたかったから。勝手に欲して、勝手に必要(いら)ないという、そういう傲慢さや身勝手さを伊吹は自己嫌悪しているようだ。しかし それが どれだけ菜花を傷つけるのか、自分の事情で菜花を振り回したかまでは考えない。社会人としての能力は皆無で、女の部分を買われただけ。
ずっと迫ってきた伊吹が急に身を引く。それで まんまと菜花は揺さぶられる。担当じゃなくても伊吹を放置した責任を取ろうと助手になると言い出す。伊吹は菜花を嫌いになれると踏んで2人での共同生活を提案する。
仙川が言うように意味不明な展開である。菜花は結局、伊吹への執着じゃなくて自分が責任を取ることに固執している。それが伊吹を苦しめると思うし、そうやって一つのことに かかりきりになるから並行して仕事が出来ないのだ。
お目付け役として仙川も同席した状態から同居が始まる。案の定、菜花はミスを連発。けれど もう伊吹は何も言わない。それが菜花には苦しく感じられる。仙川はスタンガンを渡すが、結局 同僚が作家の奴隷になるのを見逃していると言える。しかも尾宅の事件があったのに。
伊吹は簡単に気持ちが割り切れるはずもなく、今もまだ菜花への愛情を示す。そして菜花が従順さを示したことで彼は菜花に性行為を望む。それが贖罪になるならと菜花は服を脱ごうとするが、その行動を伊吹は異常だと指摘する。でも その異常さも伊吹には魅力に映る。自分の全てを肯定されて菜花は戸惑う。
それでも恋を諦めようとする伊吹に自分からキスをする。その態度を見て伊吹は今度こそ同意のもとに性行為を始めようとして、菜花もそれを拒否しない。これは実質的な両想いなのだろうか。菜花の思考が特殊過ぎて理解できない。
そこに電話が鳴り、行為は中断。電話は尾宅の出所の お迎え。菜花は未だに編集者として彼を救いたいと考えていたのだった。伊吹は そこで再度 異常さを指摘する。ここで菜花は伊吹に初めて虐待されていた過去を話す。それだけ心を許したということなのか。そして自分にとって漫画が救いだったと訴え、伊吹に尾宅との面会を許可させる。
尾宅との再会は伊吹も同伴。男性に会う度に男性の騎士を連れていく お姫様ヒロインである。尾宅は拘置所で心身が漂白されており綺麗になった彼を見て菜花は感動する。また彼と二人三脚で仕事をしようとする。伊吹は それを阻止しようとするが、菜花の気迫に押され、登場した仙川に追い出される形になって一人だけ部外者となる。でも こんな犯罪者と すぐに仕事をしようとする出版社側の対応に驚きだ。
またもや伊吹は部外者で、自分と菜花の物語は描けない。それでも伊吹は菜花からのキスに希望を見い出す。そして菜花も仙川のいる前で伊吹を選ぶようなことをしてしまう。三角関係に必要なのはフラフラするヒロインか。
ちなみに この帰り道で伊吹は中学生が始められる利益の大きいビジネスとして漫画家を選んだという話が出る。医大に行くまでの暇つぶしらしいけれど、ということは早ければ来年にも漫画家を廃業するつもりなのだろうか。それが伊吹のタイムリミットだったりするのだろうか。
今の自分では未来を描けないと悟った伊吹は、自分が変わることを決意した。これまで唯我独尊だった伊吹は恋によって自己変革を始めている。そのまま菜花は伊吹との同居生活を再開し、彼とまた色っぽいことが始まりそうになる。でも今の伊吹は気遣いが出来るようになっているため、菜花の心情を優先する。そして伊吹は女性経験があるので変な がっつき はない。恋はしたことがないけれど性欲と性への興味はあったから経験したらしい。
そういう伊吹のキャパシティの広がりは作風の広がりにも通じるらしく、原作者として またクリエイターとして新たな作風に挑戦する。一方、菜花は編集者として成長することなく、感情論と中途半端な優しさで接するばかり。そして自分の無力を処理できず伊吹に精神的に依存する。編集者として出すアイデアは稚拙なままだし、彼女は漫画が好き以上の何を学んだのかが終盤なのに分からない。
でも そんな菜花も今の伊吹にとっては輝いて見えるものらしい。だから菜花の悩みを除去するために尾宅との対談を伊吹が実現し、彼に対する風当たりを弱める計画を提案する。その配慮に菜花は涙する。それは伊吹が見たかった自分だけが浮かび上がらせる菜花の表情ではないか。
