
柴宮 幸(しばみや ゆき)
呪い子の召使い(のろいごのめしつかい)
第08巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
父の遺した日記を王子と一緒に読むことにしたレネ。そこに記してあったのは父ととある呪い子の旅の記録で――。紐解かれていく過去の謎、そしてグロワール国全体までも巻き込む大きな陰りがレネと王子を追い込んでいく…⁉
簡潔完結感想文
- 日記で振り返る過去編。自分への特別な気持ちを察知しない父子で受け継がれた鈍感力。
- ニコイチで活動し続けた2人の遠距離状態。一度離れたからこそ大切なことに気づく、かも。
- 2人で一緒にいる未来のために、相手を一番近くに感じながら、それぞれの役割を果たす。
2人の男性から心と能力を狙われるドキドキの 8巻。
ここまでの話で成立した三角関係は、ヒロイン・レネとアルベール王子、そして隣国の王女・マチルダの女2男1という構図だけ。多くの少女漫画で展開される女1男2の構図は一度も成立していない。強いて言えば初対面でレネをブスと罵ったフーがレネに心を許していく過程は そう見えなくもなかったけれど、フーの役割はアルベール王子の友人だった。しかもフーをレネと男女関係になるのを防止するためか、すぐにフーにはカップリング用意されていた。
いよいよ最終章に突入した『8巻』は疑似的な女1男2の三角関係と言えなくもない。ただしアルベールはレネの心を欲しているのに対して、謎の男・ダン(ルカ)はレネの呪いを欲しているので一般的な三角関係とは違う。それでもヒロインが2人の男に手繰り寄せられる初めての展開は本書初の三角関係のように見えた。
けれど やっぱりルカが見ているのはレネの呪いだけ。しかもルカが その呪いに執着するのはレネが正当な能力者だと考えていないからだろう。レネの呪いは父親から受け継がれたもので、その呪いを父親はルカから貰い受けた。この状態は呪いの又貸しと言える状況で、ルカからしたら お前のために授けた能力じゃないということなのだろう。
また このレネ親子に共通するのは鈍感力であるような気がした。レネが『8巻』まで少しもアルベールの気持ちに応えていないように、その父親であるダンもルカが自分に望む願いに気づいていないように見える。男2人で旅をしていたのに、一目惚れして あっという間に恋に落ち、妊娠させている状況は浮かれている = ルカのことを少しも考えていないと言える。
この親子は人の心を救う存在であるけれど、鈍感力で人を闇堕ちさせかねない存在でもあるのか。アルベールも初恋のレネに応えてもらえなかったら再度 引きこもりになる可能性が高そうだ。


今回、気になったのはタイトルにもしたけど不死のアルベールのこと。
『8巻』では暗殺があったり、ルカがアルベールを殺す機会があったのに、それがされないのが不自然な展開だった。特に後者はルカの狙いはアルベールではないとはいえ、その他にルカの変な行動を説明できるものがない。アルベールを殺せばレネを狙う自分に気づく者はおらず口封じになる。そしてアルベールを排除してからレネから能力を吸収して取り戻すなど自分が思うようにすればいい。ここでアルベールが死なないのは物語上の都合としか思えなかった。アルベールも死ぬ訳にはいかないという意味で不死であることは確かだろう。
それに比べると前者の暗殺の機会は、ルカの狙いが呪いの発動からの王宮の信頼失墜が目的だから納得できる。ルカの計画ではレネを暗殺し、それに怒ったアルベールが呪いを暴走させて、王宮の人々に その光景を目撃させるのが目的だった。
理解は出来るけど、そのせいで お話のスケールが小さくなってしまっていることも否めない。上述の三角関係もそうだけど、お話の中心をレネに戻すための措置なんだろうけど、個人的な動機で動く黒幕にはクライマックスを担う役は重荷なのではないか。やっていることも、作物が やや不作とかボヤ騒ぎとか みみっちい。このボヤが炎上して、呪いへの批判になるという狙いは分かるけれど、万能な存在の割に慎重なのが気になる。
そう考えると『1巻』の後継者問題での直接的な暗殺の方が危機感があったかな。今回で この暗殺もルカが手を引いていたとして全ての黒幕に仕立て上げているが、回りくどさがあって明確な恨みが見えずらいから どれだけ王都がピンチになっても やっぱりスケールが小さく見えてしまった。
レネが父親の遺した日記を読み、過去編が始まる。それはレネの父・ダンと謎の男・ルカの出会い。路上で倒れていたルカが呪い子と知りながらもダンは一緒に旅をする。しかもルカの呪いは1種類ではなく複数あった。
旅の目的は作家として見聞を広めること。旅の途中で舞台となっている この国を訪問した。約20年前の この国は暗君の国王(先代)により荒廃。それは心の荒廃に繋がり、呪い子が発生しやすい環境であるとルカは指摘する。
ダンはインフラ整備まで手の回らない国で、増水による橋の崩落に巻き込まれて瀕死となる。ルカは自分と一緒にいることで人が不幸になることを見越していたようだが、ダンは自分の不幸の原因をルカに求めない。その言葉でルカは救われ、人知れず涙を流す。やがて目を覚ましたダンは回復。そして この頃からダンとルカは心が通うようになる。この2人の関係性をアルベールは自分とレネと似ていると直感する。
それは2人が同じ立場になったから、という理由もあった。ルカは自分の呪いの中の1つである「不死」をダンに与えた。ダンはルカの呪いも、自分に与えられた呪いも大らかに受け入れる。
旅の途中、ダンがエマという女性に出会い、すぐに恋に落ちて、ダンはエマと生涯を共に生きることを選んだ。新しい家族・命を授かりダンは幸福だった。ルカと一緒に旅をすることは無くなったが、旅を続けるルカはダンを訪問し、交流は続いている。けれど2人きりの世界、2人だけの関係は崩れ、ルカは以前のような親近感を見せなくなった。
そんなルカの様子を描いて日記は終わる。ダンは新しい命が生まれるのを見る前に盗賊に襲われ、命を落とす。そして不死の彼が死んだのは、生まれてくるレネに その呪いを譲渡したからだった。そこにレネは罪悪感を覚える。その気持ちをレネはアルベールに隠そうとするが、彼は お見通し。そしてレネが生まれてきてくれた感謝を伝え、彼女の苦しみを共有しようとする。そんなアルベールの存在にレネは救われる。物語に過去を持ってきたカガリは役目を終えたのか、すぐに帰ってしまう。
アルベールはレネに内密に、ダンと名乗る謎の男とルカの共通点を認識し、謎の男が再びレネを狙うと考え、彼女を守るために更に情報を集めようとする。
そんな時、宰相・ヒューズから何百年も前に厄災を鎮めるために生み出された呪い子がいるという情報を聞く。厄災が呪いによるものだと考えた人々が長い年月をかけて神に近い存在を創ろうとした。「全ての呪いを掌(つかさど)る」呪い子が、呪いという厄災を消すと信じて。男の姿をした その人工神は各国で呪いを吸い取っていった。しかし厄災は起こり、人々が縋った迷信が嘘だと分かり、人工神への進行も下火になっていった。
若気の至りで暴走しそうになるアルベールの手綱をヒューゴが制御する。アルベールの国内での地位は盤石でないため、一つの失敗や呪いの露見は彼の王への道を潰えてしまう。ヒューゴの動機が妹の生きる世界のため、という気がしないでもないけれど、諫言でアルベールは思い止まる。この話を受けてもアルベールが呪い子であることを受け入れるのは、その力が自分の理想の世界を創る原動力になるからだろう。
ダンを名乗る謎の男は、人の心に付け込み、王国そのものに厄災をもたらすために種を蒔いて呪いという概念が国を覆うように画策する。やがてアルベールの耳にも孤児院のマザー(『6巻』)が呪いの奪取により消滅したことを聞く。その場面を目撃した男性はダンの言葉で心に疑いが生じて、近年の王宮での王族の不幸も呪いによる災いだと訴える。その噂はあっという間に王宮内を駆け巡る。アルベールの母・兄・叔父の死が呪いの噂の良い燃料となってしまう。短期連載集中部分だったこともあり、これまで触れられなかった人たちの存在が、王宮の暗部として語られている。
先王の時のような荒廃が国を覆おうとしている。気候は悪くないのに食物は不作、魚は大量死し、事件も多い。そして それらは王宮に近づく気配を見せる。小規模ながら厄災ともいえる現象は人々の中にある呪いへの畏怖や偏見を強めていく。いよいよ呪い子が自分がそうであることを隠さなければならない世の中がやって来た。心の貧しさが他人への寛容を奪う。
ダンと名乗る男は、王族の分家に近づき、彼らのアルベール排斥の心にも着火する。そして彼らを後ろ盾にして自分の身動きの自由を得る。謎の男は刺客を放ち、王宮内で暗殺騒ぎを起こす。狙いはアルベールではなくレネ。王宮に居る呪い子=レネだと人々に印象付ける。
その事態にアルベールも精神の安定を欠き、呪いを発動しそうになるが、レネによって抑止。しかしレネは牢に入れられ、レネへの刺客も呪い子排除という大義名分が与えられてしまう。この全ては謎の男の指示だった。
レネの入った牢にはフーそしてギヨームが面会に来る。しかしギヨームの目的は これまでの感謝を述べることと、王宮からの処分を言い渡しだった。それがレネの追放。こうしなければ人々の心は収まらない。それが国王の判断だった。息子がどれだけレネを想おうが、この判断を間違ってはいけない。
アルベールは禁止されているレネとの面会を決行。どうにか彼女を近くに置こうとするが、レネは事態の収拾を優先する。そして呪いとの共生を目指すアルベールの目指す世界の実現後なら一緒にいられると彼を奮起させる。アルベールには駆け落ちする覚悟もあったが、現実的な解決を目標にする。それが謎の男との再会だった。


レネの追放執行までに接触を目指そうとしていたが、追放は即座に実行される。そのことを知った若い世代はアルベールがレネに会えるように王宮内で暴れ回り、国外へ出ようとするレネを追う。
レネは市中引き回しのような目に遭ってから、アイシェンのいる鉱石の国(『4巻』)で働き口を探そうとする(呪い子だから鉱山で働けるかも)。国王はレネに対して謝礼と鉱石の国での保護を願う書状を用意してくれた。
しかしレネはアルベールとも会えず、目的の国にも行けないままダンが現れる。そこで一連の騒動がダンによるものだと知り、レネは怒りを覚え、ダンを犯人として告発しようと考える。
レネからアルベールが呪い子との共生を理想としていることを聞かされ それが癇に障ったダンは、マザーから奪った能力でレネの無力化を試みる。そこに現れるのがアルベール。最後の最後のピンチに駆けつける展開は この作品で何回も描かれていたけれど今回は救出できずに一緒にいた護衛役のフーは無力化してしまう。孤児院編では一緒に行動していなかったから仕方ない。
アルベールは、叔父であった王弟・オリヴィエの一件の黒幕が この謎の男であることを聞かされる(『1巻』)。彼が最期に取り出した謎の強力な毒は、ダンによってもたらされた品だった。ダンの真の狙いがレネにもかかわらず、レネが王宮と関わる前からダンがオリヴィエに接触したのは、呪いの連鎖を狙ったからだと説明される。少々後付けというか、一連の出来事の黒幕にダンを据えようとして無理が見え隠れする。アルベールは愉快犯と言えるダンの所業に怒りで呪いを暴走させそうになるが、そんな王子の精神を眠らされたはずのレネが無意識に動いて守る。
けれどアルベールはダンの能力によって囚われ、レネを奪われてしまう。ここでダンがアルベールの命を奪わないのはなぜなのか。アルベールを無力化できたのなら、今度こそ王宮でアルベールも呪い子であると証明して国の威信を崩壊させればいいのに、と思わなくはない不自然な展開だ。もちろんアルベールが死ぬわけにはいかないのは分かっているけれど。
遠距離状態となったアルベールは、レネを失い自信も失われようとしていた。けれどレネが最後まで自分を守ったように、自分もレネの救出を果たさなければならないと思い直す。
ダンによって孤児院の時同様に植物が王都全体を覆おうとしている。そのダンの行先は王城だと確認してアルベールはレネの救出に向かう。そこまで呪いを封印したまま剣で植物を切断していくが、途中で植物によって昏睡させられた母親と それを悲しむ子供を目撃してアルベールは呪いを発動させて、彼らの安全を優先する。
しかし呪いへの偏見が高まった王都での呪いの発動は自殺行為。アルベールは人々の避難と救助に尽力しようとするが、その彼に石を投げつける者が現れる。これが現実だと呪いとの共生への果てしない道のりに絶望しかけるが、王子が助けた親子によって呪いが時に有益であることが実証される。そしてアルベールは自分への扱いは事態の収拾後に国民が決めるものだと腹をくくり、ひたすらに国を守ることに邁進する。
連れてこられた空間で目を覚ましたレネは、ダンの本当の名前がルカだと知り、おそらく父が交流した男性と同一人物であると推察する。そしてダンから王子の毒の呪いが吸収された=アルベールが消滅したと告げられるが、それに動じない。この場面、読者に能力の吸収=存在の消滅というルールが伝わり切っていないし、描き方も少し分かりにくいと思う。私の頭が悪すぎるせいもあるけれど、ここでレネが一瞬でも動揺や絶望をする心の流れが分からなかった。

