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なぜか事情を知っても召使いがグイグイくる、死神坊ちゃんと不死メイド

呪い子の召使い【電子限定おまけ付き】 1 (花とゆめコミックス)
柴宮 幸(しばみや ゆき)
呪い子の召使い(のろいごのめしつかい)
第01巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★(6点)
 

「お前だけが、俺の召使い」 不死の呪いを持つ少女・レネは、気味悪がられ仕事をクビになり求職中。ある日王子様の召使いにスカウトされるが、彼は触れる者皆死ぬ「毒の呪い」のために幽閉されていて…!? 相反する呪いを持つ孤独な二人が出会う、運命の王道主従ファンタジー

簡潔完結感想文

  • 孤独な魂が共鳴する物語であって、晴れて視界が開けて玉の輿に上手く乗れた話ではない。
  • TPOを無視して唐突に毒リンゴを齧ったのはヒロインの眠りを覚ますのにアレが必要だからか。
  • ヒロインに出会う前に王子の精神が蝕まれなかったのは業務外の仕事したギヨームの お陰。

分を呪わば 穴一つ、の 1巻。

白泉社の(新人作家の)御多分に漏れず、4話の短期集中連載が好評で その後に長編化した作品。長編化は予想外の僥倖であったため、この『1巻』は完全に独立した話になっており、ここで完結していても おかしなところは一つもない。むしろ ここから どうやって長編化するのか、話の膨らませ所がないとか、クライマックスになり得る展開を一番最初に消化しちゃったよとか、心配してしまう。

しかし作者は上手いこと横方向に話を膨らませて、多少 着地点に迷ったような気配を漂わせたけれど、見事に長編化に成功した。キャラたちも美麗に そして生き生きと描かれているし、舞台である中世ヨーロッパっぽい雰囲気も綺麗な背景によって ちゃんと出せている。2020年開始の連載で悪役令嬢とか転生などの流行に乗らず、これぞ白泉社っぽいと言える王道のファンタジーに挑んでいるのも好感を持った。

私が重視する お話の作り方も上手さで『1巻』は1話から意外な真相が続いており、ミステリっぽさが用意されているところも面白かった。それでいて王道を極めていて、毒リンゴを齧るヒロインと、深い眠りについた彼女を目覚めさせる王子様からのキスなど抑えるべきところを抑えているのが憎い。白泉社的な王道ポイントでいえば、ヒロインは庶民で両親を亡くした不遇な生まれであるとか、相手は王子であり『1巻』のラストでは王子の将来が明るいことが確定し、このままいけばヒロインは玉の輿に乗れることになる。この辺も王道展開だ。
世間と上手く折り合いを付けられない自分の特性を、出会った相手が肯定的な側面を引き出してくれて、それが自己肯定感に繋がるという流れも上手い。コンプレックスと言い換えられるような広い意味での「呪い」は誰もが持っているもので、それを持つ自分も認めてくれる人を好ましく思えるのは どの世界でも一緒である。

逆に王道から外れているのはヒロインとヒーローの設定。白泉社で王宮に乗り込むヒロインの姿は見たことがあったけれど、その王宮にいるヒーローがヒロインよりも年下なのは初めてだった。最終『9巻』によると2人は5歳差なので、17歳のヒロイン・レネに対して王子・アルベールは12歳ぐらいということになる。この年の差があることで身長差、そして精神年齢の差が生まれる。王宮で王様(または王子様)に姫扱いされて甘く守られるのではなく、本書の男女2人は手を取り合って一緒に歩いている感じが出ている。そこが良かった。お姉さんだからということもありレネの明るさや お節介に わざとらしさを感じないし、開幕時のアルベールが自分の「呪い」に囚われて引きこもりの暗鬱とした精神状態なのも面白い設定だった。

王宮に仕えた庶民ヒロインが秒で王子または王に会えるのは白泉社ファンタジー

書の大きな特徴である「呪い子(のろいご)」とは「呪い」という特異な力を持つ者の事で、人ならざるその力は時に災いを招き人々から恐れられていた。少年漫画なら、呪いは戦闘スキルとして扱われ ここからバトルが始まるところ。しかし少女漫画なので どちらかと言えば呪い子たちにあるのは被害者意識で、その能力を持つが故の精神的な作用が重視されている。

↑の「あらすじ」にも堂々と書いてあるけれど、当初はヒロイン・レネの「不死の呪い」は秘されており、最初に明かされるのは王子・アルベールの「毒の呪い」だけ。なので1話の前半まで読んで『死神坊ちゃんと黒メイド』かと思った。発表も『死神坊ちゃん~』の方が早いし、これはパクリ論争に発展するのではと本書の発表から5年が経過した2025年に心配した。けれどレネの呪いが明かされて2人が触れ合える関係なのが確定したことで類似点は一気に減少して安堵できた。


ネタバレになるけれども、王子を狙う犯人の手法が面白かった。本人ではなく周囲の者を毒殺するのは非常に まわりくどい方法だけど、実際 幽閉状態という密室状態にいるアルベールを弱らせるには一番 効果的なのだろうと理解できた。後半は、犯人はバレバレだけれど3人の連続毒殺事件への動機とハウダニットを追求するミステリとして面白く読んだ。特に王子の召使いの連続死のトリックは面白かった。トリックというほどではないけれど、あの手法なら死のタイミングをコントロール出来る。ただヒロイン・レネの毒殺のタイミングは ちょっと腑に落ちないけど。これは関係者一同が集う場面で死が発覚しなければならないのと、毒リンゴという道具立てが犯人ではなく作品にとって重要だったのだろう。

そして『1巻』を全部読んでから1話を読むと犯人の狙いが かなり上手く作用していることが分かる。1話のアルベール王子が引きこもり状態で精神的にも不安定であることは、彼を苦しめたい犯人の思う壺だったのだ。そして そう理解してから「番外編1」を読むとレネに会う前のアルベール王子の気力の喪失を出来るだけ阻止していた世話役になったギヨームのこと、そして息子を幽閉する処置をした国王の決断が結果的にアルベールを守っていたことが分かる。もし国王が息子を幽閉しなければ、直接 命を狙われていたかもしれない。
ただ犯人は毒殺という手段に拘泥したのでは、とも思う。犯人は人を死なすことよりも苦しめることに重点を置いていて、しかも証拠が残りにくく、自分の手を決して汚さないから毒殺を好んだのだろう。自分は悪くなくて、自分の環境を恨んで生きてきた そんな暗く粘着質な考え方も毒への拘(こだわ)りに通じるものがある。作中で呪いが人から人に授けられるものであるように、犯人は毒こそ自分が与えられる呪いのように思えたのではないか。

そして策士策に溺れるという皮肉な結末も作品に余韻を残す。もし犯人が自分の「呪い」に囚われなければ その人は自分の望む未来を手に入れられた。レネやアルベールが選べた自分で未来を掴む道を選べなかったから、犯人の道は閉ざされた。呪いを精神的に克服した者たちと、克服できなかった者の対照性が上手く描けていて とても良かった。


17歳のレネは人より身体が丈夫な取柄を活かした職を探すが裏目に出て243回クビになっている。そんな彼女がスカウトされ王宮仕えが始まる。連れてこられたのは王宮の敷地内の離れ。そこにいるグロワール王国 第一王子、アルベール・アンリ・グロワールの召使いになる。アルベールは引きこもり状態。なぜなら「毒の呪い」を持つ呪い子だったから。

彼の素肌に触れると死に至る。これまで3人の召使いが死んでいるためアルベールは召使いを拒絶し、またもレネは職を失いかねない。生活のため、王室の秘密を知ってしまったためレネは ここで働けるように奮闘する。タフなのは身体だけじゃなく精神面も そうであるようで、レネは強引にアルベールに介入する。しかし無遠慮に首を突っ込むことでアルベールに遠ざけられる。

呪いは人から人に かけられるもの。アルベールは、長男を毒物によって亡くした母親が毒を憎みながら この世を去った思いが呪いとなって出現した。その呪いによる被害者が3人出た2年前にアルベールは幽閉された。それはアルベールも望む処置。彼は自分が誰かの命を奪うことを恐怖していた。

一度アルベールはレネと素肌で触れてしまったことで また人を死なせたと涙した。だからレネは自分が死なないことでアルベールの失意を回復させようとする。同時に これまで同じように丈夫なことで人に恐れられてきたレネは、アルベールが生きていることを安堵してくれたことが嬉しかった。だから前向きに積極的に彼と関わる。こうしてアルベールは久々に人と関わる時間を持つ。


かしアルベールとレネの接近は彼の弱みになりかねず、そこを狙う者が居た。レネは刺客に襲われ血を流し倒れる。それを見たアルベールは精神的呪縛を振り切り、レネを救おうとする。けれど精神をコントロール出来ず暴走。周囲に死を振り撒く存在になってしまうが、今度はレネがアルベールを救おうと彼を抱きしめる。素肌が触れ合う抱擁で彼の気持ちを落ち着けるが、それは自分の死を意味していた。

倒れたレネの前で死なせたくなかった人を死なせたと号泣するアルベールに対し、レネは自分の「不死の呪い」を発表する。それを聞いたアルベールは今度こそ安堵した表情をハッキリ見せる。意外な真相が用意された よく練られた1話だと思う。


1話目で暴走したアルベールの呪いだが、その逆にコントロール出来るのではないか、とレネは考え、彼の精神を安定させるために自分や自然との触れ合いをさせて、引きこもり状態からの脱却を試みる。

そして2話目ではレネの来歴が語られる。両親はレネが生まれる時に盗賊に襲われて亡くなった。死に瀕した父親が死ぬことのない人生を願ったため、レネは不死の呪いを持って生まれた。その場面に居合わせたのがレネの養父となる者だった。

レネの話に続いて、アルベールの家族関係も語られる。危機に瀕していた国を立て直した国王である父親をアルベールは尊敬している。けれど自分は父親のようになれないと後ろ向き。能力的に申し分なく、呪いという足枷もない王弟の叔父が次の王に相応しいとアルベールは考えていた。けれども王弟は妾の子のため継承権は低いという。

そんな会話中、警備兵によって2人は怪しい人物だとして扱われ、発動中のアルベールの呪い子の痣(あざ)が見つかり、容赦なく斬りかかられる。そのピンチを2人で庇い合うことで乗り越えるが、それでも収まらない警備兵の興奮と疑念を王弟・オリヴィエが救出する。オリヴィエはアルベールが外出し召使いも再び雇っている現状を見て、甥を夜会に招待する。しかし これはオリヴィエの罠であることが匂わされる。1話目の怪しい人物も この人だろう。


ルベールの世話役であり、レネをスカウトしたギヨームは夜会への出席を反対するが、アルベールの意向が優先される。ギヨームが反対するのは これまでの3人の召使いの死亡に疑念が生まれたから。3人の遺体には呪いによる痕跡が見当たらず、偽装された可能性が高くなった。4人目の召使いであるレネも狙われている。アルベールが久々に公の場に出ることは嵌めるには またとない機会なのだ。

疑心暗鬼になったレネは緊張を抱えて夜会に出席する。そこでアルベールの父親である国王も初登場する。国王は息子の夜会出席を許したものの、来賓への挨拶が住んだら幽閉場所に戻るよう厳命する。騒動や失敗が許されない状況で夜会が始まる。レネの緊張感を察知したアルベールは彼女を安心させるため、自分が呪いをコントロールしつつあることを知らせる。その方法はレネの笑顔を思い出すこと。そうすると精神が安定するらしい。アルベールが召使いと歓談している場面を見て、王子に関する黒い噂は消えようとしていた。

リンゴを取り出したのは過去との違い、そして この後のレネを「姫」にするため

かし その直後レネは毒によって倒れ、彼女は4人目の被害者と仕立て上げられる。
毒の混入経路は、この夜会のために色付いたレネの唇。出発前に付けられた口紅は物を食べると体内に混入する。これは以前の3人と同じ手法だと犯人の独白によって明かされる。召使いであるレネが夜会中に物を食べるのは本来 無作法であり、衆人環視の中で死んでほしかった犯人の狙いは やや杜撰と言わざるを得ない。

犯人の動機は やはり王位継承権。オリヴィエはアルベールの兄も毒殺していた。毒殺がオリヴィエの常套手段だったが、アルベールは毒を相殺して効かない。彼が呪い子だと知ったオリヴィエは、彼の周辺に黒い噂を流すために召使いを連続して毒殺していった。

オリヴィエは自分もまた呪われた人間だと言う。それは生まれや環境という足枷。召使いの不審死が続いてもアルベールは王位継承権を持ったまま幽閉され、守られている状態が許せない。そしてアルベール本人を毒以外の方法で殺さないのは、彼を精神的に追い詰めて自滅するのを待つためだった。これは王子の死では絶対に疑いを持たれない絶対的な自然死で、オリヴィエの心も晴れる手法なのだろう。実際、レネと会う前のアルベールは引きこもりで精神状態も危うかった。オリヴィエの独善的な手法を聞き怒りで暴走しそうになるアルベールをレネがコントロールする。


分を取り戻したアルベールを苦しませるために、オリヴィエはレネに刃物を向け、死のループを繰り返すことで2人の精神を摩耗させようとする。再度、呪いが暴走しそうになるアルベールの前にギヨーム、そして国王が登場し、罪が露呈する。
国王は、異母弟であるオリヴィエの心の闇に気づいていた。けれど その心を克服した時に王位を放棄し、息子のアルベールとともに王宮を出ようと考えていた。つまりオリヴィエは自分の「呪い」を払拭できる精神力があれば渇望した王位が手に入ったはずだった。

自分には闇を照らす存在が居なかったこと、もう後戻りは出来ないことを観念したオリヴィエは、自分とは逆にアルベールが呪いと共に人生を歩む覚悟をいているのを目撃し、身体を蝕み続ける強力な毒を口に含む。服毒自殺を試みただけでなく、レネに口移しで飲ませ、彼女に永劫の苦しみを与えようとする。

実際、この毒は協力で不死のレネが初めて死を実感し、やがてレネは意識を失う。死ぬことはないが不死の呪いが発動して復活することもない。その膠着状態にアルベールは自分の呪いで毒を相殺することを試みる。そんな息子に国王は父親として接し、幽閉が守る手段だったことを告げる。父親もまた長男や妻、そして異母弟が守れなかった後悔の中に生きていた。

それを知ったアルベールは改めて人を救うための呪いを発動させる。呪いはオリヴィエと同じく経口で体内に侵入させる。つまりはキスである。これを初キスとしてカウントするかは難しいところ。こうして2人は自分の能力が誰かの役に立つことを実感し、存在意義を取り戻す。

アルベールの幽閉は解かれ、王宮に戻る。オリヴィエの一連の犯行は公表されたのも、醜聞を恐れるよりもアルベールの黒い噂を払拭させる効果を期待してのことだろう。そして物語的にはアルベールが正式に、そして唯一の王位継承者となって、その彼に見初められたレネには輝かしい未来があるという玉の輿が決定されたという実に白泉社らしい結末だと思った。

「番外編1」…
本編では明かされていないけれどギヨームの本来の役職は近衛騎士団団長。国王がアルベールを守るために遣わせた存在だと番外編で判明する。アルベールのことをずっと見守っている大人の人間として描かれていて、初期は重要人物。ギヨームの存在がなければ、アルベールはレネと出会う前に精神を病んで気力を失い、自分の母親と同じ世に衰弱して死を迎えたかもしれない。そうすればオリヴィエの計画通りに進み、闇を克服できないままの彼の治世では国も混乱したかもしれない。その意味でギヨームの役割は非常に大きい。
しかし物語の中に段々と子供世代のキャラクタが増えるとギヨームの登場回数は極端に減っていく。ただそれはアルベールの周囲に集まる人が増えたということでギヨームも嬉しく思うのではないか。

呪いに呪われそうになった自分の心を救ってくれた年上男性との恋も始まる…!?

「番外編2」…
食事に喜びを感じないアルベールだけど、恋は そのスパイスになるという話、かもしれない。