
柴宮 幸(しばみや ゆき)
呪い子の召使い(のろいごのめしつかい)
第09巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
王宮を出てすぐ、謎の男に連れ去られてしまったレネ。男の正体と狙いとは…? そして離れ離れになってしまったレネと王子の運命は!? 呪いを巡る王道主従ファンタジー、堂々の最終巻!「その後のみんな」をえがいた描きおろしも収録!
簡潔完結感想文
最終決戦が異能力バトルにならなかったと残念がる少年漫画脳、の 最終9巻。
呪いと祝福の物語も いよいよ最終巻。最終決戦でルカがレネに与えたのは、口にした言葉による呪い。しかし その呪いに揺るがなかったのは切なる願いによる祝福だったと言えるだろう。漢字の部首が違うことで、そこに込められた意味が全く違うものになる。
本書は呪いという一種の障害とも言える人の特性を差別する物語と読むことも出来るけれど、それを呪いとするか与えらえた特性とするかは人の思い次第である。そして呪いが本当に呪いになるのは、それを人々が悪いものとして扱った時。最終決戦で王子・アルベールが市民の前で呪いを発動させても、それが呪いにならなかったのは、呪いを目撃した市民たちが呪いをネガティブに捉えなかったから。
ルカの眠りの蔦(つた)という国難に対して、人々は呪い子と それ以外という差別を排除して一丸となった。この記憶が国難が過ぎ去りし後も、人々の口から呪いを呪いにするような言葉を忘れさせるだろう。それは思想の統制や圧力ではない自発的に生まれた意識。アルベールの国でも他国でも、呪い子が その特性を活かして社会の中に居場所を見つけた時、呪いは きっと別の言葉に置き換えられるのだろう。それが祝福かもしれないし、ギフトかもしれない。やや危ういのは逆に呪いを特権的な能力だと考えて、呪い子たちが優越感を覚えかねない点だろう。国の安定が呪い子の発生確率を抑えるのなら、平和の維持は何よりも重要だろう。愚かな人類が再び戦乱の世に移行して、そのバランスが崩壊した時、呪い子による革命が起きてしまうかもしれない。
そういえばルカが全ての呪いを吸収できる能力を持っていると知ってから、最終回は呪いが消滅する世界が到来するのだと勘違いしていた時期が私にもありました…。もう一つ言えば、本書ではレネとアルベールの身分差は全く問題になりませんでしたね。国王は現実的に恋愛や結婚など息子の幸福、世継ぎの誕生はレネにしか出来ないと考えてのことなのか。
さて※ネタバレになるけれど、最終決戦後、一度はルカに吸収された不死の呪いが なぜレネに再び宿っているのかが一つの謎として残る。ぶっちゃけて言うと、物語の特性上 レネは不死の呪いを持っていなければアルベールとスキンシップやキスなどなど一切の愛情表現が出来ないから呪いが戻らないと困るのだろう。


感傷的に考えると、それがルカの最期の願いだったからだろう。彼は最期に自分が求めていたモノが不死の呪いではなく、レネの父・ダンその人だということに気づいた。だからレネを消滅させる意義も失い、ルカは最期にレネに呪いではなく祝福を与えたと考えることも出来る。
レネたちが どうして不死の呪いが戻っていることを疑問に思わないのかが疑問。色々と描かなければならないことがあったのは分かるけど、全体的に最終決戦は大雑把な展開に思えてならない。ルカが不死の呪いを吸収後、暴走するのも いまいち分からない。自然発生的な呪いではなく願いを込めた不死の呪いはルカからダンへ、そしてダンからレネ、またレネからルカに受け継がれたからこそ思いが増幅したということなのだろうか。この辺は あまりにもご都合主義というか、読者側が脳内補完しなければならない。
またフーやジゼルを含めた呪い子たちの集団が、それぞれの能力を駆使してルカを追い詰めていく少年漫画的なバトルを期待していただけに、最終決戦は まともに戦うことがなかったのが残念だった。ヒロイン的には戦ったら負け、なのだろう。
レネとアルベールは それぞれ自分の欲望や後悔に呑み込まれなかった。それがルカとの違い。特に序盤から濃く描かれていた親子関係は無敵というテーマが繰り返されていた。レネは容姿や能力だけでなく その精神的な強さも両親から引き継がれている。出生前に死別した両親だけど、レネは全部が両親から受け継がれた性質で構成されているのが分かる。アルベールも国王から未熟な息子ではなく、一人の人間として扱われてレネの救出に向かい、その際に母親の願いや存在を感じる。アルベールの母親の登場は やや唐突だけど、これを描かなければ母親の立ち位置が祝福ではなく呪い側のままに なりかねなかったのだろう。
気になったのは『8巻』からの最終決戦編に突入してから、漫画として読みにくくなった点。決められたページ数の連載1回分で一定のところまで話を進めるために、結論から先に描いてから、次回や場面が戻ってきた際に補足したりしているのだけど、そのせいで話が分かりにくくなっている。登場人物の発言や動機の裏にあるものが読み取れないまま別の場面に展開したりしていて、読者は話が上手く繋がらないままで、どうにも ぶつ切りの印象が残ってしまった。
特にレネとアルベールが遠距離状態で物語に2つの視点が生まれた時に その障害が起きている。1人の視点で物語が進むと単調になってしまうから、交互に視点を移行させているのだろうけれど、そうすることで話が見えにくくなっていた。これまで2人はニコイチで行動していたから ほとんど同じことを見聞きしていたけれど、別々に行動した途端に話が変なところで飛んでいった。これは作者が不慣れなことに最後の最後で挑戦した弊害か。最終巻で何のことを指しているのかが分からないシーンが こんなに出てくるとは思わなかった。でも総じて面白かったです。
レネはルカを拒絶する。その態度にルカは自分が持つ、レネの父・ダンとの記憶を見せる。父の日記とルカの記憶により過去が相互補完されていく。
ルカは、アルベールが突き止めたように過去に人の手で創られた人工神だった。しかし呪い子を消滅させても世の中から厄災が消失しないため、やがて人々の信仰は薄れ、ルカが災いと見做(みな)されることになった。神殺しを試みた人間たちだったが、ルカの中の呪いが暴走し彼らは全滅。ルカも反動で100年ほど眠っていた。ダンと会った時のルカが よく眠っていたのも その名残なのかもしれない。
そんな人工神の悲しみに感化されたのがダン。人情味溢れるダンの性格に触れることでルカは人の心を知り始め、ダンの瀕死の事故に自分の不死の呪いを分け与えて生存させた。それが2人で一緒にいる方法だったから。
しかしダンはルカ以外の人間を好きになり、生涯一緒にいると誓った。ルカの願いを無視したのだ。感情が薄いルカだから、そのことも静かに受け入れてきたが、夫婦に子供が生まれることを知り、ダンは一層 自分以外の繋がりを大事にすると悟り、ルカは凶行に及んだ。レネの両親は盗賊による強盗殺人ではなく、ルカによる犯行だった。動機は嫉妬。ルカの狙いは妻のエマと生まれてくるレネと名付けられる胎児。ダンの大切な者を奪えば、全てがリセットされると思っての行動で、やはり人工神は人の心を十分に理解していないようだ。
夫婦は互いを庇い合い、そして生まれてくる子供を自分の命以上に大切にする。それを見て更に逆上したルカは皆殺しを決意する。ルカの計画ではダンにだけ不死の呪いが発動し、ダンにはルカしかいなくなるはずだった。しかしダンはレネに呪いを譲渡し、そのために不死ではなくなった。ルカにとってレネは自分からダンを奪った人という逆恨みが成立してしまう。
レネはルカが両親を、そして現在の事件の黒幕だと知る。ルカの狙いは、レネの全ての繋がりを壊すこと。父・ダンを孤独にして取り戻そうとしたように、レネも孤独にすれば自分を受け入れると信じていた。
眠りの蔦の成長よりも早く王宮に辿り着いたアルベールは国王に会う。そして父親にレネが自分の即位後に不可欠な存在か問われ首肯する。その一人前の男性になった息子の姿に、国王はアルベールにレネ救出を命じる。『1巻』1話では息子のために幽閉措置を取った国王が、今度は息子に自由の翼を与える、という展開が熱い。唯一の肉親であり国の最高権力者から公に王子の相手と認められて、レネは両想い前から婚約が成立している。
フーを伴ってアルベールはレネの元に向かう。王宮は国王や仲間たち、信頼できる人々が奮闘してくれるので、王子はレネ奪還に専心できる。


アルベールは、ルカがレネに対して言葉による呪い、能力ではなく呪詛を与えて絶望の淵に立たせようとした間際に駆けつける。自分の呪いをルカに込めて、彼を足止めし、その隙にレネを救出。そしてフーも能力を使いこなして時間稼ぎに一役買う。
こうして遠距離状態は終了。2人は一時避難して自分たちの傷や身なりを整える。しかしレネはロザリーが用意した召使いの服を着るのを躊躇う。レネはルカの呪詛が効いている。その葛藤を察知したアルベールは彼女の話を聞き精神を支える。そこで自分がレネを助けた動機は主従関係ではなく、恋愛感情だと自分の気持ちを正式に伝える。自分の人生に不可欠な存在だと伝えることでレネの呪いを除去しようとする。レネも自分の気持ちに気づき始めるが、その前にルカが動き出す。アルベールはレネを逃し、独力でルカに対処しようとするが、レネは一緒に行くと譲らない。それは離れたくないという彼女の願望もあった。
レネは召使いの服でルカの前に現れる。それは彼女がルカの望む生き方をしないという意思表示でもあるだろう。
そしてレネはルカの「心の呪い」の解呪を試みる。彼にとってレネはダンの代替で、それでは心が満たせない。ルカは複数の呪いによって死ぬことが出来なくて、ダンに不死を与えたのは彼と一緒に生きたいと願ったから。そして人は呪いを恐れ、呪いを避ける。その象徴が自分という人工神だとルカは人の世の常を説く。
今のレネには両親から繋がれた呪い、命に対しての罪悪感はない。レネはアルベールと生きる道を選択し、ルカの事情に巻き込まれる訳にはいかない。またアルベールは呪いを不幸だと思うのは一方的で、その意味は本人の生き方が決めるとルカに訴える。
その頃、王都には隣国からマチルダによる派兵が到着。鉱石の国でも相手国の国難に対しての援助が始まる。王宮に程近い孤児院では避難民を保護し、呪い子たちによる蔦の除草が行われていた。一般人と呪い子が同じ目的で動く、これは両者の理解の一助になるだろう。
使い魔(?)によって人々が一つに まとまる様子を察知したルカは本気を出し、レネとアルベールを隔離し、アルベールの呪いの吸収=消滅を狙う。それを阻止しようとレネが割って入り、彼女の呪いが奪われ、レネは再生しないまま意識を失い、死が訪れる。
それでもルカはレネの死に何も感じない。やはり彼にとってレネはダンの身代わりに過ぎず、ダンの代わりには成り得なかったようだ。そんなルカの虚無を見てアルベールは怒りに我を忘れて特攻を挑む。しかし それを亡き母親が止める。心まで呪われたらルカと同じ存在になってしまう。だからアルベールは冷静に自分の出来ることを模索する。ちょっと母親の霊の登場が唐突か。毒によって長男を失った母親は、もう二度と毒で子供が死なないよう願ってアルベールに呪いが発現したと考えれば守護霊になるのも当然の流れ。でもやっぱり ここまで少しも気配のなかった人の登場は腑に落ちない。
過去にダンがルカと呼んだ物語のように永遠の眠りに就いた少女を救うのは王子様のキスである。それを体現してアルベールは死の淵にいるレネに呼びかける。レネもまた両親に出会い手を引かれ、死の淵から浮上していく。自分がアルベールに伝えるべき言葉を伝えていないことを思い出したレネは生存を強く願う。強毒を口に含んだレネをアルベールがキスで助けた『1巻』の再現があり、今度はレネはアルベールがどう自分を助けたのか理解する。
なぜレネが呪いを奪われても一命を取り止めたのかというと、鉱石の国の呪いに作用するアクセサリーがあったから。少女漫画の愛の象徴であるアクセサリー=アルベールの想いがレネを救ったと言える。
そして逆に不死の呪いを取り込んだルカは、2代に亘って呪いを繋いだダン・レネの思いが強すぎるため身体の中の呪いが消滅していく。複数の呪いによって不死状態だったルカは呪いの消滅が命の限界なのだろう。
その前にレネはルカに、自分の命は両親だけでなくルカの存在があって成り立つものだと伝える。彼もまたレネの命が発生し継続する一つの要素なのだ。アルベールもルカを恨まず、然るべき処罰を望む。それは勝手に人工神に祀り上げ、消滅させようとした過去の人々とは違う反応だった。これによってルカは最期に自分にとってダンという個人がどれだけ大切だったかを理解する。自分が本当に望んだ存在は呪いの継承者のレネではなかった。ダンを守り、彼と一緒に生きる道を模索しなかったことがルカの人生の分岐点だった。そこに思い当たったことで彼の呪いは解け、彼は消滅していく。それにより蔦も消失し、眠りに囚われた王都の人々も目を覚ます。
事件後、アルベールは力を使い果たし5日間昏倒する。側仕えに戻れたレネは必死に介抱し、彼の回復を待った。
その間に国内ではルカの生い立ちと事件のあらましが公表されていた。王宮内では呪い子を過剰に忌避しない一派も登場し、風向きが少しずつ変わっていく。レネはアルベールへ自分の想いを伝える。思慕を聞いたアルベールは思わず呪いが発動。歓喜や興奮で呪いが出てしまうのなら、色々な面でアルベールの相手はレネにしか務まらないだろう。
数年後、アルベールは成人する。この頃には王宮や王族に呪い子がいることが普通に受け入れられている。ハイハイしていた孤児院編(『5巻』)のクレールも すっかり女の子に成長している。
レネは猛勉強して側仕え 兼 補佐役になったらしいけれど、補佐役が何をするのかは不明。フーも青年に成長してジゼルと一緒にいる。本編で入りきらなかった数年後の それぞれの近況は巻末の おまけ4コマなどで紹介されている。ただ一つ、隣国・マチルダの弟のことに言及されていないのが気になった。王位継承権を放棄して彼はどうしたのか。端役も端役なので仕方ないけど、彼も救われた、自分の性格の歪みに向き合ったという結果が欲しかった。
アルベールは成人の式典の前に王宮の離れにいた。1話で引きこもっていた場所で最終回の最後のシーンを迎えるのは王道だけど胸が熱くなる。成人したアルベールも立派な青年。レネよりも顔一つ分 背も高くなっているし、少し照れるぐらいでは呪いも発動しない。その発動は自由自在のようだ。彼らと彼らの国は いつまでも幸福でありましたとさ、という物語に相応しいハッピーエンドを迎える。

