
七尾 美緒(ななお みお)
ペン先にシロップ(ペンさきにシロップ)
第03巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★(4点)
一体、あの女のどこがいいんでしょうね?というテーマでイケメン2人が座談会。イケメン編集者・仙川「伊吹なら、同級生でもっと可愛い子いっぱいいるんじゃねーの? 17歳。ピチピチじゃん」イケメン漫画家・伊吹「あ、仙川さん女子高生好きですか? じゃあ全然紹介しますよ。僕、年上好きなんで」仙川「いや…俺も…いや、俺は年下好きだけど、ちょっとでいいんだ。ちょっとで!」伊吹「仙川さんこそ、エース編集者として入れ食い状態だって聞きましたよ?」仙川「エースったって所詮編集だよ? 天才漫画家のお前にもうとっくに生涯年収レベルで抜かれてるって」伊吹「漫画家なんて、3年後どうなってるかわからない水商売ですよ」仙川「………」伊吹「まぁ、つまり?」仙川「お互い、引く気はないってことで?」イケメン2人が、ブスのメガネをめぐって片想い!第3巻!!
簡潔完結感想文
- 2人の賢明イケメンに愛され助けられる夢の少女漫画だけど、全片想いが成立している。
- 絶対的支配者だった伊吹がコントロール出来ない失恋が彼をまた成長させ強くしていく。
- エースが指導すれば、菜花の編集者スキルが上がると思っていた時期がありました…。
幼稚ヒロインは永遠に不滅です、の 3巻。
本書で一番面白いのは この『3巻』かもしれない。『3巻』は普通に少女漫画している。重い過去も ほぼ影響しないまま、平均年齢23歳前後の男女の誰もが均等に切ない片想いをしている様子が描かれる。
そして恒例の『3巻』での三角関係成立も楽しめる。本書は仙川(せんかわ)の動きと位置づけが良い。頭の良くない菜花が一直線に伊吹に支配されないために仙川がいるのだろう。菜花(なのは)に自発的に選択させるための存在、それが仙川。まこと当て馬の鏡である。
また天才高校生作家・伊吹(いぶき)が失恋を経験するのも意外な展開だった。ずっと場を支配し続けていた彼が、人の心を縛れないことを理解しつつ、縛ろうとする自分に唖然とする展開が面白かった。そこからスランプに陥り、それを成長の糧にしていく流れも良かった。伊吹も仙川も「男ヒロイン」の素養があると思う。


一方で、成長もヒロインとしての適性も感じないのが菜花である。自分の恋心を自覚しても、なぜか伊吹との契約を遵守しようとする。このまま伊吹を好きになっても、それは伊吹によって洗脳・誘導されたものとしか思えないだろう。菜花の結論にどれだけ説得力を持たせられるかが本書の勝負所だと思われる。
『3巻』では伊吹の天才性と菜花が どうして編集者として無能なのかが初めて描かれている。菜花は指導役であった先輩編集者の仕事放棄が理由で、2年目になって ようやく仙川による指導が入る。これによって菜花が成長するのかと思ったけれど、その兆しは見えないまま。また菜花のミスのバリエーションや、漫画家とのトラブルに以前のネタとの重複が見えて残念だった。
菜花にあるのは魔性ヒロインの才能かもしれない。伊吹の前では仙川を気にする素振りを見せ、仙川の前では伊吹との関係性を誇示する。そうやって男の嫉妬心や独占欲を掻き立てるのが上手い。なぜか男性漫画家は菜花を担当に指名するし。自信と経験のなさそうな女性像が男性の欲望に火を点けやすいのだろうか。どんどん男性たちのことは好きになっていく一方で、菜花はそのまま。男性2人が輝いていれば それでいい、というのも少女漫画の正しい姿なのかもしれないけれど。
本書における漫画家は癖の強い人だらけのようで、菜花は自分の担当ではない少女漫画家・萌子(もえこ)の悩みを聞き動こうとする。少女漫画家の悩みは、自分の妄想の伊吹×仙川を男女に置き換えて作品を作っていたのに、その2人に菜花が混じることでノイズになって打ち切り寸前というもの。自分が関わっていることもあって菜花は仙川の盗撮依頼を受諾する。平気で罪を犯すのが頭の良くないヒロイン&漫画だなと思いました。
菜花の行動は賢明イケメンには お見通し、というのも本書の特徴で、仙川にバレて彼から少女漫画家へ話を通すことになる。これは菜花の役得でもあり、一緒に行動する機会となる。ただ伊吹との契約もあり仙川への気持ちは封印しようとする。
更に伊吹の登場場面がないからか少女漫画家は伊吹の呼び出しも願い、男性2人に自分の妄想を実践してもらう。仙川の前で伊吹との交流を見られたくなくて菜花は変な対応をした上に、伊吹よりも先に仙川のことを考えた行動をしてしまう。
そんな菜花の欺瞞を賢明イケメンの伊吹は見逃さない。菜花に仙川への気持ちを捨てさせようとするが、菜花の感情は それを拒否する。伊吹は その現実を拒絶するために、菜花から漏れる気持ちに蓋をする。
天才漫画家が失恋を予感してスランプに突入する。漫画に集中できず、何をしてても菜花のことを考えてしまう。そういう恋の副作用を伊吹は初めて知る。菜花が伊吹の現状を知り、以前と同じ空回りする場面は本当にいらない。菜花が作品のノイズだ。
やがて伊吹は自分の心が安定する方法を思いつく。それが菜花の束縛。彼女が仙川と距離を取れば自分の心は安定する。だから菜花を引き留めようとするが、彼女が苦渋の決断で自分のことを選んだことが分かり、かえって伊吹が傷つく。ヘラヘラと笑わない菜花の態度が何よりも仙川への切実な気持ちの証明だったのだ。
自分の醜さと向き合って伊吹は吹っ切れる。彼が天才で天才的な集中力を持っていることを示す場面を経て、伊吹は復活。自分だけが菜花を楽しませるクリエイターだという自信が生まれる。そんな伊吹の姿を見た仙川は、伊吹が本気で菜花を想っていることを知る。その頃、仙川は菜花の身辺調査の結果を知らされていた。


菜花が新人賞の授賞式の司会に抜擢される。久々の調子に乗るターンで、いつも通りの結末を迎える。当日、高熱を出した菜花。それを仙川に見抜かれるが、菜花は無理を通そうとする。伊吹も菜花の異変に気が付き、彼なりに菜花の体調を優先しようとするのだけど、言葉が足りない。
この新人賞授賞式で登場するのが またも個性豊かな漫画家。今回は伊吹と似ていると評判の高校生漫画家・伊集院 モトキ(いじゅういん モトキ)。そのモトキと交流をした際、階段から落ちそうになった作家を助けるために菜花は足を痛めてしまう。
限界まで司会を務めた菜花だったが、伊吹の登場時に高熱と足の痛みで転倒。そのミスを伊吹の辛辣なスピーチが一掃する。そして伊吹は司会席から菜花を奪い、自己嫌悪と否定を繰り返す菜花にキスをする。菜花は冷静な伊吹の言葉の中にある温かさを感じ始める。
そのまま伊吹に連れられて菜花は彼のベッドで目を覚ます。そんな2人のことが仙川は気になる。だから菜花が新人作家・モトキを担当することになった時、彼女のサポートに名乗り出る。サポートするはずが仙川は菜花の編集者としてのレベルの低さを目の当たりにする。そして ここで菜花は2年目で1年目の指導役のせいで菜花が成長していない、という設定が持ち出される。これは菜花が今後、成長するということなのか。
仙川からの指導と新人作家の担当で、菜花は伊吹を後回しにする。それが伊吹は気に入らない。
指導されてもクセの強い作家との打ち合わせは上手くいかない。それでも菜花が めげないのは、伊吹の存在があるから。仙川の前では伊吹の名前を出し、男性を不安にさせる魔性ヒロインである。
仙川は資料を読み込みながら眠ってしまった菜花に身辺調査の結果を囁く。2人は異母兄妹ではなかった。菜花の母親は仙川の父親とは再婚で、菜花は連れ子として仙川の父親と親子になった。仙川は兄妹だからと菜花を気に掛けていたけれど、そうではないと判明しても彼女が気になる。
袋小路に入った新人作家は編集部に置かれていた伊吹の原稿を剽窃する。それを知らない菜花は作家の成長を喜ぶ。今回は菜花の失敗ではないとはいえ、基本的に『1巻』のネタ被り事件とネタが被っている。
ぬか喜びであったものの、菜花が自分が欲していた編集者としての幸福と笑顔を手にするのを見て仙川は彼女を女性として惹かれていく。ヒロインの笑顔は無敵です。
