
鳥海ペドロ(とりうみ ペドロ)
黒豹と16歳(くろひょうと16さい)
第10巻評価:★☆(3点)
総合評価:★★☆(5点)
超危険なケモノ男子・杏璃をペットにしている強気な16歳・たいが。大手化粧品会社の次期社長・黒鉄とのデート中にプロポーズをされ、結ばれる二人。一方、杏璃は父から、結婚式までにたいがを振り向かせることができなければ、海外へいくように命じられる。そんななか、たいがは、自分の杏璃への恋心に気が付いてしまって…。三角関係はどんどんヒートアップ! さらに、杏璃は父と決着をつけるため危険な取引をして…!?
簡潔完結感想文
- ヒーローの家族問題解決は恋愛解禁に繋がる。けど その家族全員 電波な人々で意味不明。
- 二股告白で黒鉄は傷つけたのに杏璃には秘密。杏璃がヒロインで奇跡の両想い、という演出??
- 2作連続ラスボスの設定が弱くて、何と戦っているのか分からない。クライマックス下手すぎ。
あ、頭が割れそうだよ…、の 10巻。
電波が飛び交う誰の心情も負えない作品になりつつあるけれど、作品としての狙いを語ることは出来る。杏璃の家族問題が解決することは彼の本当の恋愛解禁を意味している。ここから物語が大きく動くことはセオリー通りの展開と言えるだろう。
私には理解できない、黒鉄に二股を告白した たいが の杏璃への気持ちの秘匿も、杏璃が真のヒロインだった場合なら理解できる。つまり本書は、杏璃が本当の恋に出会う物語で、家族問題によって たいが に素直な気持ちを言えない杏璃は、その間に大切な たいが の恋心を親友の黒鉄に奪われてしまった。そうして諦めなくてはならない辛い恋をしている男ヒロイン・杏璃が完成する。けれど杏璃は それでも たいが に愛情を注いで、彼の知らないところで たいが の心に自分の居場所が明確に出来ていく。
そして今回、杏璃は たいが や黒鉄といった自分の大切な人を守るために自分の願いを放棄した取引を行う。その無私の心はヒロインの神聖さを表すものである。こうして自分を犠牲にした杏璃ちゃんに奇跡が…!! というヒロインが杏璃なら スッキリとした物語が誕生する。
本書の問題はヒロインが杏璃ではなく、ビッチな たいが だったことかもしれない。


それにしても長編3作連続、クライマックスが酷い。作者に話をまとめる能力がないのか、そもそも まとまる話がないのか。どこを どう批判したらいいのか分からないぐらい、物語が頭の中に入って来ず、今もって消化できていない。
前作『百鬼恋乱』も降って湧いたラスボスを用意して、戦う理由もよく分からないまま、強引な結末になっていたが、本書も同じ。最終局面に入るまでに疑問が山積みで、それを丁寧に説明するどころか焼け野原にするから読後感が非常に悪い。
今回もクライマックスで盛り上げる要素や演出をしているつもりなのだろうけど、読者に それが伝わらない。本書のラスボスといえる杏璃の父親の語る言葉は もはや他言語や宇宙の言葉で少しも頭に入ってこない。『10巻』の前半で日本の経済界を牛耳る最重要人物のような演出があるが、それも自分の世界に生きている、他者のことを考えられないサイコパスでしかない。
ラスボス戦には戦う相手の強さや信念が欲しいのだけど、作者に それを描く能力がない。なぜなら誰にも信念がないから。杏璃の父親という人が少しも分からないまま。杏璃が思わせぶりな態度を取って、何か特別な存在であるかのように描いてきたけれど、父親も同じように特別なようで中身が空っぽだった。ここまで情を感じさせなかった人間が一瞬で情に動かされるなんて阿呆(あほう)みたいな展開を望んでいる読者はいない。
作品を読了する度に思うけれど、作者は大きな構想なんてなくて思い付きで物語を描くことしか出来ないのだろう。もし杏璃と父親の対決と和解を描きたいという強い信念があったならば、10巻も続いた この作品のクライマックスが こんな内容になるはずがない。杏璃自身も含めて一家全員が壊れていて、たいが が杏璃を選んだとしても その幸せを心から願えないだろう。
その心配は黒鉄(くろがね)エンドでも同じ。この場合は たいが が黒鉄を いたずらに傷つけた過去が邪魔をする。黒鉄にとって たいが が最高の相手だとは思えない。どちらが選ばれても どちらも不穏な気持ちが拭えない。こんなスッキリしない少女漫画も珍しい。
杏璃に頼まれた訳でもないのにを なぜか彼の実家に乗り込む たいが たち。このミッションに失敗したら杏璃の実家・伊勢谷(いせや)家の力で退学処分や家族に迷惑が掛かるかもしれない。それでも彼らは杏璃のために実家問題解決に乗り出す。
てっきり本人不在なのだと思っていたけど(『9巻』ラストの展開だと そう読める)、杏璃も一緒に行動する。杏璃は たいが を世話になった恩人として同行させ、たいが の『9巻』での不法侵入を問題視する従者を黙らせて正面突破を果たす。
たいが は黒鉄には自分の気持ちを伝えてスッキリするけど、杏璃には言わない。これは たいが は杏璃との関係の進展を望まず、自分の気持ちを封印できるようにして黒鉄との結婚に向かおうしている。たいが は自分の二股が黒鉄を傷つけたと、傷つけてから ようやくわかったらしい。
他のメンバーは それぞれの分野を駆使して実家の警備を攪乱することで一応 見せ場を作っている。警備を突破する中で、瀬那(せな)は烈華(れっか)の強さを見直す。
邸内の混乱に乗じて、たいが たちは父親の居場所を捜索。しかし従者たちに子供の狙いは見抜かれており、杏璃は確保、たいが は幽閉される。他のメンバーも反抗虚しく数の暴力に屈する。
古い名家にありそうな座敷牢に幽閉された たいが は従者に、杏璃との愛の象徴であるピアスを奪われる。杏璃の特別な存在である たいが は予測不能の異分子で快く思われていない。しかしピアスを奪われて慟哭する たいが を見て、従者は たいが が杏璃に特別な感情を持っていることを知る。けれど従者は それなら尚更 杏璃の将来の障害になると たいが を遠ざける。
この時 たいが は恋心を誰にも知られたくない感情としているけれど、自分から黒鉄に言ったことは どういう意図だったのか。作者の描こうとしていることが私には見えてこない。


たいが の気持ちを知った従者は、敢えて杏璃に2人の関係がペットと飼い主でしかないことを強調し、杏璃を絶望させようとする。杏璃は母親から与えられなかった無条件の愛情を たいが を代替にして欲しているだけだと精神分析する。たいが と縁を切れば両親と正面から向き合えると杏璃を誘導しようとする。しかし その誘導に杏璃は引っ掛からない。逆に従者を人質として軟禁場所から逃亡し、たいが の幽閉場所を捜索。そこで たいが が従者に精神的に傷つけられたことを知り杏璃はブチ切れる。そして警備の者たちを圧倒して、両親へ辿り着く道を拓く。
黒鉄たちがボロボロになっていることを目の当たりにして、杏璃は従者に取引を持ち掛ける。たいが や黒鉄たちの罪を不問にする代わりに、自分が何でも言うことを聞く。これが杏璃の目的遂行のための敗戦処理の方法だった。
従者は伊勢谷家のメリットのために、杏璃と黒鉄・たいが の仲を引き裂こうと画策する。この騒動を家同士の問題に発展させようとした(理論は全然 分からへんけど!)。杏璃は それでも彼らを助けたくて、その役目を黒鉄に願う。それは幼なじみの関係においての初めての頼み。だから黒鉄は嫌々 実家に連絡し、自分たちの身の保護を依頼する。そのまま黒鉄は たいが を救出する。自分たちの関係が家の名において引き裂かれても、自分たちが望む限り、その関係は修復できると黒鉄は考えていた。
杏璃の怒りに感応した母親は、無意識で息子を補助するために家を燃やす。
座敷牢から出た たいが は、火事の混乱の中でピアスを奪った従者を発見し、その返却を求める。しかし従者はピアスを贈り主である杏璃の部屋に置いてきたと告げる。その部屋は今、火に包まれようとしているが、たいが は その奪還を目指して火中に飛び込む。
その杏璃の部屋では父子は対面を果たしていた。そこで杏璃は率直に父親の心に触れようとする。自分は彼にとってどういう存在なのか、それを知りたくて質問するが、父親は望む答えをくれない。絶望で塞がれそうな杏璃の前に たいが が現れる。
たいが は父親と正面で向き合うのは初めて。だが たいが はすぐに、父親が火事と心中しようとしていることを知る。覚悟を決めた父親は たいが の説得に応じようとせず、梃子でも動かないつもり。そして彼の口調から、部屋のどこにも見当たらないピアスを父親が保持しているのではと推理する。それは父親の息子への愛情、自分のような悲しみを再現しないことだと たいが は理解する。
そして杏璃も、初めて父親の孤独を理解する。母親の精神の不調と実家の責任、それらを誰に頼ることも出来ず、一人で抱え込んでいたのが父親なのではないかと思い、杏璃から素直な思いを発する。
父の息子に対する付かず離れずの態度は愛情だった。息子を縛ることに遠くに行ってほしくない気持ちを託していた。そうして本音を知り、母親が かつての飼い猫だと思い込んでいた折り紙の猫も燃え、家族は火事の中で再生していく…。
