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気が強くても弱くても、鳥海ペドロ作品の主役は どんな罰も免除される独善ヒロイン

黒豹と16歳(11) (なかよしコミックス)
鳥海ペドロ(とりうみ ペドロ)
黒豹と16歳(くろひょうと16さい)
第11巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

超危険なケモノ男子・杏璃をペットにしている強気な16歳・たいが。大手化粧品会社の次期社長・黒鉄とのデート中にプロポーズをされ、結ばれる二人。だけど、たいがは自分の杏璃への恋心に気が付いてしまって…。三角関係はどんどんヒートアップ! 伊勢谷家の問題を片づけ、父と和解した杏璃は、たいがの元を去りアメリカへ。たいがは黒鉄との結婚の準備を進める…。激動の恋は、運命の瞬間を迎え…!?衝撃すぎる最終巻!

簡潔完結感想文

  • 親に決められたなどではなく自分で進めていた結婚話を反故にする ちゃぶ台返し
  • その結婚話を反故にした相手に全部 用意してもらって ようやく会う決心を固める。
  • 最終回は唯一の交際編。でも これまでの経緯とデート内容が独特すぎて共感ゼロ。

2作連続、カップルだけが幸せになる 最終11巻。

まず何と言っても、なぜ二股ヒロインが どちらかを選ぶことに説得力が皆無。2人の男性に対して どちらも好きという条件を百歩譲って理解しても、その先に論理的な答えは何もなかった。ただ後発の気持ち、離れ行く相手への感情が自分の中で強いから、それを追っただけ。そこに何の説明もない。ダブルヒーロー体制は気持ちがスライドする理由が大事なのに、作者は それを放棄する。

でも こうなることは読む前から分かっていた。なぜなら これまでの2作品で作者に対する不信感が培われていたから。前作『百鬼恋乱』も最終巻にヒロインの独善が爆発していたけれど、本書も同じ。デビュー長編『甘い悪魔が笑う』から最終回、最終巻の内容に読者が納得できないという問題点が少しも解決していない。読んだ後のガッカリ感を味わいたい人は是非 鳥海作品を読んだ方が良い。

『甘い』では謎や三角関係を全部 放棄していたし、『百鬼恋乱』や本書ではメインカップル以外の登場人物たちへの愛情が少しも感じられなかった。キャラを増やしても結局 動かし切れていない。そしてヒロインは幸せになっているものの、問題の皺寄せが作品内に見受けられて、皆が幸せになる結末にはならないのが気になる。

本書でいえばヒロイン・たいが の身勝手な心の動きに対いて、姑のようなポジションだった樹人(みきひと)が苦言を呈すべきだったのに、ヒロインの決断に水を差さないことを優先して樹人は理解ある母親みたいに描かれているのが気になった。たいが に裏切られた黒鉄(くろがね)を含めて全員が彼女の恋を応援する流れになるのが お花畑すぎる。これによって たいが が絶対君主になる一方で、樹人や瀬那(せな)にとっての黒鉄との友情が消滅している。多くなってきた登場人物を扱い切れないのは作者の欠点だと思う。

友達とは たいが の意見に反対せず、尊重すること。それが絶対君主との友情

それでいいのか、と思うのはヒロイン・たいが も同じ。彼女は転校前の最初の恋のトラウマや後悔を乗り越えるために次の恋をしようと奮起していたけど、その次の恋では自分が裏切る側に回っていた。自分を好きになるための恋のはずが自分を嫌いになりそうな二股をした。それなのに たいが は そんな自分を綺麗に忘れて最終回で幸福に浸る。作品の出発点とゴールが こんなにもズレているのに、作者は そこを気にしない。このセンスは異常だ。


して二股の代償は最終回にも影響を及ぼし、当人同士だけが幸せな、読者を置いてけぼりにしたものとなっている。

以前も書いたけど、本書は杏璃が真のヒロインだと思えば まだ読める。自分を翻弄するだけ翻弄するヒーロー(たいが)は杏璃に夢中にさせながら、一方で他に恋人を作る酷い男。だから自分がこれ以上傷つかないためにも外国に行って距離を取って精神の安定を図る。けれど そんな自分を追ってヒーローが目の前に現れ、彼がずっと自分のことを好きだと分かる。その予想外の結末に涙が止まらない
! 杏璃は誰かさんと違って ずっと一人の人だけを好きなままだし。

…という話なら分かるのだけど、本書のヒロインは たいが で彼女が二股を堂々と決行するから読者は たいが を自分の分身だと思いたくなくなる。それでいて作品はヒロインが礼賛される旧時代的な描かれ方をしているから、違和感が増幅する。たいが と杏璃の距離が どれだけ離れようと、たいが の気持ちは身勝手さの象徴でもあるから作品に切なさが見当たらない。

この捩れた構図は最終回にも影響していて、扱いを間違えると たいが が本当にビッチになってしまうからここまでの黒鉄への気持ちを否定できないけど、杏璃だけの特別も必要という何だか難しい問題に直面している。この綱渡りに見える描写に加えて、作者しか楽しくない妙ちくりんな展開で読者の期待に応えてくれない。
まぁ たいが は黒鉄を好きと言いながら他の男性と暮らし続けるような人だから、真正のビッチだし、読者からの共感なんてないのだけど。

最終回で杏璃が思っていることに蓋をするのは特異な家庭環境によるトラウマのせいだとうことが匂わされる。だから ずっと杏璃は回りくどかった。一方で たいが は気が強くて、余計なことまで言ってしまう。そういう凸凹カップルだから上手くいくかもしれない。


れにしても表紙の登場回数、杏璃が11回で黒鉄が1回。これだけでも どちらが正ヒーローなのは明らか。にもかかわらず、作者は連載がラスト4回までになるまで どちらのエンドもあり得たと言っているけど本気なのだろうか。どうせなら、杏璃の家族問題などを経由しても黒鉄を選ぶと言う読者には理解できない方向に突き進んで欲しかった。作者の頭の中では どうやったら黒鉄エンドになったのかを教えて欲しい。たいが が黒鉄との結婚を選んでも、読者は たいが が杏璃をまだ好きなんじゃないかと疑心暗鬼になり、こちらの最終回も腑に落ちないものになりそうだけど…。

あとは『1巻』1話の屋敷が謎のまま。杏璃は あの家を自分の家だと言っていて、それを破壊したから たいが に責任をもって飼ってもらう流れになっていた。けれど あれは杏璃の実家ではない。本宅ではなく別宅の可能性はあるけれど、それでも杏璃が使っていた理由や、ボロボロになるまで放置されていることや使用人がおらず杏璃が単独でいる理由が分からない。
時系列もおかしく夏から始まった物語が秋、そして春に戻っていって永遠に高校1年生が繰り返されていた。掲載誌の「なかよし」って そこまで支離滅裂なの、と作者の作品を読んでいると思ってしまう。

最初から最後まで謎や疑問を少しも解消しないのが作者の作風と思うしかない。長編3作を終えても少しも変わらないのだから、これ以上 成長は見込めないと思うのが自然か。着実に絵は上手くなっているのだから、あとは話が上手くなるだけなのに、と惜しい気持ちが湧く。


いが や黒鉄たちを助けるために取引をした杏璃は実家側の要望に従順になる。その一環として杏璃は たいが の部屋を出る。杏璃は何度も たいが の口以外にキスをするけれど、2人の間に愛情は漏れたりしない。
しかも たいが は杏璃が海外に留学することを聞かされ、真相を確かめに杏璃の両親を尋ねる。先日の一件で無理矢理、杏璃と黒鉄の実家は仲違いする展開になったので、たいが の単独行動となる。

この際に今の両親の姿が描かれ、母親の心は壊れたままだけど、夫婦として彼らが良好な関係を築いていることが分かる。杏璃は当初から父親の強権によって夏に海外に行く予定だったので、それを早めた。そうして家業を継ぐ資質を身に着けようと考えている。たいが に対して杏璃の両親は頭を下げ、これによって たいが は両親、そして従者たちに認められる存在になった。

両片想いの お別れ という切ない場面のはずなのに、切なくないのは たいが のせい

中で2月末となり、夏に予定される たいが の結婚式のドレスも完成する。
ドレスの試着に浮かれているように見える たいが に黒鉄は不安を覗かせる。そして その予感通り、杏璃が この日に海外に発つと知った たいが は彼に会う最後のチャンスに対して口では否定しながら身体が勝手に動く。作者としては この場面が結末を決定させたらしい。そうならなかった場合 どう話をまとめたのか2種類の結末を用意してもらいたかった。

ドレス姿のまま街を駆けて電車に飛び乗る。しかし たいが は間に合わなかった。杏璃は引き留めに対して むしろ反発。出発を急いだ。これもまた杏璃の悲壮な決意なのだろう。

自分の行動が無駄に終わって たいが は自分のしたことの大きさに気づく。花嫁(予定)に逃亡されて赤っ恥をかかされた黒鉄を呼び出して誠心誠意、謝罪する。そして自分を罰するために黒鉄の手を持ち、自分を殴らせる。その たいが を落ち着かせるために黒鉄はキスを交わして黙らせ、その後 たいが への理解を示す。彼らは これが最後の別れになると知りながら抱擁しキスを交わす。その夜、たいが は杏璃に何もメッセージを残すことなく彼の連絡先を消去する。それが せめてもの自分への罰なのだろう。


分の感情を決して外に出さなかった黒鉄だけど、今以上に両家が揉めることを覚悟して杏璃の実家に出向く。そこで黒鉄はアメリカでの杏璃の住所を聞き出し、それを たいが に教え、彼女に航空券を渡して杏璃のところに向かわせる。杏璃の伊勢谷家も自分たちが情報を渡すことが杏璃と たいが の再会になると分かっていても、それを黙認する。たいが という人の価値は『10巻』の騒動を通して分かっている。

黒鉄も これで たいが と別れることになるのが分かってて彼女を送り出す。たいが を ずっと見てきた黒鉄だから彼女が杏璃への気持ちに蓋をしていることが伝わってくる。黒鉄は空港までは見送らず、最初の出発で たいが と別れる。
空港で たいが は怖気づくものの、ここまで送ってくれた樹人と瀬那に背中を押されて ようやく出発する。彼らの数少ない作品の見せ場のためだろうけど、たいが のお花畑が炸裂していて癇に障る。


一人旅となったニューヨークの街にカルチャーショックを受けながら杏璃のマンションを探し当てる たいが。しかし そこに一度も杏璃は帰っていなかった。行く当てが無くなり たいが は途方に暮れる。杏璃と別れを決意した際に(『10巻』)連絡先を消去したので彼とコンタクト出来ない。消去は このための布石だったのか。やがて時差ボケで眠くなってしまった たいが を杏璃が発見する。『1巻』1話の出会いとは逆ということなのか。

戸惑いながらも、ずっと たいが のことを想い続けていた杏璃は彼女を今の住まいに運ぶ。そこは用意されたマンションとは別の家。そして杏璃は たいが を寝泊まりさせるために、すぐに家から出ようとする。これはペットと飼い主ではなく男女になったからだろう。

理解が出来ない杏璃の行動に説明を求めると、杏璃は たいが が追っかけて来ても会わないようにするために新しい住居を用意していた。たいが と会ってしまえば親友の黒鉄の彼女を欲してしまうから。でも たいが が黒鉄と別れて ここに来たと知って杏璃は驚愕する。
たいが が黒鉄と別れたのも、杏璃が たいが を遠ざけるのも、相手を好きだから。そうやって2人は初めて自分の気持ちを素直に言って両想いになる。杏璃にとっては青天の霹靂で、このシーンのために たいが は気持ちを封印していた。黒鉄がメッセージカードで たいが を杏璃に託したため、杏璃側の罪悪感も一瞬で氷解する。


璃がペットではなく彼氏になる。それは主導権を奪われるということでもあった。彼らの初デートは日本。かねてから杏璃は山デートがしたかった(『4巻』デート選択回)ので、ここに連れてきた。

ちなみに たいが は自然と今回のデートに黒鉄から贈られた指輪をしてきているけど、指輪紛失騒動の『7巻』では手洗いごとに外すことが描かれていたから、いくら再会の翌日とはいえ身に着けているのが不自然。
ただ外していたら外していたで、黒鉄への気持ちが嘘になるだろう。黒鉄派は納得できないし、ビッチの中でも弱ビッチぐらいに止めるためにも指輪は必要だろう。

この最終回は これまでとは逆に杏璃に主導権を奪われて たいが が調教される事態が描きたかったのだろう。でも初デートで変なことばっかりしていて、甘い雰囲気も最終回らしさもない。たいが の安全を考慮してスタッフ(伊勢谷家の従者)が監視しています、という展開も興を削ぐ。最初は反対していた応援している、ということなのだろうけど。たいが も含めて手のひら返しが酷い。

その後、たいが はニューヨークに戻ることなく日本で生活し、黒鉄とも友人関係に戻っているっぽい。さすがに黒鉄との直接的な会話シーンは描かれていないが、。瀬那と烈華(れっか)も最終回で くっつく。烈華が瀬那に頑張って気持ちを伝えるような前進するシーンが無かったのが残念。本書の女性たちは幸運が向こうから舞い込んできているだけか。