
柴宮 幸(しばみや ゆき)
呪い子の召使い(のろいごのめしつかい)
第05巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
毒の王子×不死の少女×王道主従ファンタジー、第5巻! 呪いを抑える鉱石を求め、一行はカラ国へ。しかし鉱山では謎の病が流行り始めていた。病の調査への協力を申し出る王子とレネは鉱山を訪れ…? 王子とレネのすれ違い&初喧嘩(?)エピソードも収録!
簡潔完結感想文
- 鉱山の毒に蓋をして対処したように、臭い物に蓋をしたい鉱石の国。友情は石よりも固い
- 白泉社ヒロインは玉の輿が目標。他に継承権を持つ王族がいるなら粛清しないとダメね★
- 似通ったエピソードの連続から脱するために用意された物語の縦軸となるキーパーソン。
身長差や年齢差ではなく その気高い精神に惹かれる 5巻。
以前も例に引いた上橋菜穂子さんの『守り人シリーズ』は、本書の王子・アルベールと同じ年頃の皇子が年齢を重ねていく様子が描かれているけれど、本書は成長に制限があると言えよう。17歳のレネと12歳前後のアルベールの年齢差と身長差のある恋愛模様が本書の核で、時間を進めて20歳と15歳で身長差が ほとんどなくなってしまうと本書の売りとか萌えどころも失ってしまうと思われる。
だから時間を進めることは出来ない。もしかしたら作品にかかった呪いは成長が許されないことかもしれない。けれど心の成長はだれにも止められない。この『5巻』に至るまでの冒険でレネはアルベールが一人前の男性として成長しつつあることを認め、まだまだ無自覚ではあるけれど、アルベールを異性として見始めている。
この変化は少女漫画に蔓延するルッキズムからの脱却とも言える。男性の方が身長が低くても年齢差があっても好きになり得るという、まず最初に心が惹かれていく恋心の純粋性を表しているように思えた。ただ白泉社作品なので、相手が王子(後に国王)になるという身分差別があるような気がするけど…。『5巻』で気になったのは他に王位継承権を持つ親族がいるらしい、という新情報。これは白泉社ヒロインには我慢ならない事態。アルベールの国内での地位が盤石じゃないことを描きたいのかもしれないが、今後の波乱も予感される。王位継承権を持つ者が続々と謎の病に倒れたりしたら、犯人はレネかもしれない…。
謎の病と言えば「鉱石の国」での病気に関する国家や人々の対応は、現実での病気に対する反応を思い出させる。特に人に感染するかもしれないという誤情報によって、隔離され人権を奪われたケースを連想した。


この成長できない呪いに対して、作者は作中で少しずつ未来を滲ませることで対抗しているように見える。アルベールが成長した姿や、彼の妄想の中で結婚や子育てを描いたりしている。今回はアルベールが親友になったフーの騎士への任命式の様子が先取りされていた。以前も書いたけど、本書のエピソードは全てアルベールが国王になった時に より良い未来の獲得できることの準備である。信頼できる腹心の部下、隣国との関係、国王としての視点などアルベールは獲得していく。そして その成長がレネの恋心の萌芽となっていく。
また今回は「呪い子ベビーシッターズ」とも言える子育て編が見られ、レネとの3人の疑似家族が描かれる。これも未来の先取りといえるだろう。
ただ変わらず内容は充実しているのだけど、ちょっと繰り返しも多いのが残念。「鉱石の国」での謎は よく出来ているし、その推理の過程も大好きなのだけど、結論的に以前のエピソードと似たようなところを発見してしまい、既視感に襲われる。
レネとアルベールの関係性も同じで、少しずつ前進していることは描けているけれど、台詞やスタンスが以前と同じで、もう言いたいことは言ってしまった出涸らし感が拭えない。
ようやく物語に縦軸が用意されて、王宮と地方(他国)を行き来するエピソードの連続から脱する予感が生まれた。けれど作者が描きたいことを描き切る前に、読者が飽きてしまうのではないかという予感もする。1つ1つのエピソードは好きなんだけど、長編として弱い部分が見受けられるようになった。本当に連載とは難しいものなのだと思わされる。
鉱山の毒で呪い子たちが病に侵されていると知りアルベールとレネは自分たちが呪い子であることをアイシェンに伝える。このカミングアウトは特に王子・アルベールにとって問題視されかねないことだが、無謀を試みるアイシェンや問題の解決を願うフーのために、事態に対処できる自分が動くべきだとアルベールは考えた。王子としてより人としての判断に見える。
そのアルベールの強さに触れて、アイシェンは自分の弱さを痛感し、自分が罪に問われても病人を救うために国を動かそうと試みる。しかし鉱山の毒に蓋がされたように、国も臭い物に蓋をしたい。アイシェンは国家(の威信を守ろうとする臣下)から消されそうになるが、それをアルベールに命じられて彼女の護衛を頼まれたギヨームが阻止。冒険は子供組、別動隊は大人という班分けのようだ。
鉱山に入ったアルベールたちの目的は空気の採取。それを分析すれば毒への対処法が見つかるかもしれない。鉱山の中でフーと合流し、アルベールの行動によって関係性を修復する。
彼らは鉱山の中で様々な考察で一つの仮説を立てるが、毒の充満が早く、一刻も早く脱出する必要が出てくる。毒に対する対処法などデート回の内容も伏線となっているのが良い。毒からレネを守る時にはアルベールはスキンシップの役得があるようだ。それぞれの呪いの能力を活かして、彼らは3人の力で脱出。フーが能力をコントロール出来たのも友情や信頼という心の安定があってのことだろう。


鉱山から救出された一行のお陰で適切な治療法が すぐ確立する。こんなに早く治療法が確立できるのは ご都合主義か。いつまでもアルベールたちがこの国にいる訳にはいかないし。国も隠蔽された病を公表し、採掘場の整備と患者の治療を援助し、呪い子たちの生活環境が向上する。差別的に扱われていた呪い子に人権が回復したとも読み取れる。
アイシェンも国家から責任を問われることなく、呪い子たちの信頼も厚いため、これからも研究に没頭することとなる。国家の膿みを最小限の犠牲と処罰で乗り切ったのは、マチルダたちの隣国と同じような結末である。毒に関する設定がしっかりしている割に、似たような話という読後感になってしまっているのが残念だ。ただ違うのは、この国の話から物語に独りの謎の男が登場し、彼が縦軸になっているということか。
帰国したフーは、出発前よりも大人になっており、カッとなって対立したジゼルに謝罪の品を渡す。アクセサリは愛の象徴。これは もう一つの年の差カップルということなのか。フーの成長や行き着く先も読者の楽しみの一つ。
自分のために呪いを抑える鉱石を依頼しなかったフーのためにアルベールは彼にネックレスを用意していた。それは友情の証。王子から首に掛けられるネックレスは、いつの日かフーが騎士団に入団した際の任命式を予感させる。
またアルベールもレネにプレゼントを用意していて、それを渡すタイミングを図っていたけれど、渡せないまま。けれど足踏みしている訳ではなく、アルベールの毅然とした態度や成長は、レネ側に王子が異性であることを意識させ始めていた。
ちなみにアルベールは危険を伴う冒険に宰相・ヒューゴから叱責されていた。王宮内にはアルベールの反対勢力がいるし、継承権を持つ者も他にいると、後付けっぽい設定まで出てくる。玉の輿を虎視眈々と狙うヒロインにとって他に継承権を持つ者がいるなんて我慢ならない状況である。
アルベールはレネへのプレゼントが渡せないまま足踏みする。それを後押しするのは強固な友情が構築されたフー。自分の気持ちの重さはレネに迷惑なのではないかと躊躇するアルベールに、同性として同じ立場として助言を送る。駆け出したアルベールはレネのもとに辿り着くが、レネは宰相・ヒューズから男女として距離感が近すぎるという忠告を、自分の存在がアルベールの評判を落とすと勘違いして遠ざけていた。
レネはアルベールに対して持ち始めた感情への戸惑いも相乗されて、王子と距離を置こうとする。アルベールはショックを受けるけど、それは2人の関係性が変化したということ。レネはマチルダなど女友達の助言もあって少しずつアルベールへの想いを理解していく。
2人が仲直りするのは、レネが掃除を命じられた、かつてアルベールが幽閉されていた離れの一室。レネが家出したのかと思いアルベールが呪いを発動するほど動揺して追いついて、2人は元の距離感に戻る。ただアルベールは半歩 勇気を出して、自分の手でレネの口を押えながらキスをしたし、プレゼントも渡せた。この場所でキス(もどき)が起こったり、愛の象徴であるアクセサリを渡すのは感慨深い。何だか最終回っぽい演出に思えた。プロポーズもここでして欲しいものだ。ただ全体的に以前と同じような展開と台詞で飽きる。
フーは世話になったレネの故郷の村の許可を得て騎士団入りを目指して訓練兵として入隊する。呪い子であることは隠しており、彼はアルベールと能力のコントロールに励む。無心になると呪いが制御できるから、2人とも死んだ目をして特訓している姿が笑える。
ある夜、王城の前で男性が名前だけ告げて子供を捨てたことが次のエピソードのプロローグとなる。使用人によって世話をされるはずだったクレールという女の子の赤ちゃんは水も食事も取らないままで使用人は困り果てていた。しかしアルベールの足元に這い寄ってきたクレールが王子に懐いたため、聖母であるレネはクレールの世話を引き受ける。
レネはクレールが「ぱぱ」と懐くアルベールに食事を与えてほしいと願うが、自分の呪いの発動を恐れるアルベールが強く拒絶。その強い拒絶によりクレールが呪いを発動させる。彼女は雷の呪い子だったのだ。これがクレールを捨てた男性が孤児院に預けなかった理由だと推察される。
ずっと食事を拒否し続けたクレールが発熱してしまう。試行錯誤で世話をするレネにアルベールが勇気を持って近づき、クレールの精神が安定するように家族として接し、2人で子育てをする。いつだって気持ちを安定させるのは愛なのだ。
しかし呪いの制御が出来ない赤ん坊を世話するのは難しく、クレールの体調が回復してから父親と思しき男性の発見を急ぐ。3人が城下町を歩いていると、輩に絡まれてしまい、剣呑な空気を感知したクレールの呪いが発動。死傷者が出かねない事態となるが、そこに独りの男性が登場し、雷を消失させる。その男が、鉱石の国で出会っていた人物だとレネは思い出す…。
