《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

1年目の女性編集者を一人前にするのを諦めて男性漫画家に上納しようとする出版社

ペン先にシロップ(1) (フラワーコミックス)
七尾 美緒(ななお みお)
ペン先にシロップ(ペンさきにシロップ)
第01巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★(4点)
 

「面倒くさい人だなぁ」そんなこと言うなら、私のことなんて放っておけばいいのに。「桐島さんって、どっちかっていうとブスですよね」「頭も悪いし、どんくさいし…、漫画の編集者としては最悪ですよね」…そりゃあ、そうです。18歳にして天才の名をほしいままにしている売れっ子漫画家の伊吹先生にかかったら、私なんて、ミジンコみたいな存在だと思います。「でも…なんでだろう?俺、あなたと恋がしたいんです」「面倒くさいと思うけど、あなたに振り回されるの、嫌いじゃない」全ボツだらけの人生を、彼が全部描き直してくれた。世界一甘い、ラブストーリーに…。

簡潔完結感想文

  • 無能を全てトラウマに委ねる編集者きどりの人を、高校生漫画家は女性だから好きになる。
  • ヒーロー以外の男性漫画家はデフォルメか容姿や性格を醜悪にする歪んだ世界への嫌悪感。
  • 伊吹が菜花を恋愛対象にすることを黙認して上納する仙川も気持ち悪い存在で当て馬未満。

学歴・高収入なことを隠して別の面で嫌われようとする あざとテクニック、の 1巻。

酷い。やっぱりヒロインの造詣が酷い。23歳の入社1年目の編集者という設定なのだけど、年齢設定を間違えているのではないかと何度も疑った。

私、桐島菜花13歳! お父さんの用事に同行した出版社で迷子になって、間違って青年漫画誌の編集部に入っちゃった! そしたらなぜか そこで仕事をすることになって…⁉ 私に編集のお仕事なんてムリムリ!でも担当になったのは天才高校生作家・遠野伊吹先生。人気も実力も、そして容姿もトップレベルの伊吹先生が私のこと好きなんて!!! ドジな女の子がイケメン高校生から迫られる胸キュンラブストーリー開幕!

という私が考えた「嘘あらすじ」の方が よほどしっくりくる。そのぐらいヒロインの頭が悪い。まさか この作品が20歳前後の読者を想定する「Cheese!」の作品だとは思わなかった。「Sho-Comi」や「ちゃお」の作品の方がヒロインの精神年齢や構成力が高い作品があるだろう。これまで4作品しか読んでいないけど「Cheese!」ってアレだよね、という疑惑が確信に変わった。
この21世紀で ここまで女性を無能に描くのは逆に勇気があると思う。

ヒロインに関する一番の謎は、彼女が おそらく高学歴であること。出版社への入社、編集者としての抜擢の時点で恐らく女性会社員の中でもかなりのキャリアだと思うのだけど、それを読者に悟られると共感してもらえないから、作品はヒロインの能力に大きなマイナスを与える。こうすることで高学歴・高収入の側面を隠そうとしているのだろう。編集者と若き漫画家の恋という設定だけが欲しいだけで、その他のリアリティは一切 無視している。その強引な手法が作品に歪みを与えてしまっている。

必要なのは職業と設定だけ。入社までのプロセスなんて考えたら頭の頭痛が痛い

能なヒロインの悪口なら いくらでも書けるけど割愛するとして、実は私が最も気になったのは周囲の編集者や会社も同様に無能である点

なぜ こんな何も出来ない人を採用したのか、しかも編集者という作家や作品をコントロールする仕事を任せたのかが全く分からない。入社1年目の新人社員のミスに対してフォローする体制を用意せず、クビだと言う責任転嫁も腹が立つ。本書はヒロイン・菜花(なのは)も自分のミスの尻拭いを まともにしない確かな無能な人なのだけど、その菜花を そこに配置した人たちも同様に無能ではないか。

更に疑問なのはエリートとして描かれる頼れる男性編集者・仙川(せんかわ)が、菜花が高校生作家・伊吹(いぶき)の「恋人ごっこ」相手に選ばれるのを知りながら、菜花に伊吹の担当を続けさせていること。「恋人ごっこ」という言葉でオブラートに包まれているけど、これは性接待の相手とも考えるのが普通だ。実際、伊吹ではない他の男性作家に菜花は性暴力を受けそうになっている。なのに仙川は伊吹の行動を黙認・黙殺している。伊吹は作中に登場する雑誌の看板で出版社の宝。だから女性社員を上納して ご機嫌を取っているようにも見える。

本書の何が気持ち悪いって、誰もマトモな人がいないことだと思う。おそらく当て馬として覚醒するであろう仙川が、覚醒する前から無責任を発揮していて、彼もまた狂っている。菜花は確かに腹が立つけれど、菜花を戦力として鍛える前からイジメの対象としてストレスを発散しようという男性社会の空気は淀んでいる。こういう部分は女性読者の応援に変換されると見込んでのことなのだろうか。

女性社員の望まないハラスメント被害を黙殺。この出版社がブラックなの…?

画家が描く漫画家なのに その描き方も違和感がある。まず週刊誌連載で伊吹が一人で描いているように見える点。アシスタントいないの?? これは作画カロリーをカットするためなのだろうか。漫画家が描く編集者の話なのにリアリティを感じない。

そして伊吹を含め漫画家は どの人も癖が凄くて嫌になる。これが作者によるキャラ付けなのだろうか。私が作者を「天才」だと思うのは、読者を不快にするキャラを こんなにも作れることだと思う(嫌味が過ぎるか…)。

伊吹が菜花を「恋人ごっこ」に選んだのは、暇そうで女性で若かったからだろう。伊吹は恋愛初心者で変わり者という設定なのだろうけど、そういう人が人の心を打つ作品を創れるとは思えない。作中で天才・伊吹が描く漫画が出てこないのは賢明な回避だけど、天才の一言に逃げて、彼の才能の片鱗を少しも見せられないのは作者の至らなさだと思った。

最初から伊吹は完成された存在で、菜花は永遠に成長しない存在。恋愛関係が動くから読み続けられるけど、お仕事漫画としては0点だろう。菜花が編集者として何がしたかったのか、入社時に期待されていたのか、彼女の奮闘が実を結んだ瞬間などが全く描かれていないから、徹頭徹尾 無能な人間になっている。トラウマが原因だから その解消によって覚醒するのだと思っていたのに そういう展開も用意されていない。作者も菜花が好きじゃないんじゃないの、と思ってしまうぐらいの冷遇だ。


をしたことのない18歳の天才高校生漫画家・遠野 伊吹(とおの いぶき)が狙いを付けたのは入社1年目の23歳の編集者・桐島 菜花(きりしま なのは)。伊吹は漫画家としてだけでなく、学業の方でも天才。授業中に1人だけパソコンでデートコースを検索しつつ、授業内容は完全に把握している。菜花は自己評価が低そうに見えて実は調子に乗るタイプ。彼女の手綱を握るのは27歳のエース編集者の仙川 英人(せんかわ ひでと)だった。

菜花は人気作家の担当になり、年下の伊吹の力になろうとするが失敗続き。そして伊吹から提案されたのは恋の相手として。女性編集者で一番若くて暇そうだから選んだ。伊吹も相当変人でモラルのない人である。
誰でもいいと思われたのは選ばれないよりも屈辱。菜花は泣きだすが、その涙を伊吹はキスで止める。菜花にとってはファーストキス(伊吹は違う)。

それでも菜花はミスの連続で自分の価値を伊吹にとっても重荷になるだけ。そこで菜花は遂に「チェンジ」を言い渡されるがクビを回避したいから恋をすると宣言する。こちらも人間として終わっている。恋愛初心者の菜花は どうにか恋(週末)と仕事(平日)を分けることで平常心を保とうとする。


花は毎日、漫画を数冊買って編集者として勉強中。かと思いきや、それは菜花の逃避にしかなっておらず、彼女が編集者として成長する姿は少しも見られないまま作品が終わる。
伊吹との打ち合わせも仙川の助言を貰ってから さも自分の意見のように語り、その上で自分の稚拙なアイデアを追加しようとする。その後に何とか捻りだしたアイデアは、以前 自分が読んだ作品を無意識にパクったものだと気づかず、一度ネームを描き上げた伊吹に何倍も迷惑を掛けてしまう。

自分の仕事の穴を空けるピンチとなり、伊吹は時間を浪費する菜花を拒絶する。「必要(いら)ない」という言葉は菜花にトラウマを想起させ、彼女はパニックに陥る。菜花が倒れた音を聞き、伊吹は救急車を呼び、彼女が目を覚ますのを待ちつつ、新しいネームを用意していた。伊吹のスーパーマンっぷりを描くターンだということは分かるが、菜花を拒絶したのは伊吹本人だから、マッチポンプ感が拭えない。

新人作家は張り切ってトラウマ出しがち。サスペンス要素で奥深くなる、のか…?

末になり始めて伊吹と恋のターンに突入し、デート回となる。このデート回でも菜花は はしゃぎ、デート中にもかかわらず偶然 出会った仙川と盛り上がる。自分の役目を理解していないし、伊吹の孤独を察知していない。この回で不思議なのは仙川は、伊吹が菜花を恋人候補として自分の編集者に指名したのに仙川=会社側は それを知っても止めない。菜花が献上品になることを会社ぐるみで黙認(または推奨)しているようで気持ち悪い。仙川もまた悪人でしかない。
菜花が身に着けているネックレスが どうやら仙川にも関係しているらしい伏線が張られる。

今回も菜花のミスで雑誌にピンチが訪れ、それを伊吹が助ける。ピンチの原因であり、何も力になれないことに菜花が落ち込んでいるところに伊吹が登場し、能無しの自分を自虐的に笑う菜花を見て一颯は恋人関係を続行する。「できる側」の人間は「できない側」の人間の無力感が新鮮なのだろうか。


花は自分が「できない側」と自覚する割に伊吹以外の漫画家を担当することになったら調子に乗るから読者から嫌われるのだ。

その漫画家・尾宅 アキラ(おたく アキラ)と菜花が打ち合わせに浸かった喫茶店に「偶然」伊吹がいて、伊吹は彼らの打ち合わせの様子を聞いてしまう。それから連日 菜花は尾宅にかかりっきりになるが、尾宅は自分の実力不足を菜花に転嫁しようとする。それでも菜花は独力で尾宅のアイデアになるネタを仕入れ続ける。しかし尾宅は消息不明になり またも雑誌に穴が開きそうになる。その様子も なぜか伊吹は出版社で見ている。暇なのか。
尾宅を信じてギリギリまで締め切りを引き延ばそうとする菜花だったが、尾宅は またも全ては菜花が無能だからと責任を押し付ける。周囲の人も菜花の無能さを熟知しているから嘲笑するだけで助けない。菜花本人も責任は自分にあると全てを背負う。伊吹が声を掛けても菜花はヘラヘラと笑って、作品作りの手伝いを出来なかった自分は編集者失格であると やはり自分の責任にする。

今回、伊吹が菜花の尻拭いをするのは、漫画賞受賞の席で伊吹がコスプレをすると無断告知をしたことに対して そのアイデアに乗っかったこと。ミスばかりの菜花の根底にある強さを知って伊吹は少しずつ気持ちが動き始めている。


花が ずっと身に着けているネックレスが、初恋の人にもらった物だと明かされる。そのネックレスを伊吹は自分の贈った品と交換したい。そのぐらい菜花に執着心が芽生え、彼女の全てを知りたくなった。伊吹が本気になりつつあるのを菜花も感じる。しかし彼女のトラウマが その気持ちを受け入れることを否定する。

責任転嫁の尾宅は時間を置いて菜花に謝罪がしたいと彼女を自宅に呼び出す。そのことを伊吹にバレてから尾宅宅に向かおうとするが、伊吹は菜花が危険な目に遭うと行かせたくない。しかし菜花は大丈夫だと伊吹の気持ちを無視して、そして結局 危険な目に遭う。尾宅の人間性は最悪で、それを信じようとした菜花は自分の無価値に涙を流す。

そこに伊吹が仙川と一緒に登場。仙川は雑誌の宝である伊吹を単独で向かわせる訳にはいかなかった。この騒動でネックレスが粉砕し、菜花は自分の価値が いよいよ粉々になったと動揺する。その彼女に魔法の言葉を掛けた仙川は何か事情を知っているようである。菜花にとってのヒーローが仙川になりかけた時、警察に連行されることを恐れた尾宅が刃物を取り出し…。