《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

年下天才作家との契約交際 + 年上の同僚との近親愛 × それぞれのトラウマ = キャパい

ペン先にシロップ(2) (フラワーコミックス)
七尾 美緒(ななお みお)
ペン先にシロップ(ペンさきにシロップ)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

説明しよう! このお話は、イケメン2人が、メガネブスに片想いして、身もだえする話である!! 菜花(なのは)をかばって、漫画家の命である右手を怪我してしまった伊吹(いぶき)。伊吹を刺してしまった尾宅先生は、傷害罪で収監! TVや週刊誌では、「美人編集者をめぐって、漫画家同士が恋のバトル」と書き立てる!!『ど…どうしよう、美人じゃないのに…』

簡潔完結感想文

  • 仙川の存在は、伊吹の嫉妬を引き出し、簡単に恋愛が成就してしまうのを阻止する。
  • 男性たちに社会的地位を守られるヒロイン。無能なのにコネに縋って、菜花は幸せ??
  • 仙川の意外な立ち位置が判明。女性読者が好きな設定を盛り込み過ぎて過積載ぎみ。

怖による支配 と 誘導による支配、の 2巻。

相変わらずヒロイン・菜花(なのは)は無能であるが、今回その無能さの原因が匂わされ、そしてトラウマというには余りにも重い設定があることが分かる。

今回、面白かったのは読者の意表を突く形で描かれる主要な男性2人の それぞれの思い。1人は天才高校生作家・伊吹(いぶき)。彼は全てを支配する能力を持っていて、出版社の人事面にも口を出すだけの実力と権力がある。そんな天才に守られるヒロインが読者に陶酔をもたらすのだろう。
けれど その伊吹は今回、男女3人の三角関係において自分が一番不利な立場にいることを自覚している。菜花の心の中には仙川(せんかわ)という頼れる男性上司がいて、伊吹が どれだけ願っても菜花の心から仙川は排除し切れない。自分で支配できないことに直面した伊吹の表情には出さない焦燥が今回の見所だろう。

全ての支配者の伊吹の心の中は荒れている。当たり前のように菜花は感知しない

そしてライバル役の仙川は実はライバル的な立ち位置にいないという設定も良かった。仙川の悩みの根本には完璧な仕事をする彼にも不完全な部分があって、それを痛感し もがいていることが明かされる。
※ネタバレになるけれど菜花と異母兄妹かもしれない、という考えは仙川だけが持っていて、菜花は全く仙川の葛藤に気付いていない。だから菜花は仙川に異性として胸を高鳴らせるけれど、その先に行き着くのは近親愛というタブーである袋小路は確かに面白かった。聡明な男性2人に比べて明らかに頭の悪い菜花という構図で、この男性2人が菜花を気に掛けることが不自然にすら思っていた。けれど今回、仙川側が気に掛ける理由が描かれ、それにより菜花が能天気でいることに意味があり、それが地獄へのプロローグであるように思えた。

今回、凄惨な過去が用意されたことで、人の気持ちの支配が一つのテーマとして浮かび上がっている。現段階では恐怖と恋心も同じような支配力が働いている。ちゃんと菜花は自発的な感情になるだろうかとか、能力的に上位存在である伊吹が菜花をコントロールすることなく両想いが達成できるのだろうかとか、この物語の結末が待ち遠しくなった。


かし男性2人に比べると菜花は かなり見劣りする。『2巻』で伊吹は自分の優秀さを自己分析した際、「客観視」という言葉を使っていたけれど、菜花は客観視が全く出来ない人である。編集者としての能力、リスクを予感する力などなど、自分を客観視しないままで、成長もしない。

これまでも腹立たしかった菜花の思考だけど、今回は伊吹が傷害事件に巻き込まれた責任を全く考えていないところが おめでたすぎた。これまで仕事上のイエローカードの累積で1つでもミスをすれば編集者という菜花が固執する仕事から外されるのに、『1巻』からずっと慎重になることなく、これまで通りのミスを繰り返す。違うのは伊吹に気に入られたこと。それで彼女はクビを免れ続けている。今回の事件では伊吹だけでなく仙川も動きを見せようとしていた。少女漫画読者は自分のミスをイケメンがフォローしてくれる物語が読みたいのだろうか。

こういうことを繰り返す度に社内で菜花が女性を「武器」にして性行為で仕事を確保するような女性だと噂され続けるだろう。ヒロインがコネでいるだけの無能社員であることが証明されてしまったけれど、それでいいのか…。

『1巻』でも書いたけど、編集者になれた菜花に説得力が皆無。彼女や問題の多い漫画家・尾宅(おたく)の才能の一端でも描けていれば、無能にしか見えない2人が そうでないと思えるのに。作者は自分を客観視できているかと疑問に思う。これも以前に書いたけど、重たすぎるトラウマが作品に奥深さを与えると思ってそうで、自分の作った設定に潰されないか心配だ。作者の場合、これ以降も活躍しているけれど、重すぎる内容にしてしまった結果、潰れてしまった作品や作家さんは少なくない。


花がネックレスに通している指輪は、幼い頃の菜花が仙川から贈られたもの。それは菜花が初めて誰かに助けられ、初めて自己存在を認められた思い出の品だった。今回、その指輪は壊れ、そして伊吹が尾宅(おたく)に商売道具である右手を刺されたことで自分の行動の愚かさと相まって菜花は絶望する。
治療が終わった伊吹は菜花を責めない。謝罪を繰り返す菜花に償いとして自分を好きになるように求めるだけ。その言葉に伊吹が本当に自分を好きなのだと菜花は確信する。

伊吹の怪我は全治3週間。伊吹が非常時用に番外編のストックをしていたため、雑誌や単行本出版のスケジュールは変わらない。これは菜花の無罪放免も意味していた。そして(頭の悪い)少女漫画なので菜花の愚行は責められず、この一件は天才作家・伊吹の初の熱愛スキャンダルとして世間から注目される。

菜花も伊吹から罪悪感を排除した関係を求められ、いつも通りに振る舞う。脅迫や贖罪によって恋愛関係にはならない、ということなのだろう。幼い頃とはいえ他の男から贈られた指輪を伊吹は快く思っておらず、それでも菜花は捨てられない。この指輪を捨てる時が伊吹の愛を受け入れる時なのだろうか。


手なスキャンダルを振り切るために京都で雲隠れ生活をする2人。いきなりお泊り回である。ただし仙川も同行。仙川は指輪の持ち主だと名乗り出たものの、菜花と距離を測りかね、これまでよりも素っ気ない態度に出てしまう。菜花は仙川に心を占拠され、仙川は菜花を無視しようとしている。そんな2人の関係に対し伊吹は嫉妬と独占欲が湧き上がる。夜の旅館で2人の逢引のような場面を見て、伊吹は傷が広がるほど拳を握りしめる。

伊吹が天才と呼称されるのは、自分や自分の作品を客観視できる冷静さと聡明さがあるから。この三角関係において伊吹は自分が邪魔ものだと理解するけれど、今の彼に、恋愛に、客観視は必要ない。自分がどう思いどうしたいかが恋愛の衝動である。

菜花を仙川から引き剥がした伊吹は、菜花も解放し、菜花のために自分が何をすべきかを客観的に思考する。伊吹の怪我の責任もあり部署異動が濃厚な菜花に対し、自分はどうするか。異動は菜花と仙川を物理的に離せるし、自分も菜花が担当だから好きなのではない。でも菜花が編集という仕事に固執するなら伊吹は それに沿う。人にアシストしてもらわないと異動させられる現状は菜花の能力不足を如実に表しているけれど…。


花は京都土産を拘置所にいる尾宅にも届ける。そして自分の責任だと2件の事件での加害者である尾宅に頭を下げる。菜花が尾宅の作品に本当に惚れているなら この行動への理由付けが出てくるけど、本書は尾宅の作品の魅力に少しも触れていない。
ここで尾宅に現実を告げられるまで、お花畑の菜花は自分が責任を取って異動することを全く考えてなかったらしい。保身を考えないのが聖女なのか。編集者として自分に足りないものや必要な能力を考えないで職種だけに固執している菜花は おめでたい存在だ。

好きだから それを仕事に出来て、ずっと続けられると思っている お子様ヒロイン

伊吹だけでなく仙川も異動を止めたいと伊吹に動いてもらおうとする。伊吹もそう願っていても仙川からの頼みを聞く動機はないので拒絶する。しかし仙川が菜花のために分かりやすく動くのも得策でないので、彼ら2人を自分の視界に留めておくために、伊吹は自分がヒーローだと証明する。そんな立ち回りを伊吹はヒールだと思っているようだけど。

菜花に異動という絶望を与えてから伊吹は出版社との関係断絶を盾に異動を阻止。この伊吹の表立った動きは、作家とのコネを利用して仕事を得る菜花の立場を悪くしそうだけど、それも伊吹の計算の内。伊吹は自分たちの外堀を埋めて、公私に亘って菜花を囲おうとしている。無能ヒロインは天才ヒーローに恋心さえ誘導されるのだ。


川が菜花に固執するのは自分の異母妹かもしれないからだった。
幼い頃から仙川は実父から兄妹揃って暴力を振るわれていた。反抗する仙川に対して父親は妹を守れなかったという無力感を与え支配しようとした。母親は夫の暴力を知りながら抵抗を諦め、妹からは言葉が奪われた。その妹から もう自分を守らなくていいと言われ仙川は自分の無力を認めてしまいたくなる。父親は暴力を止めない代わりに子供たちに自分が好きな漫画を娯楽として与える。それが妹の喜びになり、仙川も夢中になった。彼にとって漫画は逃避先だったのだ。

妹が大怪我をしたことで母親は勇気を振り絞り父との別離を決意する。自分を囲っていた自分の世界の全ては あっという間に崩壊した。3年後には母親が再婚し、義父が出来た。義父は温和で兄妹は地獄が終わったことを実感する。


り戻した普通の日々の中で出会ったのが、悪魔に怯える菜花だった。だから妹を守れなかった仙川は菜花を守ろうとするが、菜花にとっての悪魔は仙川の実父だった。実父が自分たちに執着しないのは見逃されたからで、今の暮らしを、妹の平和を壊せると仙川は脅され、菜花の平穏を守ることが出来なかった。その贖罪として仙川は妹の指輪を菜花に託して、強く生きて欲しいという願いを込めた。仙川は正義のヒーローではなく、人身御供に菜花を差し出した。3年経っても変わらない自分の本質に仙川は失望した。

この記憶は鮮明に残っており、あれから10数年が経過しても仙川は幼い頃に出会った少女を覚えていた。そして再び その子を笑顔にしたいと願っていた。それが「兄」として妹に出来ることだから。それを知らない菜花は仙川を異性として考えていて…。

「赤の誘惑」…
本編と同じく職場でストレスの多い人間関係に悩む教師の野宮(のみや)が、同じ学校の男子高校生・佐光(さこう)に弱みを握られて交流を始める。学校内で優秀で女子生徒からの人気が高い生徒会長の佐光が自分を家政婦に任命する。けれど それはキッカケに過ぎず、最初から佐光は野宮を、野宮は佐光が気になっていた。野宮には他の男子生徒ではダメなのだ。自分のピンチを助けられ、心の中を覗かれ、一度は拒絶するものの…。

柘榴(ザクロ)をテーマに噴き出してしまっては戻れない関係を描いていて、その手法は小説的な印象を受けた。実は佐光が伊吹であるというトリックがあったとしても驚かないぐらい、何だか似ている。少し お姉さんの「Cheese!」読者は、若い優秀な男性を求めているのだろうか。