
柴宮 幸(しばみや ゆき)
呪い子の召使い(のろいごのめしつかい)
第07巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
アルベール王子の元婚約者・マチルダが再訪!女子会の気になる話題はもちろん!?一方、父と同じ名を持つ謎の男「ダン」についても気になるレネだが? ジゼルとフーが『王子とレネを見守る同盟』を結成!? にぎやかオールキャラエピソードも収録♪
簡潔完結感想文
居場所があるから引きこもりから脱出できる 7巻。
作者が あとがき で自白していたけれど『7巻』は収録ラストの回まで作者が構想を練るための時間稼ぎのようだ。なので日常回のような内容ばかり続き、これまでのような王子・アルベールがレネと お出掛けしてトラブルに巻き込まれるような新規エピソードはない。お出掛けして新キャラを出したりする展開は許されないので、お出かけせず王宮周辺にいるだけ。そんな彼らに客人が続々と到来することでエピソードが生まれていく。
確かに言われてみると時間稼ぎなのも納得してしまうけど、結果的には この構成は悪くない。『7巻』ラストから最後のエピソードが始まり、そこからエンディングまではノンストップ。なので王宮の人々や これまで出会った人々の その後のエピソードを挿入するタイミングは ここしかなかった。そして最終決戦でも彼らが重要な役割を果たすならば、ここで顔見せしておくことで、再登場の際に この人 誰だっけと迷子になることを防止しているように思えた。オールスターを描けるのは長編連載の喜びだろう。
また全体的に最終決戦を前にして心理的な充実を図っているように思えた。仲間たちとの強固な絆を再確認するのも そうだし、レネとアルベールが それぞれ唯一の肉親と呼べる人たちと心を通わせるのも そう。不安定な心持ちのまま戦うのではなく、自分が誰かの心の中に居場所があることを再確認することで彼らは強くなったと言える。まぁ全体的に死地に赴く前に これまで お世話になった方々へ遺言を伝えに行ったようにも見えるけど。見開きで王宮の全体像が描かれ、その左上の お空からレネとアルベールは いつでも見守ってます、というエンディングであっても不思議ではない(笑)


感慨深かったのはアルベールの成長。元・引きこもりが きちんと仕事をして、更なる成長を誓い、自分から進んで王都を見回る。現実の日本だとすると年齢的には小学校は全休してしまったけれど、中学校から再チャレンジしたぐらいか。引きこもり期間が長くなって、年齢を重ねてしまうと世間への恐怖や偏見が固まってしまうところだったので、良いタイミングといえるだろう。もし後3年経過している設定だったら15歳の引きこもり王子が17歳の お姉さんと一緒にいる絵面は思春期の欲望を抱えてだと思ってしまうだろう。この年齢差は可愛らしい純愛にするためにも必要だったのかもしれない。
アルベールを部屋から引き出してくれたのがレネが、彼女の方も王子に好意を抱いたから良かったものの、もし応えてくれなければ逆恨みされていただろう。
一緒にいたい人がいるから立派な自分になろうとして、その人と一緒にいられるから色々なところを回る。アルベールの自家発電に良いサイクルが生まれている。アルベールが年若いことが未熟というよりも成熟への伸びしろが多くあると思えるところも良い。そして呪い子であることや引きこもっていたこと、自分の不利な条件すらも反転していく様子が清々しい。
恋愛的に ずっと進展がないのが白泉社作品の宿命と言えるけれど、本書は その停滞をアルベールの成長が補ってくれているように思う。ここまでの年下ヒーローは読者受けは良くないように思うけれど、この設定だから描けることがあることを本書は示してくれている。
レネの父親と同じ名前を名乗る謎の男が気になるものの、平和な時間が流れる。
レネはアルベールと一緒に過ごし、これまで世話になった王宮に居る人々に感謝の花束作りに励む。プレゼントの対象は これからも世話になる人々。アルベールが国王になった時に信頼できる部下である。
アルベールはレネにも花束を作っており、それをキッカケに素手で手を握りながら、お互い気になっていることを話し出す。レネから滅多に聞けないお願いと身の上話を聞いてアルベールは嬉しくなる。嬉しくて呪いが発動するのは初めてか。この姿は2人が夫婦になっても続く気持ちの通わせ方だろう。
今回はずっと王宮に居るので来客が多い。『3巻』で登場した隣国の姫・マチルダと従者・ラウルが来訪する。
この回でマチルダの弟のロイは継承位降格を願い出たという情報が出る。マチルダが女王になって将来のアルベールの治める国との関係性を良好にするつもりなのか。弟もマチルダが構ってくれるなら それでいいのか…。ただしマチルダもアルベールと同じで自分の価値を示し続けないと国内での地位が盤石ではない。マチルダは反対派に対して暴力で返答しているみたいだけど。
話のネタに困っての その後のエピローグ集のような内容だけど、パーティーなので作画カロリーは高い。パーティーの後は女子会。マチルダは本当にアルベールが好きな人なのだけど、自分はフラれた側でレネとの幸福を祈っている。そんな関係の2人は自分の「一番近く」にいる人への気持ちにハッキリとは気づいていない。そんな「一番近く」にいる男性たちは部屋の外で盗み聞き。この王宮の壁は随分 薄いんですわね。
マチルダが来訪したことで2国間会議が行われ、次代の代表者たちが主役になる。しかし国家の方針が変わること、真の代表者ではない若輩者の仕切りに対して不満が出る。そこにマチルダは不退転の覚悟を示して異を封じる。そのマチルダの姿勢を見習って、アルベールも自分らしい代表像を形にしていく。
随分と威圧的だったマチルダの父親は結局 小心者で、逆にマチルダに威圧されたら彼女の存在を認めたということなのか。マチルダが国の代表のような顔を出来るのも、それを父親が許すのも少々説明不足だと思った。
そしてマチルダから、謎の男が呪いを与奪する能力があると推察するアルベールにだけ情報が与えられる。それはマチルダの国に伝わる300年程前の逸話。それは呪い子を武力にしようとした国と その呪いを消去した男だった。


アルベールはマチルダと比較して自分の覚悟や能力の不足を痛感し、これまで以上に市井の暮らし・国の様子を その目で確かめる。いつもなら ここから次のエピソードがすぐに始まるけれど、今回は日常回が継続する。アルベールは自分たち王族の存在が国民を支えることがある実例に触れ、感動。ただアルベールは自分が呪い子である負い目があり、その報告を素直に父親に出来ないでいた。
レネの養父・カガリが王宮を来訪する。レネは父親の目的が自分を田舎に連れ帰ることだと勘違いして、カガリに王宮での自分の暮らしを分かってもらおうと奮闘する(やや空回り)。これはレネ側もアルベールの近くに居たい気持ちを示すための流れでもある。カガリとフーの もう1つの親子関係の復活も見所。
カガリがレネを連れ帰ろうとしたのは、父親のことなどを伝える手紙に彼女のホームシックを感じ取ったから。心が寂しいのなら故郷で落ち着いて回復させようという親心だった。しかし向かい合わせに座る3人の席順が、自然とカガリとレネ&アルベールという1対2になっているようにレネが どちらにいたいかは明白。それを確認してカガリはレネに父親の姿が描かれた絵を見せる。
その絵に描かれていたのは父親、そして「ルカ」という男性だった。その男性は父親の名前を名乗った謎の男に見える。この絵は親友の2人の姿をレネの母親が描いたもの。その絵が両親 所縁(ゆかり)だと知りレネは驚く。これは両親の最期に立ち会ったカガリが、夫婦が暮らしていた家から持ち出した品。カガリは この絵と日記を持ち出していた。日記はプライベートな品なのでカガリは見ていない。
カガリがレネに日記の存在を伝えなかったのは、レネが両親の不在を思い出すからという優しさと、カガリのレネの実の父親でありたいという我欲からだった。そんなカガリにレネはホームシックはカガリが恋しくなったことで起きたと間違いなく彼の娘であることで心を軽くする。レネの「一番近く」にいるのはアルベールだけでない。それでも これからレネが自分で選ぶ王子一人だろう。
そんな親子関係を見たアルベールは その夜、国王と遭遇する。父親が自分の態度の中に違和感を覚えてくれたことに感動したアルベールは以前の対面では言えなかったことを伝える。2組の親子が それぞれに父親との関係を再確認できた夜となった。
そういえば国王一家は本来この2人の他に母親と長男がいたけれど、ここまで長男を失った国王側の悲しみが読み取れないのが残念。アルベールを大切にしているのは伝わるけれど、長男への愛を感じるエピソードがない。異父弟のオリヴィエに実子を殺害されたようなものなのに、そこに対する慟哭や怒りもあまり見えなかった。エピソードが物語の最初期とはいえ、もうちょっと国王側の思いを知りたかった。
カガリはアルベールに娘を託して去る。両想い前に婚約が成立してしまうのが白泉社か。けれどレネの気持ちも変わってきていて両想い直前に見える。そして いよいよ物語は最終フェーズに突入していく。
