
柴宮 幸(しばみや ゆき)
呪い子の召使い(のろいごのめしつかい)
第06巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
毒の王子×不死の少女×王道主従ファンタジー!ひょんなことから、レネと王子は呪い子の赤ちゃんの面倒をみることに。謎の男に導かれ、呪い子の面倒もみるという孤児院を見学する一行。しかし赤ちゃんが失踪し、さらにレネが囚われの身に!? 女装アリ&嫉妬アリのドキドキいっぱい第6巻!
簡潔完結感想文
- 正規の仲介業者を経ず、謎の男に紹介された物件(孤児院)で案の定、事件が発生する。
- 何度目かの、地下室で発見する この場所が秘匿する裏の顔。ちょっと話が直線的すぎる。
- 自分を「ぱぱ」と呼ぶ疑似家族のお陰で若き王子は次世代を念頭にした国づくりを構想する。
飛んで火にいる夏の虫、の 6巻。
『5巻』から本格的に動き出した物語の縦軸となる「謎の男」(初登場は『4巻』)。その男の暗躍とエピソードを絡ませないといけない物語の都合から、不自然な流れが生まれているのが気になった。口車に乗って訳ありな場所に誘導されるし、案の定 そこで事件が起こるし。しかも地下室を発見して この場所の裏の顔を知るというのも いつも通りの展開。「花とゆめ」の月2回の連載に加えて、エピソードを捻出しなきゃならないし、長編連載は初めてで不慣れなことが多い。そんな作者のオーバーヒートが見え隠れする。実際、1回だけだけど休載した形跡もあるし、次の『7巻』は連載を継続しながら結末までの流れを考える省エネモードに移行している。
他にも今回の修道院編は、黒幕に対して周囲の者たちが疑問を持たないのは、キャラに思考停止させて ご都合主義を優先している部分が見えてしまっている。「鉱石の国」編では、気づいているけれど問題提起が出来ないような状況にしていたけど、今回はそれもない。そして これによって黒幕以外のシスターたちが、孤児院を出た孤児たちのアフターケアを全くしていないことも露呈してしまう。この孤児院は全ての責任を黒幕に押し付けて、その人を排除したことで継続しているけど大丈夫か、と思ってしまう。いくら知り合ったキャラを慈愛に満ちた人として描いていても、やっぱり本人も言う通り責任者としては心許ないように感じてしまう。「鉱石の国」編でも問題を起こすことが目的で、その解決の流れは駆け足で雑だった気がするけど…。


良かったのは、今後 レネが謎の男との因縁や対決が待っているように、アルベールにも王宮内の孤独や地位を用意して彼にも戦うべき場所があるとしているところ。
突然 継承権を持つ親族がいるらしいことが描かれたのは その静かな戦いがあることを描くためだったのか。具体的に王族キャラがいる訳ではなく、概念としての仮想敵ようだ。そして自分以外に相応しい人がいてもアルベールが継承権を譲らず、自分が理想とする国を作るという選択を描くためなのだろう。これは『1巻』で叔父・オリヴィエに王位を譲ろうと考えていた過去の王子とは違うことを意味している。
今回の孤児院編ではアルベールが我が子のように思えたクレールを念頭にして、彼女が安心して暮らせる国を作ることを改めて誓う。まだ若く、クレールの兄ぐらいの年齢のアルベールだけど、育児体験をすることで、通常なら持ちえない次世代を起点とする視座を持てた。これまでは物理的な世界の広がりがアルベールに新しい見識をもたらしていたけれど、今回は物理面ではなく時間軸の広がりが描かれていたのではないかと思った。
敵は多いかもしれないけれど同世代、そして年長者・親世代にも自分を認めてくれる見方が多くいることでアルベールは、進む道の先が険しくても その道を生涯かけて歩き続ける覚悟を持った。それは王道と呼ばれるものだろう。本書のキャッチフレーズ、「王道主従ファンタジー」の王道はアルベールの進む道を表しているのかもしれない(そして その結果のヒロインの玉の輿)。
謎の男に連れられるままに呪い子を受け入れる孤児院に到着したレネたち。謎の男は呪いについて調査をしているらしく孤児院の女性院長(通称・マザー)に「先生」と呼ばれる。素性の怪しい者の紹介だけど孤児院は完全に事件に巻き込まれるパターンだ。むしろ そうでない展開だった方が驚いただろう。
この孤児院は一般の子と呪い子で施設が分けられている。それはクレールと同じく幼い呪い子は能力のコントロールが難しく危険性が高いため。そのため呪い子同士で集まり、子供たちの扱いに長けているミシェルというシスターが感情面を上手く制御してあげている。子供たちも自分たちの能力や違い、その加減を実地で学んでいくようだ。
ミシェルは不遇な呪い子を救うためではなく、ただただ一人一人の子供の幸福を願っている。そこに差別や区別はない。だからレネたちは この孤児院をクレールの居場所として考える。
しかし昼寝をしていたはずのクレールが行方不明になる。捜索途中でレネたちは この孤児院に孤児たちが次々と消える噂が流れていることを聞く。「鉱石の国」に続いて またもや平和に見えた居場所を与えられたはずの呪い子たちの裏には不幸があるという構造になっている。
孤児たちは外の世界で引き取り手が見つかったから消えるだけではない。勝手に抜け出して外出しようとした孤児たちも消えてしまった。彼らは孤児院を覆うように生い茂る植物に触れて眠っているところを発見されるが、発見者がミシェルを呼びに行った際に煙のように消えていた。神隠しか第三者の介入か。人を眠りに誘う植物を植えているのは防犯上の観点だとマザーは言うが…。
疑心暗鬼で孤児院を見て回ると、植物は侵入防止ではなく逃亡阻止のためにあるように見える。実際、その植物にアルベールが触ると彼の呪いが反応する。クレールがハイハイで移動したルートを追うと地下室への入り口に辿り着く。隠し事をするのは地下室が便利なのだろうけど、ジゼルの王宮の地下室、鉱石の国の患者の地下室と、似たパターンが続く。レネたちが そこで その土地の秘密を知る展開も同じだ。
レネたちが発見したのは外出しようとして行方不明となっていた孤児たち。彼らは眠っているだけ。
犯人は当然のようにマザー。彼女は孤児たちが呪いをコントロール出来るまで育て、育て上げたら神に捧げてきたという。それは神の御心に従うこと、そして外の世界で不遇な目に遭う呪い子たちを救うことだと彼女は信じていた。まるで『約束のネバーランド』である。
マザーの信念にレネは抗い、ここで初めて自分たちの呪いを発動させて、眠りの植物を操るマザーの呪いに対抗する。しかしマザーの能力で それぞれ別の場所に引き込まれてしまう。
レネと一緒にいたはずのクレールはアルベールの居場所まで移動し、能力を使って植物を焼き切り、照明役となりレネの居場所までアルベールを導く。クレールが能力を使い分け、コントロールし始めたのは疑似的な両親に愛情を注がれたからだろう。アルベールは呪いのためクレールに直接触れられず、一緒に移動するためにランタンや提灯のようにクレールを吊り下げている姿が可愛い。


不死ではあるが不眠ではないため植物によって眠るレネに近づくのは謎の男。その男はレネのことを以前から知っていて、その命を狙っていた。間一髪でアルベールが登場し、レネを救出しようとするが、レネは眠りから覚めない。眠りを覚ますのは自発的な心の動きが必要。しかし眠りの中の世界は本人にとって心地の良い世界なので その世界に安住しようとしてしまうようだ。
レネが見ているのは自分の知るはずのない両親の記憶。生まれる前に死別した両親との あったかもしれない未来の中にいたレネだったが、アルベールの声を聞き、目の前の世界が幻であることを自覚し現実へと浮上する。謎の男が試みても起きなかったレナが目を覚ましたことは男にとって意外な出来事だった。
マザーの能力は後天的なもので、謎の男から与えられたものだった。呪い子ではないけれど不当な扱いをされ、不幸な人生だと落胆するばかりのマザーは能力を与えられて自分で人生を拓いた。そして孤児院を設立した頃に再び謎の男に会い、呪い子の献上の命を与えられる。しかし自分を導く者から落胆されることが恐怖となり、彼女は どんどん狂っていったと言える。
目を覚ましたレネたちは発見した呪い子たちと地下室から脱出。ミシェルがマザーの裏の顔を知らないことを確認し安堵したのも束の間、マザーの呪いが修道院中を覆い始める。
マザーは自分が必要とされない、無能と認定される恐怖によって呪いを暴走させていた。成人が呪いは暴走させる初めての例だろうか。マザーは自分の行いこそが神の意志の体現だと妄信している。しかしレネは社会の中でも幸せな呪い子がいると自分を例に取る。自己肯定感の低さがマザーの暴走で、その暴走を止めるのはレネたちではなく、修道院の関係者たち。マザーに裏の顔があっても、表の顔で人生を救われてきた人たちがいる。それをアルベールは分からせる。そうしてマザーは心の安定を取り戻し、呪いの暴走は止まる。
彼女が神と崇めている男性は呪いを与奪が出来る者だという。呪いを奪われた子は跡形もなく消えてしまうといい、それが これまでの事件発覚を遅らせていたと考えられる。
修道院は司法の手に委ねられ、マザーだけでなく関係者も一時 連行される。抜け殻となった修道院で残ったのはレネたちと謎の男。この男こそ神と称される者。だが男は「ダン」と名乗り立ち去る。それはレネの父親の名前でもあった。
事件は一件落着となったが、勝手にトラブルに巻き込まれに行った王子に対して厳しい査問が行われる。以前からアルベールの失脚を狙っていた者たちに王子としての資質を疑われ利用された形となった。けれど国王が反対派に抵抗せず、この査問を実行したのは王子の成長を信じていたからだろう。
ある書状を持っているレネは査問に どうにか入ろうとするが門前払いを受ける。そのレネを助けるのがアルベールが王宮で築いてきた人脈。そしてアルベールも王宮内で孤独なだけでなく、自分を信じてくれるギヨームたちがいることに気づく。
そこに修道院の一件に関してミシェルから書状が届き、感謝と王子の姿勢への敬服が書かれていた。その書状を届けるためにレネたちが奮闘したことを宰相のヒューゴから聞かされ、改めてアルベールは王宮内でも孤独ではないことを痛感する。
これまで行く先々で得た見聞と経験、そこで思索した国と自分の姿、それらを胸を張って発言することでアルベールは王子としての資質を認められる。ミシェルに一筆書いてもらったのはレネの発案。修道院が王宮から近い場所にあるから出来ることだろう。他国で起きた事件だったら大変だった。
またミシェルから修道院にクレールを王宮に置いてきたと訴えた人間がいることを知る。それがクレールの身内。彼はクレールの父親ではなく叔父だった。母親である姉が病死してしまった上に、クレールが呪い子であることが発覚し、彼の手に余ったため、呪い子のために他国で王子が動いた噂を知った彼は王宮内では呪い子が差別されないと考え、王宮に託すような行動を選んだ。ギヨームが呪い子を使って王宮の評価を落とす思想テロ(?)の可能性を考慮するのは、作品に厚みを持たせるためだろう。
クレールと叔父の「ぱぱ」は修道院を引き継いだミシェルに預けられることになる。疑似家族も これで終了。そこでアルベールは不遇な呪い子たちが安心して生きられる社会を目指す。クレールは その信念の根幹となる人である。忘れられない出会いが王子を一回り成長させていく。
