池山田剛(いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第11巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
運命に導かれ、4人は再会する…。伊豆でドラマの撮影をすることになった爽歌。しかし同じ時、輝・ちひろ、そして忍も部活の合宿をすることに。運命に導かれるように再会する4人。そして爽歌と輝、ちひろと忍のそれぞれに重大な事件が起こるのですが…!?
簡潔完結感想文
- 合宿で違う男性ライバルが遭遇、海で流されて洞窟で一夜とか既視感満載。
- 愛が深く 器が大きい最強ヒーローのせいでライバルたちが相対的に矮小化。
- 転生する物語ではないけれど、転生したかのように出会う度 また君に恋をする。
池山田作品には珍しく男性キャラに順位が付く 11巻。
『11巻』も面白い。起きるイベントがベタすぎて、作者の過去作との既視感があるが、それでも輝(ひかる)と爽歌(さやか)、そして忍(しのぶ)と ちひろ、それぞれのカップルに接近があり目が離せない。
その面白さを認めた上で気になるのが、本書が輝TUEEE!状態に なっていること。これまで直近の2作品で作者はダブルヒーロー体制を採用していて、1人の女性を巡り2人の甲乙つけがたい男性キャラが火花を散らし、時に手を取り合う物語を描いてきた。本書は そこにダブルヒロイン体制を取り入れ、男女4人の群像劇としての面白さを加味している。
…が、2組のカップルが同列に並んでいないのが気になる。女性キャラなら明らかに爽歌、男性なら輝に偏愛していて、ちひろ と忍が2番手カップルに成り果てていて、起こる事件も地味なのが可哀想に思えてくる。もしかしたら記憶喪失とか遭難とか非現実担当が爽歌・輝組で、現実にもありそうな紆余曲折を ちひろ・忍組が担当しているのかもしれないが、イベントやページに偏りがあるように思えてしまう。
そして男性キャラの中で輝だけが明らかに格が違うのも気になる。忍・巧(たくみ)は それぞれに輝をライバル視する存在なのだが、彼らは輝の器の大きさに敗北し、劣等感を抱いている。これまでの作品でもヒーローがライバル関係にある人に劣等感を覚えるシーンはあったが、それは相互にだった。しかし本書では輝は天真爛漫、天衣無縫。輝だけが作者の愛と理想を一身に受けているように見える。私は作者の、2人の男性キャラを切磋琢磨させて どちらも成長させていく展開が好きだったので、輝と忍に格差があることを受け入れ難い。忍は忍で いいところがあるが不遇な気がしてならない。
それは ちひろ も同じ。ダブルヒロインという割に待遇に差があり、彼女には忍を傷つけた罪がある。そして爽歌の女優のライバルはエリカという別の人がいるため、同格というよりはヒロインの親友枠に近い。
また直近2作品が あれだけの内容を詰め込みながら10巻以内に終わっていることを考えると、本書は様々な要素が詰め込まれているとはいえ、やはり展開が遅く感じる。
それらを総合すると私が池山田作品に求めるもとはオーソドックスな三角関係モノ、そして 程よい長さの切れ味鋭い作風なのだろう。本書は作者の挑戦的な作品だと思うが、私は元に戻って欲しい気持ちが大きい。
輝たちの学校と忍の学校、そして爽歌の映画の撮影が偶然にも一緒の場所になる(過去作にもあったな)。
驚くことに輝と忍は高校生になって初の再会となる。ここで忍は輝と爽歌の事情を初めて知る。そして輝は もう一度 爽歌に好きになってもらえる男になるために奮闘しており、その裏に ちひろ の助言があったことを知る。そこで忍は ちひろ が絶対に言わない、高校の推薦枠を蹴ったこと、忍との約束を裏切ったこと、輝だけが ちひろ に想われ続ける不条理を口にする。ここで輝は忍もまた忘れられない女性を一途に想っていることを知る。忍もまた自分にはない輝の精神力の強さを痛感する。
続いて、割と強引な話の持っていき方で2年以上ぶりに4人が同じ場所に立つ。
だが2組にカップルは それぞれに事情を抱え、残った男女の輝と ちひろ も、輝は ちひろ が様々なことを犠牲にして自分の苦しい時期を支えてくれたことを知ったばかりだし、爽歌と忍は昔から相性が いまいち良くない。
そこに現在の爽歌の恋人である巧(たくみ)が登場する。輝の「元カノ」である「星野(ほしの)」という女性への嫉妬が止まらない爽歌は、巧の登場で安心する。そして彼が多忙の中、自分のために時間を作ってくれていることを知り、輝へ傾きそうな気持ちを立て直し、巧への愛を誓う。
もう1人、2年以上ぶりに再会した人がいた。それが同じ年の女優・エリカ。だが中学生編の登場人物の中でエリカだけが爽歌の記憶喪失の事実を知らない。だからエリカは「星野爽歌」へライバル宣言をする。
続いてエリカは、爽歌に輝との交際が継続しているかを聞く。このことが爽歌の中で記憶が呼び覚まされる感覚が起こる。撮影が始まるからエリカとの会話も疑問の解消も そこそこになってしまうが、爽歌が真実に気づく準備は整ったと言える。というか、ここで思い出してもいい。池山田作品にネタを引っ張るのは似合わない。
練習の合間にバスケ部員たちは「サヤカ」の撮影現場を見学しに行く。輝は2年ぶりに目にする爽歌の演技に緊張するが、その前にエリカを発見する。そこで輝はエリカへの口止めをするのだが、この時のエリカの いたずら が「星野」に続いてエリカを爽歌の中での仮想敵に認定する。巧は爽歌が嫉妬交じりの子供っぽい表情を浮かべていることに気づき、自分の前との違いを痛感する。
撮影の様子を見たエリカだが「サヤカ」の演技に中学時代のような輝きを見い出さない。たとえ同一人物であってもサヤカは不完全なのだろう。そして記憶の問題に加えて恋愛で心を乱されているサヤカの集中力の欠如を、プロであるエリカは見抜いていた。
実際、エリカが爽歌の前に同じ女優としてライバル宣言をするのはサヤカと爽歌が統合されてからである。恋愛パートだけじゃなくエリカと爽歌のライバル物語も順を追って描けるのが作者の聡明な部分である。最終盤でのエリカとの話は、全てが万全になってからなのだ。
崖の上での映画撮影の後、爽歌はポケットに入れていた輝から贈られた台湾土産を落としていることに気づく。崖の途中の木の枝に引っ掛かっているのを発見した爽歌は それを拾い上げ心から安堵するのだが、崖が崩れて彼女ごと海に落下してしまう。
記憶喪失も含めて、こういう「昭和的な」展開を大胆にやってしまうのが池山田作品である。爽歌が落下したことを知り輝は迷わずに崖から飛び降りる。こういう無茶苦茶な場面も昭和の少年漫画的だろう。この時、巧は安全な方法で爽歌を救おうとしたが、輝は身の危険も顧みず爽歌のためだけに動き出した。巧は そこに敗北感を覚えたであろう。忍もそうだが、輝と一緒にいると気が付けが自分の中に劣等感を抱いてしまう。勝手な話だが、もし輝と同性の友達になったら自己嫌悪ばかりが募りそうである。
輝は一直線に爽歌を救出するが、そのまま行方不明になってしまう。
行方不明の報せを聞いた ちひろ も合宿所を出て行き、そのまま帰って来ない。それを遅れて忍は知り、彼は ちひろ を失う可能性に恐怖を覚える。輝がそうであったように、忍も大事な人と二度と会えなくなる前に死力を尽くしたい。波打ち際で ちひろ がバランスを失いかけた時、忍が それを助け、彼女の無事に安堵する。
輝たちは流されて、海沿いの洞窟の中で天候の回復を待ち動かないことにした。
この展開、作者の過去作でも見た気がするし「Sho‐Comi」の別作品でも何度も見た。体温が奪われるから互いの肌を密着させるのも お決まりの展開。一つ違うのは気を失った爽歌が無意識で、相手との肌の密着が過去にもあったことを理解している点だろう。これは中学生編ラストの性行為未遂の時の幸福な感覚だろう(『7巻』)。
目を覚ました爽歌は輝が危ない真似をしたことを知る。だが爽歌は それが「星野」さんのためだと思い込む。手掛かりは全て目の前に揃っているのに何も推理が思いつかないポンコツ探偵である。
そして爽歌の嫉妬は「星野」にも及ぶ。輝に愛されながら彼を放っておく「星野」を爽歌は信じられない。だから悪し様に言うのだが、輝は それをフォローする。だが それが輝の「星野」への執着のように思えて爽歌は意地を張る。
ここで初めて爽歌が意地を張るのは、なぜかを認める。彼女は数か月前に「初めて」輝に会った時から輝に惹かれていた。
輝も爽歌が自分の渡した土産を大切にしていることを知り、彼女が自分を憎からず思っていることを知る。爽歌が自分に好意を抱いている可能性を発見し、輝はキスを希望する。爽歌に ちゃんと拒否権を爽歌に与えた上で、輝は賭けのように彼女の心を確かめる。そして言葉では拒否しながら、爽歌は輝の口を受け入れるのだった…。